意地悪(閻魔×鬼男)
2010/03/05 21:34:35
ものすごく恥ずかしいですが、初めて書いた天国小説です。
うん…初心を忘れないために?
陵に献上したお話です。サイトに載せていたものなので、ちょっと妖しい雰囲気があります。
日和を読んで最初に私が思った天国CPは実は閻鬼だったんです。
あれ?これ、前にも書いたっけ?
・意地悪で余裕のある閻魔
・初々しくて(?)なんだか手馴れていない感じの鬼男くん
・なんという別人フラグ^q^
「大王、今日ここに来た人の確認を…」
僕が書類を手に大王の部屋に入ると、あろうことか大王は机にうつ伏して寝息を立てていた。
まだ仕事はかなり残ってるのに、この人は…
「普段くだらないことばかりやってるからですよ…」
僕は呟いて書類を机に置くと、薄手の毛布を持ってきて大王の肩にそっと掛けた。
「さて、と…」
今日中に仕上げないといけない書類、どうするかな。とりあえず気休め程度に部屋を見回す。
「鬼男くんは、やっぱりオレに甘いよね。」
「え…」
不意に隣から聞こえた声に驚いて、一瞬動きが止まった僕を、大王は器用にも自分の机の上に押し倒した。
「なっ、アンタ起きてたのか!?」
「寝てたよ?でもオレ…鬼男くんの気配には敏感なんだよねぇ~。」
僕が焦ったように問いかけると、大王はそう言って、得意気にくすっと笑った。
悔しいけど、僕はこの人のこの表情がたまらなく好きだったりする。でも…
「起きたんなら、残りの仕事片付けてください。」
今は仕事優先だ。このままでは書類がたまる一方だから。
「えー、やだ~。紙ばっか見てもう飽きちゃった。鬼男くん、構ってよ~。」
「何ガキみたいなこと言ってんだこの…っ」
子供みたいなことを言う大王に、いつも通り爪を伸ばそうとして…できなかった。
「っ…!」
大王が、爪を伸ばそうとした方の腕を掴んで指先に口付けてきたから。
「どうしたの?鬼男くん。今、爪伸ばそうとしたよね?」
ちゅっ、とわざとらしく音を立てて聞いてくるこの人は、確実に確信犯だ。
「し、してません…っ!」
顔が熱いのを自覚していたから、それを見られるのが嫌で顔を背ける。
この机の上では、全く意味のない行動だけど。
「顔真っ赤だよ?」
案の定大王は凄く楽しそうに指摘してくる。
「うるさいっ…この、変態大王イカ…!」
苦し紛れに悪態をつくけど、大王はそれすら楽しげで。
「知ってる?鬼男くん。オレ…君にそういう風に言われるの、結構好きなんだよね。」
「っあ…!」
首筋に大王の吐息がかかったと思ったら、すぐに濡れた感触が襲った。
くそっ…こんな簡単に反応するなよ…!
「ね…このまましちゃってもいい?」
「っ、良い訳ねーだろこの変態セーラー野郎っ!!」
今度こそ大王を思いっきり蹴飛ばした。
ようやく無理な体制から解放された僕は、乱れた衣服を整えながら立ち上がる。
「げほっ…ちょっ、鬼男くん…今のはさすがにひどくないっ…?」
腹を思いっきり蹴ってしまったので、さすがの大王も苦しいらしい。
でも、そんなことは関係ない。
「セクハラで訴えられないだけマシだと思え。」
ふんっ、とそっぽを向いて吐き捨てる。だが、それがいけなかった。
「ふぅん…どこに訴えるの?」
「っ…!」
大王に背を向けてしまったばっかりに、いとも容易く後ろから抱きすくめられてしまった。大王の匂いをすぐ近くに感じて、不覚にも胸が高鳴る。
「鬼男くん…」
「あ…」
耳元で名前を呼ばれると、もう駄目だった。全身の力が抜けて、前に回された大王の腕に触れることで体を支える形になる。
「顔…見せてよ。」
僕は、大王の声に操られるように顔を上げた。するといつだって大王は満足げに微笑んで、唇を重ねてくれる。
「ん…ふっ、ぅ…」
大王の温もりも、匂いも、この感触も、僕はどうしようもないくらいに好きで、最近は離れてしまうのを恐れるようになってしまった。
今も、ずっとこのままでいれたら…なんて考えている。
「鬼男くん…」
少しだけ唇を離して、大王が僕の名前を呼ぶ。
「大好きだよ。」
あぁ…もう。だから早く離れたかったのに。
「大王…」
僕がもう抵抗しないと分かったらしい大王が、腕の力を緩めてくれたので、僕は向き直って大王の服を掴む。
僕も好きですなんて、絶対に言えないから。
「…鬼男くんって、時々可愛いことするよね。」
大王は困ったように笑って、僕に口付けた。
「ん…っ、ぅ…」
大王からのキスに応えながら、薄目を開けて大王の顔を盗み見る。
目が伏せられてて、あの綺麗な深紅の瞳を見ることは叶わなかったけど、間近で見る大王の顔は色が白く、整っていて、なんだか僕と正反対だなと思った。
「ん…!」
不意に、ひやっとした何かが僕の腹部に触れた。驚き目を見開くと、大王が楽しげに笑っている。いつのまにか壁に追いやられてて、気付けば逃げ道がなかった。
この野郎、わざとだな…!
