おにおくんといっしょ!(鬼+子閻?)
2009/12/18 21:59:12
↓の小説を書いているときに、上手くいかなくて行き詰っていたら授業中にふと
「幼児くらいの閻魔が振り分けしてたらどんなだろう…?」
という思いが過ぎり、つい出来心で同時進行で書いておりました。
止まったらこっち、つぎはこっち、という具合にやっていたので良い気分転換と息抜きになっていました。^q^
完成度としてはどっちもどっちってくらい低クオリティですけど…もともとそんなに表現力があるわけでもないのでよしとする。(待て
・閻魔が幼児になっています。
・もはや閻魔という名の別人です。
・閻魔が好きな人は見ないほうが良いと思います
・死者の振り分けというよりお菓子作りになってしまった
・甘さは相変わらず
・ぶっちゃけると閻魔を抱っこする鬼男が書きたかっただけ
・さらに言うなら閻魔を大泣きさせたかっただけ
こんな状態ですが、それでも読むという猛者はどうぞ…
「あなたはてんごく。よくいきました!」
小さな頭には少し大きいように思える『大王』と大きく書かれた帽子を被り、にっこり笑って告げる4~5歳ほどの小さな子ども。澄んだ大きな紅玉の瞳と、触り心地の良さそうな白い頬が特徴的だった。
「天国はこちらです。どうぞ。」
目の前の存在に頭がついていかなくてポカンとしている死者に、子どもの隣に立っていた鬼は表情も変えず天国への扉を指し示す。
「は、はぁ…ありがとう、ございます。」
いまだに状況把握は出来ていなかったが、そう言われてしまったら素直に従うほかないわけで。
死者は不思議そうに首をひねりながらも礼を言って天国の扉をくぐっていった。
「おにおくん、つぎのひとはーぁ?」
「本日は今の方で最後です。大王、お疲れ様でした。」
こてん、と首を傾げて尋ねてくる閻魔に鬼男は柔らかく微笑んで答える。その際、ずれてしまった大きな帽子を直してやることも忘れずに。
「ほんと!?じゃあ、きょうのおしごとおわりなの?!」
途端にぱあっと表情を明るくして、閻魔は勢いよく立ち上がり問いかけてきた。
せっかく直した帽子も、結局閻魔の頭から落ちてしまった。
「はい。本日はもう何もないですよ。」
鬼男は落ちた帽子を拾って机に置いてやりながら、また笑って見せる。
死者の振り分けは必要で重要な仕事だが、鬼男は幼い閻魔に人間の醜い部分を見せるだけでなく、時には感情を殺して死者を突き放さなければいけない辛い行為を続けさせるのが、やはりいい気分ではなくて嫌だった。もっとも、閻魔はそれを頭ではなく体で理解して続けているので、仕事に関して負の感情は見せたことはないが。
「やったぁ!じゃあおやつにしよ、おやつ!」
しかし仕事が終わるのはやはり嬉しいらしく、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねながら閻魔は満面の笑顔で騒いだ。
「分かった分かった。すぐ準備しますから、少し待っててください。」
鬼男はそんな閻魔を見て苦笑すると、なだめるように頭を撫でて言ってやる。すると閻魔はしゅんと肩を落として上目遣いに鬼男を見上げてきた。
「…ここでまってなきゃだめ、なの?」
鬼男の服をきゅっと掴んで、寂しそうな顔をする閻魔。多くの人間を迎え入れ、裁いているここは、閻魔はもちろん今まで来た人間の様々な感情が残っている。そして何より、子どもひとりで待つにはいささか広すぎた。
「ほんと、しょうがない奴ですね…」
理由が分かっているからこそ、閻魔の表情、態度を見て鬼男はため息混じりに呟くと、ひょいと閻魔を抱き上げた。しょうがない奴は間違いなく自分だ、と思わず嘲笑が漏れる。
「わぁーい!だっこだっこ!!」
しかし閻魔はただ単純に一気に近くなった鬼男との距離を喜び、嬉しそうな声ではしゃいで、パタパタと足を動かした。ぎゅうっと首に抱きついて柔らかい頬をすり寄せてくる。
「こら、あんまり暴れてると落としますよ。」
そんな閻魔の喜びように鬼男は考えるのもバカらしくなってきて、いつものように呆れた声で軽く注意する。しっかり支えているし、鬼男の足は調理場へと向かっているのに、閻魔はそれに気づくこともなく慌てて動きを止めて鬼男にきつくしがみついた。
「やーっ!おれ、おとなしくしてる!おとなしくしてるから、おとしちゃヤだぁ~!!」
「ばぁーか。僕はお前を落しませんよ、絶対。でも、歩きにくいんでこのままおとなしくしててくださいね。」
鬼男は泣きそうな声で叫ぶ閻魔を楽しげに見やって、ぽんぽんと慰めるように背中を叩いてやる。
その言葉を聞いて安心したのか、肩の力を抜いてへらっと笑いながら「うんっ!」と閻魔が頷いたのと同じくらいのときに、2人は調理場に着いた。
「きょうのおやつ、なぁーにー?」
閻魔を抱き上げたまま冷蔵庫を開ける鬼男に、閻魔はわくわくした様子で問いかけてくる。
鬼男はあらかじめ作っておいたプリンといくつかのフルーツ、生クリームを取り出してから閻魔を下ろした。
「今日はプリンです。大王、飾り付けてくれますか?」
閻魔用の踏み台を持ってきて、エプロンをつけてやりながら鬼男が言うと、閻魔は驚いたように目を丸くして鬼男を見上げる。
数回ぱちぱちと瞬く様子がどこか可愛らしい。
「おれが、やってもいーの?」
「ちゃんと手を洗ったら、大王の好きなように飾っていいですよ。」
じっと鬼男の目を見つめて尋ねる閻魔の頭をくしゃりと撫でて答えてやる鬼男。閻魔の顔が、嬉しそうの綻んだ。
「うふふ、きこーしのぎじゅつをみせてやる!」
「お前は間違っても貴公子じゃねえし、飾り付けにそんな技術は必要ないだろ。」
やる気十分といった様子の閻魔に鬼男はすかさずツッコミを入れたが、当の本人はもうすでに飾り付けに夢中。
