- 2024/11/23 [PR]
- 2010/05/30 模擬結婚式(鬼男×閻魔)②
- 2010/05/30 模擬結婚式(鬼男×閻魔)①
- 2010/05/28 あなたのために出来ること(閻魔×鬼男)
- 2010/05/26 君に伝えておきたくて(閻魔独白?)
- 2010/05/04 昔も今も僕だけが(鬼男×閻魔)
模擬結婚式(鬼男×閻魔)②
2010/05/30 18:52:59
続きです。
やりたいことを全部詰め込むって大変ですよね^q^
「これは褒めてくれるのに、なんでセーラー服はダメなのかなぁ…?」
更衣室の中で自分の姿を改めて見て確認してから、閻魔は首をかしげて呟いた。
いや、別にセーラー服を堂々と着たいとか、着た姿を褒めてほしいとかじゃないよ?うん。買ってみただけなんだって。誰に言うでもなく心の中で言い訳をしながら、閻魔は着ていたチャイナドレスを脱ぐ。
「にしても…鬼男くんってばいつの間につけてたんだろう?全然気づかなかったって言うか、どこにつけたんだよまったく。」
言いながら軽く自分の体を見回してみるけれど、閻魔の目につくところにそれらしい跡はなく。どういう風に動いたら見えるのか、どうしたら見えないのかさっぱり分からなかった。
「もう…鬼男くんのばか。」
仕方ないので小さく悪態をついておくに留め、閻魔は鬼男が選んだチャイナドレスに着替え始める。先ほどまで着ていたチャイナドレスは胸と首のところがボタンになっているだけだったのでかぶらないと着られなかったが、これはスリットまでボタンを外せば羽織るように着られるので着替える分には楽だった。
「よし、っと。後はこれを付けて…付け…んん?」
鬼男の選んだチャイナドレスに着替えてから、女子生徒に渡された髪飾りを付けようとした閻魔だが、傾いてしまったり位置がおかしかったりとどうにも上手く付けられない。しばらく格闘してみたもののやはり上手くいかないので、諦めて付けずに手に持って更衣室を出ることにした。
「着替え終わりましたか?」
「あ、鬼男くん。うん、着替えたんだけど…髪飾りがどうにも上手くつけられなくて。」
更衣室を出ると、着替え終わるのを待っていたのかドアのすぐ横で声をかけられた。声のした方に体を向けた閻魔は、問いに答えてから目下の悩みを打ち明ける。鬼男はそれを聞いた途端「はぁ…?」と理解できないと言いたげに首をかしげた。
「耳飾りが付けられて、なんで髪飾りは出来ないんだよ。髪飾りの方が付けるの楽じゃないですか?」
「う、うるさいなぁっ!鬼男くんはそうでも、オレはこっちの方が苦手なんだよ!」
鬼男の呆れたようなバカにしたような言い方に怒りと羞恥が顔を出してきて、思わず噛み付くように言い返す。しかし鬼男はそんな閻魔の態度を気にした様子もなく、「そうですかそうですか、それは失礼しました。」と、さらにバカにしたような棒読みで返してきた。
「何だよ、もう!鬼男くんのバ」
「ほら、貸してみろ。」
言い方に腹が立った閻魔が怒りを爆発させようとしたところで、言葉とともに差し出される右手。
「え?」
「その髪飾り。つけてやるって言ってんですよ。」
怒りの言葉を遮られた上、そっけなくも優しい気遣いを見せられた閻魔は完全に怒るタイミングを逃してしまって、思わず「あ、うん…」と頷き素直に髪飾りを手渡す。
それを受け取って、試行錯誤の末に乱れてしまった閻魔の髪を手櫛で整えた鬼男は、閻魔の瞳と同じ深い紅色の大きな花の髪飾りを丁寧に付けてやった。葉をイメージしているのか、添えるように一緒に付けられた翡翠色のプレートが小さく揺れる。
「出来ましたよ。」
「ん…ありがと。どう?似合う?」
言って鬼男が手を離すと、付けやすいようにと少し俯いていた閻魔が礼を言いながら顔を上げ、感想が聞きたくてうずうずした様子で笑顔とともに小首を傾げて問いかけてきた。
「っ…!!」
問いかけられて初めて、髪飾りも含めきちんと全体を見た鬼男は、そのあまりの艶やかさに息を飲んだ。首をかしげるというオプションがあったせいもあるのかもしれない。
「似合わない、かな…?やっぱ。」
「あっ、いや…そうじゃなくて!」
鬼男が何も言わないことに不安を覚えたのか、閻魔が落ち込んだ様子で呟くので鬼男は慌てて首を横に振った。
「…?」
「そうじゃなくて、ですね…」
じゃあ、何?と言いたげな目を向けて首をかしげる閻魔に否定を繰り返してから、鬼男はそっと髪飾りに触れて、そのまま髪を梳くように閻魔の頬に手を添えた。
「あまりにも大王が綺麗だったから…少し、見惚れてました。僕にはもったいないくらいですよ。」
「そんなことっ…!」
