夏祭り(細道組)
2009/08/11 23:59:30
細道の二人、難しい…!
設定や話の流れも考えていたはずなのに、ちっともうまくまとまってくれませんでした。
・現代…?少なくとも旅の途中ではない。
・曽良くんがデレデレみたいな感じになりました。
・蕎麦のつもり…なんだけど…?
・読み直しして書き直すかも…
・今までで一番別人フラグ
こんなのですが読んでくださる方は追記から…
芭蕉と曽良が夕涼みも兼ねて散歩に出掛けると、いつもの散歩コースになっている神社の周辺が騒がしかった。
人が溢れんばかりに集い、中にはちらほらと可愛らしい浴衣姿。
「今日って、もしかしてお祭り?」
芭蕉が隣の曽良を見上げて首を傾げると、曽良もごった返す人の並みを眺めながら「そのようですね。」と頷いた。
「ね、曽良くん!ちょっと寄って、かない…よね。」
「なぜ分かるんですか。僕の考えを勝手に決めつけないで下さい。」
最初は恐らく誘うつもりで口を開いたのだろうが、言っている間に諦めの色に変わっていった芭蕉の変化が気にくわなくて、曽良はムッとしたように言い返した。
そんな風に言い返されれば期待するのは当然で。
芭蕉はぱぁっと表情を明るくさせた。
「え、じゃあ寄ってくれるの!?」
「嫌ですけど。」
「チクショー!」
期待を込めた問いかけをコンマレベルの早さで切り捨てられて、芭蕉は悔しそうに声をあげた。
その姿を見て、曽良は他人が見たら変化はないが、満足げな笑みを芭蕉には見えないように浮かべる。
「良いもん、私一人でも見てくるから!曽良くんなんて一人で帰って一人寂しく縁側にでも座ってろー!」
「ったく…馬鹿ジジイが。」
当然笑みに気付かなかった芭蕉は一人でそう叫ぶと、曽良に背を向けて駆け出す。
曽良も苛立った様子で舌打ちして呟き、芭蕉の後を追った。
「人多いなー。そして屋台も多い!わー、いろんなもの売ってるー!」
「初めて来たわけでもないでしょうに。」
子どものように目を輝かせて芭蕉が騒いでいると、追い付いた曽良が呆れたようにため息をつく。
「あれー?曽良くん、一緒に来るのー?仕方ないなー、どうしても一緒にって言うなら一緒に回ってあげてもっ…おまつりっ!!」
結局ついてきた曽良を見てつい調子に乗った芭蕉は、言葉の途中で鋭い断罪を受けて吹っ飛んだ。
周囲にいた祭り客は何事かと足を止めて芭蕉と曽良を交互に見やる。
「すみません、芭蕉さん。あまりにも不快だったので、つい…」
「つい!?つい、でやるレベルじゃなかったよね?!今の!」
しかし、曽良も芭蕉もそんな視線を気にした様子はなく、いつものように口論を始める。
「ほら、さっさと立ってください。他の祭り客に迷惑ですよ。」
曽良は言いながら芭蕉に近づき、周囲の客に鋭い視線を浴びせながら芭蕉に声をかけた。
――いつまでもそこにいないでさっさとどこかに行ったらどうなんです?
何となく、そんな声が聞こえた気がして立ち止まっていた客はそそくさと芭蕉たちから離れていった。
「もー、誰のせいでこうなったと思ってるんだよ!君はもっと、私を敬うべきだ!」
そんな祭り客と曽良のやり取りには全く気付かず、プンプンという効果音が聞こえそうな雰囲気で芭蕉は言葉を発し、立ち上がった。
「ほぅ…敬うことができるようなところを持っていると?」
「あるよ!俳句とか、俳句とか、俳句とか!」
片眉を上げて冷たく問いかける曽良に芭蕉は胸を張ってそう答えた。
曽良の動きが一瞬止まる。
「あれ…曽良くん?」
「そういうセリフは…調子を取り戻してから言いなさい、この下手男が!!」
「はなびっ!!」
不思議に思った芭蕉が曽良の顔を覗きこんだのとほぼ同時に腹部に繰り出された断罪チョップに、芭蕉はまたも吹っ飛ばされる。
「松尾芭ションボリ…」
芭蕉が地面に倒れたままポツリと呟いたとき、一筋の光が夜空に上り、弾けた。
「わ、あ…」
次々と光を走らせては弾ける鮮やかな華を見て、芭蕉は思わず痛みも忘れて起き上がり、空をじっと見つめた。
曽良は、そんな芭蕉の表情をどこか切なげに見つめている。まるで、迷子になった子どものような瞳。
「曽良くん!」
「っ…!」
突然、芭蕉が曽良の名前を呼んで振り返った。
芭蕉の視線が、意識が空ではなく曽良に向けられる。
「…何ですか、芭蕉さん。」
その事実にどこか安堵しながら、表情・口調はいつも通りを装って聞き返す。
「花火、もうちょっと見えやすいとこ探そう!」
「は…?」
「曽良くん、花火ちゃんと見たことなかったでしょ?ほら、行こう!」
曽良が芭蕉の言葉を理解するより早く、芭蕉は曽良の手をとって歩き出した。
周りの祭り客は花火に見入っているし、芭蕉もどんどん歩いていくので手を離すタイミングを逃し、手を引かれるままに曽良も歩く。
「うーん、やっぱどこも人でいっぱいだね。」
先程の場所と比べればいくぶん見やすい場所で立ち止まり、芭蕉が呟く。
いくら見やすいとはいえ、この人混みだ。曽良はあまり好まないだろう。
「…ここからでもちゃんと見えますから、問題ありませんよ。」