それを確認して、鬼男は自分と閻魔の飲み物を準備し始めた。
「やぁーん!おにおくんたすけてぇ~っ!」
「大王!?」
オレンジジュースをコップに注ぐために目を離したその瞬間に聞こえた閻魔の助けを求める声に驚き、鬼男は何事かと振り返った。頭の中で瞬時に何か問題が起きる要素があったか思い起こしながら。
「ふぇーん、くりーむがきれいにならないよぉ…」
「は…クリー、ム?」
恐らく力を入れすぎたのだろう。パンダの顔のように飾り付けられたフルーツとプリンの上に生クリームが飛び散っていた。
どんなやり方をしたのか、手にも頬にも生クリームをつけて泣きそうにくしゃりと顔を歪めて言った閻魔の言葉に、鬼男は頭が理解するまで時間を要した。
「うぅー、おれのカンカン~…」
「はぁ~…もう、そんなことで叫ばないでくださいよ。何かと思ったじゃねえか…」
今にも溢れ出してしまいそうな位に涙をためてはいるが、閻魔の呟きと姿を見て危険があったわけではないと理解した鬼男は一気に緊張が解け、思わず机に手を突いて失言してしまった。
「そんな…っ、そんなことっていうなぁ!うわぁーん、おにおくんのばかぁ~!!」
閻魔からすれば初めての鬼男の手伝いということもあって、真剣に一生懸命にやっていたのにそれを軽く見られてしまったようで、我慢していたいっぱいに溜まっていた涙はあっという間に溢れ出してしまった。
「あぁーっ、すみません!僕が悪かったです大王!ほら、泣くな泣くな~?」
「おにおくんなんてしらないもんー!ばかおにー!きらいだぁー!!」
慌てて近寄り泣き止ませるように頭を撫でてやるも、一度泣き出してしまうと簡単には泣き止まない。ぽかぽかと泣き喚きながら鬼男の体を叩く閻魔。
頑張っていたことをやり遂げられなかったこと、認められなかったことが悔しくて仕方ないのだろう。
「聞けっ、この大王イカ!!」
閻魔の体を無理矢理自分から離して、鬼男は泣き声より遥かに大きな声で怒鳴った。
「っ…!」
自分の泣き声より大きな声に驚き、閻魔は一瞬ピタリと動きを止める。普通ならそのあとすぐに第二波のようにさらに大きな声で泣き出すところなのだが、そこは鬼男。
一度自分に意識を向けさせたらその隙は逃さない。
「さっきはすみませんでした。お詫びに、今からこのプリンに魔法をかけてやります。よーっく見ててくださいよ?」
鬼男は閻魔と目線を合わせるように少し屈むと、努めて優しく、安心させるように微笑んで告げた。
「まほー…?」
その笑顔と近くなった目線に少し落ち着きを取り戻し、聞き慣れない単語を耳にしたことで閻魔の意識はそのまま泣くこととは別の方向へと向かった。
「はい、魔法です。今から僕の不思議な力で、これをカンカンにしてやりますよ。」
閻魔の問いに頷き、肩を片手で抱き寄せてから、鬼男は悪戯っぽく笑って引き出しからパレットナイフを取り出した。
何をするんだろう、と閻魔の目がプリンに移ったところで飛び散ってしまった生クリームを集め、それを使ってデコレーションケーキのようにプリンを薄く包んでやる。
「…さて、大王?カンカンの顔で黒くなっているところはどこでしたか?」
「え?っと…ん、っと…みみと、めと、それからはな!」
鬼男が閻魔の肩をぽんと叩いて問いかけると、閻魔は突然の問いに少し考えるように視線をさ迷わせてから、にっこり笑って答えた。
「うん、よく出来ました。」
言いながら、いい子いい子と頭を撫でてやり、必要なら最後にかけようと思っていたカラメルを取り出して、閻魔の言ったようにカンカンの顔を描く。すると閻魔の瞳は嬉しそうに輝いて
「すごーい!カンカンだぁー!おにおくん、カンカンできたぁっ!」
かなり興奮した様子で声を上げた。目の前でまるで魔法のようにプリンがカンカンの顔へと姿を変えたのだ、喜ばないはずがない。
「そうですね。でも大王?これは、僕ひとりじゃ出来ませんでした。大王と僕、2人だから出来た魔法なんですよ。」
頬に付けたままにしてしまっていた生クリームを指で拭ってやりながら、鬼男は言い聞かせるように言った。閻魔がいたからこの魔法が使えたんだと、ちゃんと手伝うことは出来ていたのだと暗に伝えるために。
「おれと、おにおくんの…まほう?」
「そう。僕と大王で使った、変身の魔法です。助かりました。ありがとう、大王。」
首を傾げて不思議そうに尋ねてくる閻魔に、鬼男は大きく頷いてもう一度閻魔の頭をくしゃくしゃと撫でてやると、自分が役に立てたということが分かったらしく閻魔は照れくさそうに笑って見せた。
「よし、じゃあプリンも出来たところだし食べましょうか?」
「うん!」
鬼男はそこでようやく閻魔から離れ、つけていたエプロンを外してやりながら声をかけた。閻魔はそれに大きく頷いて、今か今かとエプロンが外されるのを待つ。
「じゃあ大王、先に隣の部屋に行って机を拭いてきてください。」
「わかった!おにおくん、はやくね?はやく!」
エプロンを外し終えてから綺麗なテーブルふきんを閻魔に差し出して、鬼男が言うと待ちきれないのかそわそわした様子でふきんを受け取りそんな言葉を残して喫食室へと駆けて行った。
本当は先に片づけを済ませてしまいたかったのだが、初めて一緒に作ったおやつだ。閻魔だって早く食べたいだろう。
鬼男はとりあえず使った器具を流しに置き、余ったフルーツを冷蔵庫にしまうだけしまって、出来上がったプリンと2人分のジュースをお盆に乗せ、閻魔の待つ喫食室へ向かった。
【終】
――――――――――
はい、本当にただの趣味です!書いてる本人はすごく楽しかったです。
こんな浮気をしているから本当に書きたいものが上手くいかないんですかね…?でも、書きたくなってしまったんだもの!
