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本当の気持ち(鬼←閻風味) 

鬼男くんを輪廻に戻した。鬼としての責務をもう十分に果たしてくれたから。
仕事が終わって、誰も居なくなった部屋に立ち尽くす。
鬼男くんは、もう居ない。

「ねぇ、新しく始まった人間としての人生はどう?」

届かない言葉を口にする。
彼が今どんな生活をして、どんな気持ちなのか俺には全く分からない。
いや、知ろうと思えばそれは不可能じゃあないんだけど。

「鬼男くん・・・」

私の判断は間違っていなかった。
責務を負えた鬼を輪廻に戻し、再び人間として時の流れに乗せるのは当然のことであり、絶対に変えてはいけないことだ。
私は、それに従って鬼男くんと離れたのだから。

――でも、俺は・・・?

鬼となってすぐ、その優秀すぎる成績により俺の秘書まで一気に駆け上がった鬼男くん。
ずっとそばに居てくれて、規則なんて関係ないとばかりに「好きです。」と言ってくれて。
そんな彼の隣が居心地良いと、これからも一緒に居てほしいと願った俺の心は、どこに行ったら良いんだろう?

「おに、お・・・くん。」

口からこぼれた名前はどこか掠れていて。
視界は何故か歪んで見える。

「鬼男くん・・・おにおっ、くん・・・おにっ・・・く、ん・・・!」

抑えきれない思いは絞り出すような声とともに彼の名前へと形を変えた。
嫌だ・・・いやだいやだいやだ!鬼男くんが、もう傍に居ないなんて。

「鬼男くん・・・」

その場に座り込んでぐしゃぐしゃに泣きじゃくる俺は、なんて情けないんだろう。
こんなにも君に依存していたなんて、知らなかったよ。
君が居ないだけで、俺はこんなにも情けなくなってしまうんだ。

「会いたい・・・。君の傍に行きたいよ・・・」

思わず口にしてしまった自分の本音にハッとする。
いけない。こんなことを迂闊に言葉にしては。
だってここは冥界だから。

――私の言うことが、本当になってしまう。

私は、冥界の王・・・閻魔大王で、彼は責務を終えるためだけに傍に居た秘書。
私が居れば、冥界の均衡は保たれる。
・・・それなら俺は、この気持ちとともに私の中で眠ろう。たとえ暗くても、二度と出ることが出来なくても、君への気持ちがあれば怖くないから。

「さよなら・・・鬼男くん。そして、どうか幸せになって・・・」

この日、私は長い年月の中で唯一生まれた、最も強く温かい感情に静かに蓋をした。
二度と蓋が開かないように、頑丈に鍵をかけて心の奥深くにしまいこんだ。

――大好きだったよ、俺の・・・



―――――――――――――――

中途半端に終わってしまいました。
何となく天国が書きたいな~と思って書き始めたのですが、思いのほか暗く、おも~い話に。
何故でしょう?(聞くな

私の中で閻魔の一人称は“閻魔大王という役職を意識した場合”と“閻魔大王という名前の一人の存在”で使い分けているイメージです。
役職としてのときは「私」で、個人を表す名前としての時は「俺」。
そんなことを考えながら書いておりました。
変に小難しいことを考えていたからこんな風になったんでしょうね、きっと。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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