渡りに船(飛鳥メイン)
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2010/07/22 00:00:00
2010/07/22 00:00:00
どうもこんにちは。
今回は飛鳥オンリーです。
この話は「親の心、子知らず」の続きになります。読んでくださる心優しい方は、先にそちらを読んでいただかないと話が分からないと思います。すみません。
太子の悩みとか、聖徳家の守り神とか、お家事情っぽいもの?
ここらへんまで書いて、そろそろ自分の手に負えなくなってきたと思われ^q^
このあと、何とかかんとか続きを書いたものの、その後続かなくなって止めちゃったのです。
とりあえず来週にそれを上げて、めちゃくちゃ中途半端で放置されてる伏線だらけだけどサイトに上げていたものは以上です。
続きが浮かんだり、形にすることが出来たりしたら、また上げるかもしれませんが…あまり期待は出来ない^q^
とりあえず、飛鳥好きでお付き合いいただいている方。
お待たせいたしました(?)
▼小さい子って可愛いよね^q^▼
「本日より、太子さまのごえいにつくことになりました、小野妹子ともうします。」
妹子と初めて会ったのは、私が小学2年の時だった。紹介されて私の目の前に来るなり跪き、深々と頭を下げ、やけに丁寧な言葉で挨拶を述べた。
「この命にかえても、あなたさまのことをお守りすることを、ここにちかい…」
「妹子!外にあそびに行くぞ!!」
「えぇ?!」
その話し方が凄く嫌で、言葉を遮るようにして妹子の手を引き、走り出したのをよく覚えている。
「太子様!?」
「こら太子!大切な話をしていると言うにお前は!」
大人たちの止める声を振り切って、お気に入りの花畑まで全力疾走。
妹子は何が起きているのか理解できなかったのか、それとも分かっていて引っ張られていたのか分からないけど、黙って一緒に走っていた。
「はぁっ、はぁ…っ、着いたぞ~!」
着いてすぐに花畑にごろんと寝転がる。心臓がばくばくで、息も苦しい。
「太子さま…これはどういうおつもりですか?」
でも妹子は深く深呼吸したらすぐに呼吸が整っていた。
「太子で、良い。それと、そのやたら、堅苦しっ…話し方も…っなしだ!」
呼吸が整ってなかったから途切れ途切れになってしまったけど、ちゃんと言えてたと思う。
「そういうわけにはいきません、太子さま。僕は、あなたさまにお仕えするいち部下にすぎぬのですから。」
それでも妹子はそれを崩そうとはせず、強い意思を宿した目を私に向けてきた。
「父さんは私と年が近い方があそび相手にもなるし、相手もゆだんすると言っていた。それなのに、その呼び方と話し方じゃ周りの大人たちといっしょじゃないか。」
私は、本当はすごく楽しみにしていたんだ。会社を継ぐための勉強と、大人たちに囲まれて生活してるなか、同じくらいの子どもが来ると聞いて。
絶対…絶対仲良しになってやるって、聞いたときから心に決めてたんだ。
「だから妹子、そのためにも様づけだけでもナシだ!もう私が決めた!それ以外は認めないでおまっ!」
起き上がって、ビシッ!と妹子の目の前に人差し指を突き出し、はっきりと言ってやる。
妹子はぽかん…とした後、くしゃりと顔を歪めて笑った。
「むちゃくちゃですよ、太子。」
「っ…!」
その笑顔に、何故か顔が熱くなった。
なんかさっきとは違うヌルヌル…あっ間違えた、ドキドキが胸を襲ったんだ。もっと、いろんな妹子を見たいって思った。
「ところで、さっきから気になってたんですけど…」
私がそんな決意をしてると、妹子が遠慮がちに声をかけてきた。
「ん、なんだ?」
「なんで、ジャージすがたなんですか?どこかのまんが家じゃあるまいし。」
返事をすると、純粋に疑問に思っている風に問いかけられた。
「いいだろ、これ。動きやすさ満点!どうだ、うらやましいだろう!」
へらっと笑って、両手を広げて見せる。
「べつに、うらやましいとは思いませんが。」
「おまっ、そこはウソでもうらやましいって言えよ!」
結構真面目な顔で言われて、少し傷ついたぞ。
「ウソをついていいんですか?」
「ダメッ!どうせ言うなら心から思って言いんしゃい!」