苦笑して言った鬼男の言葉に驚き、悲しそうな表情で口を開いたところで、リップ音とともに優しく額に触れた柔らかくて温かい感触。
「…愛しています、大王。今みたいに着飾っている大王も、普段の元気で明るく笑っている大王も全て。大王だから…僕はずっと傍にいたいと思うし、いて欲しいと思う。これから先、何があっても…何年経っても、僕はアンタの隣を誰かに渡すつもりはありません。まだまだ未熟な僕ですが…これからの人生、出来るのならば終わりまで。僕が、大王の隣に立ち続けることを許してもらえますか?」
突然過ぎてどう反応したら良いか分からなかったのか、きょとんと鬼男を見上げてくる閻魔にますます愛しさが募って。鬼男は少し照れくさそうに、それでも真剣な眼差しを真っ直ぐに閻魔に向けて、愛しさを…誓いとも言える思いを言葉に乗せた。
「っ、許すも…許さないも、ないよ。オレだって、負けないくらい鬼男くんを思ってるんだよ…?」
嬉しくて、愛しくて。閻魔は胸の奥からこみ上げてくる苦しさを感じながら、今にも瞳から零れ落ちてしまいそうな熱い雫をぐっと堪えて震える声で言葉を紡ぐ。
「…はい。」
「オレが終わる、そのときまで…隣に鬼男くんがいない状況になることは、絶対許さない。ずっと…ずっと、傍にいて。オレも、鬼男くん以外の人の傍にはいたくない、から。大好き…ホントのホントに、好きなんだから!」
相槌を打った鬼男に促されるまま、閻魔も自分の気持ちを我慢できなかった涙と一緒に溢れさせた。口にしてしまったらもう勢いは止まらなくて。閻魔は自分の心も体も全て、何もかもをぶつけるみたいに鬼男の胸に飛び込んだ。
「…知ってます。だから…これから先もずっと、僕たちは一緒ですよ。」
閻魔の体を受け止めてしっかりと自分の腕の中に閉じ込めると、鬼男もあふれ出る愛しさを隠そうともせずに答えを返した。
「おーい、2人とも。着替え終わったんなら結婚式やるから早くこっちに来んしゃい。って、鬼男はまだ着替えてないのか?」
「あ…えーっと…」
会場の準備をしていた太子が閻魔と鬼男の姿を捉えて、声をかけながら近寄ってくる。しかしまだ着替えが終わっていない鬼男を見て、太子は呆れたように問いかけた。
結婚式を挙げることなんてすっかり頭から抜けていた鬼男は、太子の声に困り顔で言いよどむ。たった今、愛の誓いともいえる言葉を口にしたばかりなのに、また大人数の前で同じようなことを言うのは気持ちが安っぽくなる気がして。
「太子…せっかく準備してもらったのに悪いんだけど、オレ今はもう…他の言葉もらいたくないかも。」
その気持ちは閻魔も同じだったようで、気まずそうに鬼男から離れて太子に向き直り、俯き加減に言った。
「ん?」
「オレ…たった今鬼男くんから、すごく嬉しい言葉もらっちゃってさ。」
「鬼男、お前…」
意味が理解できなかった太子が聞き返すと、閻魔は申し訳なさそうに…けれど抑えきれないはにかみ笑顔で言葉を続ける。それを聞いて納得した太子は、不自然に視線を逸らしている鬼男の方を見ながら名前を呼んだ。
「えーっと…」
「何フライングしてんだこらぁーー!!」
「しょうがないじゃないですか!大王の姿を見たらなんか自然と出てきちゃったんですから!」
何か良い言い訳はないかと視線をめぐらせた鬼男を待たず、太子が拳を振り上げて声を張り上げたので、鬼男は言いつくろう余裕もなくただ負けじと声を張り上げて、素直な言葉を口にしてしまうことになった。
「このタラシ男め…!まぁいいか。そういうことなら…閻魔、鬼男。これからもずーっと、幸せにな?」
太子の振り上げた拳は形だけだったのか、鬼男の言葉を受けてすぐに下ろされることになり、どこか悔しそうな呟きの後すぐに嬉しそうな笑顔とともに祝いの言葉をかけられる。
鬼男も閻魔も一瞬理解できなくて言葉に詰まったが、次の瞬間には同じように嬉しそうな笑顔を見せた。
「ありがと、太子。」「ありがとうございます。」
同時に、素直に口をついて出てくる礼の言葉。そんな2人を見て、太子は満足そうに微笑んだ。
――目的とは違っちゃったけど…最高の言葉をもらうことが出来て俺は今、最高に幸せです。
【終】
――――――――――
式(というか愛の誓い?)に行くまでの長いこと長いこと…^q^
書いている途中、うっかり閻魔が女の子になりかけてて、気づいたときにかなり焦りました。読んでいる途中で若干女の子っぽくなっていたり、女の子に見えたりしたらそれは軌道修正し切れてないんだなと笑ってやってください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
模擬結婚式(鬼男×閻魔)①
2010/05/30 18:49:33
ようやく完成しました。模擬結婚式企画、鬼閻編!
