ずっとあなたに逢いたくて①
2010/01/06 21:25:19
・不意に天国メインでシリアスが書きたくなって書き出した転生学園パロディです。
・私がシリアスを書くとなぜか長くなる不思議。
・結構長いので、4つに分けてあります。
・勢いで書いたので、視点がころころ変わったり意味がよく分からなくなったりしています。
とりあえず、ひとつのまとまり…話として作っているので、そんなに続きものという感じはしないようにしているつもりですが、天国組メインなので飛鳥と細道はそこに繋げるための道作りのようになっています。
お時間に余裕があって、読んでもいいよっていう方はどうぞ。
飛鳥組の出会い。中学生。
ずっと捜し求めている何かがある。それに出逢えたら、どんなに幸せだろう。
――物心がついたときから、ずっと違和感があった。何かを探しているような、何かを待っているような。そこにあるはずのものがないのに、それが何か分からない。そんなもどかしさと物足りなさを、今までずっと感じていた。
「ずっと、待っている気がするんだ。何かは分からないけど…絶対に欠けてたらいけない、大切な何かが確かにあって、それを私はずっと待ってる。いや、もしかしたらそれは私が無くしたもので、今は探しているのかな。」
それは、幼い頃からいつだって心から笑うことはなく、どこか寂しそうにしていた太子がいつか話していたこと。その話を聞いたとき鬼男には何を言っているのかよく分からなかったけれど、太子が何かを求めていることだけは分かった。
それを見つければ、太子はきっと心から楽しそうに笑うのだろうと。
◇◇◇
「今日から後輩が出来るのか…なんか実感湧かないな。」
「でも、鬼男はいい先輩になりそうだよな。面倒見良いし、真面目だけどそれなりに崩れてて親しみやすいもんな~。」
中学2年の春。入学式当日に朝早くから準備に駆り出されていた鬼男と太子は、受付の机と名簿を整頓しながらそんな会話を交わした。そろそろ新入生がやってくる時間で、2人はそのまま受付係となる。新入生の名前を聞き、クラス確認と胸に花を挿してあげる単純な仕事。
「褒められているととって良いのか?それは…」
「んー?そう聞こえなかったか?」
鬼男が怪訝な顔で問いかければ、太子は首をかしげて逆に聞き返してきた。聞こえなかったから聞いてんだよ、と思いながら鬼男が再び口を開こうとしたとき。
「あ…」
「太子?」
不意に太子が真っ直ぐ前を見て動きを止めた。
鬼男が不思議に思って名前を呼んでも太子の目は一点に集中しており、鬼男は首を傾げて同様に太子の視線を追って正面に目を向ける。すると、色素が薄いのか茶色の髪をしたひとりの少年が、少し大きめの学生服を身にまとってこちらに向かってきていた。
「あぁ、新入生か。…おはようございます、君の名前は?」
その姿を捉えて新入生と判断した鬼男は名簿を手に、机の前までやってきた少年に爽やかな笑顔を見せて問いかける。
「あ、はい。おはようございます。えっと、小野妹子と言い…」
机の前に来た瞬間に声をかけられ素直に答えた少年は、途中で不自然に言葉を切って驚いたように太子の顔をじっと見つめた。
太子も彼と同じように驚いたような、けれどどこか嬉しさを滲み出るような表情で見つめ返している。
「…小野くん?」
「あっ、はい!」
そんな2人を不思議に思いつつも、とりあえずは仕事を全うしようと妹子の胸に花を挿してやりながら鬼男が控えめに声をかければ、妹子はハッとしたように視線を鬼男に向けてはっきりと返事をした。
「じゃあ、君は1年1組だから、すぐそこの昇降口から入ってくれるか?後は僕たちみたいな学生が案内してくれるはずだから。」
「はい!ありがとうございます!」
妹子の返事に笑って頷き鬼男が言うと、妹子は礼儀正しくお辞儀をして昇降口へ駆けていく。鬼男はそれを見送ってから、未だに放心状態にある太子に視線を向けてくいっと腕を引っ張った。
「おい、どうしたんだよ太子。あいつに何かあったか?」
「…見つけた。」
「え?」
鬼男が問いかけると、ずっと放心していた太子はとても嬉しそうに笑って呟く。言った言葉が何を意味しているか理解できず聞き返す鬼男に、今度はしっかりと目を向け興奮した様子で口を開いた。
「鬼男!見つけたでおま!小野妹子!!小野妹子だぞ!?聖徳太子に小野妹子!名前だけじゃない、体が覚えてる!!あいつをずっと私は待ってたんだ!」
