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学園祭クラス企画(模擬結婚式)②
2010/04/11 21:32:06
続きまして閻鬼(執事×メイド)です。
始まりは同じですが、一応こっちにも書いておきます。
―――【企画の始まり】―――
学園祭当日、3年飛鳥組の教室にはさまざまな衣装が所狭しと並んでいた。誰がどこから持ってきたのか、ウエディングドレスや白無垢はもちろんカラードレスに民族衣装、メイドや執事にチャイナドレスとナース服。まさに何でもありの状態だ。
「それにしても、よくこれだけ集まったなぁ…」
「みんな、意外とそういう趣味が…」
「男物、少なくない?」
持ってきた生徒たちの反応もそれぞれではあるが、自分たちが一番楽しみにしているということだけは確かなようだ。
「教室の飾りつけ、カメラの準備、照明と音楽は出来てるかー?」
「当然!いつでもオッケーだよ!」
太子が全体を見渡しながら声をかけると、女性とのはっきりとした答えが返ってきた。
「よーし、みんな!今日は思いっきり楽しむでおまっ!」
返答を聞いて満足げに頷いて太子が声高らかに告げれば、教室内は一気に沸き起こった。
【閻鬼の場合】
「そうですね。何でしょうか?」
閻魔と鬼男が2人で学園祭を回っていると、3年のある教室に人だかりが出来ていた。興味を持って近づいてみると、そこは3年飛鳥組の教室。
「太子のクラス?あれ、何やってるんだっけ。」
「さぁ…?」
人ごみを縫って教室を覗くのと同時に鳴り響いたクラッカーの音。
「おめでとう!」
「幸せになれよー!!」
どこかの教会を思わせる飾り付けを施された教室の中央で、恥ずかしそうに寄り添う男女とそれを取り囲む多くの客。2人はウエディングドレスとタキシードを着ていたが、教室の隅には多種多様な衣装がずらりと並んでいた。
「わぁー、結婚式かぁ…」
「いや、でも教室の隅にある衣装は明らかに結婚とは関係ないものもあるんですけど。」
閻魔は感心したように呟いたが、鬼男は納得いかないといった表情で言う。ふと、教室の中で衣装を整えていたらしい太子と目が合った。
「おぉー、閻魔に鬼男じゃないか!来てくれたのか!?すごいだろー、私たちのクラスの人気!」
「うん、すごい人気だね。ちょっと羨ましいかもー。」
「太子先輩、ここは何をやっているんです?結婚式…にしては、おかしな衣装が多いですよね。」
閻魔と鬼男の姿を認識した太子は、声をかけながら廊下に立つ2人に近づいてきた。
ニコニコ笑いながら答える閻魔と対照的に、鬼男の方は衣装の違和感が気になるのか真剣な眼差しで問いかけてくる。
「ん?私たち3年飛鳥組は、コスプレ模擬結婚式をやってるんだぞ!好きな衣装や設定で異性・同性・兄弟・姉妹関係無しに誰でも結婚できるんだ。面白いだろう?」
「え、じゃあさじゃあさ!オレと鬼男くんでも出来るってことだよね!?」
「なっ…!」
太子の説明を聞いた途端、閻魔の目が嬉しそうに輝いてそんなことを言い出したので、傍で聞いていた鬼男はカッと顔を赤くして動きを止めた。
「もちろんだぞ。今のカップルが終わったら空いてるから、閻魔と鬼男で結婚式挙げてみるか?」
閻魔の言葉に太子は笑って頷くと、予定表を確認してから誘いの言葉を投げかける。
「え、いいの?!よし、鬼男くん!オレと今から結婚し」
「っ、ざけんなこの変態大王イカがぁっ!!」
「げふぉっ!?」
太子の返答を聞いてますます嬉しそうにした閻魔が、勢いで結婚を申し込もうとしたところで鬼男の方が耐え切れなくなったのか、罵倒とともに思いっきりストレートを食らわせてきた。
気を抜いていた閻魔はその攻撃を見事に受け、吹っ飛ばされる。羞恥を隠すためか落ち着くためか、うつむいて大きく呼吸を繰り返す鬼男に黙ってみていた太子が「なぁ、鬼男?」と声をかけた。
「…何ですか?」
「そんなに警戒するなよー。別に無理に挙げろなんて言うつもりはないって!ただ、色んな衣装そろえたからさ、暇なら見るだけ見ていきんしゃい。なかなか面白いぞ。」
警戒した様子で返事をする鬼男ににこっと無邪気に笑って提案する太子。
確かに、明らかにコスプレ用と言った衣装の方が多いが、中には見たことのない民族衣装や、繊細な作りをしているドレスなど見るだけでも楽しそうなものが揃っている。
「…じゃあ、ちょっとだけ。」
装飾の仕組みやデザインに興味を持った鬼男は、控えめに答えて教室に足を踏み入れた。
結婚をこぶしとともに断られてしまったことがショックで落ち込んでいる閻魔の肩をちょんちょんと突っついた太子は、顔を上げた閻魔に楽しそうに笑って見せた。
「閻魔も見ていきんしゃーい。セーラー服もあるけど、今回のおススメはメイド服でおまっ!」
「んー?うん…まぁ、鬼男くんが見てるならオレも暇になっちゃうしね。」
なぜメイド服なのか気になったが、閻魔も衣装に興味がないわけではなかったので頷いて教室に入る。教室内は、式場としてセッティングするところは広く開けているものの、そこ以外は本当にたくさんの衣装が壁に沿って種類ごとに綺麗に並べられていた。
「こんなの、どこから誰が持ってきたんだ。」
鬼男は端から順に衣装を見ていきながら、どこで入手したのか定かでないような衣装やありがちなデザインの衣装など一着一着丁寧に見ていっていた。
どういう風にデザインして、何を表現しているのか。そんなことを考えるのは嫌いではなかったから。
「あ…」
流れるように衣装を見ていた鬼男の目が、不意に一着の衣装の前で止まった。
真っ黒な燕尾服。うるさすぎない程度に施されたバランスのいい装飾。
「執事服エリア…?」
思わず壁の張り紙を確認するように見上げて、声に出して読んでしまった。
確かにそこ周辺をざっと見てみると、漫画やドラマなどでよく見る執事が着ているような服がたくさん並べてあった。その中で、どうしても鬼男が目を離せない執事服が一着。
「これ…」
「閻魔に似合いそうだよな。」
「ぅわぁっ!?…ちょっ、太子先輩…いきなりなんですか。」
ため息混じりに呟いて確認するようにその服に触れたところで突然後ろから声をかけられて、鬼男はまさしく体を跳ねさせて驚いた。
太子の存在に気づかないほど集中していたのか、それとも太子自身がわざと気配を殺していたのか。
「その服着てる閻魔…見てみたくないか?」
「っ…」
にやり、と口角を上げて悪戯っぽく笑う太子に鬼男は息を詰める。
見たいか見たくないか、と問われれば正直に言って見てみたい。しかしそれはつまりここで結婚式を挙げるということになるのだろう。
