学園祭クラス企画(模擬結婚式)②
2010/04/11 21:32:06
続きまして閻鬼(執事×メイド)です。
始まりは同じですが、一応こっちにも書いておきます。
―――【企画の始まり】―――
学園祭当日、3年飛鳥組の教室にはさまざまな衣装が所狭しと並んでいた。誰がどこから持ってきたのか、ウエディングドレスや白無垢はもちろんカラードレスに民族衣装、メイドや執事にチャイナドレスとナース服。まさに何でもありの状態だ。
「それにしても、よくこれだけ集まったなぁ…」
「みんな、意外とそういう趣味が…」
「男物、少なくない?」
持ってきた生徒たちの反応もそれぞれではあるが、自分たちが一番楽しみにしているということだけは確かなようだ。
「教室の飾りつけ、カメラの準備、照明と音楽は出来てるかー?」
「当然!いつでもオッケーだよ!」
太子が全体を見渡しながら声をかけると、女性とのはっきりとした答えが返ってきた。
「よーし、みんな!今日は思いっきり楽しむでおまっ!」
返答を聞いて満足げに頷いて太子が声高らかに告げれば、教室内は一気に沸き起こった。
【閻鬼の場合】
「そうですね。何でしょうか?」
閻魔と鬼男が2人で学園祭を回っていると、3年のある教室に人だかりが出来ていた。興味を持って近づいてみると、そこは3年飛鳥組の教室。
「太子のクラス?あれ、何やってるんだっけ。」
「さぁ…?」
人ごみを縫って教室を覗くのと同時に鳴り響いたクラッカーの音。
「おめでとう!」
「幸せになれよー!!」
どこかの教会を思わせる飾り付けを施された教室の中央で、恥ずかしそうに寄り添う男女とそれを取り囲む多くの客。2人はウエディングドレスとタキシードを着ていたが、教室の隅には多種多様な衣装がずらりと並んでいた。
「わぁー、結婚式かぁ…」
「いや、でも教室の隅にある衣装は明らかに結婚とは関係ないものもあるんですけど。」
閻魔は感心したように呟いたが、鬼男は納得いかないといった表情で言う。ふと、教室の中で衣装を整えていたらしい太子と目が合った。
「おぉー、閻魔に鬼男じゃないか!来てくれたのか!?すごいだろー、私たちのクラスの人気!」
「うん、すごい人気だね。ちょっと羨ましいかもー。」
「太子先輩、ここは何をやっているんです?結婚式…にしては、おかしな衣装が多いですよね。」
閻魔と鬼男の姿を認識した太子は、声をかけながら廊下に立つ2人に近づいてきた。
ニコニコ笑いながら答える閻魔と対照的に、鬼男の方は衣装の違和感が気になるのか真剣な眼差しで問いかけてくる。
「ん?私たち3年飛鳥組は、コスプレ模擬結婚式をやってるんだぞ!好きな衣装や設定で異性・同性・兄弟・姉妹関係無しに誰でも結婚できるんだ。面白いだろう?」
「え、じゃあさじゃあさ!オレと鬼男くんでも出来るってことだよね!?」
「なっ…!」
太子の説明を聞いた途端、閻魔の目が嬉しそうに輝いてそんなことを言い出したので、傍で聞いていた鬼男はカッと顔を赤くして動きを止めた。
「もちろんだぞ。今のカップルが終わったら空いてるから、閻魔と鬼男で結婚式挙げてみるか?」
閻魔の言葉に太子は笑って頷くと、予定表を確認してから誘いの言葉を投げかける。
「え、いいの?!よし、鬼男くん!オレと今から結婚し」
「っ、ざけんなこの変態大王イカがぁっ!!」
「げふぉっ!?」
太子の返答を聞いてますます嬉しそうにした閻魔が、勢いで結婚を申し込もうとしたところで鬼男の方が耐え切れなくなったのか、罵倒とともに思いっきりストレートを食らわせてきた。
気を抜いていた閻魔はその攻撃を見事に受け、吹っ飛ばされる。羞恥を隠すためか落ち着くためか、うつむいて大きく呼吸を繰り返す鬼男に黙ってみていた太子が「なぁ、鬼男?」と声をかけた。
「…何ですか?」