うーん…と悩む芭蕉に、曽良はため息混じりの声で答えた。
「いいの?だって曽良くん、こういう人混み…苦手でしょ?」
「どこに行ったって同じくらいの人ですよ。その間に花火が終わってしまったら、意味がないでしょう。」
芭蕉の心配そうな問いかけに、曽良はそれだけ答えて視線を空に向けた。
「…ありがと、曽良くん。」
芭蕉自身も花火をしっかり見たいと思っていたので、曽良のその言葉が嬉しくてこそっと礼を言うと、繋いだ手の力を少し強めて空を見上げた。
「すごい、今の見た!?星形!」
ただ手を繋いでいる…それだけなのに、芭蕉の意識は先程のように空だけに集中することはなく、時々曽良のほうに目を向けて声をかけてくる。
いつもなら、やかましいと言って黙らせるのに、今日はなんだかそんな芭蕉に安堵している自分がいた。
「わ、すごい!五色に分かれた!」
「……」
気付けば曽良は、弾けては空を彩る華よりも、その光に照らされ笑顔を見せる芭蕉の方をじっと見つめていた。
ただ大きな音をたてて空で炎色反応を起こしている花火より、その炎色反応を見る度に子どものようにはしゃぐ芭蕉が、今度はいつ自分の方を見てくれるか…そんなことを考えていた。
「綺麗だねぇ…」
「そうですね。綺麗です、凄く。」
芭蕉が空を見上げて呟くと、同意する曽良の声。
それに反応してパッと曽良のほうに視線を移した芭蕉は「そうだよね!」と笑顔を見せた。
「えぇ。花火に照らされる芭蕉さんは、綺麗ですよ。」
「…え?え、ちょちょっ、違うって!私じゃなくて、花火でしょ花火!」
曽良があまりにも真剣な目をして言うものだから、芭蕉は一気に頬が熱くなり、慌てて訂正する。
「こんなヘボジジイも綺麗に見せるんですから、炎色反応も侮れませんね。」
曽良は一瞬はっとした表情を見せた後、すぐに空に視線を戻して憎まれ口を叩く。
「ヘボジジイって…松尾はまだ若いよ!失礼な!」
その言葉で恥ずかしさより怒りが勝ったのか芭蕉もいつも通りに言い返す。と…
「ねぇねぇ、知ってる?」
横にいた若い女性が恋人であろう男性に寄り添いながら声をかけた。
知ってる?と聞かれると、人間気になるもので。
思わず口論をやめて、その女性の次の言葉を待ってしまう。
「知ってるって、何を?」
「いつ上がるか分からないんだけどね?ハート型の花火が打ち上がったときにキスしたカップルは一生離れないんだって!」
恋人が続きを促すと、女性は嬉しそうに続きを話した。
それを聞いて、曽良と芭蕉は何とはなしに顔を見合わせる。
「そんなおまじない、あるんだね。」
「…たかが花火にそんな力はないと思いますけど。」
ふふっと微笑ましげに芭蕉が言うと、曽良は興味がないというよりは端から否定しているように答えた。
「もう、またそーいうこと言って。好きな人とずっと一緒にいたいっていうのは誰だって願うことだよ。」
芭蕉はそう言って、曽良の手を握る手に力を込めるから。
曽良は柄にもないことを口にしてしまったのだろう。
「なら、試してみますか?」
「え!?」
曽良の言葉に芭蕉が本気で驚いた顔を見せる。
それほど、彼の言葉は意外だった。
「花火が上がる音がする度口付ければ、そのうちにハート型の花火が上がったときにキスできますよ。」
「い、いや!いいよ!それにっ…!」
「わぁ、すごい!ハート型だ!!」
焦った様子で話す芭蕉の声を遮って、後ろの方で女の子の声がした。
「え…!?」
「あぁ、上がってしまいましたね。」
その声で慌てて空を見上げると、綺麗にハート型になった花火が消えていくところが目に映った。
「残念でしたね。試すことはできませんでした。」
やはり曽良は何の感動もないような口調で芭蕉に言った。
「別に試したかった訳じゃないから!それに…」
「…?それに、何です?」
不自然に言葉を切って、いまだに打ち上がる花火を見上げた芭蕉に曽良が聞き返すと、芭蕉は柔らかく微笑んでこう言った。
「私、曽良くんから離れるつもりも…曽良くんを離すつもりもないから。」
「…つまり僕は一生を芭蕉さんと共に過ごさなくてはいけないわけですね…冗談じゃありません。お断りします。」
「えぇ!?側にいてよ、曽良くん!」
――例え気休めでも、一生あなたの側にいられると言う保証ができると、少し思ってしまいました。
「僕に何のメリットもないじゃありませんか。」
「酷い!松尾のことなんだと思ってるんだ!」
「スランプの全く直らないもうろくジジイですかね。」
――でも、そんな願掛けはあなたの前では無意味なようです。
「私は曽良くんのこと、大好きなのになぁ…」
「奇遇ですね、僕もです。」
弾けた花火の音に紛れて本音をこぼす。
お互いの耳に届いたかどうかは…お互いだけが知っていればそれでいい。
――――――――
奇跡も、ジンクスも関係ない細道組。
夏祭り(天国組)
2009/08/03 18:03:31
鬼男くんも閻魔もキャラ違いすぎます。
屋台メインなんて無謀なことを考えたのが間違いだった…。
色々考えたら少し長くなってしまいました。ションボリ…
屋台のたくさんある祭りなんて久しく行ってないよ!!