「この服なー、実際に執事を雇ってる奴から借りたものなんだ。そいつの家の母親がデザイナーやってて、自分の家の執事のためにデザインしたんだって。それで、今日一日だけ無理言ってお借りしてきたんだ。だから、閻魔に着せるなら今日しかないの。」
「そう、ですか…」
そんな風に説明されてしまうと、どうしても着ている姿が見てみたくなってきてしまう。でも、そうかと言ってすぐに頷けないのは、隣に並ぶ自分の衣装が何になるのか分からないから。式を挙げないで閻魔にだけ着せることは出来ないのだろうか。
「鬼男くん、鬼男くん!オレの一生のお願い聞いて!!」
どうしたらいいか考え込んでいる鬼男の背中に、テンションの高い声が届いた。
「…なんですか、突然。」
「ん?閻魔、どうしたんでおま?」
鬼男と太子は一緒に振り返って、どこか興奮した様子の閻魔に問いかける。
「あ、太子!ここの衣装って、結婚式挙げないと借りれないんだよね?」
「まぁな。そうじゃないと意味がないし、これでもお金かかってるところあるしな。」
閻魔が確認するように尋ねると、太子は困ったように笑って答えた。その返答に「やっぱそうだよねぇ…」と閻魔は苦笑い。鬼男も、閻魔にこの執事服を着てもらうにはやはり結婚式を挙げないといけないのか…と内心肩を落としていた。
「あの、さ…鬼男くん?君は絶対嫌がるって、分かってるよ。分かってるん、だけどさ。でも、今日は学園祭で、お祭りなわけじゃない?お祭りってさ、無礼講って言っちゃ変だけど…よっぽどのことじゃない限り何やっても少しは許されると思うんだよね。」
「はぁ…まぁ、そうですね。」
どういう風に言おうか考えているのか、歯切れ悪く言葉を紡ぐ閻魔に鬼男は何が言いたいのだろう?と考えながらとりあえず相槌を打っておく。
「だからさ、今日だけ…お祭りの、今日だけでいいんだ。誰も本気にしないだろうけど、だからこそ。オレに、君への愛を誓うチャンスをくれない?」
「これ…」
言って、閻魔は後ろ手に持っていた衣装を鬼男の目の前に差し出した。これがもしセーラー服だったら、鬼男は条件反射と言わんばかりに容赦なく閻魔を殴り飛ばしていただろう。しかし、鬼男が渡されたそれは…
「メイド服…ですか?」
「うん。これさ、鬼男くんが着たら絶対可愛いと思うんだよね。これ着て、オレと結婚式挙げてほしいんだ。」
女物で、メイド服であることに間違いはないのだが、良くあるコスプレ用のフリル満載のメイド服というわけではなく、シンプルでしかもボトムタイプのもの。
いったい誰が持ってきたのだろう。
「おぉー、執事とメイドで結婚式か!ちょうどよかったな!これはいい式になるぞー!」
「よし!執事とメイド、屋敷設定で一組入るよ!みんな、準備して!」
「え、ちょっと!?準備早すぎませんか!」
今まで黙って様子を見ていた太子は、差し出されたメイド服を確認するとここぞとばかりに大きな声を張り上げる。それを聞いて、飛鳥組のメンバーは早々に会場セッティングに入ってしまったので、思わず鬼男があせったように声をかけた。
「愛の誓いはどうする?」
「主人のいない間に2人きりで階段!どうよ!」
「最高!」
しかし鬼男の言葉はもはや3年飛鳥組の生徒には届いておらず、どんどん設定と準備は進んでいく。
「僕はまだやるって言ってないんですけど!」
「まぁまぁ鬼男。2人して目に付いた衣装が同じ系統だったって、すごい偶然だと思うぞ?こんな偶然は、いっそ運命とも言えるでおまっ!…この機会を大切にするべきだと思わないか?」
最後まで抵抗しようとする鬼男に、太子はやはり楽しそうに笑ってなだめるように言った。
運命、という言葉にわずかながら鬼男が反応を示す。確かに、それぞれ好きなように衣装を見ていたのに、お互いに似合うと思って気に掛けた衣装が結婚式の設定にちょうどいいものだったのはすごい偶然なのかもしれない、と。
「…まぁ、せっかくの学園祭だし…仕方ないからアンタに付き合ってやりますよ、大王。」
「ホント!?ありがとう、鬼男くん!オレ、鬼男くんのそういうとこ大好き!」
閻魔から受け取った衣装を手にそっけなく答えて、鬼男は更衣室の方へ向かい始めたので閻魔は嬉しそうに顔を綻ばせて大声で鬼男に叫ぶ。
「うっせーアホ大王!恥ずかしいこと言ってねぇでお前もさっさと着替えて来い!」
閻魔の言葉に恥ずかしそうに頬を染めて怒鳴ると、鬼男は乱暴に更衣室のドアを閉めてしまった。
「…だから言っただろ?メイド服がお勧めだってさ。」
ふふん、と得意げに笑って鬼男に聞こえないよう小声で太子は言った。
「やるねぇ、太子。なんか、上手くはめられた気分。」
「そんなつもりはないぞ。鬼男と閻魔好みの衣装を揃えはしたけど、お前らが選ぶかどうかは私にも分からなかったしな。」
「ふぅん…?まあ、そういうことにしといてあげる。じゃあ俺も着替えてくるね。」
苦笑して閻魔が言っても、返ってきたのは変わらぬ笑顔とそんな言葉で。閻魔は首をかしげながらもとりあえずは納得したように頷いて見せて、鬼男が選んだ衣装を手に更衣室に入った。
◇◇◇
「わぁー、鬼男くん可愛い~!」
「っ…!」
着替えて出てきた鬼男の姿を見て、閻魔は嬉々として声を上げた。鬼男は羞恥に頬を染めて、なるべく周りの顔を見ないようにしているのか俯いている。
「準備は出来てるぞ。式を挙げるでおまっ!」
「はいはーい、今行くよー。」
太子の言葉に明るく返して、閻魔はその場から動こうとしない鬼男の手を引いた。
「だ、大王…あの…本気ですか。」
往生際悪く踏みとどまって、鬼男が最終確認といわんばかりに問いかけてくるので閻魔は苦笑して近寄り、そっと頭を撫でてやる。
「本気だよ。他のみんなにとってはお遊びでも、俺の気持ちはいつだって本気。みんなの前で鬼男くんは俺のものだって宣言して、鬼男くんはこんなに可愛いんだって見せびらかしてやりたいんだよね。」
「可愛いって…褒め言葉じゃないですよ、それ。」
「あはは、ごめん。でもホント可愛いよ。ほら、みんな待ってるよ?」
閻魔の言葉に鬼男はどう反応して良いのか分からず顔を背けて答えた。そんな態度の鬼男がますます可愛らしく見えて、閻魔は笑いながら返すと再び優しい手つきで鬼男の腕を引いた。
「では、今回の愛の誓いは『執事とメイド』です。さて今度のカップルはどんなドラマを見せてくれるのでしょうか!」
司会の声とともにみんなの前に現れた執事とメイドに、観客は感嘆の声を漏らす。それくらい閻魔と鬼男にその衣装は似合っていた。
『すみません、わざわざ呼び出してしまって。』