出会ってから今日まで、ここまで嬉しそうに…子どものようにはしゃぐ太子を鬼男は見たことがなかった。しかしそれをおかしいと思うことはなく、むしろ今まで見てきた中で一番しっくり来る姿に見えた。抵抗もなく『あぁ、これが本来の姿なのだ』と受け入れることが出来た。
「そっか…うん。良かったじゃないか、太子!やっと会えたんだな!」
「ありがとな、鬼男!」
一瞬頭を過ぎった感情には目を向けず蓋をして、鬼男は自分のことのように嬉しそうに笑った。鬼男が一緒になって喜んでやると、太子も眩しいくらいの笑顔を見せて礼の言葉を口にする。
ずっと見てみたかった太子の心からの笑顔。笑顔にさせる存在は、ちゃんと居た。
◇◇◇
――カレーと青ジャージ。それを見るたびどこか懐かしさと寂しさを感じていた。そして、理由も分からずただ会いに行かなきゃ、探しに行かなきゃという衝動に襲われて。
「でも結局、どうしたらいいか分からなくて何も出来なかったんだよなぁ…」
入学式の後、今日から1年ともに過ごすことになる教室で、クラスメイトたちの仲間作りに参加するでもなく妹子はひとり席に着いたまま呟いた。
クラスの仲間作りより何より、受付で会った先輩のことが気になって。どこから出ているのかあの距離でも感じ取れるカレーのにおい。自分をじっと見つめてきた黒い瞳。初めての経験のはずなのに、感じたのは懐かしいという感情とやっと会えたという安心感。
「無限に広がる大宇宙!ここに小野妹子は居るか!?」
突然ガラッと音を立てて不思議な言葉とともに現れた青ジャージ。次の瞬間には自分の所在を尋ねてくるのだから驚いた。妹子は少し戸惑いながらも席を立ち、太子の立つ入り口まで歩み寄る。
「何か用ですか、せんぱ」
「妹子ー!!会いたかったぞっ!!」
「っ、いきなりくっつくんじゃねぇこのアワビがあっ!!」
妹子が問いかける間もなく、太子は大声でそんなことを言って妹子に思いっきり抱きつく。しかし妹子は頭で考えるより先に体が反応して、怒声とともに太子を投げ飛ばしてしまった。
成り行きを見守っていたクラスが、一気に騒然となる。
「あ…っ!す、すみません先輩!大丈夫でしたか!?」
そこでようやく自分が何をしたのか理解した妹子は、慌てて投げ飛ばしてしまった太子に駆け寄って容態を尋ねた。
「へへ…ぐっもーにん…」
「うわあ…驚くほど生気のない笑みだ…」
にへら、と少し不気味にも映る笑みを浮かべて答える太子に妹子は少し嫌そうな顔をして呟いた。
「とりあえず、もうすぐ昼だからモーニングじゃなくてアフタヌーンだぞ、太子。」
そこでようやく廊下にいた鬼男が教室に入ってきて、どうでも良さそうにツッコミを入れる。突然現れた先輩2人の姿に、1年1組の生徒たちはどうしたらいいのか分からずただその場に固まって成り行きを眺めるだけしか出来なかった。
「良いんだよ、こういうのは勢いだって言うじゃないか。」
「ふぅん…いつ誰が言ったんだろうな、そんなこと。」
起き上がって答える太子を涼しげに一蹴して腕を掴んでやると、鬼男は立ち上がる手伝いをしてやった。
強いカレーのにおいも青いジャージ姿も、生まれて初めて見るはずなのにやっぱり妹子の中にある感情は懐かしいだった。名前も知らない、初対面の相手を前に懐かしいと思うのはどういうことだろうと、思わずじっと太子の顔を見つめてしまう妹子。
「…あぁ、そういえばまだ自己紹介もしてなかったっけ。僕は鬼男。こっちは」
「聖徳太子だぞ!よろしくな、妹子!」
妹子の視線に気づき、思い出したように自己紹介をした鬼男の言葉を遮って自ら名前を告げる太子。
やっと会えたという気持ちはあるものの、太子にとってもやはり妹子は初対面。これから親しくなっていくにしても挨拶は重要だと思ったのだろう。
「聖徳、太子…?」
真っ直ぐ差し出された太子の手を見ながら、妹子は考えるように太子の名前を復唱した。
「すごいよなぁ…聖徳太子と小野妹子が同じ中学にいるんだから。」
くすっと笑って鬼男が呟く。
しかし妹子にとってそれは、すごいとか驚きとかそんな言葉で片付けられることではなく。やっとパズルのピースが揃ってちゃんとした絵になったような…そこにいて当たり前の、隣にいたはずのものがやっと戻ってきたような…そんな感覚。
「やっと…やっと、逢えましたね…太子。」
妹子は無意識に、差し出されたままだった太子の腕を掴んで太子に寄り添うと、嬉しそうに小さく言った。
記憶はなくても体が…心が覚えている。別れのそのとき、互いに交わした約束を。
『必ず逢いに行く。』
『きっと、見つけ出してみせますから。』
『だから、そのときまで。』