- 2024/11/23 [PR]
- 2011/09/09 君のとなり
- 2010/10/12 CRAWL
- 2010/10/12 夕立(鬼閻♀)
- 2010/06/30 セーラー服と反乱(鬼男×閻魔)
- 2010/06/14 作る幸せ、食べる幸せ(鬼男×閻魔)
君のとなり
2011/09/09 21:40:20
「…大王。」
形だけのノックをして、当然返事は待たずにドアを開ける。目の前に広がるのは真っ暗な空間。…まったく、電気すらつけていないとは。
目が慣れないうちは何も見えないけれど、ドアを開けた瞬間震えた気配と鼻をすする音で当たりをつけて部屋の奥へと足を進める。ベッドの上、僕に背を向けた状態で小さくなっているイカを見つけた。
「おい、何サボってんだ大王イカ。」
「っ、」
もう一度、声をかければビクッと大きく跳ねるひょろい肩。けれどこっちを振り返る様子はなく、さらに小さく縮こまりやがった。変なところで意地っ張りな奴。
「僕は、そんなに頼りないですかね。」
ふぅ、とため息を吐いて、僕も背中合わせに腰かけながらぼやくように言ってやれば、息を呑んで震える身体。
「大王。」
それでも頑なに口を閉ざそうとするので、語調を強めて促すように呼んでやる。
「鬼男くんは、さ…」
「…はい。」
泣いていたせいなのか、それとも緊張しているのか。掠れて、いつもよりかたい小さな声が耳に届く。聞き逃さないように意識して、続きを促すように僕は反応を返した。
「おに、お…くんは…ずっと、おれと一緒に居て…疲れない?」
「は…?」
待て、いきなり何を言い出したんだコイツは。一緒に居て疲れないもなにも、それこそ四六時中一緒に居るのだから、疲れないでいることの方が難しいと思うのだが。まさか、僕に疲労するなって言いたいのか。…いや、そんな意味で言っているのではないのだろうけれど。
「疲れないわけ、ないよね。おれ…大王らしくないし、普段何やってんのか分からないし、逃げるかやられるかのどっちかだし、自分勝手で、迷惑ばっかかけてる…し。」
つらつらと並べ立てられていく大王を非難する言葉たちに、思わず大きくため息を吐いてしまった。ほんと、バカじゃないのか、こいつは。
「…そんなくだらない無駄話をしていたのは、どこの獄卒ですか。明日にでも処分対応をさせていただきますので教えていただけますか。」
「え…」
驚いたように顔を上げて、背中越しに見上げてくる大王の目が、どうして…と問いかけてくる。
「お前が大王らしくないのなんて今に始まったことじゃねえし、四六時中一緒に居て毎日同じ場所で仕事してるのに、普段何をやっているか知らないわけがない。逃げるかやられるかのどっちか?そんなひょろい体で勝てる方が怖ぇよ、何のために僕が裁きのとき隣に立ってると思ってんだアホが。自分勝手で迷惑ばかりかけてる…のは、まぁ事実ですね。僕はもう慣れてますし全く気になりませんが。」
もう一度、深くため息を吐いてから、僕はすぅっと息を吸ってわざとまくしたてるように口早に大王の言った非難を片っ端から否定してやる。目を丸くして、ぱちぱちと数回瞬き。ざまぁ見ろ。
「そんな、分かりきっていることを引き合いに出して大王を非難し、僕の状態まで勝手に決めつけるようなことを僕やお前がやるわけがない。そもそもその必要性が無いですしね。だとすれば今お前が言ったことは全部、僕と大王の仕事をろくに知らない別の部署の獄卒の言葉ってことだろ。…ほら、どこをほっつき歩いてたときに聞いたのかさっさと話せアホ以下大王イカ。」
「フォローしてるのか、けなしてるのか、どっちだよ…もう…」
少しだけ体の向きを変えて、横向きに僕の背中に小さな頭をもたせ掛けながら言い返す大王の声には少しの呆れが混じっていた。ひとまずは安心だと自然と入ってしまっていた肩の力を抜く。
「どっちかってーと、どっちもですかね。」
「何かそれ、おかしくない?」
正直な気持ちを明かすと、くすっと笑う気配。次いで、甘える猫みたいに頭をすり寄せてくる。
「…ねぇ、おれと一緒に居ると…疲れるでしょ。」
「仕事してんだから疲れないわけねぇだろ。」
まだ言うか、と若干苛立ちを覚えながらそっけなく返した僕に、「そういう意味じゃなくって。」と不満げに答える大王。