ずいぶんと悩み苦しんでしまったような、実はそうでもないような。
とりあえず、話を聞いてくれて参考イラストも描いてくれた某方には大感謝です。
ありがとうございました。
結局どちらも捨てられなくて、両方使うことにしましたよっと^q^
あの案もこっそり(?)取り入れてしまいました。すみません。
そんなわけで、最初とは少し違ったものになりましたが、一応(?)納得いくものになったと思っています。かなり長めですが、お付き合いいただけると幸いです。
・閻魔が乙女だ。
・これ、女体化でもよかったんじゃね?ってくらい乙女イカだ。
・鬼男くんがカッコつけだ。
・これ、もう通常仕様なんじゃね?ってくらいタラシっぽくてカッコつけオニオンだ。
・ぶっちゃけ、チャイナドレスの閻魔(生足)の色気を感じたかっただけだ。
・というか、太子のクラス(3年飛鳥組)の教室はどれだけ広いんだと問いかけたい。
・長すぎて二つに分けることになるってどういうことだ^q^
「ねぇ鬼男くん。太子のクラスが何やってるか、知ってる?」
互いの空き時間に待ち合わせて学園祭を回っていた閻魔と鬼男。興味のあるものはあらかた回ったという頃、閻魔が配られたパンフレットを手に鬼男の顔を見上げて不意に問いかけてきた。
「えーっと…模擬結婚式、でしたっけ。ブライダルコースに進みたい生徒でもいたんですかね。」
閻魔の突然の問いかけに驚きながらも、記憶を手繰って覚えていることを答える鬼男。学園祭で結婚式だなんて、しゃれたことを考え付くものだと思った記憶がある。
「うん。でもね、ただの模擬結婚式じゃないんだー。異性同性はもちろん、血縁だって関係なしのコスプレ結婚式なんだよ。太子のクラスでなら、誰がどんな結婚をしたって祝ってもらえるの。」
素敵でしょう?と楽しげに笑って鬼男の答えに付け足す閻魔に、鬼男は首をかしげた。
「それ、需要あるんですか?やりたがる人、そういない気がするんですけど…」
「分かってないなー、鬼男くん。これはすごいことなんだよ?だってさ、」
訝しげな表情で疑問を投げかける鬼男に、閻魔は中途半端に言葉を切って彼の耳に唇を寄せると
「そこでなら、オレと鬼男くんは堂々と結婚できるんだから。」
小さな声で掠めるように囁いた。
「え…」
「鬼男くんさえ良かったら、だけど…オレ、君と一生を誓いたいなって、思ってるんだよね。」
鬼男の目が驚愕に見開かれるのを見て、閻魔ははにかみ笑顔で付け足した。
◇◇◇
「太子ぃー、今空いてるー?」
「おぉ、閻魔!タイミングいいなー、今終わったところだぞ!」
「空いてるのか…。」
可愛らしい笑顔と一緒にねだられて鬼男が断れるはずもなく、2人は3年飛鳥組の教室までやってきていた。閻魔はご機嫌な様子だが、コスプレということと多くの人の前で閻魔に愛を誓うということに若干の抵抗を感じている鬼男は、あまり乗り気ではないようだ。
「まずは着る服を選ぶでおまっ!それに合わせて会場をセットするからな。」
教室に入った閻魔と鬼男の視界に飛び込むたくさんの衣装を指し示して、太子は言った。ぐるりと教室を見渡した閻魔の目が嬉しそうに輝く。
「え、ここにある服なんでも選んでいいの!?じゃあオレ、セー…」
「セーラー服選んだらぶん殴るから覚悟しろよ変態大王イカ。」
迷わずセーラー服に飛びつこうとした閻魔にすかさず鬼男は釘を刺す。その低い声と鋭い目つきを見て本気だと悟った閻魔は「うぅー、ひどい…」と涙声で肩を落とした。
「まぁまぁ閻魔。色んな服を用意してあるから、なっ!とりあえず一通り見てみんしゃーい。」
「ちぇー、分かったようっ…!」
ぽんぽんとなだめるように肩を叩かれて、しぶしぶといった様子で閻魔は衣装の置いてある区画へ足を進めていった。
「まったく、あいつの頭の中でコスプレはセーラー服しかないのか。」
「どうせみんなに見せるんなら、普段じゃ見られないような衣装がいいよなー?」
「っ…!」
どこか不機嫌そうに呟いた鬼男に、太子はにやにやと楽しげに笑いながら茶々を入れる。その言葉に気まずそうに視線を逸らした鬼男は、何も言わずに自分も衣装の置いてある方へ向かった。
「ねえねえ!鬼男くんってこういうの好きー?」
一足先に衣装を見ていた閻魔は、鬼男が近づいてきたのを確認すると楽しそうに見ていた衣装を手にして声を掛けてくる。いきなり何だと思いながら動きを止めた鬼男の目の前に広げられたのは、ピンク色のナース服とミニスカートの警官服。
「お前マジでいっぺん死んで来いっ!」
「いたたた!痛い、痛い!鬼男くん、それ地味に痛いから!いや、マジで!」
なんでよりによってそんな危うい衣装を選んでくるんだお前は…!と内心焦りながらも、閻魔の小さな頭を片手で思い切り強く掴んでやれば、閻魔は涙目になりながらぺしぺしと鬼男の腕を叩いて離すことを要求する。
「ったく、この変態大王イカが。」
要求どおりすぐに手を離してやって、吐き捨てるように呟く。閻魔は「ちぇっ、好きだと思ったのになぁー」などと不満そうな声を漏らしながら、しぶしぶ持ってきた衣装を元の場所に戻す。
それを横目で見送る鬼男の視界の端に、ふと引っかかるものがあった。よく見なくても分かるそれは、コスプレの王道とも言えるチャイナドレス。色、形もさまざまだが、その中のある一着から鬼男はどうしても目が離せなかった。
「…大王、アンタ…これ着てみませんか?」