「じゃあムリです。いいと思えませんから。」
全力で反論してもすぐ切り返してくる。…妹子との会話のテンポは、不思議と心地よく感じた。
「ちぇっ、妹子のくせに生意気な…そうだ!妹子も同じのを着ればいい。そしたらきっとジャージの良さが分かるはずだ!」
「いりませんよ!というか、それ以前に妹子のくせにってなんだよ、しつれいな!…っ!」
突然妹子が自分の口を片手で塞いだ。かと思うと、すぐさま膝をついて頭を下げる。
「もうしわけありません。ちょうしに乗り…っいたた!」
また謝ろうとしたからほっぺを思いきり引っ張ってやった。
「私が気にするなって言うんだから、いちいちそんなことしない!」
「すみませ…いたっ!ちょっ、分かりましたから、はなして…!」
妹子のほっぺが思いの外よく伸びるから、楽しくて離したくなくなった。
むにーっと引っ張ってると、妹子の手が私のまぶたに触れる。
「お…?」
「はなせって言ってんでしょうがアホ太子!」
「あだだっ!まぶたをひっぱるなアホ妹子ー!」
それからしばらく取っ組み合いみたいになった。途中、あり得ない状態になった気がしたが、まぁ気のせいだろう。
◇◇◇
「妹子、できたぞ!」
翌日、赤いジャージを妹子に渡したら心底嫌そうな顔をされた。動きやすいだろうと思って袖無しにしてやったのに、それすら怒られる始末だ。でも…
「まぁ、せっかく作っていただいたので、きてやらないこともないです。」
そう言って、妹子はジャージを着てくれた。
その姿が思いの外似合ってて、いいなと思ったことは今でも内緒だ。
…あの頃は、妹子と一緒にいる時間が一番楽しくて、一番幸せだったと思う。だから…
「妹子が私と同じ高校に通うって聞いたとき、嬉しかったのにな…」
私は自分の机にうつ伏せる。入学前は一緒に喜んでたはずなんだ。
でも…入学してきた妹子は、なんか…どっか違った。
外見が変わったわけでも、私に対する態度が変わったわけでもないのに、なんか変だった。
「入学する前に、何があったんだ…?」
目の端に映った小さい頃の写真の妹子に聞いてみる。
返事なんて、返ってくるわけないけどさ。
――コン、コン。
「ん~?入っていいぞ。」
ノックの音に返事をしながら振り返るのと同じくらいに、部屋のドアが開いた。
「太子。」
「竹中さん…。どうしたんだ?私の部屋に来るなんて。」
入ってきたのはフィッシュ竹中さんだった。
おかしいな?竹中さんは私が遊びに行くことはあっても、私の部屋に来ることなんて滅多にないんだけど…?
「いや…太子が悩んでいるようだったから気になってね。」
「な、何で分かったんだ!?私、そんなに声大きかった?」
むしろ、誰にも聞こえないくらい小さく呟いたつもりだったのに。
「そうじゃないさ。ただ…私は毎日太子のことを見ているからね。」
おぉ…さすが竹中さん。
聖徳家の守り神は何でもお見通しなんだな、うむ。
「何かあったのだろう?私でよければ力になるぞ。」
「う…ん…。」
嬉しいけど、何て話したらいいか分からなくて言葉に詰まる。
すると竹中さんは楽しそうにフッと表情を和らげてベッドに腰かけた。
「…イナフのことだろう?」
「っ!!」
思わず俯いていた顔をバッと上げてしまった。むぅ…何で分かるんだ竹中さん。
「うん…そーなんだ。…妹子がね、変なの。」
「というと?」
もう分かってるなら言い渋っても意味はないから、私はとりあえず思っていることを全部竹中さんに話した。
妹子の態度が変なこと、学校では無理してるように見えること…妹子のために、何かしたいと思ってること。
「なるほどね…」
「私は…私は、どうしたらいいと思う?」
一通り話を聞いた竹中さんは真剣な顔で悩み始めたから、頼みの綱と言わんばかりに私は問いかける。
すると竹中さんは名案が浮かんだみたいににっこり笑った。
「イナフは太子といるときは前とそんなに変わらないのだろう?」
「うん。」
「なら太子は、できるだけずっとイナフと一緒にいればいい。そうすればきっと、イナフも肩の力が抜けるだろう。」
「そう…なのか?」
そんなことでいいのか?妹子のために何かするなら、もっとこう…なんか、すごいことをした方がいいような?