「おれ…あの子たちの話聞いて、鬼男くんに甘え過ぎてるのかもって、反省したんだよ。」
「へー、自覚したんですか。それは大きな進歩ですね。」
先に続く言葉はすでに予想がついていて、またか…と呆れながら、おざなりに返事を返す。
「このままだと、ずっと甘えっぱなしになっちゃって、いつか本当に、鬼男くんに愛想つかされちゃうかもしれないって、思ったら…やっぱり、離れたほうが良いのかなーとか、思って。」
まったく…いったい何度目だよ、僕だっていい加減聞き飽きるぞ。まぁ、その度に引き戻す僕も僕だけど。
「でも…」
「はい。」
続く言葉はもうわかっている。むしろ僕は、その言葉を言わせたいがためにこうやって何度も逃げようとするこいつを懲りずに追いかけ、決して逃してなるものかとその腕に手を伸ばしているのだから。
「やっぱりおれは、君のとなりが良いみたい。」
はい、よくできました。
縋るように僕の腰に手を回してしがみついてきた大王の頭を慈しむように撫で梳いて、体の向きを変えると、ちょうど僕を見上げる紅玉と目が合った。
「僕の居場所は、いつだって閻魔大王の隣ですよ。」
僕もおなじみの定型句を口にしてから、はにかむ大王とそっと唇を重ね合わせた。
【終】
CRAWL
2010/10/12 14:53:28
2/4にポテトさん・やみんさん・かしこさん(仮)のコラボによりUPされた動画
【閻.魔】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9588760
から妄想・発展したお話です。
見たその日から考えて、あっという間に出来上がりました。
ポテトさんとやみんさんには出来上がってすぐにお渡ししました。
こちらでも公開しておきます。無許可ですみません。
私の個人的解釈・妄想・感想を多大に含んでいます。
自分のイメージや解釈がある方、そしてそれとの違いを不快に思う方は見ることをおすすめできません。
夕立(鬼閻♀)
2010/10/12 14:45:18
閻魔女体化です。
突然の激しい雨に慌てて走って帰る女子高生を見て浮かんだ話。
セーラー服と反乱(鬼男×閻魔)
2010/06/30 20:27:28
最近、めっきり小説を書いていないので…場繋ぎ的な。^q^
閉鎖したサイトから持ってきたやつです。
以前陵さんに献上した作品。これは、多分古本屋で二巻だけ買って書いた奴・・・だったと思う。
・妖しい雰囲気(笑)が軽く漂います。
・タイトルに特に意味はない!^q^
・閻魔がちょっと弱気。
・鬼男くんは相変わらずカッコつけ^q^
・きっと私は初めて日和を読んだそのときから、鬼男くんに夢を見すぎているんだろうw
「鬼男くーん!」
仕事が一段落したところで、やたらとテンションの高い声が僕の耳に届いた。
「何ですか?」
僕は書類から目を離し、大王の方に顔を向ける。と…
「ふふっ、ねぇ鬼男くん?」
後ろ手に何か隠して、企んでいるような顔をした大王がすぐ近くにいた。…嫌な予感がする。
「じゃーん!」
目の前に差し出されたものは、セーラー服。
七つ道具に入っていたのとは別の物だ。また買ったのか、コイツ。
「…まさか僕に着ろとか言うんじゃないでしょうね?」
「さっすがオレの秘書!うん、絶対似合うから着てみてよ!」
僕の当たって欲しくなかった問いに、大王は嬉々として答えた。
「刺すぞこの変態セーラー野郎。」
僕は爪を伸ばして大王に突き刺す。
「ちょ、痛い痛い!って言うか、刺すぞって言う前からもう刺してるってどうなの、それ!」
いつものように騒ぐ大王に、いつも通りすぐ爪を抜いてやる。
「まったく…。」
爪を軽く振ってから元に戻す。何回やっても懲りないんだ、コイツは。
「ねー、せっかく買ってきたんだから着てよ~。いいでしょ、鬼男くーん…」
僕の服を握り、甘えるように猫撫で声を出して大王は言う。
うるさいからもう一回やってやろうか。…いや、余計うるさくなるな。
「着ねぇよ!…大体、そんなもの僕に着せて何が楽しいんですか。」
「えー?だってぇ~、似合いそうだなって思ったら着せたくなるものでしょ?」
前で手を組んでわざとらしく上目使いをして聞いてくるのは、ひょっとして作戦なのか?