気づいたらその一着を手にとって閻魔に声をかけていて。視界に入ったその瞬間から、鬼男は無性にこのチャイナドレスを着た閻魔の姿が見たくて仕方なくなっていたのだ。
「お?意外と乗り気ですか鬼男くん…って、チャイナドレス?またありがちなものを選んだねぇ…」
鬼男の突然の申し出に、別の衣装を見ていた閻魔は振り返りながら答えて、鬼男の手にあるのがチャイナドレスであることに気づくと苦笑混じりに返した。
「ありがちはありがちですけど…僕は大王のチャイナ姿、見たことないんで。この色、大王に似合うと思いません?」
紫色の半袖ロングチャイナドレス。スリットが高めで、胸元から脇、スリットまで開きが続く昔の上海チャイナドレスと同じスタイルだ。脇の部分が斜めになっている以外は等間隔に一字留めのボタンが並ぶ。
普段とは一味違う、艶やかな雰囲気をまとう閻魔の姿が鬼男の中で容易に想像できた。
「似合うと思いません?って聞かれて頷いたら、オレすっごい自信過剰な奴になると思うんだけど。それに…どうせ着るならオレはこっちの方が良いなぁ。」
鬼男の問いに苦笑して答えて、閻魔は並べられたチャイナドレスの中から赤地に金の刺繍が施されたロングチャイナドレスを手に取って見せた。普段の閻魔の様子を見れば確かに無難な選択とも言えるだろう。実際、この色のチャイナドレスを着ても恐らく閻魔には似合う。
「せっかくだからふたつとも着てみたらどうだ?」
鬼男と閻魔が考え込もうとしたところで、タイミング良く太子が声をかけてきた。確かに、想像だけで決めるよりは着てみたほうがよっぽど分かりやすいと思うのだが…
「試着できるならそりゃ嬉しいけどさ…そういうのって、良いの?」
閻魔が声を落として心配そうに尋ねると、鬼男も同じ意見なのか考えあぐねているような視線を太子に向ける。太子はそんな2人を安心させるようににっこり笑って
「大丈夫、大丈夫!どうせ今は空いてるし、閻魔が着てる間に鬼男の衣装を決めれば時間も有効に使えるでおまっ!」
私、あったま良いー!と、自ら褒め称えてくれと言わんばかりに胸を張って答えを返してくれた。
「じゃあ…お言葉に甘えちゃおうかな。オレ、ちょっと着替えてくる。」
太子の言葉と態度を見て安心したのか、閻魔は安堵の笑みをこぼして自分と鬼男が選んだチャイナドレス2着を手に、更衣室に向けて歩き出す。途中、せっかくだからと女生徒から何かを手渡されていた。
「にしても、チャイナドレスかぁ…鬼男もなかなか良い趣味してるよなぁ?」
「良い趣味って…たまたま目に付いただけですよ。」
更衣室に向かう閻魔の背中を見送りながら、茶化すように肘で鬼男を突いて太子が口を開く。鬼男は今更ながら羞恥がこみ上げてきたのか、わずかに頬を染めて目を逸らした。
「ふふーん?まぁ、そういうことにしといてやろう。んで、閻魔はチャイナドレスで決定だろうから今のうちに鬼男の衣装決めないとなぁ…鬼男は何が良い?」
鬼男の反応にやはりニヤニヤと楽しげに笑みを浮かべて答えてから、並べられた衣装に視線を戻した太子は腕組みをしながら本題に入る。
「何が良い?って聞かれても…分かりませんよ、そんなもん。」
見るならまだしも、自分が着るとなれば話は別だ。鬼男は難しい表情で太子の問いにそっけなく答えた。太子も鬼男の返答に期待していたわけではなかったのか、「まぁそうだろうなー」とすぐに独り言のように呟いて、並べられた衣装を眺めるように歩き出す。鬼男も、一応自分のものを選んでいるのだからと後をついて歩き始めた。
「あ、そうだ!閻魔がチャイナドレスなら、中国マフィアっぽく鬼男はスーツとかどうだ?ボスと愛人みたいな感じでさ。」
「先輩、あんた…漫画やドラマの見すぎじゃないですか?ってか、どんな結婚式になるんだよそれ。」
スーツが並べられた区画についた途端、太子がさも名案が浮かんだと言いたげに口を開いたので、鬼男はすかさずツッコミを入れて切り捨てる。
マフィアのボスと愛人でどんな愛の誓いをするって言うんだ。第一そんな重々しい結婚式、祝いにくいったらありゃしねぇ。
「ダメかなぁ…結構面白いと思うぞ?」
「いや、丁重にお断りします。」
なおもその案を勧めようとするので、鬼男ははっきりと意思表示をする。断ったところでふと鬼男の頭の中に、コスプレには抵抗があるしこのまま断り続けていたら着ないですむかもしれないという考えが過ぎった。
「そうかー。じゃあ…んーっと、普通に閻魔がチャイナドレスだから鬼男も中国系の衣装にするか?民族衣装もなんだかんだ言ってたくさんあるからなぁ…」
しかし太子の方はそれを気にした様子もなく、すぐに別の案を口にして今度は中国服や民族衣装のある区画へと歩を進めていく。
「おぉー、すごい!思ったよりも動きやすいこれ!」
鬼男が、やはり避けられないかな…とこっそりため息をついて太子を追いかけようとしたとき、シャラシャラと耳心地の良い綺麗な音と一緒に耳慣れた嬉しそうな声が聞こえた。視線をそちらに向けると、素足に黒のカンフー靴を履いて真っ赤なチャイナドレスを着た閻魔が、金色の細い棒がリングに通された耳飾りを揺らしながら教室の開けたところで楽しそうにくるくる回っていた。
動くたびに耳飾りがぶつかり合って音を立てているのか、似合っていると褒めてはカメラや携帯を片手に騒ぐ生徒たちの要望に応え、写真を撮らせるため移動する閻魔をやけに優美に見せている。
「うはぁ…これは、想像以上だなおに…お?」
太子が閻魔に群がる生徒たちを見ながら鬼男に声をかけて視線を送ったそのときには、すでに鬼男は閻魔のほうに向かって歩き出していた。