細道…設定や流れは浮かんでるけど、どうしようかな…
「おっにおくーん!」
鬼男がいつものように今日の閻魔のおやつを作っていると、閻魔が浮かれた様子でやって来た。
「何ですか、大王。おやつの時間はまだですよ。」
本日のリクエスト、シュークリームのカスタードを作る手は休めずに答える鬼男。
「分かってるよー。でもね、俺もう書類処理終わったからさ、おやつのあ」
「本当に終わったんですか?」
閻魔の言葉を遮り、書類が終わったということに対して疑いの目で確認をとる。
「むっ…ちゃんと終わらせたよ!机の上のも、隣の部屋に置いてあったのも、急ぎのもギリギリでも良かったやつも!内容もちゃんと読んだ!」
話を遮られたことに多少の腹立ちを覚えたものの、普段の自分の行動から考えれば仕方ないことだと割り切って、終わらせたことを説明する。
「…珍しいな、お前がちゃんと仕事するなんて。」
よほど驚いたのか、鬼男の手が止まり、敬語も忘れている。
「あのさ、鬼男くん…そこまで驚かれると、俺も少し傷つくんだけど。」
うなだれて、弱々しく呟く閻魔。
その言葉にハッとして、出来上がったカスタードを絞り袋に入れながら鬼男が問いかける。
「それで、珍しく仕事を全部終わらせた理由はなんですか?」
「うん、あのね…今日、大きな夏祭りがあるんだよ。」
閻魔はカスタードを入れている鬼男に近づいてその様子をじっと眺めながら答えた。
「…行きたいんですか。」
それを見て、カスタードを生地に絞り入れながら少し残ったカスタードを閻魔の口に放り込み、鬼男は問いかけると言うよりは確認するように返す。
「うん!…いいよね?」
食べたカスタードに満足そうな笑みを浮かべて問う閻魔。
「分かりました。お供します。…ほら、できましたよ。」
「ありがと、鬼男くん!大好きっ!」
鬼男が頷いて出来上がったシュークリームを渡すと、閻魔はそれを受け取って嬉しそうに笑った。
「じゃあ僕は書類の確認をしてきますので、大人しく食べててくださいね。こぼすなよ!」
「子どもじゃないんだからこぼさないよっ!失礼な!」
鬼男の言葉に負けじと言い返してから、閻魔は椅子に座って綺麗に出来上がったシュークリームを頬張った。
◇◇◇
「やっぱ暑いねー。」
「まぁ、夏ですからね。人間も、よくこれだけ集まりますね…」
夏祭りにやって来た二人は夏独特の暑さと人の多さに思わずため息混じりに呟いた。
「あ、リンゴ飴!あれ食べよ、あれ!」
とりあえず歩きながら周囲を見渡していると、閻魔が唐突に言って屋台に向かう。
「さっきシュークリーム食べたくせによく入りますね…。」
鬼男は呆れ顔で言いながらも、あとをついていった。
「どれにしようかな…」
「へぇ…最近は大きさが選べるんですね。」
大・中・小、三種類の大きさがあるリンゴ飴を見て真剣に悩む閻魔を後ろから眺めながら、鬼男も感心したように呟く。
しかし、合成着色料を大量に使用しているであろうこんな真っ赤な飴を食べて、何が楽しいのだろう。
「よし、シュークリームも食べたし中のやつにしよう。鬼男くん、一緒に食べようね!」
「え…」
閻魔の言葉に思わず固まる。
その飴を…?きっと、鬼男の目はそう閻魔に訴えていたのだろう。
「リンゴ飴、美味しいよ?…ダメ?」
首をかしげて、上目遣いに問いかけられる。
「っ…分かりましたよ。いただきます。…中のリンゴ飴、ひとつください。」
「はいよ、まいどー」
そんな風にされて嫌だと言えるはずもなく。
屋台の人にそう注文すると、どこか楽しそうに笑って答え、リンゴ飴を手渡してくれた。
「あれ…なんで一個?」
「僕は小ひとつでも食べきれる気がしないので。半分こにしましょう。」
リンゴ飴を受け取りながら問いかける閻魔に、鬼男はごく普通に答えた。
「え…」
「…?そのつもりで一緒にと言ったんじゃないんですか?」
閻魔が戸惑ったような表情をするものだから、鬼男は不思議そうに首をかしげる。
「…えっ、と…」
「あ、すみません…つい、いつもの調子で…。」
恥ずかしそうに頬を赤らめて口ごもる閻魔を見て、鬼男はここは冥界でないことを思い出した。
「すみませんが、小をもうひと」
「いいよ、半分こしよ!」
屋台の人に追加で注文しようとした鬼男の言葉を遮って、閻魔が声をあげた。
「大王…?」
「良いんだ、たぶん俺も食べきれないと思うから。…ごめんね、利益に貢献できなくて。」
驚いたように名前を呼ぶ鬼男くんにそう言って、屋台の人には苦笑いで謝る。
「気にすんな、嬢ちゃん。お前らみたいなカップル、好きだぜ!仲良くしな。」
しかし屋台の人はニッと笑って答え、閻魔の頭をポンポンと撫でる始末。
「え…?」
「っ…!」
ぽかん…とする閻魔に、思わず吹き出す鬼男。
「ん?どうした、嬢ちゃん。」
「え、ううんっ!何でもない。えへへー…ありがと、おじさん。じゃあ…行こっか、鬼男くん。」
「ふ、くくっ…はい、そうですね。」
首をかしげる屋台の人に笑顔で返し、肩を震わせている鬼男の手を取って歩き出した。
「俺、そんなに幼く…しかも女の子みたいに見える?」
「さぁ…?そんなことはないと思うんですけどね。」
リンゴ飴をなめながら問いかける閻魔に、鬼男は少し考えるように閻魔の姿を頭から爪先まで見てから答えた。
