一を聞いて十を知る②
admin≫
2010/07/08 00:00:00
2010/07/08 00:00:00
そんなわけで続きです。
大変展開がありがちなくせに、読みにくい^q^
調整とかすれば幾分変わるんでしょうが…いかんせん昔過ぎて逆にいじりづらいんです。
そして、現在の私はまともな文章が書けない。orz
というわけで、サイトの文章そのまま転載してます。
手抜きですみません。
そして、いい忘れていましたが…
この話は一応
鬼閻鬼
太妹太
曽芭
で展開していっている…はず^q^
まぁ、途中で分からなくなって放棄したため完結していないので、何ともいえないわけですが。
色々と設定も考えていたんだよ!ホントだよ!
表現するだけの技術が自分自身になかったのさ…orz
▼そんなわけで続き▼
「鬼男くん、鬼男くん!」
二日間の勉強会を終え、本日追試を受けてきた大王が、満面の笑みで生徒会室に飛び込んできた。
「追試、どうでしたか?」
「はい、これ!」
僕が問いかけると、走ってきたのだろう少しくたびれた回答用紙を、まるで誉めてくれと言わんばかりに僕に差し出す。
「…すごいじゃないですか。」
結果を見て、僕は素直に感想を口にした。
数学98点、化学85点、物理90点…。いくら追試の方が若干簡単に作られているとはいえ、10点・20点台だったテストがここまで上がるとは思わなかった。
「うん。先生も驚いてたけど、誰よりオレが一番驚いてる。鬼男くん、本当にありがとね!」
これでもかと言うくらいににっこりと笑って、お礼を言ってくる大王に不覚にも胸が高鳴った。
「大王は計算間違いで点数低かったんだから、僕は関係ないですよ。」
熱くなった顔を悟られないように、僕はとっさに書類を取りに行く振りをして大王から離れ、そっけなく返す。
「そんなことないよ?鬼男くんの説明、先生より分かりやすかったし。できるなら、これからも教えてもらいたいくらい。」
でも大王はそんなのお構いなしに僕の後をついてきて甘えるように言った。
「嫌ですよ。僕だって色々忙しいんです。」
「えぇー…オレ、鬼男くんが教えてくれるなら勉強めちゃくちゃ頑張れるのに。」
まったく…なんでこいつは恥ずかしげもなく、こうやって僕を喜ばせることを口にするんだろう。
「…体育祭が終わって、期末考査が近づいたらできるだけ協力しますよ。また今回みたいなことになったら困りますから。」
「ほんと!?」
そう言ってやるだけで、どこまでも嬉しそうな顔をする大王。…少し、苛めてみたくなった。
「その代わり…授業料をもらってもいいですか?」
大王が逃げられないように腕を掴む。
「オレ、あんまりお金持ってないんだけどなぁ…?」
大王は困ったように視線を周囲に巡らせる。
「お金なんか請求しませんよ。欲しいのはアンタです、閻魔…。」
「こういう時だけ名前呼びするし…」
僕の言葉に少し照れたように頬を赤らめる大王に、ついつい笑みがこぼれる。
予想通りの反応、ありがとうございます。
「冗談ですよ。ほら、体育祭まで日がないんですから準備を…」
大王から離れて普段通りにしようとしたところで服を引っ張られ、頬に何かが当たる感触。
「なっ…!?」
「はい、今回の授業料。これからもよろしくね、鬼男くん。」
驚きのあまり、言葉も出なかった僕を楽しそうに見て、大王は妖艶に舌なめずりをした。
相変わらず、一筋縄でいかないな…この大王イカは。
「望むところです。」
僕も負けじと言い返して、大王の唇に掠めるような口づけを送った。
