親の心、子知らず
admin≫
2010/07/15 00:00:00
2010/07/15 00:00:00
どうもこんにちは。
これは、「一を聞いて十を知る」の続きです。
読んでくださる方はそちらを先読んでいただけると嬉しいです。
と、いうか…読まないと分からないと思います^q^
前回は天国メインで行きましたが、今回は細道と飛鳥のお話がメイン?です。
読み直して、やっぱどっかで見たことある展開だなぁと思ってちょっと不安になっています。
どこかのサイトや動画で見たものを無意識に真似しちゃってんじゃないなぁ…と。
昔の自分に会って真意を確かめたい今日この頃^q^
どこかで見たよーとか、読んだよーってのがあったら教えてください。
もしもそれを私も見ていたら、それは真似になってしまうので…削除か非公開にしようかなと思います。
▼前の話と繋がってるよ▼
前に、何かの本で読んだことがある。
――人は、愛された分しか愛することができない。
だから私は、曽良くんをめいっぱい愛してあげよう。曽良くんに、少しでも多く笑ってほしいから。
***
「ただいま曽良くん!」
芭蕉が大慌てで家に帰り居間のドアを開けると、曽良は普通では全く気付けないくらい僅かではあるが、安心したように口許を綻ばせた。
「遅いですよ、芭蕉さん。帰ってくるのにどれだけ時間をかけているんですか。」
しかしそれはすぐに無表情に戻り、そう言って持っていた食器を机に置いた。そして自分の食事に口をつけ始める。…時計を見ると時刻は6時30分丁度。
「ひどっ!曽良くんひどっ!今、絶対片付けようとしてたよねっ?もう少し待ってようとかないわけっ!?」
「うるさいですよ。大体、ちゃんと電話でそう言ったでしょう。」
芭蕉の喚く言葉を一刀両断して、一人パクパクと夕飯を消化していく曽良。
「そうだけど!そうだけど、ホントに片付けようとするなんて…!」
「僕は有言実行タイプなんで。」
大袈裟に傷ついた風な態度をとる芭蕉に、曽良はやはり冷たい態度で応じる。
芭蕉はそこでようやく、普段ならもう食べ終えているはずの曽良が、今夕飯を食べていることに気が付いた。
様子をうかがうように曽良の方を見る。…なんだか、ものすごく申し訳ない気持ちになった。
「曽良くん…帰ってくるの遅くなって、ホントにごめんね…?」
芭蕉がおずおずと謝ると、曽良はフゥ…とため息を吐き、持っていた箸と食器を机に置いて顔を上げる。
「いつまで立っているんですか?早く座って食べなさい。せっかく温めたのに冷めてしまうでしょう。」
「えっ…」
言われて急いで曽良の向かいに座ると、置かれた食事は確かに出来立てのように温かい。
先程食器を持っていたのは、片付けるためではなく温めてきたものだったらしい。
「そ、曽良くん…!」
「食べないのなら本当に片付けますよ?」
感動のあまり瞳を潤ませる芭蕉の態度にイラッとして、曽良は鋭い目付きで芭蕉を睨み付ける。
「食べるよ!私もうお腹空きまくりなんだから!…いただきます。」
そんな風ににらまれても、芭蕉にはもう照れ隠しにしか見えなくて、ニコニコしながら食事を食べ始める。
すると、目の前から容赦ないチョップが飛んできた。
「にものっ!!」
大きく体を傾けて芭蕉が奇声を上げる。
「曽良くん、危ないでしょ!松尾、いま味噌汁落としそうになったよ!」
「あなたがヘラヘラとしまりのない顔をしているからです。」
芭蕉の文句を軽くいなして、相変わらず曽良は無感動に食事を口に運ぶ。
「まったく…すぐに手を出す癖はいつできたんだよ…」
芭蕉もブツブツと文句を言いながら食事を続ける。…そこでふと、思い出した。
――人は愛された分しか…
「曽良くん!」
このままでは曽良くんの将来が…!そう思った芭蕉は食事の手を止めてバッと顔を上げた。
「何ですか。」
「私は、曽良くんのこと大好きだからね!」
無垢な笑顔での突然の告白に、曽良の箸が止まった。
「どんなことがあっても…私は曽良くんの味方だし、曽良くんのこと嫌いになんてならないから!」
「何を…」
曽良は面食らったように芭蕉を見やる。
「私は曽良くんのこと大切に思ってるよって話。」
言って、芭蕉は満足げな笑顔を曽良に向けた。
――この人の言葉ひとつで、こんなにも心乱されるなんて。
「下らないこと言ってないで、さっさと食べてください。」
曽良はそれだけ返すと、止めていた箸の動きを再開した。
「え、松尾の告白スルー!?なんか反応あってもいいじゃないか!」
「黙って食べなさい!」
「やきざかなっ!!」
曽良の二度目のチョップに、芭蕉は再び畳に倒れ伏した。
曽良はもう食べ終わったのか、空いた食器を持って台所へさっさと歩いていってしまった。
――少しは効果、あったかな…?