「だよねぇ…」
まったく、失礼しちゃう。と不満げに呟いて手は繋いだまま辺りを見渡す。
「ま、男に見えないくらい肌は綺麗ですからね、あんたは。」
軽く力を入れて閻魔の手を引き、自分の方に近づけて鬼男は閻魔の頬に触れながら返した。
「誉め言葉ととって良いの?それ…」
「誉め言葉ですよ。飴のせいで紅が引かれたような唇も、肌の白さに映えて…魅力的です。」
どこか納得が行かないと言いたげな目で問う閻魔に鬼男はそう囁いて閻魔の手からリンゴ飴を奪い、朱の強くなった唇に自分のそれを重ね合わせた。
「ん…っ」
触れ合うだけで、すぐに離れる。
「綺麗ですよ、すごく…。誰にも見せたくないくらい、誰よりも綺麗です…大王。」
「っ、もう…!こんなところで急に口説かないでよ、鬼男くんのバカ!は、恥ずかしいだろっ!」
慌ててプイッとそっぽを向いて言い返す閻魔。
その態度もまた可愛らしくて、鬼男は一人笑みを浮かべた。
「あ、あー!風船釣りやってるよ!行こ行こ!」
鬼男が笑っているのを気配で感じとり、居たたまれなくなった閻魔はふと目についた水風船を見てごまかすように言うと、一目散に風船釣りの屋台に駆けていった。
「一人で行ったって金ないのに…あのアホ大王イカ…」
やはり鬼男は笑みを隠すことができず、そう呟いて手に残ったままのリンゴ飴を口に入れ、閻魔の後を追う。
「やっぱ甘…」
鬼男が水風船の屋台まで行くと、閻魔は気まずそうに鬼男の方を見た。
「バーカ。」
「っ!ち…違うよ、鬼男くんと一緒にやりたかったから待ってたんだよ!」
笑って言ってやると、閻魔はカッと頬を赤らめて言い返す。
「はいはい、そういうことにしといてやるよ。…すみません、風船釣り二人分お願いします。」
「はい。頑張って釣ってくださいね。」
「どうも。ほら、大王。」
店員に渡された風船釣り用の紐を一本、閻魔に渡す。
閻魔はそれを受けとるも、どこか不満げで。
「何ですか?」
「俺、鬼男くんのそーいうとこ…なんかヤダ。」
鬼男が問うと、閻魔はポツリとそう呟いて風船の浮かぶたらいに視線を落とした。
「はぁ?いきなり何ですか。どこの話です?」
「さっきみたいに、すぐに分かったって言って話終わらせちゃうとこ!…俺ばっか、子どもみたいじゃん…」
いぶかしんで聞き返すと、返ってくるのはそんな拗ねた言葉。
「こんなところで言い合いしたって迷惑になるだけでしょう。」
自覚してるなら直せよ…そんな風に思いながら、鬼男は呆れたように答える。
「だから!そーいうところがさぁ!」
鬼男の言葉と言い方にますます苛立ったのか、閻魔は立ち上がって声を張り上げた。
「ただでさえお前が子どもっぽいのに、僕まで子どもになったら仕事が滞るだろうが。」
さも面倒くさそうに鬼男が言うから、閻魔もますます腹が立って。
「今は仕事関係ないだろ!俺は、恋人としてプライベートの話をしてるんだよ!!」
「仕事だろうとプライベートだろうと同じことです。大王が子どもっぽいので僕は我慢してやってんですよ。お前ももうちょっと精神的に成長したらどうなんだ。」
「っ…もういい!鬼男くんのバカッ!!」
鬼男のその言葉がかなり胸に刺さって、閻魔は泣きそうになるのを我慢してそう吐き捨てると、鬼男に背を向けて走り出してしまった。
「あ、おい大王!」
まさか走り去ってしまうとは思わなくて、慌てて立ち上がり名前を呼ぶも、すでに閻魔の姿は人混みに紛れてしまっていた。
「あー、もうあのアホイカが…!」
「いやぁ、今のは兄ちゃんが悪いだろう。」
苛立った様子で鬼男が吐き捨てると、どこからかそんな声がした。
「え…?」
「あんな言い方は酷いよ。」
「可哀想にあの子泣きそうな顔してたわよ?」
「恋人に対して、“我慢してやってる”はないだろう。」
鬼男が顔をあげると、今の口論を聞いていたらしい祭りの客や屋台の店員が口々に声をかけ始める。
「っ…」
そのどれもが正論で、事実で、鬼男も言葉につまる。
確かに改めて自分の言ったことを反芻してみると、ひどいことを言っていた気がする。
「よし、俺のとこのクレープやるから仲直りしてこい!」
「え…!?」
二人分のクレープを手渡されながら言われて、反射的に受け取るも鬼男の頭はついていかず。
「私のところはもう代金もいただいてしまったし、水風船は差し上げますね。」
水風船の屋台の女の人からは紫・黄色・赤・青・緑の5色の水風船を手渡され。
「追いかけて、謝ってこい!兄ちゃん!」
「そろそろ花火も始まる時間だもの。仲直りして一緒に花火見てらっしゃい。」
「えっ、あ…はぁ…」
あまりにも急展開なので、周りの人のテンションと勢いに鬼男はついていけていなかった。
「もたもたしない!あの子が一人で泣いてたらどうするんだ!さっさと行った行った!」
「え、えぇ!?…あ、はい。えーっと、ありがとうございます…?」
「礼なんか要らないから、ほら行く!」
なんだかよく分からないまま色々持たされ、背中を思いっきり押されてしまった。
しまいには「頑張れよー!」と声がかかる始末。
「はぁ…何なんだ、本当に。」
呟きつつも、やはり閻魔のことは気になっていたし、謝らなくてはとも思っていたので、好意(?)に甘えて閻魔を探すため歩き出す。