「鬼男~!妹子に何か知らんが殴られたぁ~!!」
「「っ!!」」
突然、何の前触れもなく開かれたドアに、二人は慌てて離れた。
「…どーしたんだ?二人とも。」
不自然なくらい距離を置いて顔を赤くしている二人に、何も知らない太子はきょとん…と一人不思議そうに首をかしげる。
「太子…入るときはノックしろっていつも言ってるだろ。」
「あぁ、そーだったそーだった。妹子の攻撃ですっかり忘れてたぞ。」
お預けを食らって少し苛立ち混じりな鬼男に、太子は悪びれた様子もなく答えた。
「…で?小野が何だって?」
怒りを覚えることすら無駄な労力となるのは分かりきっているので、鬼男は気持ちを落ち着かせるように息を吐いてから問いかける。
「そうだ、聞いてくれ鬼男!さっきそこで妹子に会ったんだがな、私と目が合うなり『このアホ太子!!』って言って殴られたんだ…。
酷いと思わないか!?くっそー、あの芋め!今度会ったらこらしめちゃる!」
説明なのか独り言なのか分からないような言い方をして、太子はむきーっ!と両手を振り上げた。
「あれ?でも妹子くんってそんなことするような感じしなかったけど…」
すると黙っていた閻魔は、それを聞いて不思議そうに首をかしげた。
「違うぞ大王!この前鬼男にも言ったが、それは妹子の仮の姿で、本当はスッゴく口が悪くて攻撃的なんだ!毒妹子発動の時なんてなぁ…」
「それが原因だ、太子。」
妹子の事を語ろうとする太子の言葉を遮って鬼男が指摘する。
「へ?」
「小野は自分の事を色々話されるのが嫌みたいだぞ。」
理解できない、という態度の太子に鬼男は面倒だと思いながらも説明した。
「まぁ、確かに自分のことを他人にあれこれ知られるのは嫌かもね。」
鬼男の説明を聞いて、うんうんと閻魔も同意する。
「そういうもんなのか?」
説明されてもやはり理解できないのか、太子はうーん…と唸る。
「自分以外の誰かから、知らないうちに自分のことを話されてるなんて、気分悪いだろ。」
「そうか?私は、自分の好きな人の事は沢山の人に話して、知ってもらいたいけど…」
「太子は良くても、妹子くんは嫌だったんじゃないかな…?」
鬼男が言っても、やはりどこか納得いかない様子の太子に、閻魔は苦笑して言葉を補う。
「でも…でもな?ここに来てからの妹子は、どこか辛そうで無理してるみたいなんだ。だから、少しでも本当の自分を出せる相手ができたらって…」
しゅん…と落ち込んだように言って、太子は唇を噛み締める。
それは、鬼男も思っていたことだった。気を使いすぎて、無理をしてないだろうか?と。
「閻魔くん、鬼男くんそろそろ下校時刻だよー。」
不意に控えめにドアが開き、戸締まり当番なのだろう芭蕉が顔を出した。
「あ、芭蕉先生!」
「あれ?太子くんも居たんだ。用のない生徒は早く帰らなきゃダメだよー?」
太子がパッと表情を切り替えて芭蕉を呼ぶと、芭蕉はいつものように柔らかい笑みを浮かべて注意した。
「そういえば太子、こんな時間まで何してたの?」
閻魔がふと気が付いたように問いかけてきた。
現在時刻は6時を少し回ったところ。4時には学校は終わっているのだから、確かに2時間も何をすることがあったのか疑問だ。
「ぅん?そりゃあもちろん、ソロモンと遊んでたんだ!」
満面の笑みで答える太子の言葉に、閻魔と鬼男はなるほど…と納得する。
「…ソロモン?」
しかし芭蕉はソロモンが何なのか分からないらしく、不思議そうに名前を復唱した。
「最近うちの学校に住み着いてる野良ですよ。」