芭蕉はその後ろ姿を見送りながら起き上がると、美味しい夕飯と一緒に、何となく幸せを噛み締めたのだった。
◇◇◇
「おかえりなさい鬼男先輩。」
部屋のドアが開く音に反応して、机に向かっていた妹子が顔を上げて言う。
「あ、うん…ただいま。」
妹子がこの時間にまだ机に向かって勉強していることが意外で、鬼男は少し驚いたように返事を返す。
妹子は部活もやっていないので、いつもならこの時間には予習・復習を終えて、本を読むか筋トレをしている時間だ。
「珍しいな、お前がまだ机に向かってるなんて。」
鬼男が素直にその疑問を口にすると、妹子はあからさまにギクッと身を跳ねさせた。
「あー…えぇ、まぁ色々ありまして。」
返ってきたのは歯切れの悪い返答。その時、鬼男の中にひとつの疑問が生まれた。
二時間近くもソロモンと遊んでいた太子がなぜ、学校が終わったら何の用事もないはずの妹子と会うことができたのだろう?と。
「今日はずいぶん遅くまで学校にいたんだな。」
鬼男は鞄を机に置きながら何気無く問いかける。
「な、何の話ですか?」
鬼男の問いに妹子は誤魔化すように机に向き直った。
「生徒会室から、『このアホ太子!』って言って太子を殴る妹子が見えたんだけど。」
鬼男は妹子の机に手をつくと、くすっと笑って言った。
「生徒会室から中庭って見えましたっけ!?」
妹子は弾かれるように顔を上げて慌てた様子で鬼男に問いかける。
「見えないよ。これは太子から聞いた情報。」
「あ…」
楽しげに笑って言う鬼男に、妹子はしまった…という表情をした。
「やっぱり、今までの太子の言葉に嘘はないんだな?」
「っ…」
鬼男の確認に、妹子は答えない。
「何でそんなに隠したがるんだ?普段の自分がそんなに嫌か?」
今日は時間もあるし、はっきりさせようと鬼男は妹子の顔を覗き込んで問いかけた。
「それ…は…」
「太子、心配してたぞ。今の妹子は無理してるみたいだ、ってさ。」
「え…?」
鬼男の言葉に、妹子の瞳が揺らいだ。まるで信じられないとでも言いたげに鬼男を見上げてくる。
「無理しなくても妹子は良い奴だから、それを他の奴らにも知ってもらいたいって、妹子が気を許せる奴ができたらいいのにって、泣きそうな顔で言ってた。」
そんな妹子に鬼男は先程の太子の言葉を全て教える。
「太子が…」
「もっとさ、力を抜いても良いんじゃないか?ずっとそんな風にしてたら、しんどいだろ。」
鬼男は妹子の髪をくしゃりと撫でて諭すように言う。
「そんなことないですよ。」
妹子は自分の頭を撫でる鬼男の手を掴んで、はっきりと答えた。
「僕は、慣れてますから。」
まるでこれ以上の追求を許さないというような笑みを鬼男に向けて、妹子は手を離した。
その笑顔にただならぬ雰囲気を感じて、鬼男はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「もうすぐ夕飯の時間ですね。僕先に行きます。」
妹子はそれを確認してから携帯電話を取りだすと、そう言って部屋を出た。
ドアを閉めて、食堂とは逆方向の非常階段へ向かう。滅多に人は来ないが、用心して非常扉から見えない位置まで移動する。
周囲をもう一度確認してから、携帯の番号を押した。
「妹子です。本日の太子様の行動記録をご報告いたします。」
ワンコールと待たずに通じた電話に淡々と告げる。
妹子が太子の一日の動きを話す度、電話の向こうでは聞いたことを紙か何かに書き込む音がする。
「…6時19分、友人の大王閻魔(おおきみえんま)・天地鬼男(あまちおにお)と別れ自宅へ向かいました。…以上です。」
『帰りが遅かったのはそういうことか。何かあったのかと他の者が心配しておってな。』