「感情的になってるときにあっちこっち曲がったりしないだろうからたぶんまっすぐ行けば会えると思うんだけど…」
のんびりしていると、渡されたクレープのクリームが溶けそうだ。
しばらく歩いていくと、人もまばらになり、神社の本殿が見えてきた。
「あ…」
鬼男は、御神木の側に座り込んで肩を震わせるイカを見つけた。
「……」
安堵と呆れを含んだため息を吐き、ゆっくりと近寄る。
「閻魔大王が御神木に慰められてどうするんですか。」
「だって…なんか、落ち着くんだもん。」
閻魔の隣に座りながら声をかけると、うつむいたままぼそぼそと返ってくる返事。
「…さっきはすみませんでした。」
「っ…!」
鬼男の謝罪にビクッと肩を震わせる。
「大王…」
「どうせ…!どうせ…俺と一緒にいたって、我慢ばっかなんでしょ…?」
鬼男が名前を呼んでも、閻魔はプイッとそっぽを向いて答える。
謝られたって、我慢していることが事実なら、一緒にいたって傷が広がるだけだ。
「…そうですね。書類処理はしないし、毎日いろんな種類のお菓子作らされるし、気紛れでよく分からない行事作るし、セーラー服はどんどん買ってくるし…」
「いいよ、もう!…そんなに、そんなに我慢してるならっ、俺と接点がない仕事場に移動して俺たちっ…んぐっ」
次々と上がっていく鬼男の言葉に堪えきれず、閻魔は口を開く。が、途中で何かを口に放り込まれ続きが言えなくなった。
口内に広がる甘ったるい飴と、リンゴの味。
「半分食べたんで残りはあげます。かなり甘くて、ちょっと時間かかりましたが。」
「う、ん…。」
当然のようになめていた飴を口に放り込まれて話を遮られたので、続きを言う気が一気に削がれてしまった。
「でも、大王の隣に秘書として…恋人として立っていられるなら、本当は我慢なんて全然苦に感じないんですよ。」
「っ…!」
「むしろ、アンタのわがままを聞いてやれるのも、むちゃくちゃなことするアンタを受け止められるのも僕だけだって、自惚れてますよ。」
すらすらと出てくる鬼男の言葉に、閻魔の顔は今食べているリンゴ飴のようにみるみる赤くなっていく。
「だから、その…これからも、大王の側にいてもいいですか?」
閻魔の顔を見て自分でも恥ずかしくなったのか、少し照れ臭そうに問いかける鬼男。
閻魔は我慢できなくなって、ガバッと鬼男に飛び付いた。
「わ、バカっ…!」
突然で反応できず、両手はクレープと水風船で塞がっていたので受け止めることもできず、鬼男は閻魔と一緒に背中から倒れ込んだ。
「俺の秘書も、恋人も鬼男君しか認めてないから!」
しかし閻魔はそれも気にせずぎゅうぎゅう鬼男にしがみついて嬉しそうに言うだけ。
「ったく…お前の秘書も恋人も僕しかできないんだから当たり前だろ。」
「うん!…でさ、そのクレープと水風船は何?」
鬼男が仕方なく言い返すと、閻魔は嬉しそうに頷いてから鬼男の手を見て問いかけてくる。
「あぁ…さっきの会話を聞いてた方々が、謝ってこいって言ってくれたんです。…クリーム、溶けてきてるんで食べません?」
「あ、そっか。周り、人いっぱいいたもんね…。もらったんなら食べる。」
鬼男に言われて離れると、また同じように座りクレープを受けとる。
「あのさぁ…鬼男君?」
クレープを食べ始めながら閻魔が声をかけた。
「何ですか?」
鬼男もクレープを食べながら聞き返す。
「俺さぁ…子どもっぽいかもしれな…あ。」
「あ、始まりましたね。花火。」
閻魔の声に被さるように大輪が音を響かせた。
「綺麗だねー。」
「…そうですね。」
しばし、二人して大きな音ともに鮮やかな花を咲かす空を見上げる。
「それで、さっき言いかけた言葉はなんですか。」
空から閻魔に視線を戻して、鳴り響く音に負けないように少し音量を上げて問いかけると、閻魔も鬼男の方を見て答えた。
「あ、うん。あのさ…俺、子どもっぽいかもしれないけどさ…俺も、鬼男くんの力になりたいわけよ。」
「…はい。」
「だから、苦にならないって言っても、我慢ばっかさせたい訳じゃなくてさ。俺にも…ちょっとくらい、わがまま言ってほしいな…とか…ね、思っちゃったりするわけなんだよ、俺は。」
閻魔から目を離さず、黙って聞いてくれる鬼男に少し気恥ずかしくなったのか、閻魔の視線が空をさ迷う。
「ダメ、かな…?」
とりあえず、言いたいことは言ったと鬼男に確認をとる閻魔。
「…僕は、わがままを言う必要なんてないんですよ。」
フッと柔らかい笑みを浮かべて、鬼男が言う。
「え…?」
「僕の願いはいつだってひとつで、その願いは常に叶っているんですから。」
意味が理解できないのか聞き返す閻魔に、鬼男は続けて言って彼の耳元まで唇を近づけた。
「ずっと、あなたの側にいることです。大王…」
「っ!」
「もう、叶っているでしょう?」
ビクッと肩を震わせて頬を赤らめる閻魔を楽しげに眺めて確認をとる鬼男に、閻魔はコクリと頷くことしかできない。
「愛してますよ、今は…僕だけの大王。」
「っ、ん…ぅ…」
ハート型の花火が、空に綺麗に打ち上がった。
【終】
―――――――――
図らずともジンクス実行しちゃう天国組。
夏祭り(飛鳥組)
2009/07/28 20:50:34
二回も自分のミスで消して、データが飛んだので涙目で仕上げたよ…
現代パロで妹太…?