…少し、揺らぐものがあった。
「思いません。あと、もじもじすんな気持ち悪い。」
書類をまとめながら考えと違うことを口にする。
「鬼男くんってば相変わらず辛辣~。オレだって傷つくのに…。」
セーラー服を持ったまま、机に『の』の字を書き始める大王は、可愛いと思う反面かなりウザい。
「…大王。」
僕の声に反応して顔を上げた大王の唇に、触れるだけの口づけを送る。
大王は一瞬呆気にとられたように僕を見た後、一気に顔を赤くした。
「い、今のは…何の口づけかなぁ…?」
「強いて言うなら、慰めですかね。」
「だったらこれ着てくれたっていいじゃん!」
僕の返答に、大王はセーラー服を再び僕に差し出して叫んだ。
誰が着るか。
「そもそも、自分は着ないのに僕に着せようってのがまず間違ってるでしょう。」
僕がため息混じりに言うと…
「ギクッ!」
あからさまに体を跳ねさせた。
「…ギクッて何だ、ギクッてのは!着てるのか?着てるんだなこの変態セーラー大王イカがっ!!」
今度こそ容赦なくざっくり爪を刺してやった。
「ぎゃああー!!本日2回目っ!てか、ち…血ぃ~!」
あぁ、やっぱうるさくなった。…いっそのこと持ってるセーラー全部切り刻むか。
「ひ、酷い…。しかも、今回は全部くっつけるなんて…」
「自業自得ですよ。」
ぐすぐすと泣きながら文句を言う大王の顔をハンカチで拭いてやる。
これ以上騒がれるとさすがに厄介だ。
「言葉と行動、合ってないよ…」
大王がボソッと呟く。
「蹴られたいのか。」
「け、結構ですっ!」
イラッとして言い返すと、大王は首をブンブン横に振って答えた。
「ったく…」
僕がため息をつくと、大王はふふっと笑って僕の首に手を回し、抱きついてきた。
「何笑ってんですか。」
とりあえず支えるために腰に手を回して問いかける。
すりすりと甘えるように僕の胸に頬を寄せる姿は、さながら猫のようだ。
「ん~?鬼男くんが反応してくれるのが何か嬉しくってさ。」
大王は少し顔を上げて、またもや上目遣いに僕を見ると、ふわりと至極幸せそうに微笑んだ。
…何だコイツ。オッサンの癖にこの可愛さはどこから来てるんだ。
「当然でしょう。何を今更言ってるんだか。」
「そうだけど…時々ふと思う時があってもいいじゃん。」
僕が素っ気なく答えると、ムッとした表情で言い返してきた。
何を不安がってるんだ。らしくもない。
「僕が大王の言葉に応えなかったときがありますか?無いでしょう。…下らねぇことうだうだ考えんな。」
ギュッと、折れそうなくらい細い体を抱き締めてやる。
不安にならなくたって、僕はいつだって大王の傍にいるのに。…なんか、信用されてないみたいで腹が立つ。
「鬼男くん…」
紅玉の瞳が艶めいてきて、僕の名前を呼んだらそれは合図。
死者の裁きはもう終わっているし、書類は切羽詰まるほど溜まっている訳でもない。
例え問題があったとしても、妙に不安定になっている上司をこのまま放っておくなんて、僕は嫌だけど。
「理由は知りませんが…そんな下らないこと、考える余裕すら無くしてやりますよ。」
言って、大王に噛みつくように唇を重ねてやった。
壁に押し付けて、服の袷から手を滑り込ませる。
「っ…!」
ビクッ、と大王の体が跳ねた。
僕の腕を握りしめて、ねだるような目を向けてくる。珍しく積極的だ。
「ふっ…ぁ…」
薄い胸に手を這わしながら口づけは顎のラインを通って首筋に移動させた。
僕の制服と違って、大王の服は腰のところを帯で締めているだけだから、軽く引っ張れば簡単にはだける。
肩口に唇を寄せて、強く吸い上げた。
「ぁっ!」