「…あぁ、あの白い仔犬のことかぁ。へぇ…ソロモンって言うんだね。」
鬼男の説明でようやく合点がいったのか、芭蕉はいつもの気の抜けた笑みを浮かべた。
「違うよ、芭蕉先生。ソロモンは太子が勝手に呼んでる名前。」
くすくすと笑って、閻魔が補足説明する。
と、その時くぐもったバイブ音が四人の耳に届いた。
「誰だ?私じゃないぞ。」
太子が自分のを確認しながら問いかける。
「あ、ごめん。私だ。」
芭蕉が慌ててポケットから携帯電話を取り出した。
「芭蕉先生って、ケータイ持ってたんだ…」
「何でそんな意外そうに言うの閻魔くん!松尾だってケータイくらい持つよ!」
驚いたように呟いた閻魔にぷんぷんという効果音が付きそうな怒り方をして、芭蕉は携帯電話の通話ボタンを押した。
「はいはい、どうしたの?曽良くん。」
『どうしたの、じゃありません。』
「な、なんでそんなに怒ってるの!?」
電話越しに聞こえた怒気を含んだ声に、芭蕉が怯えたように問いかける。
「なぁ太子。曽良って妹子と同じクラスの奴だよな?」
小声で鬼男が太子に問いかける。
「う、うん…妹子に会いに行ったとき何度か見たことあるぞ。」
「なんでその…曽良くん?から芭蕉先生に電話が来るの?」
太子の答えに、閻魔が不思議そうに問いかける。
さぁ…?と鬼男と太子が首をかしげ、残された三人は顔を見合わせた。その間も芭蕉と曽良の会話は続く。
『今何時だと思っているんですか。』
「ろ、6時13分…?」
『6時までに帰らないと夕飯抜きにしますと言っておいたはずですけど?』
「しょ、しょうがないじゃん!松尾、今日は施錠当番なんだから!」
芭蕉の言葉だけ聞いていると、どんな会話をしているかさっぱり分からない。
時間や施錠当番は、曽良と何か関係があるのだろうか?
『僕は聞いてません。芭蕉さん、今日の夕飯は無しで良いですね。』
「え、ちょっと待ってよ曽良くん!食べるから!私お腹ペコペコだから!夕飯抜きにしないで~!!」
『…30分までに帰らなければ夕飯は無しですからね。』
「帰る、帰るよ!今すぐ帰るから!ねっ、ちゃんと残しといてよ!?」
え…曽良が夕飯作ってるの!?っていうか、もしかして二人って一緒に暮らしてるの!?
という疑問が三人の中で生まれたことも気づかず、芭蕉はそう叫ぶように言って携帯電話を切った。
「あ、あの…芭蕉せんせ」
「三人とも、あと残ってるの君たちだけだから急いで学校から出て!じゃないと私、夕飯抜きになっちゃう!」
もはや半泣き状態の芭蕉は、太子の言葉を遮るようにして生徒会室から三人を出した。
「ほら、ダッシュダッシュ!!」
「は、はい!」
芭蕉があまりにも急かすので、結局聞けないまま校舎から出ることになった。
「閻魔くん・鬼男くん・太子くん、じゃあまた明日ね!」
施錠を終えると、芭蕉は早口でそう言ってバタバタと走り去っていった。
疑問解消は明日に持ち越しのようだ。
「……」
しばし三人とも走り去る芭蕉の背中を見送っていたが、いつまでも見ていても意味はない。
「…僕たちも、帰るか。」
「うん…」
「そうだな。」
鬼男の言葉に、閻魔と太子も頷く。
「じゃあ太子。気を付けて帰れよ。」
「寄り道しちゃダメだよ?」
「むぅ…私は小学生じゃないぞ。」
まるで子供扱いの別れの言葉に、太子は不満げに呟く。
「似たようなもんだろ。」
「バカにすんな、私はれっきとした高校2年生だぞコラァー!」
笑って言う鬼男の言葉に、太子は今度こそムキーッ!と口に出して叫んだ。