「そんなに警戒するなよー。別に無理に挙げろなんて言うつもりはないって!ただ、色んな衣装そろえたからさ、暇なら見るだけ見ていきんしゃい。なかなか面白いぞ。」
警戒した様子で返事をする鬼男ににこっと無邪気に笑って提案する太子。
確かに、明らかにコスプレ用と言った衣装の方が多いが、中には見たことのない民族衣装や、繊細な作りをしているドレスなど見るだけでも楽しそうなものが揃っている。
「…じゃあ、ちょっとだけ。」
装飾の仕組みやデザインに興味を持った鬼男は、控えめに答えて教室に足を踏み入れた。
結婚をこぶしとともに断られてしまったことがショックで落ち込んでいる閻魔の肩をちょんちょんと突っついた太子は、顔を上げた閻魔に楽しそうに笑って見せた。
「閻魔も見ていきんしゃーい。セーラー服もあるけど、今回のおススメはメイド服でおまっ!」
「んー?うん…まぁ、鬼男くんが見てるならオレも暇になっちゃうしね。」
なぜメイド服なのか気になったが、閻魔も衣装に興味がないわけではなかったので頷いて教室に入る。教室内は、式場としてセッティングするところは広く開けているものの、そこ以外は本当にたくさんの衣装が壁に沿って種類ごとに綺麗に並べられていた。
「こんなの、どこから誰が持ってきたんだ。」
鬼男は端から順に衣装を見ていきながら、どこで入手したのか定かでないような衣装やありがちなデザインの衣装など一着一着丁寧に見ていっていた。
どういう風にデザインして、何を表現しているのか。そんなことを考えるのは嫌いではなかったから。
「あ…」
流れるように衣装を見ていた鬼男の目が、不意に一着の衣装の前で止まった。
真っ黒な燕尾服。うるさすぎない程度に施されたバランスのいい装飾。
「執事服エリア…?」
思わず壁の張り紙を確認するように見上げて、声に出して読んでしまった。
確かにそこ周辺をざっと見てみると、漫画やドラマなどでよく見る執事が着ているような服がたくさん並べてあった。その中で、どうしても鬼男が目を離せない執事服が一着。
「これ…」
「閻魔に似合いそうだよな。」
「ぅわぁっ!?…ちょっ、太子先輩…いきなりなんですか。」
ため息混じりに呟いて確認するようにその服に触れたところで突然後ろから声をかけられて、鬼男はまさしく体を跳ねさせて驚いた。
太子の存在に気づかないほど集中していたのか、それとも太子自身がわざと気配を殺していたのか。
「その服着てる閻魔…見てみたくないか?」
「っ…」
にやり、と口角を上げて悪戯っぽく笑う太子に鬼男は息を詰める。
見たいか見たくないか、と問われれば正直に言って見てみたい。しかしそれはつまりここで結婚式を挙げるということになるのだろう。
「この服なー、実際に執事を雇ってる奴から借りたものなんだ。そいつの家の母親がデザイナーやってて、自分の家の執事のためにデザインしたんだって。それで、今日一日だけ無理言ってお借りしてきたんだ。だから、閻魔に着せるなら今日しかないの。」
「そう、ですか…」
そんな風に説明されてしまうと、どうしても着ている姿が見てみたくなってきてしまう。でも、そうかと言ってすぐに頷けないのは、隣に並ぶ自分の衣装が何になるのか分からないから。式を挙げないで閻魔にだけ着せることは出来ないのだろうか。
「鬼男くん、鬼男くん!オレの一生のお願い聞いて!!」
どうしたらいいか考え込んでいる鬼男の背中に、テンションの高い声が届いた。
「…なんですか、突然。」
「ん?閻魔、どうしたんでおま?」
鬼男と太子は一緒に振り返って、どこか興奮した様子の閻魔に問いかける。
「あ、太子!ここの衣装って、結婚式挙げないと借りれないんだよね?」
「まぁな。そうじゃないと意味がないし、これでもお金かかってるところあるしな。」
閻魔が確認するように尋ねると、太子は困ったように笑って答えた。その返答に「やっぱそうだよねぇ…」と閻魔は苦笑い。鬼男も、閻魔にこの執事服を着てもらうにはやはり結婚式を挙げないといけないのか…と内心肩を落としていた。