もう足が震えてる。壁に背を預け、僕が片手で支えているとはいえ、立っているのはかなり辛いはず。
僕は、大王の耳元に唇を寄せて甘噛みしてから問いかける。
「大王。寝室に行きませんか…?」
大王は熱に浮かされたように潤んだ瞳で僕を見、震える手を僕の首に回す。
そのまま横抱き(俗に言うお姫さま抱っこ)にして、寝室のドアを開けた。
◇◇◇
「もう…少しは手加減してよ…」
情事の後、大王は布団に寝転がったまま少し掠れ気味の声で呟いた。
「求めてきたのは大王ですけどね。」
寝台の端に腰かけて、くしゃりと大王の頭を撫でてやると、気持ち良さそうに細められる目。…マジで猫だな、コイツ。
「んー…だって鬼男くんが離れるとすぐ冷たくなるんだもん、オレ。」
体温を分けても、すぐに元通り冷たくなる体。
跡をつけても、驚異的な再生能力ですぐに消えてしまう。
「全部、幻のような気がしてくるんだ。」
自嘲的な笑みを浮かべる大王。
やっぱり僕は、信用されてないんだろうか。
どれだけ抱いても、愛を囁いても、結局この人には響かない。
「僕は、そんなに信じられませんか?」
「え…ちがっ、違うよっ?そういう訳じゃなくて…!」
慌てて否定しようとする大王を再び組み敷く。
「お、にお…く…」
「僕は傍にいるって、何度言えば分かるんだよ。」
肩を掴む手に力がこもる。…なんで、伝わらないんだ。
「だって、さ…鬼男くんは、オレと違っていつか終わりが…転生の日が、来るじゃない…」
大王の顔が、泣くのを必死に我慢するように歪んだ。
「っ…」
言葉に詰まる。
そんなことを考えてるとは思わなかった。
「…ごめん。」
言ってから、しまったと思ったのか大王は目を逸らして謝ってきた。
僕は、大きく深呼吸をひとつ。
「そんなの、関係ない。」
「え…?」
きょとん…と、今にも溢れそうに涙を溜めた紅玉を僕に向ける。
「そんなこと今は関係ない。アンタは、僕が今にも消えそうに見えるんですか?僕が、アンタから離れようとしてるように見えるんですか?」
「そんなっ…!」
「僕は今ここに、アンタの傍にいます。手を伸ばせばすぐに触れられるくらい近くで、アンタと会話してる。」
大王の手を取り、僕に触らせる。冷たい分、僕の存在がよりはっきり分かるはずだ。
「転生の日は確かにいつかは来る。でもそれは、もっと先の話だ。今恐れることじゃない。
僕は、いつでもアンタの傍にいます。それこそホントに、手を伸ばせばすぐ届く範囲に。」
「おにお、くん…」
「アンタがそれでも恐れると言うのなら、僕はその流れにだって抗います。この世界を壊したっていい。」
唖然としたようにポカンと僕の顔を見つめた後、大王は至極おかしそうに笑いだした。
「それじゃあ、オレの存在自体が揺らいじゃうよ。」
くすくすと笑いながら、大王は僕に抱きつく。…ようやく笑ったか。
「そうですね…。そのときは、一緒に転生しましょう。例えどこでどんな姿になってても、僕はアンタを見つけ出しますよ。」
「あははっ、男前だねぇ~。」
他の者は夢物語だと嘲笑うかもしれない。けれど僕は、アンタのためならそれすら容易くやって見せる。
アンタを苦しめるだけ世界なんて、絶対に認めない。
「ところで大王?」
僕の腕の中、楽しそうに笑う大王の服に手をかけながら名前を呼ぶ。
「な…何、かなっ…?」
僕の手の動きに不穏な空気を感じ取ったのか、笑いを引っ込めて逃げ腰に聞き返してくる。
当然逃げられないように体を押さえているけど。
「セーラー服、トランクの中ですか?」
「うん…そ、そうだけど…鬼男くん、まさか…」