「…大王。」
「わっ…!って、鬼男くん?もう…急に引っ張らないでよ、びっくりしただろ。」
後ろから近づき、カメラを構える生徒たちに笑顔を振りまいている閻魔の腕を掴んで引き寄せる鬼男。
「アンタ、今自分がどんな格好してるかよく考えて動いた方がいいですよ。」
「うん?自分で着たんだから分かってるよ?チャイナドレスって、思ったより動きやすいんだね。」
鬼男がたしなめるように言っても、閻魔は意味をよく理解していないらしく腕を引かれたままの体勢で鬼男の胸にもたれかかり、へらっと無邪気に笑って見せた。
「…なんで動きやすいか分かりますか?」
鬼男はため息をつきたくなりながらも、確認をするように問いかけた。なおも写真に収めようと群がる生徒たちへの牽制目的で、閻魔の体はあえて抱き寄せたままにしておく。
「この…スリット?ってやつが、結構深いからだよね。足の動きが制限されないし。」
なんでそんなことを聞くんだろうと首をかしげながらも、閻魔は動き回って気づいたことを素直に口にした。
まったく…この無自覚天然な大王イカをどうしてやろうか。今度こそ、鬼男は盛大にため息をついた。
「鬼男くん…?」
ため息の理由がさっぱり分からず、閻魔は訝しげな表情で名前を呼ぶ。この様子では、鬼男が正直にその深いスリットの持つ魅力と危険性を伝えても首を傾げられてしまうだろう。
「…そうですね。僕が選んだのもそうですが、大王が選んだそれも腿あたりまで深く入っていますから。じゃあ、大王?僕たちが昨日の夜、何をしていたか…覚えていますか?」
どうしたら閻魔が動き回ったりはしゃいだりするのを制限できるか。鬼男は少し考えてから子どもに話しかけるように優しく問いかけた。
「昨日の夜…?」
鬼男の問いかけを復唱して、閻魔は昨夜のことを思い出す。
昨日は学園祭の前日で遅くまで準備をしていた。時間も遅いし、家まで帰るのが面倒だからと自分より学校に近い鬼男の家に泊まって…。
「っ…!」
「目立つところに付けるなっていつも大王が言うんでその通りにしたんですけど、その格好であんまり動き回ると多分…」
「バカ!そういうことはもっと早く言っといてよ!」
思い出したらしく顔を赤くした閻魔に、鬼男はよりはっきりと自覚させるためわざと秘め事のように耳元で小さく言葉にすると、閻魔は慌てて鬼男から離れてスリットの部分を手で押さえながら叫ぶように声を張り上げた。
「僕は見られても構わないというか、むしろ大歓迎なんで。」
所有印なんだから。と心の中で付け足しておく。
「冗談じゃない!たとえ鬼男くんが良くても、こっちが構いまくるって!」
鬼男の追い討ちに、閻魔は恥ずかしさからかつい声を荒げて言い返してしまう。
実際につけてあるのは動き回っても見えない位置なのだが、先ほどのように動き回ったら見えてしまうかもしれない可能性を突きつけられた閻魔は、もうはしゃぎまわることも写真に積極的に写ろうという気持ちにもならなかった。
「ところで…これ、どうしたんです?」
鬼男の牽制と、閻魔自身の拒否によって群がる生徒たちが減ってきたのを確認して、鬼男はずっと気になっていた閻魔の耳元で揺れる耳飾りに手を伸ばしながら声をかける。触れてみれば、閻魔が動いていたときと同じように綺麗な音を奏でた。
「あぁ、これ?さっき着替えようとしたら、絶対似合うからつけてみて欲しいって女の子に言われてさ。…やっぱ変かな?」
鬼男と同じように自分の耳に手を伸ばしてついているのを確認してから質問に答えた閻魔は、様子をうかがうように上目遣いに鬼男を見て聞き返す。周りがどれだけ似合うと褒めてくれても、やはりどうしても気になってしまうのは鬼男の反応。セーラー服は別として、女物の服とアクセサリーを身につけている自分をどう思ったのだろうと、閻魔は少し不安になっていたのだ。
「そんなことないですよ。チャイナドレスも、これも。大王にすごく似合ってます。…もともとアンタは細身なんで、やっぱりラインが綺麗に出るんですね。」
「っ…」
鬼男の口から出たその言葉が、思った以上に優しく愛情に溢れていたことに驚き、目を瞬かせてしまった閻魔。しかし少し間を置いてからすぐ、どこか照れくさそうな笑顔を見せた。
「えへへ…ありがと。でも、あれだよね。こういう服が似合うって言ってもらえるならさ、オレってセーラー服着ても似合うってことになると思わない?」
「…大王?」
照れ隠し半分、本気半分くらいの割合で閻魔が言ってみると、触れたままの耳飾りを指先で弄んでいた鬼男の手がピタリと止まり、わざとらしくにっこりと満面の笑みを見せられる。
「あ…あぁーっと、そうだ!そうそう!この耳飾りを貸してくれた子が、鬼男くんが選んだ方のチャイナドレスも着るなら…って、髪飾りも貸してくれたんだよ!どっちにするか決めないといけないし、鬼男くんが選んでくれたほうも着てみるね!」
まだ諦めてなかったのか?という無言の圧力を感じて…というより、言葉そのものを拳とともに言われるであろうことを感じて、閻魔はそれより先に慌てて話題をすり替えた。攻撃をされる前にと着替える目的でもって鬼男から距離も置く。
「…さっさと行って来い。」
さすがの鬼男もそこまでされてさらに追いかけようとは思わないので、何も言わずに握り締めていた拳の力を抜いて送り出してやることにする。三度目はないからな、と心の中で呟いて。
→②へ
