模擬結婚式(鬼男×閻魔)①
2010/05/30 18:49:33
ようやく完成しました。模擬結婚式企画、鬼閻編!
ずいぶんと悩み苦しんでしまったような、実はそうでもないような。
とりあえず、話を聞いてくれて参考イラストも描いてくれた某方には大感謝です。
ありがとうございました。
結局どちらも捨てられなくて、両方使うことにしましたよっと^q^
あの案もこっそり(?)取り入れてしまいました。すみません。
そんなわけで、最初とは少し違ったものになりましたが、一応(?)納得いくものになったと思っています。かなり長めですが、お付き合いいただけると幸いです。
・閻魔が乙女だ。
・これ、女体化でもよかったんじゃね?ってくらい乙女イカだ。
・鬼男くんがカッコつけだ。
・これ、もう通常仕様なんじゃね?ってくらいタラシっぽくてカッコつけオニオンだ。
・ぶっちゃけ、チャイナドレスの閻魔(生足)の色気を感じたかっただけだ。
・というか、太子のクラス(3年飛鳥組)の教室はどれだけ広いんだと問いかけたい。
・長すぎて二つに分けることになるってどういうことだ^q^
「ねぇ鬼男くん。太子のクラスが何やってるか、知ってる?」
互いの空き時間に待ち合わせて学園祭を回っていた閻魔と鬼男。興味のあるものはあらかた回ったという頃、閻魔が配られたパンフレットを手に鬼男の顔を見上げて不意に問いかけてきた。
「えーっと…模擬結婚式、でしたっけ。ブライダルコースに進みたい生徒でもいたんですかね。」
閻魔の突然の問いかけに驚きながらも、記憶を手繰って覚えていることを答える鬼男。学園祭で結婚式だなんて、しゃれたことを考え付くものだと思った記憶がある。
「うん。でもね、ただの模擬結婚式じゃないんだー。異性同性はもちろん、血縁だって関係なしのコスプレ結婚式なんだよ。太子のクラスでなら、誰がどんな結婚をしたって祝ってもらえるの。」
素敵でしょう?と楽しげに笑って鬼男の答えに付け足す閻魔に、鬼男は首をかしげた。
「それ、需要あるんですか?やりたがる人、そういない気がするんですけど…」
「分かってないなー、鬼男くん。これはすごいことなんだよ?だってさ、」
訝しげな表情で疑問を投げかける鬼男に、閻魔は中途半端に言葉を切って彼の耳に唇を寄せると
「そこでなら、オレと鬼男くんは堂々と結婚できるんだから。」
小さな声で掠めるように囁いた。
「え…」
「鬼男くんさえ良かったら、だけど…オレ、君と一生を誓いたいなって、思ってるんだよね。」
鬼男の目が驚愕に見開かれるのを見て、閻魔ははにかみ笑顔で付け足した。
◇◇◇
「太子ぃー、今空いてるー?」
「おぉ、閻魔!タイミングいいなー、今終わったところだぞ!」
「空いてるのか…。」
可愛らしい笑顔と一緒にねだられて鬼男が断れるはずもなく、2人は3年飛鳥組の教室までやってきていた。閻魔はご機嫌な様子だが、コスプレということと多くの人の前で閻魔に愛を誓うということに若干の抵抗を感じている鬼男は、あまり乗り気ではないようだ。
「まずは着る服を選ぶでおまっ!それに合わせて会場をセットするからな。」
教室に入った閻魔と鬼男の視界に飛び込むたくさんの衣装を指し示して、太子は言った。ぐるりと教室を見渡した閻魔の目が嬉しそうに輝く。
「え、ここにある服なんでも選んでいいの!?じゃあオレ、セー…」
「セーラー服選んだらぶん殴るから覚悟しろよ変態大王イカ。」
迷わずセーラー服に飛びつこうとした閻魔にすかさず鬼男は釘を刺す。その低い声と鋭い目つきを見て本気だと悟った閻魔は「うぅー、ひどい…」と涙声で肩を落とした。
「まぁまぁ閻魔。色んな服を用意してあるから、なっ!とりあえず一通り見てみんしゃーい。」
「ちぇー、分かったようっ…!」
ぽんぽんとなだめるように肩を叩かれて、しぶしぶといった様子で閻魔は衣装の置いてある区画へ足を進めていった。
「まったく、あいつの頭の中でコスプレはセーラー服しかないのか。」
「どうせみんなに見せるんなら、普段じゃ見られないような衣装がいいよなー?」
「っ…!」