「今のイナフには、それが一番嬉しいと思うぞ。」
「ホントに…?妹子、喜ぶかな?」
「あぁ、本当だ。」
竹中さんがそう言ってくれるだけで、かなり楽になった。
「…それじゃあ、太子。私はもう寝るよ。太子も、早く寝るといい。明日も学校だろう?」
私が安心したことが分かったのか、竹中さんはそう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
「うん!ありがとう、竹中さん!」
お礼を言うと、竹中さんは満足げに笑って立ち上がった。
「どういたしまして。それじゃあ、おやすみ。」
「おやすみ、竹中さん!」
ブンブンと手を振って挨拶をすると、竹中さんも振り返して部屋から出ていった。
私はそれを確認してから電気を消すと、明日は妹子にどんな話をしようか考えながら眠りについた。
明日は、前みたいに笑ってくれると良いなぁ…
◇◇◇
「竹中。」
「おや馬子。どうしたんだ?こんな時間にこんなところにいるなんて珍しいな。」
部屋を出ると、馬子に声をかけられた。やれやれ…相変わらず難しい顔をしているな。
「それはこちらの台詞だ。お前が部屋から出るとは…。」
「私だって歩き回ることもあるさ。ずっと部屋にいる訳じゃない。」
言いながら部屋に向かうため歩き出すと、馬子も同じように隣を歩き出した。
そう…馬子がここに居る理由なんて本当は分かりきっている。
「…太子に、何を言った?」
太子が生まれてからずっとこんな調子だ。
24時間作動している防犯カメラによって確認された、家の中で太子と接触した者全てに馬子はそう問いかける。
太子を困らせるようなことや、傷つけるようなことを言っていないか調べているのだろう。
まったく、過保護な親を持つと苦労するな…。
「何も。ただ、イナフの様子がおかしいことを気にしていたから、一緒に居ると良いと言っただけさ。」
「そうか…。」
私の返答に相変わらず難しい顔のまま、抑揚もなく呟く馬子。
「イナフも監視が太子にバレやしないかと緊張しっぱなしだったのだろう。それが太子に違和感を抱かせていた。」
「監視ではなく、観察だ。」
すぐさま入る馬子の訂正。
そう…聖徳家の者からすればイナフのしていることはあくまでも太子の高校生活の観察。
…端から見ると明らかな監視なんだけれどね。
「まぁ、その観察対象である太子が常にイナフと一緒にいれば、イナフもきちんと観察できるし、見つからないよう身を隠す必要もないだろう?…一石二鳥だよ。」
私が横目で馬子の方を見ながら言うと、「そうだな…」と馬子も頷いた。
「…竹中。」
「なんだ?」
部屋のドアノブに手をかけたところで声をかけられたので、手を止めて返事をする。
「私たちは…間違っているのだろうか。」
「!」
思わず言葉を失ってしまった。まさか馬子からそんな言葉が出るとは思いもよらなかったからだ。
しかしすぐにフッと表情を和らげ、ドアを開けながら答える。
「さぁ、私には分かりかねるな。しかし、お前が間違っていると思うなら、それはもしかしたら…間違っているのかもしれないね。」
「…そうか。悪かったな、引き留めて。」
馬子は表情を変えずそれだけ返した。
「いや、いいよ。それじゃあ、おやすみ。」
「うむ。」
私も笑って返して、馬子が返事をしたのを確認してから部屋に入った。
「間違ってる、か…。」
ヒトのすることで、正しいと言えることなんて、いくつあるのやら…。
「正しい、間違いの問題ではないんだよ、馬子…」
ヒトとは、かくも不思議な生き物よ。
【続】
「本日より、太子さまのごえいにつくことになりました、小野妹子ともうします。」