僕の問いに、大王も察しがついたのか顔がひきつった。
「普段着てるなら良いじゃないですか。」
大王を押さえながらトランクから7つ道具の…これはその2か。その2のセーラー服を取り出した。
やっぱ少しベタベタしてたけど、まぁ下らないことを考えた罰ってことにしておこう。
「お、鬼男くんの変態!」
「アンタの影響じゃないですか?」
涙目で訴える大王に向けた笑顔は、きっと今までで一番楽しそうだったに違いない。
【終】
作る幸せ、食べる幸せ(鬼男×閻魔)
2010/06/14 21:28:26
ほんと、天国組ばっかやなぁ…とか思いつつ。^q^
半年くらい前に
「付き合いたてのカップルみたいな、結婚したての新婚夫婦みたいな初々しい2人」が
見たいなぁと思ってぼんやりと考えて、数行書いて止まっていたものです。
とりあえず最初から最後までの流れが浮かんだのが数ヶ月前。
書き出して、止まって、他の話書いて、今日何となく書き終えてみました。
読み返すと、なんか最初と大分変わってしまった…orz
・もう、お前ら勝手にやってろ!恥ずかしいんじゃボケ!(…というのを目指していたのになぁ)
・鬼男の料理はどんだけレベルが高いんだよ!(…って言えるくらいの料理表現がしたかったなぁ)
・なんというキャラ崩壊^q^
そんな感じのお話。
…おや?
閻魔と鬼男くんが仕事を終えて夕飯を食べるようですよ。ちょっと覗いてみましょう。
―――――――――――――
「……」
夕飯の支度をしている鬼男の背中をじっと、穴が開いてしまうのではないかと心配になるくらい真剣に見つめるふたつの赤いビー玉。何が楽しいのか、閻魔は鬼男が食事の支度を始めるといつの間にか一緒に居る。
「見ているだけなら、手伝ってくれませんか。」
視線がなんだか居た堪れなくなって、鬼男はため息混じりに呟いた。閻魔は突然かけられた声に少しびっくりしたように目を見開いてから、困ったように首をかしげる。
「出来ることなら手伝いたいんだけど…オレにできること、何かある?」
「あ…えー、っと…」
座ったまま問いかけられて、今度は鬼男の方が困ってしまった。
夕飯はもうすぐに出来る状態。いつもの癖で食器類もテーブルのセッティングもすでに終えている。手伝いを求めるならもっと序盤に言うべきだったのだが、料理に慣れていない閻魔にもしものことがあっても困るからと、つい言えずにいたのだった。
「とりあえず…」
「とりあえず?」
言いながら鬼男が閻魔を手招くと、閻魔は呼ばれるまま鬼男に近づいて聞き返す。鬼男はかき混ぜていたスープを少し小皿にとると、閻魔の前に差し出した。
「味を見るくらいですかね。」
「へ…?」
思わずぽかん…として鬼男の顔を見つめてしまう閻魔。しかし、誤魔化すように視線を逸らしている鬼男の表情を見て嬉しそうに笑みを深めた。
「えへへ…りょーかい!」
小皿を受け取りながらそう言うと、閻魔は少し冷めたそれに唇を寄せる。本当は、味見をしなくたって分かる。いつだって鬼男は、閻魔の好みに合った味付けをしてくれるのだから。
「どうですか?」
「ん、大丈夫!いつもどおり、すごく美味しい!」
お玉でかき混ぜながら問いかけてくる鬼男に、閻魔が満面の笑みで答えれば鬼男は満足そうに笑みを深めた。
後はもう食べるだけだと、閻魔はいそいそと食器を鬼男のもとへと持ってくる。鬼男がそれを受け取って盛り付ければ、閻魔は再びそれを受け取ってテーブルに並べる。ちょっとしたバケツリレーみたいで、なんだか面白かった。
「いただきます!」
「どうぞ、召し上がれ。」