↓では、いかに鬼男くんをカッコよく書くかに重点を置いていたので、甘い話ばかり書いている私には2人のいちゃつきが足りなかったようです。^q^
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
俺のリズムは君次第(鬼閻)
2009/12/18 21:03:48
色々考えたのですが、私の乏しい想像力では鬼男くんがドラムを叩く場面が学園祭しか浮かばなかったので季節はずれな上、学園パロディとなっています。
躍動感や空気を文章で表現するのは私の技術ではかなり難しいということが判明しました。書きたいことは沢山あったのに、なんだか残念な結果に…
あのイラストのカッコよさ、ドラムの魅力をもっとちゃんと書きたかった…!
文字数オーバーでちょこっと削っています。でも、これはこれで今私が出せる力をちゃんと出せたはず!よろしければお付き合いください。
・学園パロディで学園祭です
・飛鳥組がちょっと出てきてます。
・糖度は相変わらず!…のはず。
・やっぱり乙女な閻魔さま(笑)
・そしてやっぱりカッコつけな鬼男くん(苦笑)
・名前も出ていないが、まったく関係なしの超脇役がちょくちょくいます
「はい、まぁ…。」
閻魔が期待に満ちた瞳で問いかけると、鬼男はにらめっこをしていた楽譜から少しだけ視線を上げて歯切れ悪く答えた。
「でも…あんまり乗り気じゃなさそうだね。」
「いきなり来て“お前しかいないから頼む!”って押し付けられただけなんで。」
鬼男の態度に苦笑して確認すれば、鬼男は楽譜に視線を戻して足でリズムを取りながらバチを動かし返した。
まさか本当に見てくれるとは思っていなくて、閻魔が驚きのあまり硬直してしまうと、途端に口端を上げて余裕のある笑みを見せてくる。わずかな時間で視線は再びドラムに戻ってしまったが、閻魔にはそのときの楽しげな瞳が「惚れましたか?」と問いかけているようにしか見えなかった。
「おに、お…っく…」
【終】
―――――――――
実はなんだか不完全燃焼です、これ。書き直すかもしれない(笑)
頭の中では最高にカッコいい鬼男くんとそんな鬼男くんにドキドキする乙女な閻魔が浮かんでいるのですが、それを上手く表現できず涙目です。
もし良い感じに文章がまとまったら、太子と閻魔が話していたクラスの出し物についても書いてみたいなとか思っている。(バンドが上手く書けなくて悔しいだけ。)
では、こんな季節外れの学園祭にお付き合いいただき、ありがとうございました。
「告白」で曽良受け
2009/11/22 00:05:01
どこまでやるつもりなんだ、と自分に問いかけたくなりました。
しかし、何となくボーっとしていたらシチュエーション(?)が浮かんできてしまったんです。
結論→曽良総受けは難しい。
今回、順番が前回と違うので注意です!
妹曽
鬼曽
太曽
閻曽
芭曽
妹曽
「曽良。」
「何ですか、妹子さ…っん…」
不意に名前を呼ばれて返事をしながら顔を上げた曽良の唇と重なり合う妹子のそれ。しかし、いつものように軽く触れてすぐに離れた。
「…大好きです。」
いまだ息がかかるくらいの距離で目を合わせて、妹子は告白する。
曽良は表情を変えることなく、妹子を見つめ返して
「貴方はいちいち口づけてからでないと言えないのですか。」
ため息混じりに問いかけとも呟きとも取れるような口ぶりで言った。
妹子が何が楽しいのかくすくすと笑って、頬に添えた手をそのままに親指でそっと曽良の唇の形をなぞる。
「だって、曽良の唇…触れると気持ちが良いんだもの。つい口付けたくなるんですよ。」
「物好きな人ですね。僕よりいい人は大勢いると思いますよ。」
妹子の手を軽く払いのけて、ため息混じりに言い返す曽良。
「ダメですよ。例えそうだったとしても、僕はもう曽良しか見えないし曽良以外の人を愛することは出来ない。」
「っ…」
妹子の言葉に息を詰める。表情はさほど変わっていないが、曽良がわずかに視線を逸らしたのが妹子には分かった。
「責任…取ってくださいね?曽良。」
「なっ…!…ん、ぅ…」
曽良の反論は、再び重なり合った唇に遮られてしまった。
―――――――――
鬼曽
「曽良ー…」
読書をしている曽良に声をかける。
「チッ…何ですか、うっとうしい。」
曽良は読書が中断されたのが腹立たしかったのか、顔を上げながら舌打ち混じりに返答した。
「おまっ、舌打ちするか?普通!」
そんな曽良の反応に鬼男もカチンときて、身を乗り出して言い返す。それに対し心底嫌そうに眉根を寄せたと思うと、読書続行の意を示すように視線を鬼男から本に戻した曽良。
「お前なぁ…!」
「うるさいですよ。僕は暇じゃないんです、早く用件を言ってください。」
文句を言おうと口を開いた鬼男を遮り、読書は続けたままだが話を聞くつもりはあるらしく曽良は先を促した。
すると鬼男は待ってましたといわんばかりにニヤリと口元を上げる。
「ん?ただ呼んでみただけ。意味はない。」
鬼男の答えに、ピクリと曽良の眉が動いた。
読んでいた本を閉じ、鬼男の方を苛立ちを隠しもせずに睨む。
「…不愉快です。僕は、あなたのそういうところが大嫌いなんですよ。」
鬼男は変わらず口元に笑みを貼り付けたまま「奇遇だな。」と答えて続ける。
「僕も、お前のそのいちいち攻撃的になるところが大嫌いだよ。」
「僕を攻撃的にしているのはあなたのその態度でしょう。」
「僕を批判する前に自分の性格を振り返ってみたらどうだ?僕でなくたって同じようにするさ。」