報告を聞き終えると、ため息混じりに言う声。
「太子は、気まぐれですから。」
『確かにな…。案外、太子が急にあんな学校へ行きたいなどと言い出したのも、その気まぐれかもしれん。』
考えるように呟かれる言葉。
そう…太子はわざわざ学校に通わずとも必要なものは全て家で学ぶことができる。それなのになぜ…と、太子を思うあまり、異常なほど過保護になっている聖徳家の大人たちは言うのだ。
「太子さまは社会勉強とおっしゃっておりました。後継者として、何か自分でやってみたいとお思いになってのことでしょう。」
『太子のことはお前の方がよく分かるみたいだな。…まぁ良い、もし太子に何かあったり太子が問題を起こしたりしたらすぐに連絡するように。』
妹子の答えに苦笑して、馬子はそう言った。
「分かっております。では、失礼致します。」
挨拶をして電話を切る。同時に、ドッと疲れが出てきた。
太子が決めた高校入学に伴って、太子の世話役兼護衛だった妹子に課せられた新たな役目。
「毎日の太子の行動報告って、どんだけ過保護なんだよ…」
妹子は知っている。
太子は何にも縛られず自由に行動するのが好きだということを。
いきなり一般の高校に通いたいと言ったのも、本当は聖徳家の檻から少しだけ出てみたいと思ったからだということを。
そして、その上で外に出ても自分は大丈夫だとみんなに証明するためだということも。
「はぁ…」
太子もバカじゃない。きっとそのうち妹子が自分の行動を監視していることに気付くだろう。
「そうしたら僕は…」
――太子に、嫌われてしまうだろうか。
妹子は非常階段の柵に背を預けて項垂れた。携帯電話を握りしめる。
「すみません…」
思わず口から出た謝罪は、誰に対しての謝罪だったのだろう…?
【続】
――人は、愛された分しか愛することができない。
だから私は、曽良くんをめいっぱい愛してあげよう。曽良くんに、少しでも多く笑ってほしいから。
***
「ただいま曽良くん!」
芭蕉が大慌てで家に帰り居間のドアを開けると、曽良は普通では全く気付けないくらい僅かではあるが、安心したように口許を綻ばせた。
「遅いですよ、芭蕉さん。帰ってくるのにどれだけ時間をかけているんですか。」
しかしそれはすぐに無表情に戻り、そう言って持っていた食器を机に置いた。そして自分の食事に口をつけ始める。…時計を見ると時刻は6時30分丁度。
「ひどっ!曽良くんひどっ!今、絶対片付けようとしてたよねっ?もう少し待ってようとかないわけっ!?」
「うるさいですよ。大体、ちゃんと電話でそう言ったでしょう。」
芭蕉の喚く言葉を一刀両断して、一人パクパクと夕飯を消化していく曽良。
「そうだけど!そうだけど、ホントに片付けようとするなんて…!」
「僕は有言実行タイプなんで。」
大袈裟に傷ついた風な態度をとる芭蕉に、曽良はやはり冷たい態度で応じる。
芭蕉はそこでようやく、普段ならもう食べ終えているはずの曽良が、今夕飯を食べていることに気が付いた。
様子をうかがうように曽良の方を見る。…なんだか、ものすごく申し訳ない気持ちになった。
「曽良くん…帰ってくるの遅くなって、ホントにごめんね…?」
芭蕉がおずおずと謝ると、曽良はフゥ…とため息を吐き、持っていた箸と食器を机に置いて顔を上げる。
「いつまで立っているんですか?早く座って食べなさい。せっかく温めたのに冷めてしまうでしょう。」
「えっ…」
言われて急いで曽良の向かいに座ると、置かれた食事は確かに出来立てのように温かい。
先程食器を持っていたのは、片付けるためではなく温めてきたものだったらしい。
「そ、曽良くん…!」
「食べないのなら本当に片付けますよ?」
感動のあまり瞳を潤ませる芭蕉の態度にイラッとして、曽良は鋭い目付きで芭蕉を睨み付ける。