妹子と初めて会ったのは、私が小学2年の時だった。紹介されて私の目の前に来るなり跪き、深々と頭を下げ、やけに丁寧な言葉で挨拶を述べた。
「この命にかえても、あなたさまのことをお守りすることを、ここにちかい…」
「妹子!外にあそびに行くぞ!!」
「えぇ?!」
その話し方が凄く嫌で、言葉を遮るようにして妹子の手を引き、走り出したのをよく覚えている。
「太子様!?」
「こら太子!大切な話をしていると言うにお前は!」
大人たちの止める声を振り切って、お気に入りの花畑まで全力疾走。
妹子は何が起きているのか理解できなかったのか、それとも分かっていて引っ張られていたのか分からないけど、黙って一緒に走っていた。
「はぁっ、はぁ…っ、着いたぞ~!」
着いてすぐに花畑にごろんと寝転がる。心臓がばくばくで、息も苦しい。
「太子さま…これはどういうおつもりですか?」
でも妹子は深く深呼吸したらすぐに呼吸が整っていた。
「太子で、良い。それと、そのやたら、堅苦しっ…話し方も…っなしだ!」
呼吸が整ってなかったから途切れ途切れになってしまったけど、ちゃんと言えてたと思う。
「そういうわけにはいきません、太子さま。僕は、あなたさまにお仕えするいち部下にすぎぬのですから。」
それでも妹子はそれを崩そうとはせず、強い意思を宿した目を私に向けてきた。
「父さんは私と年が近い方があそび相手にもなるし、相手もゆだんすると言っていた。それなのに、その呼び方と話し方じゃ周りの大人たちといっしょじゃないか。」
私は、本当はすごく楽しみにしていたんだ。会社を継ぐための勉強と、大人たちに囲まれて生活してるなか、同じくらいの子どもが来ると聞いて。
絶対…絶対仲良しになってやるって、聞いたときから心に決めてたんだ。
「だから妹子、そのためにも様づけだけでもナシだ!もう私が決めた!それ以外は認めないでおまっ!」
起き上がって、ビシッ!と妹子の目の前に人差し指を突き出し、はっきりと言ってやる。
妹子はぽかん…とした後、くしゃりと顔を歪めて笑った。
「むちゃくちゃですよ、太子。」
「っ…!」
その笑顔に、何故か顔が熱くなった。
なんかさっきとは違うヌルヌル…あっ間違えた、ドキドキが胸を襲ったんだ。もっと、いろんな妹子を見たいって思った。
「ところで、さっきから気になってたんですけど…」
私がそんな決意をしてると、妹子が遠慮がちに声をかけてきた。
「ん、なんだ?」
「なんで、ジャージすがたなんですか?どこかのまんが家じゃあるまいし。」
返事をすると、純粋に疑問に思っている風に問いかけられた。
「いいだろ、これ。動きやすさ満点!どうだ、うらやましいだろう!」
へらっと笑って、両手を広げて見せる。
「べつに、うらやましいとは思いませんが。」
「おまっ、そこはウソでもうらやましいって言えよ!」
結構真面目な顔で言われて、少し傷ついたぞ。
「ウソをついていいんですか?」
「ダメッ!どうせ言うなら心から思って言いんしゃい!」
「じゃあムリです。いいと思えませんから。」
全力で反論してもすぐ切り返してくる。…妹子との会話のテンポは、不思議と心地よく感じた。
「ちぇっ、妹子のくせに生意気な…そうだ!妹子も同じのを着ればいい。そしたらきっとジャージの良さが分かるはずだ!」
「いりませんよ!というか、それ以前に妹子のくせにってなんだよ、しつれいな!…っ!」
突然妹子が自分の口を片手で塞いだ。かと思うと、すぐさま膝をついて頭を下げる。
「もうしわけありません。ちょうしに乗り…っいたた!」
