模擬結婚式(鬼男×閻魔)②
2010/05/30 18:52:59
続きです。
やりたいことを全部詰め込むって大変ですよね^q^
「これは褒めてくれるのに、なんでセーラー服はダメなのかなぁ…?」
更衣室の中で自分の姿を改めて見て確認してから、閻魔は首をかしげて呟いた。
いや、別にセーラー服を堂々と着たいとか、着た姿を褒めてほしいとかじゃないよ?うん。買ってみただけなんだって。誰に言うでもなく心の中で言い訳をしながら、閻魔は着ていたチャイナドレスを脱ぐ。
「にしても…鬼男くんってばいつの間につけてたんだろう?全然気づかなかったって言うか、どこにつけたんだよまったく。」
言いながら軽く自分の体を見回してみるけれど、閻魔の目につくところにそれらしい跡はなく。どういう風に動いたら見えるのか、どうしたら見えないのかさっぱり分からなかった。
「もう…鬼男くんのばか。」
仕方ないので小さく悪態をついておくに留め、閻魔は鬼男が選んだチャイナドレスに着替え始める。先ほどまで着ていたチャイナドレスは胸と首のところがボタンになっているだけだったのでかぶらないと着られなかったが、これはスリットまでボタンを外せば羽織るように着られるので着替える分には楽だった。
「よし、っと。後はこれを付けて…付け…んん?」
鬼男の選んだチャイナドレスに着替えてから、女子生徒に渡された髪飾りを付けようとした閻魔だが、傾いてしまったり位置がおかしかったりとどうにも上手く付けられない。しばらく格闘してみたもののやはり上手くいかないので、諦めて付けずに手に持って更衣室を出ることにした。
「着替え終わりましたか?」
「あ、鬼男くん。うん、着替えたんだけど…髪飾りがどうにも上手くつけられなくて。」
更衣室を出ると、着替え終わるのを待っていたのかドアのすぐ横で声をかけられた。声のした方に体を向けた閻魔は、問いに答えてから目下の悩みを打ち明ける。鬼男はそれを聞いた途端「はぁ…?」と理解できないと言いたげに首をかしげた。
「耳飾りが付けられて、なんで髪飾りは出来ないんだよ。髪飾りの方が付けるの楽じゃないですか?」
「う、うるさいなぁっ!鬼男くんはそうでも、オレはこっちの方が苦手なんだよ!」
鬼男の呆れたようなバカにしたような言い方に怒りと羞恥が顔を出してきて、思わず噛み付くように言い返す。しかし鬼男はそんな閻魔の態度を気にした様子もなく、「そうですかそうですか、それは失礼しました。」と、さらにバカにしたような棒読みで返してきた。
「何だよ、もう!鬼男くんのバ」
「ほら、貸してみろ。」
言い方に腹が立った閻魔が怒りを爆発させようとしたところで、言葉とともに差し出される右手。
「え?」
「その髪飾り。つけてやるって言ってんですよ。」
怒りの言葉を遮られた上、そっけなくも優しい気遣いを見せられた閻魔は完全に怒るタイミングを逃してしまって、思わず「あ、うん…」と頷き素直に髪飾りを手渡す。
それを受け取って、試行錯誤の末に乱れてしまった閻魔の髪を手櫛で整えた鬼男は、閻魔の瞳と同じ深い紅色の大きな花の髪飾りを丁寧に付けてやった。葉をイメージしているのか、添えるように一緒に付けられた翡翠色のプレートが小さく揺れる。
「出来ましたよ。」
「ん…ありがと。どう?似合う?」
言って鬼男が手を離すと、付けやすいようにと少し俯いていた閻魔が礼を言いながら顔を上げ、感想が聞きたくてうずうずした様子で笑顔とともに小首を傾げて問いかけてきた。
「っ…!!」
問いかけられて初めて、髪飾りも含めきちんと全体を見た鬼男は、そのあまりの艶やかさに息を飲んだ。首をかしげるというオプションがあったせいもあるのかもしれない。
「似合わない、かな…?やっぱ。」
「あっ、いや…そうじゃなくて!」
鬼男が何も言わないことに不安を覚えたのか、閻魔が落ち込んだ様子で呟くので鬼男は慌てて首を横に振った。
「…?」
「そうじゃなくて、ですね…」
じゃあ、何?と言いたげな目を向けて首をかしげる閻魔に否定を繰り返してから、鬼男はそっと髪飾りに触れて、そのまま髪を梳くように閻魔の頬に手を添えた。
「あまりにも大王が綺麗だったから…少し、見惚れてました。僕にはもったいないくらいですよ。」
「そんなことっ…!」
苦笑して言った鬼男の言葉に驚き、悲しそうな表情で口を開いたところで、リップ音とともに優しく額に触れた柔らかくて温かい感触。