どこか不機嫌そうに呟いた鬼男に、太子はにやにやと楽しげに笑いながら茶々を入れる。その言葉に気まずそうに視線を逸らした鬼男は、何も言わずに自分も衣装の置いてある方へ向かった。
「ねえねえ!鬼男くんってこういうの好きー?」
一足先に衣装を見ていた閻魔は、鬼男が近づいてきたのを確認すると楽しそうに見ていた衣装を手にして声を掛けてくる。いきなり何だと思いながら動きを止めた鬼男の目の前に広げられたのは、ピンク色のナース服とミニスカートの警官服。
「お前マジでいっぺん死んで来いっ!」
「いたたた!痛い、痛い!鬼男くん、それ地味に痛いから!いや、マジで!」
なんでよりによってそんな危うい衣装を選んでくるんだお前は…!と内心焦りながらも、閻魔の小さな頭を片手で思い切り強く掴んでやれば、閻魔は涙目になりながらぺしぺしと鬼男の腕を叩いて離すことを要求する。
「ったく、この変態大王イカが。」
要求どおりすぐに手を離してやって、吐き捨てるように呟く。閻魔は「ちぇっ、好きだと思ったのになぁー」などと不満そうな声を漏らしながら、しぶしぶ持ってきた衣装を元の場所に戻す。
それを横目で見送る鬼男の視界の端に、ふと引っかかるものがあった。よく見なくても分かるそれは、コスプレの王道とも言えるチャイナドレス。色、形もさまざまだが、その中のある一着から鬼男はどうしても目が離せなかった。
「…大王、アンタ…これ着てみませんか?」
気づいたらその一着を手にとって閻魔に声をかけていて。視界に入ったその瞬間から、鬼男は無性にこのチャイナドレスを着た閻魔の姿が見たくて仕方なくなっていたのだ。
「お?意外と乗り気ですか鬼男くん…って、チャイナドレス?またありがちなものを選んだねぇ…」
鬼男の突然の申し出に、別の衣装を見ていた閻魔は振り返りながら答えて、鬼男の手にあるのがチャイナドレスであることに気づくと苦笑混じりに返した。
「ありがちはありがちですけど…僕は大王のチャイナ姿、見たことないんで。この色、大王に似合うと思いません?」
紫色の半袖ロングチャイナドレス。スリットが高めで、胸元から脇、スリットまで開きが続く昔の上海チャイナドレスと同じスタイルだ。脇の部分が斜めになっている以外は等間隔に一字留めのボタンが並ぶ。
普段とは一味違う、艶やかな雰囲気をまとう閻魔の姿が鬼男の中で容易に想像できた。
「似合うと思いません?って聞かれて頷いたら、オレすっごい自信過剰な奴になると思うんだけど。それに…どうせ着るならオレはこっちの方が良いなぁ。」
鬼男の問いに苦笑して答えて、閻魔は並べられたチャイナドレスの中から赤地に金の刺繍が施されたロングチャイナドレスを手に取って見せた。普段の閻魔の様子を見れば確かに無難な選択とも言えるだろう。実際、この色のチャイナドレスを着ても恐らく閻魔には似合う。
「せっかくだからふたつとも着てみたらどうだ?」
鬼男と閻魔が考え込もうとしたところで、タイミング良く太子が声をかけてきた。確かに、想像だけで決めるよりは着てみたほうがよっぽど分かりやすいと思うのだが…
「試着できるならそりゃ嬉しいけどさ…そういうのって、良いの?」
閻魔が声を落として心配そうに尋ねると、鬼男も同じ意見なのか考えあぐねているような視線を太子に向ける。太子はそんな2人を安心させるようににっこり笑って
「大丈夫、大丈夫!どうせ今は空いてるし、閻魔が着てる間に鬼男の衣装を決めれば時間も有効に使えるでおまっ!」
私、あったま良いー!と、自ら褒め称えてくれと言わんばかりに胸を張って答えを返してくれた。
「じゃあ…お言葉に甘えちゃおうかな。オレ、ちょっと着替えてくる。」
太子の言葉と態度を見て安心したのか、閻魔は安堵の笑みをこぼして自分と鬼男が選んだチャイナドレス2着を手に、更衣室に向けて歩き出す。途中、せっかくだからと女生徒から何かを手渡されていた。
「にしても、チャイナドレスかぁ…鬼男もなかなか良い趣味してるよなぁ?」
「良い趣味って…たまたま目に付いただけですよ。」
更衣室に向かう閻魔の背中を見送りながら、茶化すように肘で鬼男を突いて太子が口を開く。鬼男は今更ながら羞恥がこみ上げてきたのか、わずかに頬を染めて目を逸らした。