これの前にバトンに答えろって話ですよね。すみません。あとでちゃんとやりますっ!
「いーもーこー!」
まだ暑さの残る夕方。
二階の自室で課題をしていた妹子の耳に騒がしく自分の名前を呼ぶ声が届いた。
思わず不快そうに顔をしかめる。一瞬、無視しようかとも思ったが、確実に後で面倒なことになるので、仕方なく窓を開けて外を見下ろす。
「なんですか、たい…嫌っ、なんだその格好。」
思わず問いかける言葉を止めて呟く。
玄関の前に立っている太子は、いつものジャージ姿ではなくジャージとよく似た色の浴衣を着て、何かのアニメに出てきそうなキャラクターっぽい犬の団扇を手にしていた。
そういえば、今日は神社の祭りのある日だった気がする。…しまった、窓を開けるんじゃなかった。
思わず窓にかけた手がそのままそれを閉めようと動く。
「おい、いきなり閉めようとするな!分かってるなら降りて来い妹子!祭りに行くでおまっ!」
「分かってるから閉めようとしてるんです!祭りなら一人で行ってください。」
目ざとくそれに気付いた太子がぎゃあぎゃあ騒いでかなり近所迷惑である。
「ダメっ!この祭りは妹子と一緒に行きたいの!浴衣もないなら貸すぞ!ちょっと変な臭いするけど。」
「なんで浴衣まで変な臭いすんだよ!着たくないよ!そんな浴衣!!」
どこから出したのか浴衣一式を見せて言う太子に、妹子は思わず乗り出してツッコミを入れる。
「とにかく!先輩命令だ!今すぐ浴衣に着替えて降りて来い!じゃないと私が乗り込んでこの浴衣着せるでおまっ!」
先輩命令と言われてしまうと、もう拒否はできない。
それを無視すると、本当に太子は言ったことを実行するから。
「分かりましたよ!用意しますから家に入って待っててください!玄関辺りで!」
妹子が負けた瞬間だった。
(約一時間後…)
「お待たせしました。」
「遅いぞ、妹子!っ…!!」
玄関で待ち続け、ようやく聞こえた妹子の声に文句を言おうと振り返った太子は妹子の姿に言葉を失う。
赤い浴衣を着た妹子がそこには立っていた。
赤、といえば女物の浴衣を想像してしまうのに、妹子の着ている浴衣は女物のように柄があるわけではなく、色も少し暗くしてあるのでちゃんと男が着ているように見えて、格好良かった。
「これしかっ…なかったんですよ。」
太子が黙ったのは似合ってないとか、女みたいだと思ったからだと思ったらしい妹子は、不機嫌そうに呟いた。
「すごく、似合ってるぞ。」
「っ…!」
そう言って太子がはにかんだような笑みを見せるから。
今度は妹子が言葉を失った。
「ほ、ほらっさっさと行きますよ!もう祭りは始まっているんでしょう?!」
「なんだよ!待たせたのは妹子のくせに!」
頬が赤いのをごまかすように言って、妹子が下駄を履き始めると、太子はムッとしたように言い返す。
「大体、いきなり来て祭りに行くから浴衣を着てこいなんて太子が言うからいけないんです!」
「何おぅ!祭りと言えば浴衣に決まってるだろ!」
言いながら家を出ると、太子も言い返しながら後をついてくる。
「祭りに浴衣着てくるのなんて、太子と子どもくらいですよ。」
「そうか…?結構着てくると思うんだがなぁ…」
そんな風に言い合いを続けていれば神社につくのはすぐで。
すでに多くの人で溢れ返っていた。
緑色の着物ではしゃいでいる壮年の男と、それにチョップをしている青年がいたり、褐色肌に銀髪の青年と色白で黒髪の男がリンゴ飴を食べていたり。
他にも大勢の人が祭りを楽しんでいる。
「うわ、すごい人ですね。こんなんで歩けるのか…?」
「妹子!私、射的やりたい!射的!」
想像以上の人の多さに思わず呟いた妹子の言葉もお構いなしに太子は言って、さも当然のように妹子の手を握って歩き出した。
「嫌っ、手汗でなんか湿ってる…って、そうじゃなくて!太子!分かりましたけど、なんで手を繋ぐんだ!」
「え、だってせっかく妹子とデートなのにはぐれたら嫌じゃないか。」
妹子が言いながら手を離そうとすると、太子は立ち止まってはっきりと言った。
「デート…だったんですか、これ。」
太子の言葉に、妹子が少し驚いたように聞き返す。
「…私、結構そのつもりで妹子のこと誘ったんだけど…」
妹子は違うのか…?と、太子は残念そうな…少し、落ち込んだような表情を見せた。
「…射的、行きたいんですよね。」
しゅん…としている太子の手を、今度はしっかりと握り返して妹子は言った。
「え…っ?あ…うん…」
戸惑う太子を見て、少しほくそ笑む。
これだけ人がいるんだ、手くらい繋いでいても誰も気に止めないだろう。
今日くらい…恋人らしくしてみようかな。
射的に行ってからも、太子と妹子はずっと手を繋いだまま屋台を回った。
太子が行きたいと言ったところはすべて回ったし、妹子が興味を持ったところは言わなくても太子が気付いて見に行った。
今日だけは、周りの目なんて全く気に止めず、太子も妹子もただ純粋にデートを楽しんだ。
「なぁ、妹子…ここの打ち上げ花火、どんなのか知ってるか?」
いくぶん涼しくなって、空もそろそろ暗くなってきた頃。
カレー味のイカ焼きを食べながら、太子が不意に問いかけた。
妹子もじゃがバターを頬張りながら答える。
「知ってますよ。普通の打ち上げ花火の形だけじゃなく、いろんな形に作った花火が上がって、すごく綺麗だとか。」