「あの、さ…鬼男くん?君は絶対嫌がるって、分かってるよ。分かってるん、だけどさ。でも、今日は学園祭で、お祭りなわけじゃない?お祭りってさ、無礼講って言っちゃ変だけど…よっぽどのことじゃない限り何やっても少しは許されると思うんだよね。」
「はぁ…まぁ、そうですね。」
どういう風に言おうか考えているのか、歯切れ悪く言葉を紡ぐ閻魔に鬼男は何が言いたいのだろう?と考えながらとりあえず相槌を打っておく。
「だからさ、今日だけ…お祭りの、今日だけでいいんだ。誰も本気にしないだろうけど、だからこそ。オレに、君への愛を誓うチャンスをくれない?」
「これ…」
言って、閻魔は後ろ手に持っていた衣装を鬼男の目の前に差し出した。これがもしセーラー服だったら、鬼男は条件反射と言わんばかりに容赦なく閻魔を殴り飛ばしていただろう。しかし、鬼男が渡されたそれは…
「メイド服…ですか?」
「うん。これさ、鬼男くんが着たら絶対可愛いと思うんだよね。これ着て、オレと結婚式挙げてほしいんだ。」
女物で、メイド服であることに間違いはないのだが、良くあるコスプレ用のフリル満載のメイド服というわけではなく、シンプルでしかもボトムタイプのもの。
いったい誰が持ってきたのだろう。
「おぉー、執事とメイドで結婚式か!ちょうどよかったな!これはいい式になるぞー!」
「よし!執事とメイド、屋敷設定で一組入るよ!みんな、準備して!」
「え、ちょっと!?準備早すぎませんか!」
今まで黙って様子を見ていた太子は、差し出されたメイド服を確認するとここぞとばかりに大きな声を張り上げる。それを聞いて、飛鳥組のメンバーは早々に会場セッティングに入ってしまったので、思わず鬼男があせったように声をかけた。
「愛の誓いはどうする?」
「主人のいない間に2人きりで階段!どうよ!」
「最高!」
しかし鬼男の言葉はもはや3年飛鳥組の生徒には届いておらず、どんどん設定と準備は進んでいく。
「僕はまだやるって言ってないんですけど!」
「まぁまぁ鬼男。2人して目に付いた衣装が同じ系統だったって、すごい偶然だと思うぞ?こんな偶然は、いっそ運命とも言えるでおまっ!…この機会を大切にするべきだと思わないか?」
最後まで抵抗しようとする鬼男に、太子はやはり楽しそうに笑ってなだめるように言った。
運命、という言葉にわずかながら鬼男が反応を示す。確かに、それぞれ好きなように衣装を見ていたのに、お互いに似合うと思って気に掛けた衣装が結婚式の設定にちょうどいいものだったのはすごい偶然なのかもしれない、と。
「…まぁ、せっかくの学園祭だし…仕方ないからアンタに付き合ってやりますよ、大王。」
「ホント!?ありがとう、鬼男くん!オレ、鬼男くんのそういうとこ大好き!」
閻魔から受け取った衣装を手にそっけなく答えて、鬼男は更衣室の方へ向かい始めたので閻魔は嬉しそうに顔を綻ばせて大声で鬼男に叫ぶ。
「うっせーアホ大王!恥ずかしいこと言ってねぇでお前もさっさと着替えて来い!」
閻魔の言葉に恥ずかしそうに頬を染めて怒鳴ると、鬼男は乱暴に更衣室のドアを閉めてしまった。
「…だから言っただろ?メイド服がお勧めだってさ。」
ふふん、と得意げに笑って鬼男に聞こえないよう小声で太子は言った。
「やるねぇ、太子。なんか、上手くはめられた気分。」
「そんなつもりはないぞ。鬼男と閻魔好みの衣装を揃えはしたけど、お前らが選ぶかどうかは私にも分からなかったしな。」
「ふぅん…?まあ、そういうことにしといてあげる。じゃあ俺も着替えてくるね。」
苦笑して閻魔が言っても、返ってきたのは変わらぬ笑顔とそんな言葉で。閻魔は首をかしげながらもとりあえずは納得したように頷いて見せて、鬼男が選んだ衣装を手に更衣室に入った。
◇◇◇
「わぁー、鬼男くん可愛い~!」