「んぁっ!」
大王の手が、服の下で僕の肌を撫でる感覚に、僕の意思とは関係なしに身体が震えた。
「ちょっ、だいお…やめっ…!」
首筋に顔を埋める大王の肩を必死で押すけど、全然退く気配はない。
いつの間にこんな力…違う。僕の方の力が抜けてるのか。
「なんで?ついさっきまで、鬼男くんもその気だったでしょ?」
「や…っ!」
首元に唇を近づけたまま上目使いで大王が喋るから、吐息が首にかかってゾクゾクしてくる。大王を退かすために肩に置いていた手は、いつの間にか僕自身が立っているための支えになっていた。
「今の君…凄く可愛い顔してる。」
「るっ、せ…言うなっ…!」
アンタの顔も大概妙な色気出しててカッコいいんだよ…!
絶対口には出さないけど、心の中でそう言い返す。
「素直じゃないなぁ…」
僕の答えに肩を竦めて、大王は笑った。
「まぁ、そんなところも大好きなんだけど…」
言いながら大王は服の中に入れていた手を引き抜き、僕から離れた。
え…?と不思議そうに大王を見上げると、大王は妖しく微笑んで
「追加書類ってこれだよね。」
と、机の方に向かってしまった。
「は、い…そうです、けど…」
理由も分からぬままただ問いに頷くと、大王はもう何事もなかったかのように残りの書類に目を通し始める。
僕はずるずると壁に背を預けて座り込んだ。
「なんで…」
「ん?何がー?」
思わず呟くと、大王はそ知らぬ顔で聞き返し、目が合ったら楽しそうに笑った。
「っ…!」
笑った顔が言っている。
――続きがしてほしかったら、君から誘ってごらん?
この人は時々、普段の仕返しをするかのようにこういうことをする。
やったこともないことをやるのが、どれだけ難しくて恥ずかしいことか分かってるんだろう。
「鬼男くんー?そんなところに座り込んでないでこっちにおいでよ。」
にやにやとどこまでも楽しそうに僕に言う。
「分かってます…!」
目的が何であれ、大王が仕事をしているのに僕がいつまでも座っているわけにはいかない。
「はい、これでいい?」
僕が近づいてすぐ、大王は確認の終わった書類を渡してくる。それを受け取って、軽く目を通した。
形だけじゃなく、本当にしっかりやってある。
「はい。この調子でお願いします。」
このまま僕が何もしなければ、真面目になるんじゃないか?コイツ…
「……」
しばらく会話もせずに、ただ紙をめくる音と筆を走らせる音だけが不規則に部屋に響く。僕は大王のそばで、仕事をする大王をじっと見つめた。
「……」
机に頬杖をついて、書類を眺めるために軽く目を伏せる大王の表情からは、何を思っているか読み取れない。
少し疲れたように薄く口を開けて息を吐き、乾きを潤すように唇を舐める舌。
書類をめくる指は細くて、凄く綺麗だ。
「っ…」
仕事をする大王は、こんなにもカッコいい。見ているだけで胸が騒ぎ出すのが分かった。…でも、いつもなら時々僕の存在を確認するように上げる顔が、今は一度も上がらない。
それだけで、そんなに長いこと時間が経ってる訳じゃないのに、凄く長く感じた。
ただでさえ、さっき中途半端に投げ出されて欲求不満なのに…
「…鬼男くん?」
大王が顔を上げて、僕を呼んだ。
「なっ、なんですか?」
あまりにも突然だったから、声が上擦ってしまった。
すると大王はふふっと笑って
「ひょっとして無自覚?…手。」
僕の手に目を向けた。それにつられるように僕もそちらに目を向ける。
「あっ…!」
僕は慌てて無意識のうちに大王の服を掴んでいた手を離した。
「寂しかった?」
「っ、なわけないだろ!仕事しろ、さっさと!」
僕の様子を窺うように問いかけてくる大王に、僕はまた思っていたのと違うことを叫んでしまった。
「ふふーん、もう終わったもんねー。」
あっ、と思って手で口を塞いだ僕に、大王は誇らしげに答える。
「えっ…!?」
急いで確認すると、なるほど全て終わっている。
「ねぇ、鬼男くん…。この後どうしよっか?」
きっとこれが、最後の機会。大王は、僕が誘うのを待ってるんだろうか。
「あ…」
言えるわけない。第一、何て言ったら良いか分からない。
「そんな顔をさせるつもりはなかったんだけどな。」