「それでな…私、この間良いところを見つけたんだけど…。」
イカ焼きの最後の一口を食べてから、太子にしては珍しく妹子の様子を窺うように言った。
「良いですね。じゃあそこで見ましょう。…口の端、付いてますよ。」
妹子もじゃがバターを食べ終え、太子の言葉に頷いてから、口の端のタレに気付き何も考えずそれを舐めとるように口付けた。
「っ!い、いもっ…妹子!いきなりはっ、は…反則だっ!」
口付けられた口端を隠すように手で触れて、太子は真っ赤になって声を上げる。
「…?あ…っ!」
最初は理解できず首をかしげた妹子だが、そのあとすぐに自分のした行為を思い出し、太子同様顔を真っ赤に染めた。
「と、とっ…とにかく…花火…見れる場所行かないかっ…?」
「そっ、そうですね!」
二人してつっかえながら言葉を交わし、早足で歩き出す。
とにかく、ここから離れたかった。
「っ…」
「……」
人気のない、けれど花火の上がる位置は大きく開けた場所で、何だかんだでずっと手を繋いでいた太子と妹子はどちらともなく離し、距離をおいて座り込む。
会話は、お互い何を話してよいのか分からずまったくできなかった。
「……」
沈黙を破るように大きな音が響いて一瞬辺りが明るくなる。
「…あ…花火、もう始まったのか。」
それに反応して空を見上げた妹子が独り言のように声を漏らす。
「妹子っ…あのっ、な…?」
それをきっかけに、黙っていた太子が妹子に声をかけた。
「…?何ですか、太子。」
花火を見上げていた妹子は、そのまま視線を太子に移動させて聞き返す。
気まずさは、花火とともに弾けて消えたようだ。
「…ここの花火って、いろんな形があるだけど…」
「そうですね。…それが何か?」
さっきも言ったことをなぜまた言うのか。
妹子は首をかしげて問いかける。
「その中にな?ひとつだけ…いつ打ち上げられるかは分からないんだけど、ひとつだけ…ハートの形の花火があるんだ。」
「はぁ…そうなんですか。」
ハートの形を作るなんて、よくやるなぁと思いつつ、妹子は相槌を打つ。
やはり、だから何なのかは分からない。
「そ、その…ハートの花火が…打ち上げられた瞬間に、キスした二人は…ずっと、一緒にいられるって、言われてて、だな…」
そう言った太子の頬がほんのり赤らんだ。
…なんだ、この乙女は。
「…それで、今日の祭りそんなに行きたがってたんですか。」
「ううっ、うるさいな!そうだよ、悪いかコラァ~!」
呆れた声で妹子が言うと、太子は恥ずかしいのか両手をあげて声を張り上げる。
「まったく…太子はほんとに、アホです…ねっ!」
「うぉっ!?」
言いながら振り上げた太子の両手を掴んで妹子が太子をそのまま押し倒し、太子は驚き声をあげる。
「何すんだっ、こんなとこで!つーか、アホって言うなこのアホ妹子!」
太子はじたばたと暴れて妹子の手を離そうとする。
これでは、ハートの花火が打ち上がった瞬間を見ることができない。
「アホだからアホだっつってんだ、アホ太子。そんなジンクスみたいなものに頼らなくたって…」
暴れられないように足は自分が乗ることで押さえ、両手は掴んだまま地面に押し付けて。
妹子は太子と唇が触れあう寸前まで顔を近づけた。
「っ…!」
「一生、側に居てやりますよ…今度こそ。」
誓うように言って、妹子は太子と唇を重ね合わせた。
同時に、きれいなハートの形が空を彩る。
…祭りの夜が見せた、奇跡のような瞬間。
【終】
閻魔大王操作マニュアル(鬼閻)
2009/07/03 23:01:15
ブログで書く小説って、どこまで良いのかよく分かりません。
とりあえず、強気でかっこよさげな鬼男を書こうと思ってあえなく撃沈。
閻魔が乙女っぽいです。
死者の采配と平行して書類処理をする。
書類がひと段落して、次の死者を呼ぼうかと鬼男が息を吸ったところで、不意に声をかけられた。
「何ですか、大王。」
鬼男は目だけで閻魔の方を向き、問いかける。
「飽きた。」
「ふざけんな。」
閻魔の返答に鬼男が容赦なく切り返すと、彼はむぅ~・・・と子どものように唸った後、急に手足をバタバタさせ始めた。
「やだやだ~!飽きた、飽きたー!!もう紙を死者も見たくなーいっ!!」
「子どもみたいなこと言うんじゃねぇ、この大王イカが!!」
鬼男が叱るように声を張り上げると、「じゃあ今から子どもになる!」となどと言い出した。
「馬鹿なこと言うな!」
「やだー!休憩、きゅーけーいー!!」
正直言って、ウザイ。
「ったく、もう・・・」
本当に駄々っ子のように騒ぎ出した閻魔にため息をついた鬼男は、おもむろに彼の服をつかんで自分のほうに引き寄せ、強引に唇を重ねた。
「っ!?・・・ん、ぅ・・・っふ・・・んっ、ん・・・」
驚いたせいか薄く口を開いたままの唇にすかさず舌を滑り込ませた鬼男は、しばらく口内を堪能してから、ゆっくりと離れた。
二人の間を銀糸がつないで、名残惜しむように切れる。
「・・・は・・・っ、ぁ・・・おに・・・っく・・・?」
「早く仕事を終わらせて、二人きりになりたいと思いません?」
トロン・・・と潤んだ瞳で名前を呼ぶ閻魔の口端を指で拭ってやりながら、鬼男は低く抑えた声で囁いた。
「っ・・・」
閻魔の眉が、悩ましげに寄せられる。
「と、いうわけで・・・さっさと終わらせろ。」
眩しいくらい爽やかな笑顔で命令口調。
「君ってさぁ・・・ときどきすっごく意地悪だよねぇ・・・」