料理を並べ終えて席に着くや否や、早々にスプーンを手にしてお決まりの言葉を口にする閻魔に、向かいに座った鬼男はくすっと笑って返し、料理を食べ始めた閻魔を料理そっちのけで眺めている。
「えーっと…何?」
最初は料理に夢中で気にならなかったが、向かいに座っている相手が料理に手もつけずに自分を見ているのはあまり居心地が良いとは言えない。閻魔は食べる手を止めて恐る恐るといった具合で問いかけた。
「…いつも思いますけど、大王ってホントにうまそうに食事しますよね。」
「ん?うん!だって鬼男くんの料理だもん!鬼男くんの作るものって、本当に美味しいんだよ?オレじゃなくたって絶対おいしそうに食べるって!」
鬼男がどこか不思議そうに言えば、閻魔はきょとんと鬼男の顔を見つめ返してから大きく頷いて満面の笑みで答える。作り手からすれば自分の料理を褒められて悪い気はしないので、鬼男はなんだか照れくさくなってしまって誤魔化すように視線を逸らし「そりゃどーも。」とそっけなく返した。
「もう、素直じゃないなぁ…」
呟きながらも閻魔はくすくすと楽しそうに笑って、食事を再開する。料理を口に運ぶたびそれは美味しそうに顔を綻ばせるので、鬼男の方も結局視線を閻魔に戻してまたじっと眺めてしまう。これだけ美味しそうに食べられれば、作り手冥利に尽きるというものだろう。
「あのさぁ…鬼男くん?そんなに見られてると、さすがに食べにくいよ。」
「…あんたが普段やってるのと同じことやってるだけなんですけどね。」
再び手を止めて、閻魔が気まずそうに言うと、鬼男から返ってきたのはそんな言葉。何のことか閻魔にはさっぱり分からなくて、反射的に「え?」と聞き返した。
「僕も…毎日作ってるときにじっと見られてると、少し作りづらいです。」
口の端に付いたソースを指で拭ってやりながら、鬼男は苦笑して閻魔の問いに答える。その答えで思い至ったらしい閻魔は、あっと口を開きかけて急に恥ずかしそうに頬を染めて俯いてしまった。
「大王?」
今度は鬼男の方が閻魔の反応の意味が分からず、声をかけて首をかしげてしまう。閻魔は俯いたまま「それは謝る、けど…でも…」と歯切れ悪く呟いては言葉を濁した。
「何か理由があるなら言っていただけると、嬉しいんですが。」
「あ、あの…ね?オレ…すごく、好きなんだ。」
責めるわけでも、急かすわけでもなく、ただ単純に気になるのだということを示すように、鬼男は少し語調を弱めて閻魔に声をかける。閻魔は俯いたまま、鬼男の様子をうかがうように上目遣いにちらちらと鬼男の顔に視線を送りながら、ポツリと答えた。
「…何がですか?」
「うっ…あー、えーっと…」
話の流れがよく読めなくて、鬼男は考えるように眉根を寄せてさらに情報を得ようと問いかける。しかし閻魔はその好きな何かを言うことが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして意味を持たない音を漏らした。
もちろん鬼男にはさっぱり理解できなくて、ただ首をかしげることしか出来ない。
「えっと、その…りょ、料理をしてる…鬼男、くん…」
「…は?」
理解できなかったわけではないのだが、あまりにも予想外な返答だったから聞き返す言葉を返してしまった。閻魔はそれを理解できなかったととったらしく、やけになったのか「だからー!」と声を張り上げる。
「オレ、料理をしてる鬼男くんの姿がカッコよくてすごく好きなの!調理台に向かってる鬼男くんの背中とか、味見してちょうどいいときに笑う顔とか…っ、目が…離せなくなるん、だよ…!」
言っていくうちにどんどん恥ずかしさが増していったのか、首まで真っ赤にして視線を外すように俯き始め、言葉尻も小さくなった。