「食べるよ!私もうお腹空きまくりなんだから!…いただきます。」
そんな風ににらまれても、芭蕉にはもう照れ隠しにしか見えなくて、ニコニコしながら食事を食べ始める。
すると、目の前から容赦ないチョップが飛んできた。
「にものっ!!」
大きく体を傾けて芭蕉が奇声を上げる。
「曽良くん、危ないでしょ!松尾、いま味噌汁落としそうになったよ!」
「あなたがヘラヘラとしまりのない顔をしているからです。」
芭蕉の文句を軽くいなして、相変わらず曽良は無感動に食事を口に運ぶ。
「まったく…すぐに手を出す癖はいつできたんだよ…」
芭蕉もブツブツと文句を言いながら食事を続ける。…そこでふと、思い出した。
――人は愛された分しか…
「曽良くん!」
このままでは曽良くんの将来が…!そう思った芭蕉は食事の手を止めてバッと顔を上げた。
「何ですか。」
「私は、曽良くんのこと大好きだからね!」
無垢な笑顔での突然の告白に、曽良の箸が止まった。
「どんなことがあっても…私は曽良くんの味方だし、曽良くんのこと嫌いになんてならないから!」
「何を…」
曽良は面食らったように芭蕉を見やる。
「私は曽良くんのこと大切に思ってるよって話。」
言って、芭蕉は満足げな笑顔を曽良に向けた。
――この人の言葉ひとつで、こんなにも心乱されるなんて。
「下らないこと言ってないで、さっさと食べてください。」
曽良はそれだけ返すと、止めていた箸の動きを再開した。
「え、松尾の告白スルー!?なんか反応あってもいいじゃないか!」
「黙って食べなさい!」
「やきざかなっ!!」
曽良の二度目のチョップに、芭蕉は再び畳に倒れ伏した。
曽良はもう食べ終わったのか、空いた食器を持って台所へさっさと歩いていってしまった。
――少しは効果、あったかな…?
芭蕉はその後ろ姿を見送りながら起き上がると、美味しい夕飯と一緒に、何となく幸せを噛み締めたのだった。
◇◇◇
「おかえりなさい鬼男先輩。」
部屋のドアが開く音に反応して、机に向かっていた妹子が顔を上げて言う。
「あ、うん…ただいま。」
妹子がこの時間にまだ机に向かって勉強していることが意外で、鬼男は少し驚いたように返事を返す。
妹子は部活もやっていないので、いつもならこの時間には予習・復習を終えて、本を読むか筋トレをしている時間だ。
「珍しいな、お前がまだ机に向かってるなんて。」
鬼男が素直にその疑問を口にすると、妹子はあからさまにギクッと身を跳ねさせた。
「あー…えぇ、まぁ色々ありまして。」
返ってきたのは歯切れの悪い返答。その時、鬼男の中にひとつの疑問が生まれた。
二時間近くもソロモンと遊んでいた太子がなぜ、学校が終わったら何の用事もないはずの妹子と会うことができたのだろう?と。
「今日はずいぶん遅くまで学校にいたんだな。」
鬼男は鞄を机に置きながら何気無く問いかける。
「な、何の話ですか?」
鬼男の問いに妹子は誤魔化すように机に向き直った。
「生徒会室から、『このアホ太子!』って言って太子を殴る妹子が見えたんだけど。」
鬼男は妹子の机に手をつくと、くすっと笑って言った。
「生徒会室から中庭って見えましたっけ!?」
妹子は弾かれるように顔を上げて慌てた様子で鬼男に問いかける。
「見えないよ。これは太子から聞いた情報。」
「あ…」
楽しげに笑って言う鬼男に、妹子はしまった…という表情をした。
「やっぱり、今までの太子の言葉に嘘はないんだな?」
「っ…」
鬼男の確認に、妹子は答えない。
「何でそんなに隠したがるんだ?普段の自分がそんなに嫌か?」
今日は時間もあるし、はっきりさせようと鬼男は妹子の顔を覗き込んで問いかけた。
「それ…は…」