「…愛しています、大王。今みたいに着飾っている大王も、普段の元気で明るく笑っている大王も全て。大王だから…僕はずっと傍にいたいと思うし、いて欲しいと思う。これから先、何があっても…何年経っても、僕はアンタの隣を誰かに渡すつもりはありません。まだまだ未熟な僕ですが…これからの人生、出来るのならば終わりまで。僕が、大王の隣に立ち続けることを許してもらえますか?」
突然過ぎてどう反応したら良いか分からなかったのか、きょとんと鬼男を見上げてくる閻魔にますます愛しさが募って。鬼男は少し照れくさそうに、それでも真剣な眼差しを真っ直ぐに閻魔に向けて、愛しさを…誓いとも言える思いを言葉に乗せた。
「っ、許すも…許さないも、ないよ。オレだって、負けないくらい鬼男くんを思ってるんだよ…?」
嬉しくて、愛しくて。閻魔は胸の奥からこみ上げてくる苦しさを感じながら、今にも瞳から零れ落ちてしまいそうな熱い雫をぐっと堪えて震える声で言葉を紡ぐ。
「…はい。」
「オレが終わる、そのときまで…隣に鬼男くんがいない状況になることは、絶対許さない。ずっと…ずっと、傍にいて。オレも、鬼男くん以外の人の傍にはいたくない、から。大好き…ホントのホントに、好きなんだから!」
相槌を打った鬼男に促されるまま、閻魔も自分の気持ちを我慢できなかった涙と一緒に溢れさせた。口にしてしまったらもう勢いは止まらなくて。閻魔は自分の心も体も全て、何もかもをぶつけるみたいに鬼男の胸に飛び込んだ。
「…知ってます。だから…これから先もずっと、僕たちは一緒ですよ。」
閻魔の体を受け止めてしっかりと自分の腕の中に閉じ込めると、鬼男もあふれ出る愛しさを隠そうともせずに答えを返した。
「おーい、2人とも。着替え終わったんなら結婚式やるから早くこっちに来んしゃい。って、鬼男はまだ着替えてないのか?」
「あ…えーっと…」
会場の準備をしていた太子が閻魔と鬼男の姿を捉えて、声をかけながら近寄ってくる。しかしまだ着替えが終わっていない鬼男を見て、太子は呆れたように問いかけた。
結婚式を挙げることなんてすっかり頭から抜けていた鬼男は、太子の声に困り顔で言いよどむ。たった今、愛の誓いともいえる言葉を口にしたばかりなのに、また大人数の前で同じようなことを言うのは気持ちが安っぽくなる気がして。
「太子…せっかく準備してもらったのに悪いんだけど、オレ今はもう…他の言葉もらいたくないかも。」
その気持ちは閻魔も同じだったようで、気まずそうに鬼男から離れて太子に向き直り、俯き加減に言った。
「ん?」
「オレ…たった今鬼男くんから、すごく嬉しい言葉もらっちゃってさ。」
「鬼男、お前…」
意味が理解できなかった太子が聞き返すと、閻魔は申し訳なさそうに…けれど抑えきれないはにかみ笑顔で言葉を続ける。それを聞いて納得した太子は、不自然に視線を逸らしている鬼男の方を見ながら名前を呼んだ。
「えーっと…」
「何フライングしてんだこらぁーー!!」
「しょうがないじゃないですか!大王の姿を見たらなんか自然と出てきちゃったんですから!」
何か良い言い訳はないかと視線をめぐらせた鬼男を待たず、太子が拳を振り上げて声を張り上げたので、鬼男は言いつくろう余裕もなくただ負けじと声を張り上げて、素直な言葉を口にしてしまうことになった。
「このタラシ男め…!まぁいいか。そういうことなら…閻魔、鬼男。これからもずーっと、幸せにな?」
太子の振り上げた拳は形だけだったのか、鬼男の言葉を受けてすぐに下ろされることになり、どこか悔しそうな呟きの後すぐに嬉しそうな笑顔とともに祝いの言葉をかけられる。
鬼男も閻魔も一瞬理解できなくて言葉に詰まったが、次の瞬間には同じように嬉しそうな笑顔を見せた。
「ありがと、太子。」「ありがとうございます。」
同時に、素直に口をついて出てくる礼の言葉。そんな2人を見て、太子は満足そうに微笑んだ。
――目的とは違っちゃったけど…最高の言葉をもらうことが出来て俺は今、最高に幸せです。
【終】
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式(というか愛の誓い?)に行くまでの長いこと長いこと…^q^
書いている途中、うっかり閻魔が女の子になりかけてて、気づいたときにかなり焦りました。読んでいる途中で若干女の子っぽくなっていたり、女の子に見えたりしたらそれは軌道修正し切れてないんだなと笑ってやってください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!