閻魔は熱を持った頬を冷ますようにぺたんと机に顔をつけて言い返した。
俺、結構その気だったのになぁ・・・。そんな不満げな声を聞いて、鬼男は対照的に満足げな笑みを浮かべる。
「何だよ!嬉そーな顔しちゃってさぁ・・・!」
それに気づいた閻魔はなんだか気恥ずかしくなってしまい、がばっと体を起こして照れ隠しに声を張り上げる。
「そりゃ嬉しいですよ。」
その言葉に当然のようにそう返し、鬼男は急に息がかかるくらい閻魔に顔を近づけた。
「っ・・・!」
「あんたに愛されてんだなって実感してんですから。」
顔の近さに再び頬を染める閻魔の目をまっすぐに見据えて告げると、鬼男は不敵に微笑んだ。
「っ・・・鬼男くんばっか、ずるくない?」
その顔から自分を遠ざけるように鬼男の胸を押して離れさせ、さらに目をそらしながら閻魔が言う。
「何がです?」
分かっているのか、いないのか、どこか楽しそうに聞き返してくる鬼男。
「俺ばっか恥ずかしくて・・・鬼男くんのこと、好きみたいで。いい思いしてるの、鬼男くんばっかじゃない?」
閻魔は、冥界の王が聞いて呆れる、と自分で思いつつも恋する乙女みたいなことを訴えてみる。
その言葉に待ってましたといわんばかりに鬼男が笑みを深めた。
「あなたの傍に居られることが、僕の最大の幸せですよ。・・・愛しています。」
「っ!!」
耳元で囁かれた言葉に、恥ずかしくなるのはやっぱり閻魔のほうで。
言った張本人は何事もなかったかのようにあっさり離れ、早くも次の死者のチェックを始めている。
「まったく、優秀な秘書だよ・・・ホント。」
「そりゃあ、どうも。・・・さて、次の死者を呼びますよ。」
鬼男はもう完全に仕事モードに切り替わっている。
立ち位置も、纏う空気も閻魔大王の秘書そのものだ。
この切り替えの早さに閻魔は感心し、信頼する反面、少し寂しくもあった。
――でもまぁ、きっとこの後の時間を長く取るためなんだろうし・・・
「さっさと終わらせちゃおっか。良いよ、鬼男くん。」
「はい。では、次の方・・・」
お楽しみは、最後までとっておくといたしましょう。
本当の気持ち(鬼←閻風味)
2009/06/18 00:04:20
仕事が終わって、誰も居なくなった部屋に立ち尽くす。
鬼男くんは、もう居ない。
「ねぇ、新しく始まった人間としての人生はどう?」
届かない言葉を口にする。
彼が今どんな生活をして、どんな気持ちなのか俺には全く分からない。
いや、知ろうと思えばそれは不可能じゃあないんだけど。
「鬼男くん・・・」
私の判断は間違っていなかった。
責務を負えた鬼を輪廻に戻し、再び人間として時の流れに乗せるのは当然のことであり、絶対に変えてはいけないことだ。
私は、それに従って鬼男くんと離れたのだから。
――でも、俺は・・・?
鬼となってすぐ、その優秀すぎる成績により俺の秘書まで一気に駆け上がった鬼男くん。
ずっとそばに居てくれて、規則なんて関係ないとばかりに「好きです。」と言ってくれて。
そんな彼の隣が居心地良いと、これからも一緒に居てほしいと願った俺の心は、どこに行ったら良いんだろう?
「おに、お・・・くん。」
口からこぼれた名前はどこか掠れていて。
視界は何故か歪んで見える。
「鬼男くん・・・おにおっ、くん・・・おにっ・・・く、ん・・・!」
抑えきれない思いは絞り出すような声とともに彼の名前へと形を変えた。
嫌だ・・・いやだいやだいやだ!鬼男くんが、もう傍に居ないなんて。
「鬼男くん・・・」
その場に座り込んでぐしゃぐしゃに泣きじゃくる俺は、なんて情けないんだろう。
こんなにも君に依存していたなんて、知らなかったよ。
君が居ないだけで、俺はこんなにも情けなくなってしまうんだ。
「会いたい・・・。君の傍に行きたいよ・・・」
思わず口にしてしまった自分の本音にハッとする。
いけない。こんなことを迂闊に言葉にしては。
だってここは冥界だから。
――私の言うことが、本当になってしまう。
私は、冥界の王・・・閻魔大王で、彼は責務を終えるためだけに傍に居た秘書。
私が居れば、冥界の均衡は保たれる。
・・・それなら俺は、この気持ちとともに私の中で眠ろう。たとえ暗くても、二度と出ることが出来なくても、君への気持ちがあれば怖くないから。
「さよなら・・・鬼男くん。そして、どうか幸せになって・・・」
この日、私は長い年月の中で唯一生まれた、最も強く温かい感情に静かに蓋をした。
二度と蓋が開かないように、頑丈に鍵をかけて心の奥深くにしまいこんだ。
――大好きだったよ、俺の・・・
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中途半端に終わってしまいました。
何となく天国が書きたいな~と思って書き始めたのですが、思いのほか暗く、おも~い話に。
何故でしょう?(聞くな
私の中で閻魔の一人称は“閻魔大王という役職を意識した場合”と“閻魔大王という名前の一人の存在”で使い分けているイメージです。
役職としてのときは「私」で、個人を表す名前としての時は「俺」。
そんなことを考えながら書いておりました。
変に小難しいことを考えていたからこんな風になったんでしょうね、きっと。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。