ムッとした様子で曽良が言い返しても、鬼男の態度は変わらず。
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。…僕の性格のことをあなたにとやかく言われる筋合いはありません。」
「だったら僕の性格についてもお前が言うことじゃないよな。大きなお世話だ。」
「だからあなたは嫌いなんですよ。…時間を無駄にしました。」
お互いがお互いをにらみつけて、どちらともなく視線を逸らす。
曽良はそのまま本の続きを読み始め、鬼男は何をするでもなく外を眺めた。
「……」
「……」
しばらく黙っていた2人だが、曽良の読書がキリのいいところまでいったのとほぼ同時に、鬼男が曽良の後頭部に手を回して引き寄せた。
「っ…ん…」
自然な流れで重なり合うお互いの唇。口付けたまま鬼男が空いていた手も曽良の背中に回して抱きしめれば、曽良は読んでいた本にしおりを挟んで閉じる。
触れ合う唇から…体から、熱が伝わる。うるさいくらいに早鐘を打つ互いの心臓。長く長く、酸素が入り込む隙間さえ許さないくらいに深い口づけ。
「っ、は…っぁ…」
「お前なんか、嫌いだよ。」
「えぇ…僕も、あなたが嫌いですよ。」
言葉ではうまく伝えられない彼らの、不器用な愛情表現。
―――――――
太曽
「曽良、好きだー!!」
「出会いがしらに気持ちの悪いことを言わないでください。」
曽良の姿を見かけた太子は叫びながら曽良に飛びつこうとするも、あと一歩というところで軽くいなされた。
「気持ち悪…って、私が好きだって言ってんだから受け取れよ!」
曽良の態度に一瞬落ち込みかけた太子だが、勢いよく顔を上げて持ち直し、子どものように両手をばたつかせて声を張り上げる。
曽良はうるさそうに顔をしかめて
「誰も頼んでいません。寄らないでください。臭いんですよ、あなた。」
そう冷たく太子を突き放す。
「おまっ…私は臭くないぞ、断じて!!…なぁ曽良、さすがに私でもへこむぞ…?」
全力で否定したものの、後から落ち込んできたのか太子はがっくりと肩を落として弱々しく呟いた。曽良は面倒くさそうに軽く息を吐く。
「知りませんよそんなこと。僕には関係ありません。」
「っ、関係ないってどういう意味だコラァー!!」
さすがに曽良のその言葉には怒りが沸き起こったのか、太子は言いながら曽良の腕を強く引いて抱き寄せた。
「ちょっ…!」
予測不可能の太子の動きに反応が遅れた曽良はあっという間に太子の腕の中。
「曽良…私たち、一応恋人同士だろう?」
抱き寄せたことで近づいた耳元で、不安げに問いかける太子の言葉に、今度は曽良が怒ったように、けれどどこか悲しみを含んだ様子で眉根を寄せた。
「…一応って何ですか。」
「え?」
うつむいて小さく呟いた曽良の声が聞き取れず、思わず顔を覗き込みながら聞き返す太子。曽良が顔を上げて太子をキッと睨んだ。
「一応って、何ですか?僕は、あの時ちゃんと答えましたよね?」
あの時…大好きだ、付き合って欲しいと告げた太子に、曽良は珍しくわずかに頬を赤らめて自らの思いも言葉に乗せて応えてくれた。
素直に気持ちを言葉にするのが苦手な曽良が、僕もあなたが好きです。と精一杯の勇気と素直さでもって太子に答えたのだ。
「曽良…」
「何度も言わなくたって、ちゃんと理解しています。あなただって、そうであると信じていたのですが…僕の、勘違いでしたか。」
曽良の反論に太子が驚き目を見開いていると、曽良はぷいっとそっぽを向いてそんなことを言う。
きっと気のせいだとは思うが、うつむく曽良の背中が…太子にはなんだか泣いているように見えて。
「ごめん、曽良…。私たち、ちゃんと恋人同士だよな。」
殴られるかな…?なんて思いながらも、そっと後ろから抱きしめてみる。曽良はわずかに身じろぎはしたものの、何も言わず抵抗もしなかった。
「曽良が大好きだから、つい欲張りすぎた。今の言葉で十分だよ…愛してる、曽良…」
「っ、だから耳元で気持ちの悪いことを言わないでくださいと言っているんです!」
「ポピーーーーーー!!!」
耳元での告白に曽良は珍しく声を張り上げて容赦なく攻撃を食らわせると、太子は勢いつきすぎて地面に90%以上刺さった。
はぁ、はぁ…と自らを落ち着かせるように呼吸を繰り返して、最後に大きく深呼吸をした曽良は、熱い頬を誤魔化すように少しうつむき太子に背を向けて立ち去ってしまった。
―――――――
閻曽
「あ、曽良見ぃーつけた!」
きょろきょろと辺りを見回し、見慣れた着物姿を発見した閻魔はがばっと曽良に抱きついた。
「っ…!」
「げふぉっ!?」
一瞬動きを止めたものの、次の瞬間には容赦なく閻魔のわき腹に肘鉄がやってきた。予想以上の痛みに、閻魔は思わず手を離してしゃがみこむ。
「え、ちょっ…い、いきなり何、するの…曽良…」
肘鉄を食らったわき腹を押さえながら涙目で訴える閻魔を、曽良は冷ややかな眼差しで見下ろした。
「それはこちらのセリフです。いきなり何するんですか、閻魔さん。」
「えぇー…だって、曽良の姿見たら抱きつくしかないでしょ。」
よいしょ、とまるで痛みがなくなったかのようにごく普通に立ち上がり、曽良の冷たい問いに楽しげに笑って答える閻魔。
曽良は閻魔の返答を聞いて考えるように眉根を寄せるも、すぐに考えることを放棄したのかため息を吐いていつもの無表情に戻す。
「まったく理解できませんね、その理屈。」
「あーあ、ほーんとつれないなぁ曽良は。もうちょっと何かないのー?」