「っ!」
一拍間を置いてから、閻魔が様子をうかがうようにそっと上目遣いで鬼男に視線を向けると、鬼男の方も思い出したようにかぁっと顔を赤く染めた。お互いに真っ赤な顔で動きを止めること数秒。
「あっ、あーもう、せっかくの料理が冷めちゃうじゃん!」
沈黙がいたたまれなくなったのか、閻魔は赤い顔のまま誤魔化すようにそんなことを口にして、まだ一度も手を付けられていない鬼男の前にある料理にフォークを伸ばすと、ぱくりと自らの口に放り込んだ。当然といえば当然なのだが、やはりそれはすごく美味しくて。思わず閻魔は顔を綻ばせて満足そうに笑みを浮かべる。
「自分のがまだ残ってるくせに人のモンまで取るな、アホ大王。」
閻魔の行動と表情で調子を取り戻した鬼男は、肘をついてため息混じりに言いながらピンッと閻魔の額を指で軽くはじいた。
「ぃった!なんだよー、食べないで見てる鬼男くんが悪いんだろ!それに、俺が食べてる姿見るの、鬼男くんは好きなんでしょう?」
大して痛みはないが、条件反射で額を押さえながら声を上げてから、閻魔もいつものような態度で鬼男に笑いかける。すると鬼男は肘をついたまま空いている手でフォークを持ち、料理を一口大にしながら「ええ、好きですよ。」と頷いた。
「だから…はい、どうぞ?大王。」
「え…」
一口大にした料理を閻魔の口元に持ってきて笑顔でそんなことを言うものだから、閻魔は思わず硬直してしまう。これはつまり…そういうことなのだろうか。
「要らないんですか?」
「え、いや…くれるんなら欲しい、けど…」
差し出したままで問う鬼男に、閻魔は口ごもる。大好きな料理を大好きな人の手で食べさせてもらえるのは嬉しいしありがたいが、やはり羞恥が邪魔をする。
「ほら、あーん。」
「あー…ん、っ~!」
鬼男の言葉に誘われるまま口を開ければ、こぼさないように放り込まれる料理。途端に口内に広がる美味しさに、自然と頬に手を当てて嬉しそうな笑みが溢れた。何度食べたって飽きない、何度だって食べたいと思える、そんな鬼男の料理の美味しさ。
「よくもまぁ、食べるたびにそんな表情が出来るもんですね…」
呟く鬼男の声には喜びだけでなく若干の呆れも含まれていて。閻魔は口の中の料理をかみ締めるようにしっかりと咀嚼して飲み込んでから「でもさ、」と口を開く。
「鬼男くんは、オレのこういう表情が好きなんだよね?」
うふふ~と得意げに笑う閻魔。鬼男は「はい、まぁ…」なんて曖昧に相槌を打ちながら再び閻魔に料理を差し出す。一度食べてしまえばもう抵抗も大分薄れて、閻魔は素直にひな鳥のように身を乗り出すと、料理にぱくりと食いついた。
「でも…そうですね、僕は…」
「っ!?」
やはり幸せそうに笑いながら、体を椅子に戻そうとした閻魔の腕を引いて不自然に言葉を切った鬼男は、今度は自分も少し乗り出して閉じられた赤に自分のそれを重ね合わせる。驚き動きを止めたのをいいことに割り入って口内に侵入すると、わずかに残っていたものを舌で絡め取ってからゆっくりと離れた。
「アンタを食べるほうがもっと好きです。」
「なっ…!?」
舌なめずりをしながら心底楽しそうに笑う鬼男に、閻魔は再び頬を染めることになった。
【終】
――――――――――――
こんな風にして毎日ご飯食べていたら面白そうですけど、相当時間かけて食べていることになるよなぁーとか、冷静に考えてみたりもして。
どうにも調子が戻りませんねぇ…。まだ無理矢理書いているとこがあるのかなぁ?自分の文章に前以上の不満と不安がある今日この頃です。