また謝ろうとしたからほっぺを思いきり引っ張ってやった。
「私が気にするなって言うんだから、いちいちそんなことしない!」
「すみませ…いたっ!ちょっ、分かりましたから、はなして…!」
妹子のほっぺが思いの外よく伸びるから、楽しくて離したくなくなった。
むにーっと引っ張ってると、妹子の手が私のまぶたに触れる。
「お…?」
「はなせって言ってんでしょうがアホ太子!」
「あだだっ!まぶたをひっぱるなアホ妹子ー!」
それからしばらく取っ組み合いみたいになった。途中、あり得ない状態になった気がしたが、まぁ気のせいだろう。
◇◇◇
「妹子、できたぞ!」
翌日、赤いジャージを妹子に渡したら心底嫌そうな顔をされた。動きやすいだろうと思って袖無しにしてやったのに、それすら怒られる始末だ。でも…
「まぁ、せっかく作っていただいたので、きてやらないこともないです。」
そう言って、妹子はジャージを着てくれた。
その姿が思いの外似合ってて、いいなと思ったことは今でも内緒だ。
…あの頃は、妹子と一緒にいる時間が一番楽しくて、一番幸せだったと思う。だから…
「妹子が私と同じ高校に通うって聞いたとき、嬉しかったのにな…」
私は自分の机にうつ伏せる。入学前は一緒に喜んでたはずなんだ。
でも…入学してきた妹子は、なんか…どっか違った。
外見が変わったわけでも、私に対する態度が変わったわけでもないのに、なんか変だった。
「入学する前に、何があったんだ…?」
目の端に映った小さい頃の写真の妹子に聞いてみる。
返事なんて、返ってくるわけないけどさ。
――コン、コン。
「ん~?入っていいぞ。」
ノックの音に返事をしながら振り返るのと同じくらいに、部屋のドアが開いた。
「太子。」
「竹中さん…。どうしたんだ?私の部屋に来るなんて。」
入ってきたのはフィッシュ竹中さんだった。
おかしいな?竹中さんは私が遊びに行くことはあっても、私の部屋に来ることなんて滅多にないんだけど…?
「いや…太子が悩んでいるようだったから気になってね。」
「な、何で分かったんだ!?私、そんなに声大きかった?」
むしろ、誰にも聞こえないくらい小さく呟いたつもりだったのに。
「そうじゃないさ。ただ…私は毎日太子のことを見ているからね。」
おぉ…さすが竹中さん。
聖徳家の守り神は何でもお見通しなんだな、うむ。
「何かあったのだろう?私でよければ力になるぞ。」
「う…ん…。」
嬉しいけど、何て話したらいいか分からなくて言葉に詰まる。
すると竹中さんは楽しそうにフッと表情を和らげてベッドに腰かけた。
「…イナフのことだろう?」
「っ!!」
思わず俯いていた顔をバッと上げてしまった。むぅ…何で分かるんだ竹中さん。
「うん…そーなんだ。…妹子がね、変なの。」
「というと?」
もう分かってるなら言い渋っても意味はないから、私はとりあえず思っていることを全部竹中さんに話した。
妹子の態度が変なこと、学校では無理してるように見えること…妹子のために、何かしたいと思ってること。
「なるほどね…」
「私は…私は、どうしたらいいと思う?」
一通り話を聞いた竹中さんは真剣な顔で悩み始めたから、頼みの綱と言わんばかりに私は問いかける。
すると竹中さんは名案が浮かんだみたいににっこり笑った。
「イナフは太子といるときは前とそんなに変わらないのだろう?」
「うん。」
「なら太子は、できるだけずっとイナフと一緒にいればいい。そうすればきっと、イナフも肩の力が抜けるだろう。」
「そう…なのか?」
そんなことでいいのか?妹子のために何かするなら、もっとこう…なんか、すごいことをした方がいいような?