相変わらず取り付く島もない言葉に、閻魔は落ち込んだような素振りを見せて曽良の頬にそっと触れた。
「触らないでください、うっとうしい。」
「あーらら。」
触れられた手すら煩わしいと言いたげに簡単に叩き落とされる。
大して痛みはないがぷらぷらと叩き落とされてしまった片手を振りながら、閻魔もふぅ…と大きく息を吐き出した。
「曽良さぁ…もう少し素直になったら?」
「なっ…ん…っ!」
言うが早いか、あっという間に距離を縮めて曽良の後頭部に手を回し、唇を重ね合わせる閻魔。逃げようと腕を突っ張る曽良を逃がさないようにしっかりと腰に手を回して、長く深く口づけを続けた。
「っ、は…ぁ…」
突っ張っていた曽良の腕が震え、体から力が抜けてきたところで閻魔がようやく離れれば、銀が細く伸びて二人を繋ぐ。
「曽良…愛してるよ。」
「…っ」
パンッ!と小気味のいい音を立てて曽良が思いっきり閻魔の頬を叩いた。
酸素不足のせいか瞳は潤み、荒い呼吸をしてはいるものの、曽良は明らかに怒りを宿していて。
「いったぁ…ホント素直さも可愛げもない奴だね、曽良は…」
「そん、なもの…僕は必要としてません、から。」
叩かれた頬に軽く触れながら閻魔が呟けば、返ってくるのは敵意剥き出しの濡れた黒曜石の瞳とそんな言葉。
けれど閻魔はその濡れて光っているように見える黒曜石をついつい綺麗だと思ってしまう。いつか自分だけを見つめ映してくれる日を思い描いた。
「まぁ、すぐに落ちられてもつまらないか。いつか君に絶対、俺が好きで仕方ないって思わせてみせるよ。」
「…好きになさい。そんなことは決して有り得ませんから。」
ふふっと楽しげに笑った閻魔を、曽良は対照的に表情を変えず睨みつけた。
―――――――――
芭曽
「あ、曽良くん。ちょっと待って。」
落ち葉舞う山道、一人さっさと先を歩く曽良に不意に芭蕉が声をかけた。曽良はチッと舌打ちしつつも立ち止まり、後ろを振り返る。
「何ですか、芭蕉さん。疲れたから休みたいなんていったら断罪しますよ。日暮れ前にはふもとの村に着かなくてはいけないんですから。」
「それは分かってるって。そんなんじゃなくて…」
鋭く目を光らせて言う曽良に芭蕉は苦笑いで返し不自然なところで言葉を区切ると、軽く背伸びをして曽良の髪に手を伸ばす。が、そのまま動きを止めてしまった。
「…?何ですか。」
「うん。曽良くんの髪にね、紅葉が一枚付いてて。取ってあげようかなって思ったんだけど…」
芭蕉の理解できない行動に眉根を寄せて曽良が問いかけると、芭蕉は答えながらふわりと微笑んだ。
「曽良くんの黒髪とその紅く染まった紅葉があんまりにも似合ってて綺麗だから…取っちゃうのが惜しくてね。」
「っ…馬鹿ですかあなたは。付き合ってられません、先を急ぎますよ。」
芭蕉のその表情と微笑みに照れたのか一瞬動きを止めた曽良だが、すぐさまフイと芭蕉に背を向けて憎まれ口を叩く。
「あっ、ちょっと曽良くん!松尾今結構良いこと言ったと思ったのに!あーあ、紅葉も落ちちゃったじゃない…まったくもー」
言葉の通り歩き出す曽良の背中にそんなことを言い返しながら、背を向けたときに落ちてしまった紅葉を拾い上げた。
「ジジイのくだらない戯言に付き合うほど僕は暇じゃないんです。」
「くだらないことかなぁ、これ…。本当に綺麗だったんだよ?君の姿。」
立ち止まって振り返った曽良のつれない一言に、芭蕉は拾い上げた落ち葉をもてあそびながら視線だけで曽良を見つめる。
舞い落ちる紅葉たちを背景にして、真っ赤な落ち葉越しに絡み合ってしまった視線。茶色の瞳はどこまでも優しい色をしていた。
「っ…」
切り取られたようなその空間に飲み込まれたようにしばし何も考えられなくなっていた曽良は、はっと我に返って芭蕉から視線を外す。すると、ふふっと笑う気配がして先ほどまでの空気があっという間に壊れた。
「曽良くん、曽良くん。今、私に見とれてたでしょ?目をそらしたのは照れを隠すため?いや~、松尾カッコいいもんねぇ…うん、仕方ない仕方ない。」
良い俳句が出来たときと同じようなテンションで持って曽良との距離を縮めてくる芭蕉。事実ではあるが、認めるつもりはないし何より相変わらずのよく分からない自意識過剰なその態度に、腹が立った。
「だまらっしゃい!!」
「もみじっ!!」
容赦なく、思いっきり芭蕉の腹部に攻撃を食らわせる。芭蕉はいつものようによく分からない声を上げて崩れ落ちた。
「曽良くん…あんまりドゥ…」
しくしくと涙を流しながら呟く芭蕉の姿に、曽良はどこか安心していた。あぁ、これでまたいつも通りだ…と。
先ほどまでの雰囲気はもう完全に消え去った。
「…まぁ、旅が終わるまでまだまだ時間もあるし…ね。」
急いては事を仕損じる。
心の中でそんなことを呟きながら、芭蕉は安心して先を足早に歩く曽良の背中を追いかけた。
――君がまだこのままでいたいって思ってるなら。
「とりあえず、このままでいようか。」
まだまだ長い間、2人で旅を続けるんだから。
「芭蕉さん、早くしてください。日が暮れますよ。」
「分かってるってば!もうせっかちだなぁ曽良くんは。」
告白は、またいつかの機会にでも。
――――――――――――
なんだかキス率が急上昇中の「告白」シリーズ(勝手に)です。
曽良くん受けは難しいことが判明。読んだり見たりする分には好きなんですけどねぇ…。