「っ…!」
着替えて出てきた鬼男の姿を見て、閻魔は嬉々として声を上げた。鬼男は羞恥に頬を染めて、なるべく周りの顔を見ないようにしているのか俯いている。
「準備は出来てるぞ。式を挙げるでおまっ!」
「はいはーい、今行くよー。」
太子の言葉に明るく返して、閻魔はその場から動こうとしない鬼男の手を引いた。
「だ、大王…あの…本気ですか。」
往生際悪く踏みとどまって、鬼男が最終確認といわんばかりに問いかけてくるので閻魔は苦笑して近寄り、そっと頭を撫でてやる。
「本気だよ。他のみんなにとってはお遊びでも、俺の気持ちはいつだって本気。みんなの前で鬼男くんは俺のものだって宣言して、鬼男くんはこんなに可愛いんだって見せびらかしてやりたいんだよね。」
「可愛いって…褒め言葉じゃないですよ、それ。」
「あはは、ごめん。でもホント可愛いよ。ほら、みんな待ってるよ?」
閻魔の言葉に鬼男はどう反応して良いのか分からず顔を背けて答えた。そんな態度の鬼男がますます可愛らしく見えて、閻魔は笑いながら返すと再び優しい手つきで鬼男の腕を引いた。
「では、今回の愛の誓いは『執事とメイド』です。さて今度のカップルはどんなドラマを見せてくれるのでしょうか!」
司会の声とともにみんなの前に現れた執事とメイドに、観客は感嘆の声を漏らす。それくらい閻魔と鬼男にその衣装は似合っていた。
『すみません、わざわざ呼び出してしまって。』
『いえ…でも、何ですか?2人きりで話したい話って。』
着替えているときに渡されたセリフを作られた階段に立って言い合う閻魔と鬼男。
閻魔は楽しそうだが、鬼男の方は誰が書いたんだこの台本…と羞恥を感じながらなのでどこか棒読みである。
『…私の体は、ご主人様に尽くしご主人様が快適にお過ごしいただくために存在しております。』
『はい。それは、私だって。ご主人様のためにご奉仕するのが仕事ですから。』
「体は捧げたけど、心まで渡したつもりはない。俺の心はもうずっと前から、君とともにあることを願ってるよ。心はもちろん、本当なら体だって君以外に渡したくはなかった。」
「えっ…!?」
本来なら次のセリフは『それでも、心だけはあなたのためにありたいと願うことを許していただけませんか?』という控えめなお誘いのはずだったのに、突然セリフと違うことを言い出した閻魔にとっさに反応出来なくて鬼男は驚いて固まってしまう。
「君がもし、これからも俺とともにありたいと思ってくれるのなら…この手を取って一緒に来てほしい。この拘束だらけの世界を一緒に出よう、鬼男くん。」
数段低い位置にいた閻魔は、そう言って白い手袋に包まれた右手を鬼男に差し出した。条件反射とでも言うべきか、思わずそれを掴んでしまう鬼男。同時にぐいっと強く引き寄せられて体が前につんのめる。
「ちょっ…!?」
「ありがとう。これでもう邪魔するものは何もない。これからは、ずっと一緒だよ。」
焦ったように声を上げた鬼男を受け止めて愛しげに抱きしめると、耳元で優しく強い声でもって閻魔は囁いた。
「っ、はい…。すごく、嬉しいです。」
何故か鬼男は閻魔のその言葉に胸が締め付けられるように痛くなって、でも泣きそうなくらい嬉しくて。自らも縋りつくようにぎゅっと強く抱きついて閻魔の腕の中で震えた声で応える。
ドラマのワンシーンを見せられたような気になっていた観客たちが、誰からというわけでもなく拍手が沸き起こった。
「愛してるよ、鬼男くん。俺とずっと一緒に生きよう。…今度こそ。」
「…?」
拍手に紛れて小さく言われた愛の告白とともに言われた言葉に鬼男は首を傾げたが、閻魔はそれ以上何も言わず、ただ黙って鬼男を抱きしめていた。
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想像以上に長くなった件について^q^
すみませんでした!