『いえ…でも、何ですか?2人きりで話したい話って。』
着替えているときに渡されたセリフを作られた階段に立って言い合う閻魔と鬼男。
閻魔は楽しそうだが、鬼男の方は誰が書いたんだこの台本…と羞恥を感じながらなのでどこか棒読みである。
『…私の体は、ご主人様に尽くしご主人様が快適にお過ごしいただくために存在しております。』
『はい。それは、私だって。ご主人様のためにご奉仕するのが仕事ですから。』
「体は捧げたけど、心まで渡したつもりはない。俺の心はもうずっと前から、君とともにあることを願ってるよ。心はもちろん、本当なら体だって君以外に渡したくはなかった。」
「えっ…!?」
本来なら次のセリフは『それでも、心だけはあなたのためにありたいと願うことを許していただけませんか?』という控えめなお誘いのはずだったのに、突然セリフと違うことを言い出した閻魔にとっさに反応出来なくて鬼男は驚いて固まってしまう。
「君がもし、これからも俺とともにありたいと思ってくれるのなら…この手を取って一緒に来てほしい。この拘束だらけの世界を一緒に出よう、鬼男くん。」
数段低い位置にいた閻魔は、そう言って白い手袋に包まれた右手を鬼男に差し出した。条件反射とでも言うべきか、思わずそれを掴んでしまう鬼男。同時にぐいっと強く引き寄せられて体が前につんのめる。
「ちょっ…!?」
「ありがとう。これでもう邪魔するものは何もない。これからは、ずっと一緒だよ。」
焦ったように声を上げた鬼男を受け止めて愛しげに抱きしめると、耳元で優しく強い声でもって閻魔は囁いた。
「っ、はい…。すごく、嬉しいです。」
何故か鬼男は閻魔のその言葉に胸が締め付けられるように痛くなって、でも泣きそうなくらい嬉しくて。自らも縋りつくようにぎゅっと強く抱きついて閻魔の腕の中で震えた声で応える。
ドラマのワンシーンを見せられたような気になっていた観客たちが、誰からというわけでもなく拍手が沸き起こった。
「愛してるよ、鬼男くん。俺とずっと一緒に生きよう。…今度こそ。」
「…?」
拍手に紛れて小さく言われた愛の告白とともに言われた言葉に鬼男は首を傾げたが、閻魔はそれ以上何も言わず、ただ黙って鬼男を抱きしめていた。
―――――――――――
想像以上に長くなった件について^q^
すみませんでした!
悩んだ、けど…
2010/03/09 16:14:43
やっぱり公開してしまおう。^q^
天国組の動画で初めて泣いたやつで、私がボカロを知ろうとするきっかけになったものから書いた話です。
「悪.ノ秘.書」
替え歌の歌詞は複数パターンがあったと思うんですけど、私がもとにしたのはこれです。
http://www.nicovideo.jp/watch/nm3970914
歌詞から色んな絵や歌ってみたを回って、それから書いたやつですね。
ここで言っても仕方ないですけど、無断で書いてすみませんでした!懺悔懺悔。
懺悔しても謝罪してもこんなとこじゃ意味ないし問題ありだろ!って方がいらっしゃったら容赦なく言って下さい。
即刻削除いたします。
――大王…僕は、あなたのためならこの手が汚れることなど構わないんです。
「書類処理、まだ終わってませんよ。」
この人は、どうにも書類仕事だけは嫌いのようだ。ある程度溜まってくると、僕の目を盗んでは天国でサボろうとする。
「あちゃー、見つかっちゃった。」
綺麗な花の咲く花畑の中で寝転んでいた大王は、わざとらしくそう言った。
「いつも同じところにいるくせに、見つかったも何もないでしょう。」
ため息混じりに僕が指摘すると、あはは…と乾いた笑いを浮かべる。
「ね…鬼男くん。」
不意に、彼の表情が憂いを帯びた。僕は返事はせずに、目だけで続きを促す。
「みんながみんな、善人だったら良かったのにね。」
「…っ!」
声は努めて明るくしてるけど、表情は明らかに辛そうで。
僕は思わず言葉に詰まってしまった。
「なんてね。さて、戻ろうか。」
大王は僕の表情にふふっと悪戯っぽい笑みを作って起き上がり、歩き始めた。
「誰のせいでここまで来てると思ってんですか。」
背中に声をかけながら、僕は大王の後を追う。
――例え全ての人が悪人で、みんながみんなアンタを恨んだとしても。
「僕があなたを守りますよ。」
「ん?何か言った?」
大王の一歩後ろを歩きながら呟くと、大王は振り返って聞き返してきた。
「いえ、何でもないです。それより早く戻って仕事しろ、大王イカ。」
「イカってまた言った!!」
――そう…アンタはそうやって笑ってて下さい。
◇◇◇
「これから、地獄の見回りに行くよ。」
「おともします。」
死者の裁きを終えた大王の言葉に、僕はすかさず声をかけた。
大王は少しだけ微笑んで地獄への階段を降り、僕もそれに従う。
「っ…」
地獄の責め苦に耐える死者たちを見て、大王はまるで自分がそれを受けているかのように表情を固くする。
これは罪を償わせるためにやっていることで、罪を償わなければ転生はできない。
分かっているはずなのに…
「ごめん、ね…」
小さく、絞り出すように大王は呟いた。
「だい…」
声をかけようとして、出来なかった。
あまりにも悲しげに微笑むから。声を、かけてはいけない気がした。
「っ…」
拳を握りしめて、大王の後ろをついて歩く。
大王に地獄送りにされた亡者たちが恨みの目を向けてくる。恨み辛みの言葉を大王に投げかけてくる。
…大王は、何も言わなかった。
「彼らが罰に苦しむのは、オレのせいなんだよね…」
見回りを終えた帰り道、大王がポツリと呟いた。
アンタの裁きは誰よりも公平で、何よりも正しい。何も間違ってないし、責められる理由も自分を責める理由もないのに、なんで…
「っ…」
「わ、え…ちょっと、鬼男くん!?」
気付けば、涙が溢れ出していた。
「何で泣いてるの…?」
「っ、ふ…っく…」
本当に泣きたいのは、大王のはずなのに。僕が泣く理由なんてないはずなのに。
情けない話、ボロボロと勝手に溢れてくる涙を止める術を僕は持っていなかった。
◇◇◇
「これにしよっかなぁ~、やっぱこっち?」
地獄から戻ってすぐ、大王は先程までのシリアスを返上するみたいにハイテンションで何かを選んでいた。
休憩のために僕がお茶を淹れて戻ってくると…
「あ…」
今まさにセーラー服を着ようとしている大王と目が合った。
「いや、これは違うよっ?うん、ただちょっと七つ道具の整理を、さ…」
「セーラー服は止めろって、何度言えば分かるんだお前は!!」
慌てて弁解しようとする大王を思いっきり蹴飛ばす。
「げふぅっ!相変わらず暴力的だな、鬼男くん…!」