今回一番厄介だったのは芭曽でした。どういう方向でいくかがなかなか決まらず…orz 結局「告白」なのに、告白しないで終わってしまったっていうね。最初はちゃんと告白させるつもりだったんですけど…どうにも、以前読んだものや書いたものと同じような感じになって納得いかず、やめました。
これも、なんか中途半端ですけどww
とりあえず…うちの曽良受けは曽良くんにSっ気がなくなり、攻めの方々がちょっと強気になるようです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ハッピーウェディング!(鬼男×閻魔)
2009/11/14 02:00:54
ただウェディングドレスを着せたいという気持ちだけで書き出したので、まとまりもなく、長い話に…orz
・閻魔女体化です。
・現代パロ(?)です。
・え、鬼男くんどうした!?(カッコつけ的な意味で
・季節感?そんなものないよ!
・悪いのは、結婚式は6月に挙げるものだという誤った認識を私にさせた日本だよ!
・現実的な問題はすべて華麗にスルー
・相変わらずの砂吐き甘々
【終】
―――――――――――
なんだかびみょーな終わり方です。
閻魔にウェディングドレスを着せるために書き始めたはずなのに、なんだか長い上に着る時間が短く、表現もあまりないって言う…。
スカイプで色々衣装について意見をくれた方々、ありがとうございました!しかしあれは、これではなく別パターンの話です。書き切れるかどうか正直分からないくらい行き詰っているので、書けなかったらすみませ(殴
とりあえずは、最後まで読んでいただきありがとうございました!
「告白」で太子受け
2009/10/21 21:20:24
大変だけど、ちょっと楽しくなってきたので続けてみる。
発想力・想像力・創造力に乏しいので似たような話になってたらすみません。
そんなわけで今回は
妹太
曽太
芭太
閻太
鬼太
の順で行きます。初の試みばかりだ…
妹太
「お、このおにぎりうまま!」
太子のいつもの突然の提案によりピクニックにやってきた太子と妹子。
普段は嫌がる妹子だが、今日は違った。
嫌な顔をしつつも時間を作り、太子の希望通りの弁当を作ってやってきた。理由は簡単。いつまでたっても気づかない太子に、はっきり好きだと伝えるためだ。
「…好きですよ。」
おにぎりを食べている太子に、妹子は自分の食べている手を止めて思いを告げる。
太子はそれを聞いて満面の笑みを浮かべると
「お、妹子も好きか!やっぱ妹子はツナが好きなんだな~。」
見当違いの返答をしてきた。
思わずがっくりと肩を落とす妹子。
「よし、そんな妹子におススメなのはこれだ!私が作ったんだぞ、ありがたく食べろ!」
しかしそんな妹子に気づかず、言いながら太子が差し出したのは自分が食べていたツナカレーおにぎり。好きなものを合わせてみましたといわんばかりの具だ。
言葉で伝わらないのなら、行動で表してみようか。
「そうですね、いただきます。」
おにぎりを持つ太子の手を掴んで言うと、妹子はそのままぐいっと彼を引っ張って口の端についていたご飯粒を口付けでとってやった。
「…好きです、太子。」
唇を離して至近距離で目を合わせて二度目の告白。
「妹子…」
「なんですか?」
やっと伝わったか、と思って聞き返す妹子。
「そんなちょっと舐めたくらいじゃ好きな味かどうかわからんだろう!嘘をつくな!」
わざと気づかない振りをしているのか…?妹子は本気で頭を抱えたくなった。
「…ったくもう、鈍すぎにもほどがありますよ!」
「ぅおあっ!?」
深呼吸を一度した後、腕に力をこめて太子をそのまま押し倒す。突然のことに反応できず、声を上げてあっけなく地面に背中をつける太子。
「おにぎりの話じゃありません。太子、あんたのことが好きだって僕は言ってんです。ずっと前から、太子のことを愛してるんです。…この気持ち、受け入れてくれますか?」
「…っ!!」
真っ直ぐ太子を射抜くように見つめて、本日3度目の告白。
今回はちゃんと届いたらしく、太子はかぁっと顔を真っ赤にした。
―――――――
曽太
「曽良って、私のこと好きだろ。」
「…は?何を言っているんですか。自惚れも大概にしたらどうです。」
何の前触れもなく唐突に言い出した太子に、曽良は眉根を寄せて返した。
しかし太子はふふん、と得意げに笑って
「そんなこと言ったって私には分かるぞ。お前は私が好きなんだ。」
びしっと曽良に指を突きつけた。
「その自信はいったいどこから来ているのでしょうね。」
突きつけられた指を軽く叩き落としながら、ため息混じりに答える曽良。
太子は落とされた指を少し不満げに見つめてからパッと顔をあげた。
「空気がな、優しいんだ。どんなに口で酷いこと言われても、叩かれても、目を見れば分かる。嫌われてるわけじゃないって。好かれてる相手の傍にいるのは安心するよな!」
幸せそうにニコニコと笑みを絶やさずに話す太子を見て、曽良もさすがに呆れ顔で。
「…くだらないたわ言ですね。実際に言われたわけでもないのに、良くもまぁそこまで自信が持てるものです。」
そう…曽良は一度だって太子に好きだと言ったことはない。
曲がりなりにも摂政という地位についているのだから、観察力や人を見る目はあるのだろうが…曽良は好きだという態度を見せた覚えもないのになぜここまで自信満々なのか疑問だった。
太子が、まるでいたずらっ子が自分のいたずらを話すようにふふんと得意げに笑う。
「好きと言われたことはないけど、嫌いと言われたこともないからな。」
それにお前、嫌いな奴はとことん無視するだろう?