あなたのために出来ること(閻魔×鬼男)
2010/05/28 00:00:00
見ているのかも分からないし、好きかどうかもわからないのですが。さらに言えば、今日で合っているのかも不安(←だから失礼すぎる)なのですが、某やみんさんへの誕生日小説をこっそり。
本当は直接渡して、直接言いたいけど…手段がないし、そもそも恥ずかしすぎるんだぜ!そりゃあもう、いろんな意味で(笑)
誕生日おめでとうございます!生まれてきてくださったこと、出会い関わってくれたことに心からのありがとうを。あなたのことが私は大好きです。無理をしすぎる必要はない、自分のペースで自分らしくやっていけることを願っています。
新たな一年が、素敵なものになりますように…
裁きが終わり、静かになった部屋で筆を走らせる音と印を押す音だけが不規則に聞こえる。形式だけの、しかし手を抜くことは許されない書類処理だ。閻魔大王が目を通し、確認してまとめなければ今日の仕事は終わらない。
「……」
鬼男は邪魔にならないように後片付けと出来上がった書類の確認、整理をしながらこっそりため息をついた。振り分けのときは死者の誘導や問題のある死者への牽制、対応などやることがそこそこあるのだが、それが終わってしまえば後は閻魔大王しか出来ないことばかりで、秘書と言っても出来ることなんてそうあるわけではないことを嫌でも思い知らされる。
「ふぅ…」
疲れをまとった重苦しいため息が閻魔の口からこぼれた。
書類はまだ半分以上残っている。それもそうだろう、数えようという気すら起きないくらいの数の死者を裁いた後で、それと同じか時にはそれ以上の数の書類を一人で確認しているのだから。
「……」
何も言わずに用意しておいた紅茶とケーキをそっと机の端に置く鬼男。手伝うことは出来ないけれど、せめて息抜きくらいになればと思い作っておいたものだ。それを見た閻魔は驚いたように目を瞬かせてから、ふふっと嬉しそうに笑って紅茶を手に取った。
「いつもありがと。君は毎回俺が欲しいなって思ったときに来るからびっくりしちゃうよ。」
閻魔は顔を綻ばせて言うと、一口飲んでから「うん、美味しい」とまた笑う。そんな言葉が返ってくるとは思っても見なくて、今度は鬼男の方が驚き目を見開いてしまった。
「俺さぁ…裁きの後のこの作業ってあんまり好きじゃないんだけどさ。」
鬼男の様子をどこか楽しげに眺めて紅茶を一度ソーサーに戻し、閻魔はぐっと体の凝りを解すように伸びをしながら口を開いた。見ているだけの鬼男にもそれは良く分かったので、「まぁ、そうでしょうね。」と相槌だけ打つ。
「うん。ホントは書類なんてぶちまけて投げ出したいくらいなんだけど」
「それやったらどうなるか分かってんだろうな大王イカ。」
続いて聞こえた不穏な言葉に、鬼男が条件反射とでも言うべきか思わず話を遮って爪を伸ばしてしまうと、閻魔は苦笑して「分かってるよ。」と鬼男をなだめるようにひらひらと手のひらを振って見せた。
「人の話は最後まで聞くものだよ、鬼男くん。投げ出したいくらい好きじゃないんだけど、さ。大切なのはここから。」
「…?」
「今みたいな鬼男くんのちょっとした気配りはもちろん、俺のことを考えて、心配して傍にいてくれる。それだけで、俺はなんだかすごく安心して作業が出来るんだよ。すごく、助かってる。いつも遅くまで付き合ってくれて、気を遣ってくれてありがとね。」
秘め事を話すように悪戯っぽい笑みを浮かべた閻魔に鬼男が首をかしげて続きを促すと、閻魔は鬼男の不安を見透かした様子で言葉を続けた。
「っ…!」
まさかそんな言葉をかけられるとは思っていなくて、鬼男は頬を熱くする。しかしすぐさまハッとしたように俯いて、くるりと閻魔に背を向けた。
「な、何言ってるんですか。僕は、ただっ…疲れてるんでさっさと帰りたいんですよ!だからっ…そ、それ食ったら残りをさっさと終わらせろよ、アホ大王イカ!!」
顔も見ないでそんなことを吐き捨てるように口にして、鬼男は持っていたお盆を片付けるため、という理由を頭の中でつけて執務室から早足で出て行く。
閻魔は黙ってそれを見送ってドアが閉まったことを確認してからくすっと楽しそうに笑みを深める。
「照れちゃってまぁ…可愛いなぁ、鬼男くんてば。」
くすくすと嬉しくて、楽しくて仕方ないと言いたげに笑いながら呟いた閻魔は、鬼男の気遣いと優しさがたっぷり込められたケーキに手を伸ばした。
「ったく…大王イカの、くせに…」
ドアを挟んだ廊下側。閉めてすぐそのドアにもたれかかっていた鬼男は、持っていたお盆を真っ赤な顔で胸に抱きしめて舌打ち混じりにひとりごと。
――今みたいな鬼男くんのちょっとした気配りはもちろん、俺のことを考えて、心配して傍にいてくれる。それだけで、俺はなんだかすごく安心して作業が出来るんだよ。
何も出来ないと、どうしたらもっと役に立てるのだろうと悩んでいたのを見透かしたように言われた言葉が鬼男の頭の中で繰り返された。自分らしくあればいいのだと、それだけで助けになっているんだと、そう言われた気がして。
「嬉しい、なんて…ぜってー言ってやらないんだからな。」
嬉しそうに綻んだ顔でそれだけ呟いて、鬼男は今度こそお盆を片付けるためにドアを離れた。
【終】
―――――――――――――――
短い上になんだかよく分からないお話ですみません。
改めまして、誕生日おめでとうございます!時期的に大分慣れてきて、ちょっと余裕が出てきたくらいでしょうか?