「お前の行動が僕を暴力的にしてんだよ!!」
いつも通りのやり取りに、大王は楽しそうに笑った。何も考えてないように思えるくらい、無邪気に。
◇◇◇
「あなたは…地獄だよ。」
最近やって来る死者は悪人ばかりだった。来る者来る者、地獄という判決に異議を唱えて大王に罵声を浴びさせる。
大王は黙ってそれを聞き、相手が言い尽くしたところで再び地獄を宣告した。
「地獄も、いっぱいになっちゃいそうだね…。」
強制的に連れていかれる悪人の後ろ姿を無感動に見つめながら、大王は呟く。
裁きを待つ列をざっと見たところ、恐らく今日も大半は地獄行きの死者だろう。…大王が、列には聞こえないくらい小さくため息を吐いた。
「次の方、どうぞ。」
呼ばれて目の前にやって来た死者の顔を見、閻魔帳をパラパラと捲る。
「君も、地獄だね。」
真っ直ぐ相手の目を見据えて、大王は言った。
「そんな…なんでですか!?」
目に涙を浮かべて問いかける死者。
善人ぶっているけど、その身に染み付いている血の臭いが僕にも分かる。相当な数の人間を殺しているのだろう。
「14人。」
大王の告げた人数に彼の肩が震えた。
大王は淡々と閻魔帳の文字を読み上げていく。
「最初に殺したのは家族。両親と妹。次は幼馴染み。そして、自分のクラスメイト…。よくもまぁ、こんなにも殺せたもんだね。」
「っ…」
「…天国に行けると、本気で思ってるの?」
すっ、と目を細めて冷たく問いかける。
「ぁ…あぁ…」
悪人は身動きひとつとれず、引きずられるようにして地獄へ連れて行かれた。あの目を向けられて抵抗できる奴はそういないだろう。
「次…」
僕が顔を上げたとき、何かが光った。…次の死者の手は、懐の中。
大王は俯いて、次のチェックをしている。
「大王っ…!」
「え…?」
大王が顔を上げたときにはすでにナイフがこちらに向かってきていて、僕はその目の前に飛び出す。
「死ねっ!!」
死者はそれでもナイフを僕に突きつけてきた。が、ナイフが届くより先に、僕は爪を伸ばして死者に突き立てていた。
「おに、お…くん…」
大王が震えた声で僕を呼ぶ。
獄卒が死者に手をかけるなんて、決してあってはいけないことだ。そのために、大王は不死身でもあるのだから。
ただの塊となったこれは、転生の機会を失った。
「オレ…ナイフで刺されたって、死なないんだよ…?」
立ち上がり、返り血で濡れた僕の腕を掴んで大王は言う。
「…知ってます。」
大王の方は見ないで短く答える。
「取り押さえればそれで良かったのに、なんで…!」
血が苦手なくせに、震える手で僕の腕にすがり付くように抱きついてきた。
「あの距離で大王が刺される前に取り押さえるのは、さすがに僕でも無理です。」
それでも僕は大王の方は見ず、抱き返すこともしない。
罪人となった僕は、大王に触れる資格はない。
「だったらオレが刺されてからだって…!」
「お前を守れなかったら何のために傍にいるか分からないだろ!」
思わず怒鳴った。
びくっ、と大王の体が震える。それから泣くのを我慢するように顔を歪めた。
「まぁ、いずれにしても僕はもう罪人です。あなたの秘書ではいられない。」
「っ…」
大王が息を飲む。僕は大王と距離を置いて向き直り、深く頭を下げる。
「すみませんでした…大王。」
謝罪の言葉を述べて顔を上げると…
「っ!」
大王は、泣いていた。
ボロボロと溢れる涙を拭おうともせず、綺麗に。
「オレの秘書は、一人だけだから。」
「…っ」
「オレの傍に立つ鬼は、一人しか、認めないから。」
「だい、おう…」
情けなくも震え掠れた声で大王の名前を呼ぶ。
――もしも…また秘書にしてくれるなら、その時は。
「必ず、お供してよね…鬼男くん。」
大王は、やっぱり涙を拭うこともせずに微笑んだ。
【終】
―――――――――――――――
懐かしいなぁ…そして酷いなぁ…^q^
最後まで読んでくださりありがとうございました。
意地悪(閻魔×鬼男)
2010/03/05 21:34:35
ものすごく恥ずかしいですが、初めて書いた天国小説です。
うん…初心を忘れないために?
陵に献上したお話です。サイトに載せていたものなので、ちょっと妖しい雰囲気があります。
日和を読んで最初に私が思った天国CPは実は閻鬼だったんです。
あれ?これ、前にも書いたっけ?
・意地悪で余裕のある閻魔
・初々しくて(?)なんだか手馴れていない感じの鬼男くん
・なんという別人フラグ^q^
「大王、今日ここに来た人の確認を…」
僕が書類を手に大王の部屋に入ると、あろうことか大王は机にうつ伏して寝息を立てていた。
まだ仕事はかなり残ってるのに、この人は…
「普段くだらないことばかりやってるからですよ…」
僕は呟いて書類を机に置くと、薄手の毛布を持ってきて大王の肩にそっと掛けた。
「さて、と…」
今日中に仕上げないといけない書類、どうするかな。とりあえず気休め程度に部屋を見回す。
「鬼男くんは、やっぱりオレに甘いよね。」
「え…」
不意に隣から聞こえた声に驚いて、一瞬動きが止まった僕を、大王は器用にも自分の机の上に押し倒した。
「なっ、アンタ起きてたのか!?」
「寝てたよ?でもオレ…鬼男くんの気配には敏感なんだよねぇ~。」
僕が焦ったように問いかけると、大王はそう言って、得意気にくすっと笑った。
悔しいけど、僕はこの人のこの表情がたまらなく好きだったりする。でも…
「起きたんなら、残りの仕事片付けてください。」
今は仕事優先だ。このままでは書類がたまる一方だから。
「えー、やだ~。紙ばっか見てもう飽きちゃった。鬼男くん、構ってよ~。」
「何ガキみたいなこと言ってんだこの…っ」
子供みたいなことを言う大王に、いつも通り爪を伸ばそうとして…できなかった。
「っ…!」
大王が、爪を伸ばそうとした方の腕を掴んで指先に口付けてきたから。
「どうしたの?鬼男くん。今、爪伸ばそうとしたよね?」
ちゅっ、とわざとらしく音を立てて聞いてくるこの人は、確実に確信犯だ。
「し、してません…っ!」
顔が熱いのを自覚していたから、それを見られるのが嫌で顔を背ける。
この机の上では、全く意味のない行動だけど。
「顔真っ赤だよ?」
案の定大王は凄く楽しそうに指摘してくる。
「うるさいっ…この、変態大王イカ…!」
苦し紛れに悪態をつくけど、大王はそれすら楽しげで。
「知ってる?鬼男くん。オレ…君にそういう風に言われるの、結構好きなんだよね。」
「っあ…!」
首筋に大王の吐息がかかったと思ったら、すぐに濡れた感触が襲った。
くそっ…こんな簡単に反応するなよ…!