よほどひどい顔をしてたんだろう。大王はすまなそうに呟いて、座ったまま僕を抱き寄せた。
「少し苛めすぎちゃった。ごめんね、鬼男くん。」
頬に触れるだけの口づけをして、ふわりと頭を撫でてくれた。
こんなことで泣きそうになるなんて…
「うたた寝するくらい疲れてるならっ、さっさと寝ますよ大王!」
顔が見えないように俯いて怒鳴ると、僕は大王の腕を掴んで寝室に歩き出した。
「…って言うわりには、寝かせるつもりはないみたいだね。」
僕が大王の寝室のドアに手をかけたのを確認すると、大王はくすっと笑った。
「っ…」
「うん。鬼男くんにしては上出来。合格だよ。」
…やっぱり慣れないことはするもんじゃないと、僕は翌日後悔することになる。
【終】
―――――――――――――――
なんていうか…すみませんでした!
多分、死闘を一回帰りの電車の中で目を通しただけで書き上げたんじゃなかったかな…これ。なんというひどさ^q^
後悔したことを公開中。じゃない、公開したことを後悔中。
最初に読んだときは鬼男くんが可愛いと思ったんだよ、きっと!
お目汚し失礼しました。そして最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
心を忘れた神様(鬼男×閻魔)
2010/02/21 17:13:00
懐かしい動画、漫画を読んでいたら浮かんだ話です。そのため、ちょっと表現や言葉を引用してしまっている節があります。すみません。
・ちょっと不安定な閻魔
・一人称なので分かりにくいところがある
・閻魔を泣かせるのがどうにも好きなようです
・鬼男くんのカッコつけは治らないのだろうか
・展開が早すぎるかもしれない
きっかけは本当に些細なこと。あの時、あの人の顔を見なければ僕はきっと未だに気づくことなく日々を過ごしていただろう。
それくらい本当に、すごく小さな違和感だったんだ。
「この変態大王イカっ!またセーラー買いやがったな!?」
「ギャー痛い痛いっ!いいじゃん、鬼男くんのけちんぼ!見るだけなら別に何の問題も無いはずだ!」
掃除中、見覚えの無いセーラー服を見つけて容赦なく大王の顔に伸ばした爪をぶっ刺してやりながら怒鳴れば、痛がりながらも自分の言い分を言い返してくる。
言ってしまえばいつもどおりのやり取り。どこにそんなにほいほいセーラー服を買うだけの金銭的、時間的余裕があるのか疑問だ。
「冥界の閻魔大王がこんなものを集めているということ自体大きな問題です。これは処分させてもらいますからね!」
「あぁーん、鬼男くんひどい~!」
いつものように大王が守るようにぎゅっと抱きしめていたセーラー服を取り上げて冷たく言い放つと、僕は彼に背を向ける。背中にかかるのは情けないそんな声。
でも、部屋を出て行く振りをしてドア付近にかかっている鏡に目を向け大王の表情をうかがい見れば、思い知らされる。
「っ…」
いつ見ても同じなのに、いつ見ても息を飲んでしまう。
普段僕に見せる喜怒哀楽豊かな表情とはかけ離れた、何も映していないような全てを諦観しているような冷たく無機質な表情。
初めてこの表情を見たのは、本当に偶然。ふと視界の隅に入ってきた鏡が見せたほんの一瞬の出来事で、気のせいだと言ってしまえばそれまでだったのに。
「感情を持っていたら…やっていけなかったのかもしれない、けど…」
息を飲みはしたものの、変わらぬ態度で足も止めず部屋を出て自分の言葉どおりセーラー服を捨てるため歩きながら、僕は何の気なしに呟く。
「大王…あんたはそれで、平気なんですか…?」
立ち止まり、思わず口からこぼれたその問いは回答者も無く廊下の空気に溶けた。
◇◇◇
「困ったものだよね、まったく。」
部屋のドアが閉まり、気配が遠ざかっていくのを確認してから呟いた。
多分、彼は気づいているだろう。普段の私の行動が演技であることに。
もう覚えておこうという気すら起きないくらい長い年月を私はひとりで過ごし、人間の采配を機械的に行ってきた。やってくる人間一人ひとりのことをいちいち考えていたらキリが無い。
落ち込んだって、喜んだって、感心したって、私は何も変わらないのだから。
「ずっと、騙されていてくれる方がやりやすいのだけど…」