「わかってるって。もー、あんまり太子をからかっちゃダメでしょ。」
怒る太子の頭をポンポンとなだめるように撫でて、鬼男をたしなめる閻魔。
「分かってますよ。じゃあ太子、また明日な。」
「おう、またな鬼男!閻魔も、また今度生徒会室に遊びに行くでおまっ!」
「今度はちゃんとノックしてよねー。」
閻魔の言葉に太子は苦笑して手を振り、二人に背を向けて走っていった。
閻魔と鬼男は太子の姿が見えなくなるまで見送って、寮へ向かう道を歩き出す。
自然と繋がる、二人の手。
「今日は残念だったね、鬼男くん?」
「…何がですか?」
からかうように言ってくる閻魔に、鬼男は少しムッとしたように聞き返す。
「分かってるくせに。…邪魔されちゃったね?」
「うるさいですよ。それに、機会はまだいくらでもあります。」
頬を赤らめて言い返す鬼男の姿が、閻魔には愛しくてしょうがない。
「やっぱあれだよ。今まで通りの方がいいってことじゃない?」
「っ…」
言いながら閻魔が鬼男の頬に手を滑らせると、鬼男の体がわずかに震える。
「それに、鬼男くんもその方が好きでしょ…?」
閻魔は唇が触れるか触れないかくらいの距離まで顔を近づけてまるで秘め事のように言葉を紡ぐ。
負けず嫌いな鬼男は、空いている手を閻魔の後頭部に回して、その僅かな距離をゼロにした。
「!?」
閻魔は一瞬驚きの表情を浮かべたが、それはすぐに楽しげな表情に変わり、鬼男を誘うように薄く口を開く。侵入してくる鬼男の舌に、閻魔は応えるだけ。
「っ、は…ぁ…」
しばらくして、鬼男が瞳を潤ませて唇を離す。閻魔は口許の唾液を拭いながら不敵に微笑んだ。
「ダメだよ、このくらいで苦しくなっちゃ。」
「うー…」
閻魔の言葉に悔しそうに唸る鬼男。
「さて、帰ろうか?」
握ったままだった手をさらに強くギュッと握りしめて閻魔は言った。
鬼男は未だ不満げな表情を浮かべていたが、「はい。」と頷いて自らも強く握り返す。
「ぜってぇいつか主導権握ってやる…!」
「ま…せいぜい頑張ってよ、鬼男くん。」
悪いけどオレ、そう簡単には譲らないよ?だって…ゲームはまだ、始まったばかりなんだから。
【続】
「鬼男くん、鬼男くん!」
二日間の勉強会を終え、本日追試を受けてきた大王が、満面の笑みで生徒会室に飛び込んできた。
「追試、どうでしたか?」
「はい、これ!」
僕が問いかけると、走ってきたのだろう少しくたびれた回答用紙を、まるで誉めてくれと言わんばかりに僕に差し出す。
「…すごいじゃないですか。」
結果を見て、僕は素直に感想を口にした。
数学98点、化学85点、物理90点…。いくら追試の方が若干簡単に作られているとはいえ、10点・20点台だったテストがここまで上がるとは思わなかった。
「うん。先生も驚いてたけど、誰よりオレが一番驚いてる。鬼男くん、本当にありがとね!」
これでもかと言うくらいににっこりと笑って、お礼を言ってくる大王に不覚にも胸が高鳴った。
「大王は計算間違いで点数低かったんだから、僕は関係ないですよ。」
熱くなった顔を悟られないように、僕はとっさに書類を取りに行く振りをして大王から離れ、そっけなく返す。
「そんなことないよ?鬼男くんの説明、先生より分かりやすかったし。できるなら、これからも教えてもらいたいくらい。」
でも大王はそんなのお構いなしに僕の後をついてきて甘えるように言った。
「嫌ですよ。僕だって色々忙しいんです。」
「えぇー…オレ、鬼男くんが教えてくれるなら勉強めちゃくちゃ頑張れるのに。」