「ね…このまましちゃってもいい?」
「っ、良い訳ねーだろこの変態セーラー野郎っ!!」
今度こそ大王を思いっきり蹴飛ばした。
ようやく無理な体制から解放された僕は、乱れた衣服を整えながら立ち上がる。
「げほっ…ちょっ、鬼男くん…今のはさすがにひどくないっ…?」
腹を思いっきり蹴ってしまったので、さすがの大王も苦しいらしい。
でも、そんなことは関係ない。
「セクハラで訴えられないだけマシだと思え。」
ふんっ、とそっぽを向いて吐き捨てる。だが、それがいけなかった。
「ふぅん…どこに訴えるの?」
「っ…!」
大王に背を向けてしまったばっかりに、いとも容易く後ろから抱きすくめられてしまった。大王の匂いをすぐ近くに感じて、不覚にも胸が高鳴る。
「鬼男くん…」
「あ…」
耳元で名前を呼ばれると、もう駄目だった。全身の力が抜けて、前に回された大王の腕に触れることで体を支える形になる。
「顔…見せてよ。」
僕は、大王の声に操られるように顔を上げた。するといつだって大王は満足げに微笑んで、唇を重ねてくれる。
「ん…ふっ、ぅ…」
大王の温もりも、匂いも、この感触も、僕はどうしようもないくらいに好きで、最近は離れてしまうのを恐れるようになってしまった。
今も、ずっとこのままでいれたら…なんて考えている。
「鬼男くん…」
少しだけ唇を離して、大王が僕の名前を呼ぶ。
「大好きだよ。」
あぁ…もう。だから早く離れたかったのに。
「大王…」
僕がもう抵抗しないと分かったらしい大王が、腕の力を緩めてくれたので、僕は向き直って大王の服を掴む。
僕も好きですなんて、絶対に言えないから。
「…鬼男くんって、時々可愛いことするよね。」
大王は困ったように笑って、僕に口付けた。
「ん…っ、ぅ…」
大王からのキスに応えながら、薄目を開けて大王の顔を盗み見る。
目が伏せられてて、あの綺麗な深紅の瞳を見ることは叶わなかったけど、間近で見る大王の顔は色が白く、整っていて、なんだか僕と正反対だなと思った。
「ん…!」
不意に、ひやっとした何かが僕の腹部に触れた。驚き目を見開くと、大王が楽しげに笑っている。いつのまにか壁に追いやられてて、気付けば逃げ道がなかった。
この野郎、わざとだな…!
「んぁっ!」
大王の手が、服の下で僕の肌を撫でる感覚に、僕の意思とは関係なしに身体が震えた。
「ちょっ、だいお…やめっ…!」
首筋に顔を埋める大王の肩を必死で押すけど、全然退く気配はない。
いつの間にこんな力…違う。僕の方の力が抜けてるのか。
「なんで?ついさっきまで、鬼男くんもその気だったでしょ?」
「や…っ!」
首元に唇を近づけたまま上目使いで大王が喋るから、吐息が首にかかってゾクゾクしてくる。大王を退かすために肩に置いていた手は、いつの間にか僕自身が立っているための支えになっていた。
「今の君…凄く可愛い顔してる。」
「るっ、せ…言うなっ…!」
アンタの顔も大概妙な色気出しててカッコいいんだよ…!
絶対口には出さないけど、心の中でそう言い返す。
「素直じゃないなぁ…」
僕の答えに肩を竦めて、大王は笑った。
「まぁ、そんなところも大好きなんだけど…」
言いながら大王は服の中に入れていた手を引き抜き、僕から離れた。
え…?と不思議そうに大王を見上げると、大王は妖しく微笑んで
「追加書類ってこれだよね。」
と、机の方に向かってしまった。
「は、い…そうです、けど…」
理由も分からぬままただ問いに頷くと、大王はもう何事もなかったかのように残りの書類に目を通し始める。
僕はずるずると壁に背を預けて座り込んだ。
「なんで…」
「ん?何がー?」
思わず呟くと、大王はそ知らぬ顔で聞き返し、目が合ったら楽しそうに笑った。
「っ…!」
笑った顔が言っている。
――続きがしてほしかったら、君から誘ってごらん?
この人は時々、普段の仕返しをするかのようにこういうことをする。
やったこともないことをやるのが、どれだけ難しくて恥ずかしいことか分かってるんだろう。
「鬼男くんー?そんなところに座り込んでないでこっちにおいでよ。」
にやにやとどこまでも楽しそうに僕に言う。
「分かってます…!」
目的が何であれ、大王が仕事をしているのに僕がいつまでも座っているわけにはいかない。
「はい、これでいい?」
僕が近づいてすぐ、大王は確認の終わった書類を渡してくる。それを受け取って、軽く目を通した。
形だけじゃなく、本当にしっかりやってある。
「はい。この調子でお願いします。」
このまま僕が何もしなければ、真面目になるんじゃないか?コイツ…
「……」
しばらく会話もせずに、ただ紙をめくる音と筆を走らせる音だけが不規則に部屋に響く。僕は大王のそばで、仕事をする大王をじっと見つめた。
「……」
机に頬杖をついて、書類を眺めるために軽く目を伏せる大王の表情からは、何を思っているか読み取れない。
少し疲れたように薄く口を開けて息を吐き、乾きを潤すように唇を舐める舌。
書類をめくる指は細くて、凄く綺麗だ。
「っ…」
仕事をする大王は、こんなにもカッコいい。見ているだけで胸が騒ぎ出すのが分かった。…でも、いつもなら時々僕の存在を確認するように上げる顔が、今は一度も上がらない。
それだけで、そんなに長いこと時間が経ってる訳じゃないのに、凄く長く感じた。
ただでさえ、さっき中途半端に投げ出されて欲求不満なのに…
「…鬼男くん?」
大王が顔を上げて、僕を呼んだ。
「なっ、なんですか?」
あまりにも突然だったから、声が上擦ってしまった。
すると大王はふふっと笑って
「ひょっとして無自覚?…手。」
僕の手に目を向けた。それにつられるように僕もそちらに目を向ける。
「あっ…!」
僕は慌てて無意識のうちに大王の服を掴んでいた手を離した。
「寂しかった?」
「っ、なわけないだろ!仕事しろ、さっさと!」
僕の様子を窺うように問いかけてくる大王に、僕はまた思っていたのと違うことを叫んでしまった。
「ふふーん、もう終わったもんねー。」
あっ、と思って手で口を塞いだ僕に、大王は誇らしげに答える。
「えっ…!?」
急いで確認すると、なるほど全て終わっている。
「ねぇ、鬼男くん…。この後どうしよっか?」
きっとこれが、最後の機会。大王は、僕が誘うのを待ってるんだろうか。
「あ…」
言えるわけない。第一、何て言ったら良いか分からない。
「そんな顔をさせるつもりはなかったんだけどな。」
よほどひどい顔をしてたんだろう。大王はすまなそうに呟いて、座ったまま僕を抱き寄せた。
「少し苛めすぎちゃった。ごめんね、鬼男くん。」
頬に触れるだけの口づけをして、ふわりと頭を撫でてくれた。
こんなことで泣きそうになるなんて…
「うたた寝するくらい疲れてるならっ、さっさと寝ますよ大王!」
顔が見えないように俯いて怒鳴ると、僕は大王の腕を掴んで寝室に歩き出した。
「…って言うわりには、寝かせるつもりはないみたいだね。」
僕が大王の寝室のドアに手をかけたのを確認すると、大王はくすっと笑った。
「っ…」
「うん。鬼男くんにしては上出来。合格だよ。」
…やっぱり慣れないことはするもんじゃないと、僕は翌日後悔することになる。
【終】
―――――――――――――――
なんていうか…すみませんでした!