太子の言葉に、曽良は内心舌打ちした。普段はアホでカレー臭いだけのくせに…どうしてそういうところにはきちんと気づいているのだろうか。
「まったく…本当に幸せな思考回路をしてますね、貴方は。」
「うわっ、た…!?」
言いながら、曽良は太子の腕を引いて自分の方に引き寄せた。
予想していなかった曽良の動きに、太子は抵抗なく曽良の胸に倒れこむ。
「え、ど…どうしたんでおま?」
戸惑う太子をギュッと強く抱きしめて、曽良は口を開いた。
「大変不本意ですが…貴方の言うとおり僕は貴方のことが好きですよ、太子さん。」
―――――――――
芭太
トン、と背中にかかる重み。振り返らなくても分かる、カレーの匂い。
「どうしたの、太子君。何かあった?」
こういう時、太子は顔を見られるのを嫌うことを知っているので、芭蕉はあえて振り返らずに問いかける。
すん、と鼻を鳴らす音。…泣いてる?
「芭蕉さん、は…私のこと、好き…だよね…?」
震えた声でギュッと芭蕉の着物を掴む太子。太子は時々、何があるというわけでもないのに精神的に不安定になる。
普段ふざけて、アホな態度を取っていても、やはり摂政としての仕事や周囲の重圧があるのかもしれない。芭蕉以外には見せない、太子の弱さ。
「うん…好きだよ。頑張ってる太子君も、遊んでる太子君も、こうやって私に甘えてくれる太子君も私は大好き。」
ふっ…と柔らかく笑って、かみ締めるように言い聞かせるように優しく芭蕉は言った。
かすかに太子の肩が震える。
「大丈夫。太子君がいっぱい悩んで、考えてることをを私はよく知ってるし、それが大変だってこともね。遊んで息抜きはしてるけど、みんなには本当に辛い姿は見せないようにしてることもみーんなお見通し。…そんな太子君だから、私は好きになったんだしね。」
「っ…」
太子が息を詰める音と一緒に、芭蕉の背中にじわりと濡れた感触。
「そばにいるよ。太子君が辛いときは、松尾が支えてあげちゃう!だからね、無理しなくていいんだよ。太子君は太子君のまま、思うようにすればいい。私はずっと大好きだよ。」
普段あまり言わない分、こういうときに芭蕉はここぞとばかりに太子に思いを告げる。不安定なときにストレートにはっきりと言われる告白に、太子は何度も救われ、安心していた。
「芭蕉、さん…」
「なぁに、太子君。」
太子が背中から離れたので今度はちゃんと振り返って聞き返す。太子はごしごしと目をこすってからパッと顔を上げて、
「私も、芭蕉さんのこと大好きだぞ!」
目元の赤みも気にならないくらい眩しい笑顔でそう言った。…うん、もういつも通りだよ。
――――――――
閻太
「えーんまー!」
「うわっ、と…なになにー?どうしたの太子?」
声とともにがばっと閻魔に飛びつく太子。
閻魔は突然のことに驚きつつも踏みとどまってニコニコ笑いながら問いかける。太子もにっこり満面の笑みを浮かべた。
「大好きだぞ、閻魔!!」
告白とともにぎゅーっと大使は閻魔に強く抱きついてすり寄る。閻魔はそんな太子に負けないくらい強く抱きしめて、頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ありがと、太子。俺も愛してるよ。」
「私だってずーっと閻魔に恋してるんだからな!忘れんなよ、コラァー!」
腕の中で騒ぐ太子にくすくすと笑って、チュッと額に口付ける。
「うん、知ってる。ちゃんと覚えてるって。あー…このまま太子のこと持ち帰りたいよ。」
閻魔が呟くと、太子はきょとんとした表情を見せた。
「毎日会いに来てるじゃないか。」
「んー…そうなんだけどさ。それじゃあ、足りないんだよね。」
言いながら頬にかかった髪を払って太子と額をあわせ、息がかかるくらいの至近距離。
「太子には俺以外誰も…何も映さないで、俺だけをずっと見てて欲しいんだよね。どこにも行かせないで、俺の世界に閉じ込めちゃいたい。」
妖しく光る赤い瞳。好きで好きでどうしようもなく、いつか抑え切れなくなりそうな衝動。しかし…
「それは困る。」
「あら?」
太子はそんな閻魔の雰囲気を全くキャッチせずにはっきりと告げた。さすがの閻魔も拍子抜け。
「だって、私が閉じこもっちゃったら閻魔に色んな話が出来なくなるじゃないか。閻魔が私の話楽しく聞いてるの、知ってるんだからな。私は閻魔とたくさん話をしたいんだ。閻魔のこと、大好きだからなっ!」
それはつまり、閉じ込めなくたって太子は閻魔のことしか考えていないということで。閻魔のために景色を見て、閻魔のために色んなものを感じ取って、閻魔のためだけに語る。太子の全ては、大好きな閻魔中心に動く。
「まったく…太子にはかなわないね。」
「ふっふー、何てったって私は摂政だからな!すごいんだぞ!」
閻魔の言葉の意味を理解しているのかいないのか。得意げに、まるで自慢するように太子は答えた。