まったく…なんでこいつは恥ずかしげもなく、こうやって僕を喜ばせることを口にするんだろう。
「…体育祭が終わって、期末考査が近づいたらできるだけ協力しますよ。また今回みたいなことになったら困りますから。」
「ほんと!?」
そう言ってやるだけで、どこまでも嬉しそうな顔をする大王。…少し、苛めてみたくなった。
「その代わり…授業料をもらってもいいですか?」
大王が逃げられないように腕を掴む。
「オレ、あんまりお金持ってないんだけどなぁ…?」
大王は困ったように視線を周囲に巡らせる。
「お金なんか請求しませんよ。欲しいのはアンタです、閻魔…。」
「こういう時だけ名前呼びするし…」
僕の言葉に少し照れたように頬を赤らめる大王に、ついつい笑みがこぼれる。
予想通りの反応、ありがとうございます。
「冗談ですよ。ほら、体育祭まで日がないんですから準備を…」
大王から離れて普段通りにしようとしたところで服を引っ張られ、頬に何かが当たる感触。
「なっ…!?」
「はい、今回の授業料。これからもよろしくね、鬼男くん。」
驚きのあまり、言葉も出なかった僕を楽しそうに見て、大王は妖艶に舌なめずりをした。
相変わらず、一筋縄でいかないな…この大王イカは。
「望むところです。」
僕も負けじと言い返して、大王の唇に掠めるような口づけを送った。
「鬼男~!妹子に何か知らんが殴られたぁ~!!」
「「っ!!」」
突然、何の前触れもなく開かれたドアに、二人は慌てて離れた。
「…どーしたんだ?二人とも。」
不自然なくらい距離を置いて顔を赤くしている二人に、何も知らない太子はきょとん…と一人不思議そうに首をかしげる。
「太子…入るときはノックしろっていつも言ってるだろ。」
「あぁ、そーだったそーだった。妹子の攻撃ですっかり忘れてたぞ。」
お預けを食らって少し苛立ち混じりな鬼男に、太子は悪びれた様子もなく答えた。
「…で?小野が何だって?」
怒りを覚えることすら無駄な労力となるのは分かりきっているので、鬼男は気持ちを落ち着かせるように息を吐いてから問いかける。
「そうだ、聞いてくれ鬼男!さっきそこで妹子に会ったんだがな、私と目が合うなり『このアホ太子!!』って言って殴られたんだ…。
酷いと思わないか!?くっそー、あの芋め!今度会ったらこらしめちゃる!」
説明なのか独り言なのか分からないような言い方をして、太子はむきーっ!と両手を振り上げた。
「あれ?でも妹子くんってそんなことするような感じしなかったけど…」
すると黙っていた閻魔は、それを聞いて不思議そうに首をかしげた。
「違うぞ大王!この前鬼男にも言ったが、それは妹子の仮の姿で、本当はスッゴく口が悪くて攻撃的なんだ!毒妹子発動の時なんてなぁ…」
「それが原因だ、太子。」
妹子の事を語ろうとする太子の言葉を遮って鬼男が指摘する。
「へ?」
「小野は自分の事を色々話されるのが嫌みたいだぞ。」
理解できない、という態度の太子に鬼男は面倒だと思いながらも説明した。
「まぁ、確かに自分のことを他人にあれこれ知られるのは嫌かもね。」
鬼男の説明を聞いて、うんうんと閻魔も同意する。
「そういうもんなのか?」
説明されてもやはり理解できないのか、太子はうーん…と唸る。
「自分以外の誰かから、知らないうちに自分のことを話されてるなんて、気分悪いだろ。」
「そうか?私は、自分の好きな人の事は沢山の人に話して、知ってもらいたいけど…」
「太子は良くても、妹子くんは嫌だったんじゃないかな…?」
鬼男が言っても、やはりどこか納得いかない様子の太子に、閻魔は苦笑して言葉を補う。