「太子、心配してたぞ。今の妹子は無理してるみたいだ、ってさ。」
「え…?」
鬼男の言葉に、妹子の瞳が揺らいだ。まるで信じられないとでも言いたげに鬼男を見上げてくる。
「無理しなくても妹子は良い奴だから、それを他の奴らにも知ってもらいたいって、妹子が気を許せる奴ができたらいいのにって、泣きそうな顔で言ってた。」
そんな妹子に鬼男は先程の太子の言葉を全て教える。
「太子が…」
「もっとさ、力を抜いても良いんじゃないか?ずっとそんな風にしてたら、しんどいだろ。」
鬼男は妹子の髪をくしゃりと撫でて諭すように言う。
「そんなことないですよ。」
妹子は自分の頭を撫でる鬼男の手を掴んで、はっきりと答えた。
「僕は、慣れてますから。」
まるでこれ以上の追求を許さないというような笑みを鬼男に向けて、妹子は手を離した。
その笑顔にただならぬ雰囲気を感じて、鬼男はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「もうすぐ夕飯の時間ですね。僕先に行きます。」
妹子はそれを確認してから携帯電話を取りだすと、そう言って部屋を出た。
ドアを閉めて、食堂とは逆方向の非常階段へ向かう。滅多に人は来ないが、用心して非常扉から見えない位置まで移動する。
周囲をもう一度確認してから、携帯の番号を押した。
「妹子です。本日の太子様の行動記録をご報告いたします。」
ワンコールと待たずに通じた電話に淡々と告げる。
妹子が太子の一日の動きを話す度、電話の向こうでは聞いたことを紙か何かに書き込む音がする。
「…6時19分、友人の大王閻魔(おおきみえんま)・天地鬼男(あまちおにお)と別れ自宅へ向かいました。…以上です。」
『帰りが遅かったのはそういうことか。何かあったのかと他の者が心配しておってな。』
報告を聞き終えると、ため息混じりに言う声。
「太子は、気まぐれですから。」
『確かにな…。案外、太子が急にあんな学校へ行きたいなどと言い出したのも、その気まぐれかもしれん。』
考えるように呟かれる言葉。
そう…太子はわざわざ学校に通わずとも必要なものは全て家で学ぶことができる。それなのになぜ…と、太子を思うあまり、異常なほど過保護になっている聖徳家の大人たちは言うのだ。
「太子さまは社会勉強とおっしゃっておりました。後継者として、何か自分でやってみたいとお思いになってのことでしょう。」
『太子のことはお前の方がよく分かるみたいだな。…まぁ良い、もし太子に何かあったり太子が問題を起こしたりしたらすぐに連絡するように。』
妹子の答えに苦笑して、馬子はそう言った。
「分かっております。では、失礼致します。」
挨拶をして電話を切る。同時に、ドッと疲れが出てきた。
太子が決めた高校入学に伴って、太子の世話役兼護衛だった妹子に課せられた新たな役目。
「毎日の太子の行動報告って、どんだけ過保護なんだよ…」
妹子は知っている。
太子は何にも縛られず自由に行動するのが好きだということを。
いきなり一般の高校に通いたいと言ったのも、本当は聖徳家の檻から少しだけ出てみたいと思ったからだということを。
そして、その上で外に出ても自分は大丈夫だとみんなに証明するためだということも。
「はぁ…」
太子もバカじゃない。きっとそのうち妹子が自分の行動を監視していることに気付くだろう。
「そうしたら僕は…」
――太子に、嫌われてしまうだろうか。
妹子は非常階段の柵に背を預けて項垂れた。携帯電話を握りしめる。
「すみません…」
思わず口から出た謝罪は、誰に対しての謝罪だったのだろう…?
【続】
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