君のとなり
admin≫
2011/09/09 21:40:20
2011/09/09 21:40:20
pixivに上げていたもの。
▼つづきはこちら▼
こいつはいつだってそうだ。普段はこっちの事情なんてお構いなしにわがまま放題、好き放題のくせに。
「…大王。」
形だけのノックをして、当然返事は待たずにドアを開ける。目の前に広がるのは真っ暗な空間。…まったく、電気すらつけていないとは。
目が慣れないうちは何も見えないけれど、ドアを開けた瞬間震えた気配と鼻をすする音で当たりをつけて部屋の奥へと足を進める。ベッドの上、僕に背を向けた状態で小さくなっているイカを見つけた。
「おい、何サボってんだ大王イカ。」
「っ、」
もう一度、声をかければビクッと大きく跳ねるひょろい肩。けれどこっちを振り返る様子はなく、さらに小さく縮こまりやがった。変なところで意地っ張りな奴。
「僕は、そんなに頼りないですかね。」
ふぅ、とため息を吐いて、僕も背中合わせに腰かけながらぼやくように言ってやれば、息を呑んで震える身体。
「大王。」
それでも頑なに口を閉ざそうとするので、語調を強めて促すように呼んでやる。
「鬼男くんは、さ…」
「…はい。」
泣いていたせいなのか、それとも緊張しているのか。掠れて、いつもよりかたい小さな声が耳に届く。聞き逃さないように意識して、続きを促すように僕は反応を返した。
「おに、お…くんは…ずっと、おれと一緒に居て…疲れない?」
「は…?」
待て、いきなり何を言い出したんだコイツは。一緒に居て疲れないもなにも、それこそ四六時中一緒に居るのだから、疲れないでいることの方が難しいと思うのだが。まさか、僕に疲労するなって言いたいのか。…いや、そんな意味で言っているのではないのだろうけれど。
「疲れないわけ、ないよね。おれ…大王らしくないし、普段何やってんのか分からないし、逃げるかやられるかのどっちかだし、自分勝手で、迷惑ばっかかけてる…し。」
つらつらと並べ立てられていく大王を非難する言葉たちに、思わず大きくため息を吐いてしまった。ほんと、バカじゃないのか、こいつは。
「…そんなくだらない無駄話をしていたのは、どこの獄卒ですか。明日にでも処分対応をさせていただきますので教えていただけますか。」
「え…」
驚いたように顔を上げて、背中越しに見上げてくる大王の目が、どうして…と問いかけてくる。
「お前が大王らしくないのなんて今に始まったことじゃねえし、四六時中一緒に居て毎日同じ場所で仕事してるのに、普段何をやっているか知らないわけがない。逃げるかやられるかのどっちか?そんなひょろい体で勝てる方が怖ぇよ、何のために僕が裁きのとき隣に立ってると思ってんだアホが。自分勝手で迷惑ばかりかけてる…のは、まぁ事実ですね。僕はもう慣れてますし全く気になりませんが。」
もう一度、深くため息を吐いてから、僕はすぅっと息を吸ってわざとまくしたてるように口早に大王の言った非難を片っ端から否定してやる。目を丸くして、ぱちぱちと数回瞬き。ざまぁ見ろ。
「そんな、分かりきっていることを引き合いに出して大王を非難し、僕の状態まで勝手に決めつけるようなことを僕やお前がやるわけがない。そもそもその必要性が無いですしね。だとすれば今お前が言ったことは全部、僕と大王の仕事をろくに知らない別の部署の獄卒の言葉ってことだろ。…ほら、どこをほっつき歩いてたときに聞いたのかさっさと話せアホ以下大王イカ。」
「フォローしてるのか、けなしてるのか、どっちだよ…もう…」
少しだけ体の向きを変えて、横向きに僕の背中に小さな頭をもたせ掛けながら言い返す大王の声には少しの呆れが混じっていた。ひとまずは安心だと自然と入ってしまっていた肩の力を抜く。
「どっちかってーと、どっちもですかね。」
「何かそれ、おかしくない?」
正直な気持ちを明かすと、くすっと笑う気配。次いで、甘える猫みたいに頭をすり寄せてくる。
「…ねぇ、おれと一緒に居ると…疲れるでしょ。」
「仕事してんだから疲れないわけねぇだろ。」
まだ言うか、と若干苛立ちを覚えながらそっけなく返した僕に、「そういう意味じゃなくって。」と不満げに答える大王。
「おれ…あの子たちの話聞いて、鬼男くんに甘え過ぎてるのかもって、反省したんだよ。」
「へー、自覚したんですか。それは大きな進歩ですね。」
先に続く言葉はすでに予想がついていて、またか…と呆れながら、おざなりに返事を返す。
「このままだと、ずっと甘えっぱなしになっちゃって、いつか本当に、鬼男くんに愛想つかされちゃうかもしれないって、思ったら…やっぱり、離れたほうが良いのかなーとか、思って。」
まったく…いったい何度目だよ、僕だっていい加減聞き飽きるぞ。まぁ、その度に引き戻す僕も僕だけど。
「でも…」
「はい。」
続く言葉はもうわかっている。むしろ僕は、その言葉を言わせたいがためにこうやって何度も逃げようとするこいつを懲りずに追いかけ、決して逃してなるものかとその腕に手を伸ばしているのだから。
「やっぱりおれは、君のとなりが良いみたい。」
はい、よくできました。
縋るように僕の腰に手を回してしがみついてきた大王の頭を慈しむように撫で梳いて、体の向きを変えると、ちょうど僕を見上げる紅玉と目が合った。
「僕の居場所は、いつだって閻魔大王の隣ですよ。」