頑張り屋さんで向上心のあるやみんさん。たまには休んで、自分を褒めてあげながら、これから先も楽しみながらやっていってくださいね。やみんさんの新たな一年が幸せと笑顔の溢れるものでありますように!おめでとう、ずっとずっと大好きです!
君に伝えておきたくて(閻魔独白?)
2010/05/26 00:00:00
某無月さんの誕生日祝いをこっそり。しかし、今日で合っているのかかなり不安です。(←なんて奴だ)
私と関わってくださった方々の誕生日は出来る範囲、手段でお祝いしたいと思っているのですが…毎回合っているのかどうか不安になってしまいます。親友の誕生日も毎年祝っているくせに毎年不安になって確認するくらい(^^;
でも、お祝いしたいという気持ちはありますので誕生日の方!近くなったら教えてくだs(殴
すみません、頑張って覚えます。
では、某無月さんの誕生日が今日で合っていると信じて…
誕生日、おめでとうございます。
生まれてきてくれたこと、生きて、私と関わってくれたことに最大の感謝を。
ありがとうございます、新たな一年が少しでも多く幸せと笑顔のある年であることを願って。
誰かにとっては何でもない日なのかもしれない。
でも、オレにとっては特別な…大切な日。
だって、今日がなかったら君と出逢うことはなかった。
君とこうして会話をすることも、笑うことも泣くことも。
ありがとう、生まれてきてくれて。
ありがとう、生きていてくれて。
ありがとう、オレと出会ってくれて。
…何でそんなに驚いた顔するの?
驚く必要ないよ、だって本当のことだろう?
君にはいつも感謝してるんだ。
だから、今日くらいちゃんと言葉にした方が良いかなと思ってさ。
普段は恥ずかしくて誤魔化しちゃうけど、今日は大サービス!
大好きだよ。君がいてくれてホントに良かった。
君と出会ってから、毎日すごく楽しいんだ。
あんなに退屈で嫌になってた仕事も、ちゃんとやってるし!
…え?あー…いや、だってほら、たまには息抜きもしないと、ね?
もうっ、ここは素直に喜ぶとこ!
サボってることとか、セーラー服をこっそり買ってることとかは無視してさ!
これでも結構…恥ずかしいんだからな。
わ、笑うなよ!人が勇気出して言ってるってのに、まったく…
とにかく、最後にこれだけ!
誕生日、おめでとう。
これから先、まだまだ色々あるだろうけど…オレは君のことちゃんと見てるから。
どんな君も大好きだっていうこの気持ちに、偽りも変化もないよ。
新しい一年、君にとって素敵なものにしようね!
――――――――――――――
久々に書くのが独白(?)って言うのは、無謀すぎたね…うん。
途中で閻魔の口調が分からなくなってしまったよ。なんだか、全然違う人(キャラ?)になっている気がしてなりません。すみません。でもひとつの話にするだけの想像力(創造力?)がなかったんだ…orz
無月さん、こんな拙いもので申し訳ないですが…誕生日おめでとうございます!言いたいことは大体上の閻魔(?)が言ってます、はい。
新しい一年を影ながらこっそり応援していますからね(^_^)
昔も今も僕だけが(鬼男×閻魔)
2010/05/04 19:35:15
どうもお久しぶり(?)です。
最近全然書いてないなぁ…書こうと思う気持ちも湧いてこないなぁ…でもだからって何も書かないってのもなぁ…なんてぐるぐるしながらキーボードを叩いています。
とりあえず、いつものように概要(?)を。
・子鬼男くんって、どんな感じかなぁーと妄想。
・子鬼男くんをひざに乗せる閻魔ってどんな感じかなぁーと妄想。
・成長しても子鬼男くんと同じようなことする鬼男くんってどうだろうなぁーと妄想。
・結果→相変わらず糖度高めのバカップルになった。
・けれど文章力は今までで一番ひどい状態orz
こんな感じでいいのなら、追記へどうぞ。なお、読んだ後は誰か他の方の作品を大量に見ることをおススメいたします。それくらい酷いんだ…すみません。
ああ、気分が悪い。
なんで最近はああいう死者ばかりなんだろう。俺は無力だ。
「大王…平気ですか?」
書類整理を終えたらしい鬼男くんが様子をうかがうように声をかけてきた。
「え?何が?よっし、あともう少しだしちゃっちゃと終わらせようか!」
鬼男くんの眉尻が心配そうに下がったのが分かったから、いつものように笑ってやる気十分な態度を見せて答える。すると鬼男くんはため息をついて俺に近づくと、そっと俺の頬に手を伸ばしてきた。
「大王…泣かないでください。」
まったく…相変わらず君には敵わない。
俺がしんどいときはいつだってそう。何も言ってないし、誰にも気づかせない自信があったのに、必ずやって来るんだから。