「今のイナフには、それが一番嬉しいと思うぞ。」
「ホントに…?妹子、喜ぶかな?」
「あぁ、本当だ。」
竹中さんがそう言ってくれるだけで、かなり楽になった。
「…それじゃあ、太子。私はもう寝るよ。太子も、早く寝るといい。明日も学校だろう?」
私が安心したことが分かったのか、竹中さんはそう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
「うん!ありがとう、竹中さん!」
お礼を言うと、竹中さんは満足げに笑って立ち上がった。
「どういたしまして。それじゃあ、おやすみ。」
「おやすみ、竹中さん!」
ブンブンと手を振って挨拶をすると、竹中さんも振り返して部屋から出ていった。
私はそれを確認してから電気を消すと、明日は妹子にどんな話をしようか考えながら眠りについた。
明日は、前みたいに笑ってくれると良いなぁ…
◇◇◇
「竹中。」
「おや馬子。どうしたんだ?こんな時間にこんなところにいるなんて珍しいな。」
部屋を出ると、馬子に声をかけられた。やれやれ…相変わらず難しい顔をしているな。
「それはこちらの台詞だ。お前が部屋から出るとは…。」
「私だって歩き回ることもあるさ。ずっと部屋にいる訳じゃない。」
言いながら部屋に向かうため歩き出すと、馬子も同じように隣を歩き出した。
そう…馬子がここに居る理由なんて本当は分かりきっている。
「…太子に、何を言った?」
太子が生まれてからずっとこんな調子だ。
24時間作動している防犯カメラによって確認された、家の中で太子と接触した者全てに馬子はそう問いかける。
太子を困らせるようなことや、傷つけるようなことを言っていないか調べているのだろう。
まったく、過保護な親を持つと苦労するな…。
「何も。ただ、イナフの様子がおかしいことを気にしていたから、一緒に居ると良いと言っただけさ。」
「そうか…。」
私の返答に相変わらず難しい顔のまま、抑揚もなく呟く馬子。
「イナフも監視が太子にバレやしないかと緊張しっぱなしだったのだろう。それが太子に違和感を抱かせていた。」
「監視ではなく、観察だ。」
すぐさま入る馬子の訂正。
そう…聖徳家の者からすればイナフのしていることはあくまでも太子の高校生活の観察。
…端から見ると明らかな監視なんだけれどね。
「まぁ、その観察対象である太子が常にイナフと一緒にいれば、イナフもきちんと観察できるし、見つからないよう身を隠す必要もないだろう?…一石二鳥だよ。」
私が横目で馬子の方を見ながら言うと、「そうだな…」と馬子も頷いた。
「…竹中。」
「なんだ?」
部屋のドアノブに手をかけたところで声をかけられたので、手を止めて返事をする。
「私たちは…間違っているのだろうか。」
「!」
思わず言葉を失ってしまった。まさか馬子からそんな言葉が出るとは思いもよらなかったからだ。
しかしすぐにフッと表情を和らげ、ドアを開けながら答える。
「さぁ、私には分かりかねるな。しかし、お前が間違っていると思うなら、それはもしかしたら…間違っているのかもしれないね。」
「…そうか。悪かったな、引き留めて。」
馬子は表情を変えずそれだけ返した。
「いや、いいよ。それじゃあ、おやすみ。」
「うむ。」
私も笑って返して、馬子が返事をしたのを確認してから部屋に入った。
「間違ってる、か…。」
ヒトのすることで、正しいと言えることなんて、いくつあるのやら…。
「正しい、間違いの問題ではないんだよ、馬子…」
ヒトとは、かくも不思議な生き物よ。
【続】
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