「うん、太子はすごいよ。…俺にはもったいないくらい。」
太子から少し離れて自嘲的な笑みを浮かべる閻魔。この光を自分だけのものにしているというちょっとした罪悪感。
それに気づいたのか、太子が手を伸ばして閻魔の頬を両手で包んだ。
「でもな閻魔。私は閻魔じゃなきゃ…閻魔がいなきゃ嫌だ。ずっと、閻魔と一緒がいい。」
「…可愛いこと言ってくれるね。襲っちゃうよ?」
太子の言葉に閻魔は一瞬ぽかん…とした後、妖艶に微笑んで問いかけた。太子はやっぱり無邪気に笑ってみせる。
「閻魔にならいいぞ。どんとこいだ!」
「ムードも何もあったもんじゃないなぁ…。でも、ま…その方が太子らしいか。…愛してるよ、太子。ずっと、そばにいてね。」
「閻魔こそ、私から逃げるなよ?」
頬に触れる太子の手に自分の手を重ねた閻魔に、太子は少し真剣な目をして言った。
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。」
まぁ、要するにお互い好きすぎてしょうがないってことなんです。
―――――――――
鬼太
「太子…」
2人きりの部屋。鬼男が意を決した様子で太子に声をかけた。
「んー?どした、鬼男。」
その声に反応して、本を読んでいた太子が顔を上げる。
「あ…」
鬼男は何かを言おうと口を開くが、音にならず言葉は出てこない。
「鬼男?」
鬼男の不自然な様子に太子も起き上がって首を傾げる。
「…悪い。なんでもない。」
結局鬼男は目を逸らしてしまった。
たった二文字。それだけなのになぜ言葉にならないのか。
「何だよー、言いたいことがあるならはっきり言うでおまっ!」
鬼男の態度に太子は不満げな表情で続きを促す。
「うっ…あー、だから…そのっ…!」
「うん、何だ?」
言いたい。この思いを言葉にしてちゃんと太子に伝えたい。そう思っているのに、やっぱり喉の辺りにつかえて二文字は出てきてくれない。けれど…いい加減、伝えないと。
太子も続きを待って、じっと鬼男の方を見つめている。…言うタイミングとしては最適だ。
「あの、な…太子…お前が、す…っ」
「…っ」
黙って鬼男の言葉の続きを待つ太子。見つめる瞳には期待が見え隠れしていた。
「す…す、き…っ、すき焼き!すきやきっ…食べたく、ないか…?」
あぁ、まただ。
苦しすぎるごまかし方でぶち壊し。
言いたいことは分かるだろうに、太子は鬼男のその問いかけのまま、んー…と悩んだ態度を見せて答えた。
「どうせ食べるなら、すき焼きよりカレーの方がいいぞ!」
「…あぁ、聞くまでもなく知ってる。」
鬼男は自分の情けなさに内心ちょっと泣きたくなりそうになって、言いながらしゃがみこむ。ひざに顔を埋めて、反省と後悔の嵐。
「なぁ…鬼男?」
「…なんだよ。」
様子をうかがうように名前を呼ばれ、鬼男は少し顔を上げて目だけ太子に向ける。太子も同じように鬼男の目の前にすとん、としゃがみこんだ。
「私は鬼男のこと、大好きだぞ。だから鬼男に触れたいし、触れてもらいたい。…鬼男は違うのか?」
好きなら私に触れてみろ。まるでそう言うようにじっと鬼男を見つめる。いつものように笑っているくせに、瞳は妖艶さを醸し出して鬼男を誘っていた。
「たい、」
「言葉じゃ難しいなら、態度で見せてみろ。鬼男は、私のこと嫌いなのか?」
太子のその色気に、湧き上がる欲望。それを抑えようと、自分を落ち着かせる意味もこめて名前を呼ぼうとした鬼男の声を、唇に人差し指で触れることで遮った太子は、言って妖しい笑みを浮かべる。
――抑える必要なんてないんだ。思いっきりぶつけてみろよ。
それを合図にしたかのように、鬼男の目の色が変わった。
「っ…!」
唇に触れていた太子の腕を強く引いて、無防備な唇に勢いのまま噛み付くように口付ける。重なり、絡み合う唇と舌から鬼男の思いが伝わってくるような気がした。
「っ、は…ぁ…っ」
「迂闊に僕を誘うと、太子の体力が持たないぞ。」
情欲を宿した鬼男の熱い瞳は、誰よりも…何よりも雄弁に、太子への愛情を語っていた。
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まずは、読んでくださりありがとうございました。そして、お疲れ様でした。
「告白」で太子受け…予定外が多すぎました。
決めてたのと全然違う動きをしてくれる攻めの方々に書いてる自分が一番驚いてました。キャラ崩壊もここまで行くともう別の話ですね。すみません。
特に酷かったのは天国組ですね。
閻太は友達の延長みたいなイメージだったのに、なぜか閻魔に監禁願望。
鬼太はヘタレな鬼男くんにするつもりが、誘い受け太子と昼と夜で性格違う感じの鬼男くんに…orz
反省点がたくさんあるのですが、それでも最後まで読んでくださりほんとうにありがとうございました!これからも日々精進していきます!