多分、死闘を一回帰りの電車の中で目を通しただけで書き上げたんじゃなかったかな…これ。なんというひどさ^q^
後悔したことを公開中。じゃない、公開したことを後悔中。
最初に読んだときは鬼男くんが可愛いと思ったんだよ、きっと!
お目汚し失礼しました。そして最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
心を忘れた神様(鬼男×閻魔)
2010/02/21 17:13:00
懐かしい動画、漫画を読んでいたら浮かんだ話です。そのため、ちょっと表現や言葉を引用してしまっている節があります。すみません。
・ちょっと不安定な閻魔
・一人称なので分かりにくいところがある
・閻魔を泣かせるのがどうにも好きなようです
・鬼男くんのカッコつけは治らないのだろうか
・展開が早すぎるかもしれない
きっかけは本当に些細なこと。あの時、あの人の顔を見なければ僕はきっと未だに気づくことなく日々を過ごしていただろう。
それくらい本当に、すごく小さな違和感だったんだ。
「この変態大王イカっ!またセーラー買いやがったな!?」
「ギャー痛い痛いっ!いいじゃん、鬼男くんのけちんぼ!見るだけなら別に何の問題も無いはずだ!」
掃除中、見覚えの無いセーラー服を見つけて容赦なく大王の顔に伸ばした爪をぶっ刺してやりながら怒鳴れば、痛がりながらも自分の言い分を言い返してくる。
言ってしまえばいつもどおりのやり取り。どこにそんなにほいほいセーラー服を買うだけの金銭的、時間的余裕があるのか疑問だ。
「冥界の閻魔大王がこんなものを集めているということ自体大きな問題です。これは処分させてもらいますからね!」
「あぁーん、鬼男くんひどい~!」
いつものように大王が守るようにぎゅっと抱きしめていたセーラー服を取り上げて冷たく言い放つと、僕は彼に背を向ける。背中にかかるのは情けないそんな声。
でも、部屋を出て行く振りをしてドア付近にかかっている鏡に目を向け大王の表情をうかがい見れば、思い知らされる。
「っ…」
いつ見ても同じなのに、いつ見ても息を飲んでしまう。
普段僕に見せる喜怒哀楽豊かな表情とはかけ離れた、何も映していないような全てを諦観しているような冷たく無機質な表情。
初めてこの表情を見たのは、本当に偶然。ふと視界の隅に入ってきた鏡が見せたほんの一瞬の出来事で、気のせいだと言ってしまえばそれまでだったのに。
「感情を持っていたら…やっていけなかったのかもしれない、けど…」
息を飲みはしたものの、変わらぬ態度で足も止めず部屋を出て自分の言葉どおりセーラー服を捨てるため歩きながら、僕は何の気なしに呟く。
「大王…あんたはそれで、平気なんですか…?」
立ち止まり、思わず口からこぼれたその問いは回答者も無く廊下の空気に溶けた。
◇◇◇
「困ったものだよね、まったく。」
部屋のドアが閉まり、気配が遠ざかっていくのを確認してから呟いた。
多分、彼は気づいているだろう。普段の私の行動が演技であることに。
もう覚えておこうという気すら起きないくらい長い年月を私はひとりで過ごし、人間の采配を機械的に行ってきた。やってくる人間一人ひとりのことをいちいち考えていたらキリが無い。
落ち込んだって、喜んだって、感心したって、私は何も変わらないのだから。
「ずっと、騙されていてくれる方がやりやすいのだけど…」
いつしか私は何にも興味を持たなくなった。何も考えず、何も感じず、ただ役目だけをこなす。それが最適な方法だったから。
けれど、人間が増えて手が足りなくなってくると私だけでは裁ききれなくなり、必然的に人員を増やす必要がでてきた。
円滑に物事を進めるためには、感情の無いロボットではなく人情溢れる親しみやすい存在である必要がある。
「いっそ、君の記憶を操作してしまおうか?辛いでしょう?そうやって知らないふり、気づいていないふりをしているのは。」
ドアの前に立った気配に聞こえるように問いかける。気配は心底驚いたように揺れて、ゆっくりとドアを開けた。
「気づいていたんですか。」
「私がどれだけここにいると思っているの?これでも、自分以外の気配には敏感なんだよ。」
問いかけるように言ってドアを閉め、私に近づいてくる鬼男くんにもう繕う必要もないかとそのまま答えてやる。
鬼男くんの表情が苦しそうにゆがんだ。
「どうして君がそんな顔をする?君がそんな顔をする必要は無いよ。」
「…大王に、僕の言葉は何一つ届いていなかったんでしょうかね。」
俺が問いかけると、鬼男くんは嘲笑混じりにそんなことを言い出した。何を言っているのか、よく理解できない。
「考えたことありますか?僕が、なんでお前の隣に居るか。」
ふぅ…とわざとらしくため息なんかついて、彼は言葉を続けた。その問いの意味すら、私には図りかねていて。
「変なことを聞くね。そんなこと、考えるまでも無い。閻魔大王の秘書と言う役職について、言われた仕事をこなすため。それ以外に何もな」
「あんまりふざけたことばっか言ってると本気で吹っ飛ばすぞアホ大王。」
何の前触れも無く私の服を引っつかんで言葉を遮り、至近距離で鬼男くんは言った。その表情は明らかに強い怒りを宿している。
「なんで怒る?私は何も間違っていないよ。ふざけたことを言っているつもりもない。君が普段の私との違いに気づいてしまったこと、それを隠そうとして疲れていることももう分かったから何なら秘書を辞めてもらっても」
「もういい、ちょっと黙れ。」
二度も上司の言葉を遮るとか、どれだけ無礼なんだ君は。でも、それ以上に触れ合うこの柔らかい感触に驚いた。無礼なんてもんじゃない。何考えてるの、私に口付けるなんて。
「…仕事だからって理由だけだったら、もっと早い段階で僕はお前の秘書を辞めてるよ。上司だから、秘書だから、それだけでここまで大王に尽くしてきたつもりはありません。」
じゃあ、何なんだ。と、純粋に疑問に思う。大体、尽くすなんて大げさなこと…
「…だから、あんたは放っとけないんだ。」
呆れたように言って、鬼男くんの指先が私の目尻に触れる。
濡れた感触。冷たいような温かいようなそれは、私の意思とは関係なしに次から次へと頬を伝っていく。