「でも…でもな?ここに来てからの妹子は、どこか辛そうで無理してるみたいなんだ。だから、少しでも本当の自分を出せる相手ができたらって…」
しゅん…と落ち込んだように言って、太子は唇を噛み締める。
それは、鬼男も思っていたことだった。気を使いすぎて、無理をしてないだろうか?と。
「閻魔くん、鬼男くんそろそろ下校時刻だよー。」
不意に控えめにドアが開き、戸締まり当番なのだろう芭蕉が顔を出した。
「あ、芭蕉先生!」
「あれ?太子くんも居たんだ。用のない生徒は早く帰らなきゃダメだよー?」
太子がパッと表情を切り替えて芭蕉を呼ぶと、芭蕉はいつものように柔らかい笑みを浮かべて注意した。
「そういえば太子、こんな時間まで何してたの?」
閻魔がふと気が付いたように問いかけてきた。
現在時刻は6時を少し回ったところ。4時には学校は終わっているのだから、確かに2時間も何をすることがあったのか疑問だ。
「ぅん?そりゃあもちろん、ソロモンと遊んでたんだ!」
満面の笑みで答える太子の言葉に、閻魔と鬼男はなるほど…と納得する。
「…ソロモン?」
しかし芭蕉はソロモンが何なのか分からないらしく、不思議そうに名前を復唱した。
「最近うちの学校に住み着いてる野良ですよ。」
「…あぁ、あの白い仔犬のことかぁ。へぇ…ソロモンって言うんだね。」
鬼男の説明でようやく合点がいったのか、芭蕉はいつもの気の抜けた笑みを浮かべた。
「違うよ、芭蕉先生。ソロモンは太子が勝手に呼んでる名前。」
くすくすと笑って、閻魔が補足説明する。
と、その時くぐもったバイブ音が四人の耳に届いた。
「誰だ?私じゃないぞ。」
太子が自分のを確認しながら問いかける。
「あ、ごめん。私だ。」
芭蕉が慌ててポケットから携帯電話を取り出した。
「芭蕉先生って、ケータイ持ってたんだ…」
「何でそんな意外そうに言うの閻魔くん!松尾だってケータイくらい持つよ!」
驚いたように呟いた閻魔にぷんぷんという効果音が付きそうな怒り方をして、芭蕉は携帯電話の通話ボタンを押した。
「はいはい、どうしたの?曽良くん。」
『どうしたの、じゃありません。』
「な、なんでそんなに怒ってるの!?」
電話越しに聞こえた怒気を含んだ声に、芭蕉が怯えたように問いかける。
「なぁ太子。曽良って妹子と同じクラスの奴だよな?」
小声で鬼男が太子に問いかける。
「う、うん…妹子に会いに行ったとき何度か見たことあるぞ。」
「なんでその…曽良くん?から芭蕉先生に電話が来るの?」
太子の答えに、閻魔が不思議そうに問いかける。
さぁ…?と鬼男と太子が首をかしげ、残された三人は顔を見合わせた。その間も芭蕉と曽良の会話は続く。
『今何時だと思っているんですか。』
「ろ、6時13分…?」
『6時までに帰らないと夕飯抜きにしますと言っておいたはずですけど?』
「しょ、しょうがないじゃん!松尾、今日は施錠当番なんだから!」
芭蕉の言葉だけ聞いていると、どんな会話をしているかさっぱり分からない。
時間や施錠当番は、曽良と何か関係があるのだろうか?
『僕は聞いてません。芭蕉さん、今日の夕飯は無しで良いですね。』
「え、ちょっと待ってよ曽良くん!食べるから!私お腹ペコペコだから!夕飯抜きにしないで~!!」
『…30分までに帰らなければ夕飯は無しですからね。』
「帰る、帰るよ!今すぐ帰るから!ねっ、ちゃんと残しといてよ!?」
え…曽良が夕飯作ってるの!?っていうか、もしかして二人って一緒に暮らしてるの!?