「ふふーん?まぁ、そういうことにしといてやろう。んで、閻魔はチャイナドレスで決定だろうから今のうちに鬼男の衣装決めないとなぁ…鬼男は何が良い?」
鬼男の反応にやはりニヤニヤと楽しげに笑みを浮かべて答えてから、並べられた衣装に視線を戻した太子は腕組みをしながら本題に入る。
「何が良い?って聞かれても…分かりませんよ、そんなもん。」
見るならまだしも、自分が着るとなれば話は別だ。鬼男は難しい表情で太子の問いにそっけなく答えた。太子も鬼男の返答に期待していたわけではなかったのか、「まぁそうだろうなー」とすぐに独り言のように呟いて、並べられた衣装を眺めるように歩き出す。鬼男も、一応自分のものを選んでいるのだからと後をついて歩き始めた。
「あ、そうだ!閻魔がチャイナドレスなら、中国マフィアっぽく鬼男はスーツとかどうだ?ボスと愛人みたいな感じでさ。」
「先輩、あんた…漫画やドラマの見すぎじゃないですか?ってか、どんな結婚式になるんだよそれ。」
スーツが並べられた区画についた途端、太子がさも名案が浮かんだと言いたげに口を開いたので、鬼男はすかさずツッコミを入れて切り捨てる。
マフィアのボスと愛人でどんな愛の誓いをするって言うんだ。第一そんな重々しい結婚式、祝いにくいったらありゃしねぇ。
「ダメかなぁ…結構面白いと思うぞ?」
「いや、丁重にお断りします。」
なおもその案を勧めようとするので、鬼男ははっきりと意思表示をする。断ったところでふと鬼男の頭の中に、コスプレには抵抗があるしこのまま断り続けていたら着ないですむかもしれないという考えが過ぎった。
「そうかー。じゃあ…んーっと、普通に閻魔がチャイナドレスだから鬼男も中国系の衣装にするか?民族衣装もなんだかんだ言ってたくさんあるからなぁ…」
しかし太子の方はそれを気にした様子もなく、すぐに別の案を口にして今度は中国服や民族衣装のある区画へと歩を進めていく。
「おぉー、すごい!思ったよりも動きやすいこれ!」
鬼男が、やはり避けられないかな…とこっそりため息をついて太子を追いかけようとしたとき、シャラシャラと耳心地の良い綺麗な音と一緒に耳慣れた嬉しそうな声が聞こえた。視線をそちらに向けると、素足に黒のカンフー靴を履いて真っ赤なチャイナドレスを着た閻魔が、金色の細い棒がリングに通された耳飾りを揺らしながら教室の開けたところで楽しそうにくるくる回っていた。
動くたびに耳飾りがぶつかり合って音を立てているのか、似合っていると褒めてはカメラや携帯を片手に騒ぐ生徒たちの要望に応え、写真を撮らせるため移動する閻魔をやけに優美に見せている。
「うはぁ…これは、想像以上だなおに…お?」
太子が閻魔に群がる生徒たちを見ながら鬼男に声をかけて視線を送ったそのときには、すでに鬼男は閻魔のほうに向かって歩き出していた。
「…大王。」
「わっ…!って、鬼男くん?もう…急に引っ張らないでよ、びっくりしただろ。」
後ろから近づき、カメラを構える生徒たちに笑顔を振りまいている閻魔の腕を掴んで引き寄せる鬼男。
「アンタ、今自分がどんな格好してるかよく考えて動いた方がいいですよ。」
「うん?自分で着たんだから分かってるよ?チャイナドレスって、思ったより動きやすいんだね。」
鬼男がたしなめるように言っても、閻魔は意味をよく理解していないらしく腕を引かれたままの体勢で鬼男の胸にもたれかかり、へらっと無邪気に笑って見せた。
「…なんで動きやすいか分かりますか?」
鬼男はため息をつきたくなりながらも、確認をするように問いかけた。なおも写真に収めようと群がる生徒たちへの牽制目的で、閻魔の体はあえて抱き寄せたままにしておく。
「この…スリット?ってやつが、結構深いからだよね。足の動きが制限されないし。」
なんでそんなことを聞くんだろうと首をかしげながらも、閻魔は動き回って気づいたことを素直に口にした。
まったく…この無自覚天然な大王イカをどうしてやろうか。今度こそ、鬼男は盛大にため息をついた。
「鬼男くん…?」
ため息の理由がさっぱり分からず、閻魔は訝しげな表情で名前を呼ぶ。この様子では、鬼男が正直にその深いスリットの持つ魅力と危険性を伝えても首を傾げられてしまうだろう。