僕もおなじみの定型句を口にしてから、はにかむ大王とそっと唇を重ね合わせた。
【終】
「…大王。」
形だけのノックをして、当然返事は待たずにドアを開ける。目の前に広がるのは真っ暗な空間。…まったく、電気すらつけていないとは。
目が慣れないうちは何も見えないけれど、ドアを開けた瞬間震えた気配と鼻をすする音で当たりをつけて部屋の奥へと足を進める。ベッドの上、僕に背を向けた状態で小さくなっているイカを見つけた。
「おい、何サボってんだ大王イカ。」
「っ、」
もう一度、声をかければビクッと大きく跳ねるひょろい肩。けれどこっちを振り返る様子はなく、さらに小さく縮こまりやがった。変なところで意地っ張りな奴。
「僕は、そんなに頼りないですかね。」
ふぅ、とため息を吐いて、僕も背中合わせに腰かけながらぼやくように言ってやれば、息を呑んで震える身体。
「大王。」
それでも頑なに口を閉ざそうとするので、語調を強めて促すように呼んでやる。
「鬼男くんは、さ…」
「…はい。」
泣いていたせいなのか、それとも緊張しているのか。掠れて、いつもよりかたい小さな声が耳に届く。聞き逃さないように意識して、続きを促すように僕は反応を返した。
「おに、お…くんは…ずっと、おれと一緒に居て…疲れない?」
「は…?」
待て、いきなり何を言い出したんだコイツは。一緒に居て疲れないもなにも、それこそ四六時中一緒に居るのだから、疲れないでいることの方が難しいと思うのだが。まさか、僕に疲労するなって言いたいのか。…いや、そんな意味で言っているのではないのだろうけれど。
「疲れないわけ、ないよね。おれ…大王らしくないし、普段何やってんのか分からないし、逃げるかやられるかのどっちかだし、自分勝手で、迷惑ばっかかけてる…し。」
つらつらと並べ立てられていく大王を非難する言葉たちに、思わず大きくため息を吐いてしまった。ほんと、バカじゃないのか、こいつは。
「…そんなくだらない無駄話をしていたのは、どこの獄卒ですか。明日にでも処分対応をさせていただきますので教えていただけますか。」
「え…」
驚いたように顔を上げて、背中越しに見上げてくる大王の目が、どうして…と問いかけてくる。
「お前が大王らしくないのなんて今に始まったことじゃねえし、四六時中一緒に居て毎日同じ場所で仕事してるのに、普段何をやっているか知らないわけがない。逃げるかやられるかのどっちか?そんなひょろい体で勝てる方が怖ぇよ、何のために僕が裁きのとき隣に立ってると思ってんだアホが。自分勝手で迷惑ばかりかけてる…のは、まぁ事実ですね。僕はもう慣れてますし全く気になりませんが。」
もう一度、深くため息を吐いてから、僕はすぅっと息を吸ってわざとまくしたてるように口早に大王の言った非難を片っ端から否定してやる。目を丸くして、ぱちぱちと数回瞬き。ざまぁ見ろ。
「そんな、分かりきっていることを引き合いに出して大王を非難し、僕の状態まで勝手に決めつけるようなことを僕やお前がやるわけがない。そもそもその必要性が無いですしね。だとすれば今お前が言ったことは全部、僕と大王の仕事をろくに知らない別の部署の獄卒の言葉ってことだろ。…ほら、どこをほっつき歩いてたときに聞いたのかさっさと話せアホ以下大王イカ。」
「フォローしてるのか、けなしてるのか、どっちだよ…もう…」
少しだけ体の向きを変えて、横向きに僕の背中に小さな頭をもたせ掛けながら言い返す大王の声には少しの呆れが混じっていた。ひとまずは安心だと自然と入ってしまっていた肩の力を抜く。
「どっちかってーと、どっちもですかね。」
「何かそれ、おかしくない?」
正直な気持ちを明かすと、くすっと笑う気配。次いで、甘える猫みたいに頭をすり寄せてくる。
「…ねぇ、おれと一緒に居ると…疲れるでしょ。」
「仕事してんだから疲れないわけねぇだろ。」
まだ言うか、と若干苛立ちを覚えながらそっけなく返した僕に、「そういう意味じゃなくって。」と不満げに答える大王。
「おれ…あの子たちの話聞いて、鬼男くんに甘え過ぎてるのかもって、反省したんだよ。」
「へー、自覚したんですか。それは大きな進歩ですね。」
先に続く言葉はすでに予想がついていて、またか…と呆れながら、おざなりに返事を返す。
「このままだと、ずっと甘えっぱなしになっちゃって、いつか本当に、鬼男くんに愛想つかされちゃうかもしれないって、思ったら…やっぱり、離れたほうが良いのかなーとか、思って。」
まったく…いったい何度目だよ、僕だっていい加減聞き飽きるぞ。まぁ、その度に引き戻す僕も僕だけど。
「でも…」
「はい。」
続く言葉はもうわかっている。むしろ僕は、その言葉を言わせたいがためにこうやって何度も逃げようとするこいつを懲りずに追いかけ、決して逃してなるものかとその腕に手を伸ばしているのだから。
「やっぱりおれは、君のとなりが良いみたい。」
はい、よくできました。
縋るように僕の腰に手を回してしがみついてきた大王の頭を慈しむように撫で梳いて、体の向きを変えると、ちょうど僕を見上げる紅玉と目が合った。
「僕の居場所は、いつだって閻魔大王の隣ですよ。」
僕もおなじみの定型句を口にしてから、はにかむ大王とそっと唇を重ね合わせた。
【終】
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