「なん、で…」
鬼男くんの言う私に尽くしてきたことが何か知りたくて、出会ってからを思い出していただけなのに。
「僕の前にいた大王は、本当に全て演技だったんですか?僕が作ったおやつをおいしいと言って食べる姿も、好きだと言ったあめやチョコレートも、ゴメスの一件での不祥事で見せてくれたたくさんの表情も、僕との会話ややり取りも全部…大王が自分で考えて、演技して、喜怒哀楽を意図的に見せていたんですか?」
分からない。
頬を伝うこの温かくて冷たいものも、鬼男くんの言っていることの意味も。なんでこんなに、胸が苦しいのかも。
私は、いったいどこまで演技をしていたのか。
「っ、私…俺、は…っ」
「大王。」
分からないことばかりが頭の中をぐるぐる回って、自分が分からなくなってきていると、鬼男くんが優しい声と一緒に俺の体を抱き寄せた。まるで壊れ物を扱うみたいにそっと、でも絶対に離さないと示すようにぎゅっと。
「僕は、あんたが好きです。何が嘘で、何が本当かなんて関係ない。苦しんで、演技して、長い間ひとりで不変の中を過ごしてきた、今僕の目の前にいる閻魔大王を愛しいと思ってる。」
「っ…!」
離れない、離さない、離してほしくない。
こんな気持ち、とっくの昔にどこかに置いてきたはずなのに。必要ないものと、捨ててきたのに。
「僕は、ずっとあんたの傍にいます。だから、大王。これからはもっと気持ちを出してください。辛いのを誤魔化して、勝手に僕から離れようとしないでください。」
「おに、おっ…く…っ」
声が震える。
鬼男くんの言葉は温かくて。氷が溶かされて水になっていくみたいに俺の涙は止まらない。なんで、どうして君は…
「どうかこのまま、大王の隣に居させて下さい。」
俺のほしかった言葉を全部くれるんだろう。
【終】
―――――――――――
あ、あれ…?おかしいな?書き始めたときは、鬼男くんがどんなに思いを伝えても閻魔の心に響かない、閻魔の心は応えない話にするつもりだったんだけどなぁ…?
シリアスとか、悲恋とか、報われない話とか…を、書けるようになりたいです。切実に。私が書く話は本当にいつも同じように甘く終わってしまうので。甘い話だけでは面白み(こう言って良いのか)に欠ける気がする今日この頃です。
では、長々と失礼しました。ここまで読んでいただきありがとうございました。
ちょこれーとまじっく!(鬼男×閻魔)
2010/02/14 00:00:00
タイトルに深い意味はありません。さらに言うなら、本編との関わりも薄いです。
というわけで、浮かんでしまったのでバレンタインデーネタです。
・最初から最後までいちゃついてます
・後半少し閻魔が脱がされます。
・反省はするけど、後悔はしてない。(終わり方について
・転んでもただじゃ起きない鬼男くん(笑)
「鬼男くん、今日はバレンタインデーだよ!」
2月14日。閻魔は開口一番高いテンションでそんなことを言ってきた。鬼男の方はといえば、だからなんだ…と言いたげに閻魔の眩しい笑顔を見返す。
「バレンタインデーだから何だって言うんですか。仕事はいつもどおりですよ。」
「もう、相変わらずだなぁ…。仕事がいつもどおりなのは仕方ないから諦めるけどさ、チョコレートはちょうだいよ。」
そっけなく鬼男が言うと、閻魔は拗ねたように口を尖らせて答え、鬼男の目の前に両手を差し出した。
「そういうものって普通要求しないだろ…。大体、なんで僕が大王にチョコレートをあげないといけないんですか。そもそも、そういうことは製菓会社が勝手に決めたことであって僕らには関係な…」
閻魔の様子にため息をついて、鬼男がまくし立てるようにバレンタインデーというイベントに関しての異論を述べていると、だんだん閻魔の表情が曇って泣きそうになっていることに気づいた。思わず言葉を途中で区切って閻魔の目を見つめてしまう。
じっと、わずかに潤んだ赤い瞳も鬼男を見つめ返してくる。
「鬼男くん…俺のこと、嫌い…なの…?」
「っ…」
止めとばかりに言われたその言葉に、鬼男はぐっと息を詰める。しばし睨み合いならぬ見つめ合いが続いたが、最後には鬼男が肩を落としてため息をついた。
「…今日のおやつを作るのと一緒に作りますから、仕事が終わるまで待ってください。」
「やったぁ!さすが鬼男くん!ありがとうっ!!」
鬼男の返答を聞いて嬉しそうに言いながら飛び上がって、満面の笑顔を見せる閻魔。その笑顔を見ただけで理屈もかかる手間も関係なしに最高のものを仕上げてやろうという気になってしまうのだから、大概自分は甘いなと鬼男は自嘲気味に笑った。
◇◇◇
「ほら、朝言ってたチョコレート。ある材料で作ったので大したものはできませんでしたが…」
「わぁ…!ちょっと、これで大したものじゃないって君の中でチョコレートはどれだけ豪華なお菓子なの…?」
仕事が終わり、掃除も終えた執務室でまた食べ散らかされるのはごめんだとわざわざ閻魔の部屋まで持ってきた鬼男作のバレンタインデーのチョコレートは、丸いチョコレートケーキの上にハートや星型のチョコレートクッキーが飾られ、中央にはホワイトチョコレートのペンで『Happy Valentine』の文字まで書かれていた。
閻魔はそのレベルの高さに驚き、少し困ったような表情で呟いた。
「チョコレートひとつで僕の気持ちは疑われてしまうみたいなんで、渡す以上は出来る範囲で僕の出せるもの全てを出したつもりです。」
「あはは…今朝の、気にしてたんだ…」
とげを含んだ鬼男の物言いに苦笑して、ごめんね…?と小さく謝ると、貰ったケーキを持ったままそっと鬼男との距離を縮めて軽くもたれかかる。反射的に鬼男が肩を抱いて支えてしまうと、閻魔は嬉しそうに鬼男の上目遣いに見上げた。
「食べてもいーい?」
「お前以外に食べる奴はいませんよ。」
様子をうかがうように閻魔が問いかけると、わざわざ聞かれたのが気恥ずかしかったのかぺちっと軽く頭を叩く音ともに返ってくる言葉。閻魔はそれすら嬉しいのかにっこり笑って早速ケーキと一緒に渡されたフォークを手に食べ始めた。
「んん~、やっぱりおいしい!えへへ、ほんとにありがとうね鬼男くん!」