という疑問が三人の中で生まれたことも気づかず、芭蕉はそう叫ぶように言って携帯電話を切った。
「あ、あの…芭蕉せんせ」
「三人とも、あと残ってるの君たちだけだから急いで学校から出て!じゃないと私、夕飯抜きになっちゃう!」
もはや半泣き状態の芭蕉は、太子の言葉を遮るようにして生徒会室から三人を出した。
「ほら、ダッシュダッシュ!!」
「は、はい!」
芭蕉があまりにも急かすので、結局聞けないまま校舎から出ることになった。
「閻魔くん・鬼男くん・太子くん、じゃあまた明日ね!」
施錠を終えると、芭蕉は早口でそう言ってバタバタと走り去っていった。
疑問解消は明日に持ち越しのようだ。
「……」
しばし三人とも走り去る芭蕉の背中を見送っていたが、いつまでも見ていても意味はない。
「…僕たちも、帰るか。」
「うん…」
「そうだな。」
鬼男の言葉に、閻魔と太子も頷く。
「じゃあ太子。気を付けて帰れよ。」
「寄り道しちゃダメだよ?」
「むぅ…私は小学生じゃないぞ。」
まるで子供扱いの別れの言葉に、太子は不満げに呟く。
「似たようなもんだろ。」
「バカにすんな、私はれっきとした高校2年生だぞコラァー!」
笑って言う鬼男の言葉に、太子は今度こそムキーッ!と口に出して叫んだ。
「わかってるって。もー、あんまり太子をからかっちゃダメでしょ。」
怒る太子の頭をポンポンとなだめるように撫でて、鬼男をたしなめる閻魔。
「分かってますよ。じゃあ太子、また明日な。」
「おう、またな鬼男!閻魔も、また今度生徒会室に遊びに行くでおまっ!」
「今度はちゃんとノックしてよねー。」
閻魔の言葉に太子は苦笑して手を振り、二人に背を向けて走っていった。
閻魔と鬼男は太子の姿が見えなくなるまで見送って、寮へ向かう道を歩き出す。
自然と繋がる、二人の手。
「今日は残念だったね、鬼男くん?」
「…何がですか?」
からかうように言ってくる閻魔に、鬼男は少しムッとしたように聞き返す。
「分かってるくせに。…邪魔されちゃったね?」
「うるさいですよ。それに、機会はまだいくらでもあります。」
頬を赤らめて言い返す鬼男の姿が、閻魔には愛しくてしょうがない。
「やっぱあれだよ。今まで通りの方がいいってことじゃない?」
「っ…」
言いながら閻魔が鬼男の頬に手を滑らせると、鬼男の体がわずかに震える。
「それに、鬼男くんもその方が好きでしょ…?」
閻魔は唇が触れるか触れないかくらいの距離まで顔を近づけてまるで秘め事のように言葉を紡ぐ。
負けず嫌いな鬼男は、空いている手を閻魔の後頭部に回して、その僅かな距離をゼロにした。
「!?」
閻魔は一瞬驚きの表情を浮かべたが、それはすぐに楽しげな表情に変わり、鬼男を誘うように薄く口を開く。侵入してくる鬼男の舌に、閻魔は応えるだけ。
「っ、は…ぁ…」
しばらくして、鬼男が瞳を潤ませて唇を離す。閻魔は口許の唾液を拭いながら不敵に微笑んだ。
「ダメだよ、このくらいで苦しくなっちゃ。」
「うー…」
閻魔の言葉に悔しそうに唸る鬼男。
「さて、帰ろうか?」
握ったままだった手をさらに強くギュッと握りしめて閻魔は言った。
鬼男は未だ不満げな表情を浮かべていたが、「はい。」と頷いて自らも強く握り返す。
「ぜってぇいつか主導権握ってやる…!」
「ま…せいぜい頑張ってよ、鬼男くん。」
悪いけどオレ、そう簡単には譲らないよ?だって…ゲームはまだ、始まったばかりなんだから。
【続】
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