◇◇◇
「はぁー…勘弁してよ、もう…」
久々に嫌な裁きをしてしまった。事実だけを見れば地獄行きは明白なのに、当の本人はそれを理解するには幼すぎた。まだまだこれからだったのに。突き放すことしか出来ない自分が哀しい。
「だいおー…?」
不意に恐る恐るといった様子の声が聞こえた。
うぅーん、君はなんてタイミングで来るんだよ…。
「うん?何かあった?鬼男くん。」
声のした方に目を向け返事をすると、いつものように笑って見せる。
すると鬼男くんは何を思ったか、小さなこぶしを握り締め俯いて、精一杯の早足でとてとてと近寄ってきた。
「鬼男くん…?」
俺のところまで来るなり椅子に座ってた俺のひざによじ登ると、ぺたっと小さな手のひらで頬に触れてくるものだから、思わず首をかしげて名前を呼んでしまう。
鬼男くんは心配そうに眉尻を下げて口を開いた。
「だいおー…なかないで、ください。」
「えぇ?鬼男くん、変なことを言うね。どうかした?」
ひざに足を乗せて乗り出した状態だった鬼男くんを抱えなおしてちゃんと膝に座らせてから、俺は苦笑して問いかけた。他の子たちはこの笑顔で安心してくれるんだけどなぁ。
「だって…きょうのだいおーは、あったかくなりません。」
「ん?」
俺の頬に触れていた手を下ろし、誤魔化すように俯いて呟いた鬼男くんの言葉が気になって、思わず首を傾げてしまう。あったかくって、何だろう?
「いつものだいおーは、みててあったかくなるのに、きょうはあったかくならなかったです。だいおー、なにかあったですか?」
「あはは…全く、なんで気づいちゃうのかな君は。」
俺、そんなにわかりやすい?こんな子どもに見抜かれちゃうくらい?
「だってぼくは、いつだってだいおーをみてます。だいおーがつらいときは、そばにいるってきめたんです。」
鬼男くんはそんなことを言ってのけると、チュッと可愛らしく俺の頬に口付けてから、眩しいくらいに無邪気で、自信に満ち溢れた笑顔を見せた。
なんでだろう、そのとき俺はその言葉に、その笑顔にすごく安心しちゃったんだ。
◇◇◇
「ありがと、鬼男くん。いつも俺の嘘は君に見抜かれちゃうね。」
頬に触れられた手に自分の手を添えて苦笑すると、鬼男くんも困ったように笑ってからあのときのようにチュッと触れるだけの可愛いキスをしてきた。
「僕はどんなときも、あんたの辛いときはいつだって、傍にいるって決めてますから。」
そのためにはあんたの嘘くらい見抜けないと。と、あのときよりずっと成長した…どこか得意げな笑みを見せて鬼男くんは言った。
「小さい頃から君だけは気づくんだもんなぁ…。ホント敵わないよ。」
思わず嘲笑混じりに呟いてみる。他の子達と鬼男くんと、何がいったい違うんだろう?
「あんたは結構分かりやすいですよ?他のやつらが鈍いんじゃないですか?」
「えぇー、そうかなぁ…」
俺としては上手く隠せていたつもりだから、そういう風にいわれるとちょっとへこむ。でも、今までは誤魔化せてたんだからやっぱり鬼男くんのほうが変なんだよ。とか、自己弁護してみたり。
「…心から笑ってる大王はすごく綺麗で、僕の一目惚れでしたから。」
「え…」
「次に会った大王の笑った顔がそのときと違ったら、誰だって分かるでしょう。」
突然言われたその言葉にとっさに反応できなかった俺に、鬼男くんは背を向けて答えた。誤魔化してるつもりなんだろうけど…耳が真っ赤なのがここからでも分かる。
「あんたの、心からの笑顔がまた見たかったから…それを誰よりも傍で、誰よりも早く見たかったから。そして、もし出来るのなら僕の力で心から笑ってほしかった…から。」
――昔も今も、いつだって僕が…僕だけが。
初めは、幼い子どもの独占欲のようなものだったのかもしれない。
だけど君は…そんな幼い頃からの思いを軸にして、いつも俺の隣にいようとしてくれたんだね。
どうしよう…かなり嬉しい、かも。
「鬼男くんっ…!」
「っ!?」
衝動のまま、あの頃と比べて随分たくましく広くなった背中に飛びついた。突然で何の準備も出来なかっただろうに、しっかり踏みとどまって俺を支えてくれる。
「ありがとう…それから、ずっと大好き!」
あの時俺のひざに乗って差し出してくれた小さな手は、今では俺をしっかり支えて包み込んでくれるまでになりました。
――――――――――――――
リハビリのつもりで書き始めたけど、何これヒドイ^q^
こんな駄作ですみません。最後まで読んでくださりありがとうございます。
うあぁー、やっぱり心から書きたいって思わないとダメなのか…!!orz
誰か私に癒しをください。というか、萌をください。ついこの前までの勢いが嘘のようです。
これはもう…潮時なのか…?(聞くな