口の端に子どものようにチョコレートを付けて、それでも本当に美味しそうにケーキをほお張り閻魔は言った。その姿が可愛いと思ってしまった鬼男は、口の端のチョコレートを親指で拭ってやりながら「そういえば…」と口を開いた。
「僕には要求しておいて、大王からはないんですか?」
「ぅえ!?…あ、の…えーっと…」
鬼男の問いにどこか焦ったように声を上げて、言いづらそうに視線を巡らせる閻魔に、鬼男はにやりと楽しげに口角を上げる。最近は出かける暇などなかったし、めったにお菓子作りをしない閻魔がチョコレートを作っていることはまず有り得ないだろう。
「じゃあ、勝手に貰いますね。」
「へ…っ、ん…ぅ…!?」
口の端を拭った手をそのまま閻魔の後頭部に回し、鬼男は閻魔に口付けた。先程まで食べていたチョコレートケーキのせいで唇は甘く、口内もチョコレートの香りに包まれていたので、鬼男はそれを残らず食べつくすように荒々しく舌を絡めては動き回る。閻魔がケーキを落す前にさり気なく手からケーキの皿を奪ってサイドボードに置くことも忘れずに。
閻魔とチョコレートを十分に味わったところで鬼男がようやく唇を離すと、閻魔はそのまま鬼男の胸にくったりともたれかかった。
「ごちそうさまでした。」
もたれかかった閻魔を優しく受け入れて抱きとめると、くしゃりと髪を撫でながら言う鬼男。閻魔は腕の中で身じろぎすると鬼男を見上げて悪戯っぽく笑った。
「ん…ね、おいしかった…?」
「何言ってるんですか。僕が作ったんだから当然だろ。あんたにまずいものは食わせません。」
閻魔の問いに鬼男は不敵な笑みを浮かべてそんなことを言ってのける。
「もうっ、鬼男くんはもっとこう…ムードとかそういうのはないのっ?」
閻魔はムッと眉根を寄せて拗ねたように文句を言いながら、鬼男の腕から離れて体を起こした。と、同時にコロンと転がり落ちる四角い箱。
「あっ…!」
それに気づいて声を上げた閻魔は、慌てて拾い上げ自分の背中に隠してしまう。鬼男もその存在をしっかりと認識してしまったし、その上でそこまで慌てた態度を取られれば誰でも気がつくというものだ。
「大王、その箱…もしかして…」
「ち、違うよ!いや、違わないんだけどっ!でも…っ、その…鬼男くんのみたいに、おいしくない…から…。」
鬼男が期待するように問いかけると、それを遮るように閻魔は声を張り上げ、それから恥ずかしそうにうつむいて小さな声でぼそぼそと呟く。その表情と言葉から、慣れないくせに手作りに挑戦して、失敗したのであろうことに鬼男は気がついた。
「大王…それ、僕にください。」
悲しそうに、悔しそうにうつむいたまま顔を上げようとしない閻魔の頭を撫でて、優しく声をかける鬼男。
「だからっ、」
「それでも、大王が僕のために作ってくれたのなら僕は食べたいです。」
顔を上げてなおも言葉を続けようとした閻魔を遮り、鬼男は真剣な表情で閻魔の目を見て包み込むような柔らかい語調で答えた。
閻魔はそれでもしばらくは悩むように視線をさ迷わせたが、最終的に恐る恐るといった具合で後ろ手に隠していた箱を鬼男に差し出してきた。
「ありがとうございます。」
鬼男はそれを受け取ると、優しい笑顔で礼の言葉を述べる。鬼男の髪と瞳の色に合わせた包装紙とリボンに不器用に包まれた四角いその箱をじっと眺めて、鬼男は少し照れくさそうに頬を掻いた。
「開けていいですか?」
「う、ん…。でも、ホントに…おいしくないからね…?」
不安げな表情を前面に出した閻魔に伺いを立てると、閻魔は頷きつつもさらに念を押してくる。相当酷い出来なのか、それとも毎日鬼男のお菓子を食べているから卑屈になっているだけなのか。
鬼男はそんな閻魔に苦笑して箱のリボンを解き、包装紙から箱を取り出す。ふたを開けて中を見ると、確かにあまり形がいいとは言えないチョコレートが控えめに収められていた。
「いただきます。」
一粒手にとって、鬼男が口に含むその瞬間まで閻魔が不安そうな表情は晴れることはなく。
「っ、う…!」
「や、やっぱまずかったよね!?ごめんごめん、鬼男くん!今すぐ出していいからっ、ほらティッシュここにあるし!」
口元を押さえてうずくまった鬼男に、閻魔は慌てて背中をさすりながら枕元においてあったティッシュを手に取り差し出した。声も表情も悲しみと焦りに満ちていて、今にも泣き出してしまいそうだ。
「言うほど、悪くないじゃないですか。」
「へ…?」
差し出した腕を掴まれたかと思ったら、そんな言葉とともに鬼男が顔を上げた。その表情はいつもどおりで、気分が優れないとか気持ち悪そうな雰囲気はまったくと言っていいほど無く、閻魔はひとり不思議そうにぱちくりと目を丸くする。
「形はそんなに綺麗じゃないかもしれませんが、味は悪く無かったですよ。」
「っ…俺、さっきの鬼男くんの様子見てすごく焦ったのに!あぁーもう!渡したこと後悔して損したぁー!」
鬼男の言葉から先程うずくまったのは演技だと理解した閻魔は、途端に肩の力が抜けて、それと同時に怒りがこみ上げてきた。
「そう言わないで下さいよ。ちょっとした冗談だろ。」
「でもさぁ…って、何さり気なく脱がそうとしてるのさちょっと!」
鬼男が弁解するように閻魔を引き寄せて言った言葉に、閻魔が納得がいかないといった様子でさらに文句を言おうとしたところで、鬼男の手が腰紐を解いていることに気づいて慌てて声を上げる。
「大王があんまり可愛いんで、ちょっとこのまま部屋に戻るのはもったいないなと。」
「何わけわかんないことっ…!もう、ちょっと!鬼男くんっ!!」
言いながらも鬼男の手は止まることを知らず。閻魔の抵抗空しく、二人の体はベッドに沈んだ。
【終】
――――――
毎回こんな終わり方で申し訳ありません。全てはこらえ性の無い鬼男くんが悪いのです。
バレンタインデーだし甘く!と思って書いていたのですが、よく考えれば自分の文章は大抵甘いものでした^q^
シリアスや甘くない文章も書けるようになりたいものです。では、ここまで読んでいただきありがとうございました!
隠す必要もないかな、と改めて思った。^q^
この話の続きが読みたいという方がいればコメントかスカイプで言って下さい。お渡しします。流れで分かるようにエロに突入しますがw
ID:wasurenagusa-45