「…そうですね。僕が選んだのもそうですが、大王が選んだそれも腿あたりまで深く入っていますから。じゃあ、大王?僕たちが昨日の夜、何をしていたか…覚えていますか?」
どうしたら閻魔が動き回ったりはしゃいだりするのを制限できるか。鬼男は少し考えてから子どもに話しかけるように優しく問いかけた。
「昨日の夜…?」
鬼男の問いかけを復唱して、閻魔は昨夜のことを思い出す。
昨日は学園祭の前日で遅くまで準備をしていた。時間も遅いし、家まで帰るのが面倒だからと自分より学校に近い鬼男の家に泊まって…。
「っ…!」
「目立つところに付けるなっていつも大王が言うんでその通りにしたんですけど、その格好であんまり動き回ると多分…」
「バカ!そういうことはもっと早く言っといてよ!」
思い出したらしく顔を赤くした閻魔に、鬼男はよりはっきりと自覚させるためわざと秘め事のように耳元で小さく言葉にすると、閻魔は慌てて鬼男から離れてスリットの部分を手で押さえながら叫ぶように声を張り上げた。
「僕は見られても構わないというか、むしろ大歓迎なんで。」
所有印なんだから。と心の中で付け足しておく。
「冗談じゃない!たとえ鬼男くんが良くても、こっちが構いまくるって!」
鬼男の追い討ちに、閻魔は恥ずかしさからかつい声を荒げて言い返してしまう。
実際につけてあるのは動き回っても見えない位置なのだが、先ほどのように動き回ったら見えてしまうかもしれない可能性を突きつけられた閻魔は、もうはしゃぎまわることも写真に積極的に写ろうという気持ちにもならなかった。
「ところで…これ、どうしたんです?」
鬼男の牽制と、閻魔自身の拒否によって群がる生徒たちが減ってきたのを確認して、鬼男はずっと気になっていた閻魔の耳元で揺れる耳飾りに手を伸ばしながら声をかける。触れてみれば、閻魔が動いていたときと同じように綺麗な音を奏でた。
「あぁ、これ?さっき着替えようとしたら、絶対似合うからつけてみて欲しいって女の子に言われてさ。…やっぱ変かな?」
鬼男と同じように自分の耳に手を伸ばしてついているのを確認してから質問に答えた閻魔は、様子をうかがうように上目遣いに鬼男を見て聞き返す。周りがどれだけ似合うと褒めてくれても、やはりどうしても気になってしまうのは鬼男の反応。セーラー服は別として、女物の服とアクセサリーを身につけている自分をどう思ったのだろうと、閻魔は少し不安になっていたのだ。
「そんなことないですよ。チャイナドレスも、これも。大王にすごく似合ってます。…もともとアンタは細身なんで、やっぱりラインが綺麗に出るんですね。」
「っ…」
鬼男の口から出たその言葉が、思った以上に優しく愛情に溢れていたことに驚き、目を瞬かせてしまった閻魔。しかし少し間を置いてからすぐ、どこか照れくさそうな笑顔を見せた。
「えへへ…ありがと。でも、あれだよね。こういう服が似合うって言ってもらえるならさ、オレってセーラー服着ても似合うってことになると思わない?」
「…大王?」
照れ隠し半分、本気半分くらいの割合で閻魔が言ってみると、触れたままの耳飾りを指先で弄んでいた鬼男の手がピタリと止まり、わざとらしくにっこりと満面の笑みを見せられる。
「あ…あぁーっと、そうだ!そうそう!この耳飾りを貸してくれた子が、鬼男くんが選んだ方のチャイナドレスも着るなら…って、髪飾りも貸してくれたんだよ!どっちにするか決めないといけないし、鬼男くんが選んでくれたほうも着てみるね!」
まだ諦めてなかったのか?という無言の圧力を感じて…というより、言葉そのものを拳とともに言われるであろうことを感じて、閻魔はそれより先に慌てて話題をすり替えた。攻撃をされる前にと着替える目的でもって鬼男から距離も置く。
「…さっさと行って来い。」
さすがの鬼男もそこまでされてさらに追いかけようとは思わないので、何も言わずに握り締めていた拳の力を抜いて送り出してやることにする。三度目はないからな、と心の中で呟いて。
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