いつしか私は何にも興味を持たなくなった。何も考えず、何も感じず、ただ役目だけをこなす。それが最適な方法だったから。
けれど、人間が増えて手が足りなくなってくると私だけでは裁ききれなくなり、必然的に人員を増やす必要がでてきた。
円滑に物事を進めるためには、感情の無いロボットではなく人情溢れる親しみやすい存在である必要がある。
「いっそ、君の記憶を操作してしまおうか?辛いでしょう?そうやって知らないふり、気づいていないふりをしているのは。」
ドアの前に立った気配に聞こえるように問いかける。気配は心底驚いたように揺れて、ゆっくりとドアを開けた。
「気づいていたんですか。」
「私がどれだけここにいると思っているの?これでも、自分以外の気配には敏感なんだよ。」
問いかけるように言ってドアを閉め、私に近づいてくる鬼男くんにもう繕う必要もないかとそのまま答えてやる。
鬼男くんの表情が苦しそうにゆがんだ。
「どうして君がそんな顔をする?君がそんな顔をする必要は無いよ。」
「…大王に、僕の言葉は何一つ届いていなかったんでしょうかね。」
俺が問いかけると、鬼男くんは嘲笑混じりにそんなことを言い出した。何を言っているのか、よく理解できない。
「考えたことありますか?僕が、なんでお前の隣に居るか。」
ふぅ…とわざとらしくため息なんかついて、彼は言葉を続けた。その問いの意味すら、私には図りかねていて。
「変なことを聞くね。そんなこと、考えるまでも無い。閻魔大王の秘書と言う役職について、言われた仕事をこなすため。それ以外に何もな」
「あんまりふざけたことばっか言ってると本気で吹っ飛ばすぞアホ大王。」
何の前触れも無く私の服を引っつかんで言葉を遮り、至近距離で鬼男くんは言った。その表情は明らかに強い怒りを宿している。
「なんで怒る?私は何も間違っていないよ。ふざけたことを言っているつもりもない。君が普段の私との違いに気づいてしまったこと、それを隠そうとして疲れていることももう分かったから何なら秘書を辞めてもらっても」
「もういい、ちょっと黙れ。」
二度も上司の言葉を遮るとか、どれだけ無礼なんだ君は。でも、それ以上に触れ合うこの柔らかい感触に驚いた。無礼なんてもんじゃない。何考えてるの、私に口付けるなんて。
「…仕事だからって理由だけだったら、もっと早い段階で僕はお前の秘書を辞めてるよ。上司だから、秘書だから、それだけでここまで大王に尽くしてきたつもりはありません。」
じゃあ、何なんだ。と、純粋に疑問に思う。大体、尽くすなんて大げさなこと…
「…だから、あんたは放っとけないんだ。」
呆れたように言って、鬼男くんの指先が私の目尻に触れる。
濡れた感触。冷たいような温かいようなそれは、私の意思とは関係なしに次から次へと頬を伝っていく。
「なん、で…」
鬼男くんの言う私に尽くしてきたことが何か知りたくて、出会ってからを思い出していただけなのに。
「僕の前にいた大王は、本当に全て演技だったんですか?僕が作ったおやつをおいしいと言って食べる姿も、好きだと言ったあめやチョコレートも、ゴメスの一件での不祥事で見せてくれたたくさんの表情も、僕との会話ややり取りも全部…大王が自分で考えて、演技して、喜怒哀楽を意図的に見せていたんですか?」
分からない。
頬を伝うこの温かくて冷たいものも、鬼男くんの言っていることの意味も。なんでこんなに、胸が苦しいのかも。
私は、いったいどこまで演技をしていたのか。
「っ、私…俺、は…っ」
「大王。」
分からないことばかりが頭の中をぐるぐる回って、自分が分からなくなってきていると、鬼男くんが優しい声と一緒に俺の体を抱き寄せた。まるで壊れ物を扱うみたいにそっと、でも絶対に離さないと示すようにぎゅっと。
「僕は、あんたが好きです。何が嘘で、何が本当かなんて関係ない。苦しんで、演技して、長い間ひとりで不変の中を過ごしてきた、今僕の目の前にいる閻魔大王を愛しいと思ってる。」
「っ…!」
離れない、離さない、離してほしくない。
こんな気持ち、とっくの昔にどこかに置いてきたはずなのに。必要ないものと、捨ててきたのに。
「僕は、ずっとあんたの傍にいます。だから、大王。これからはもっと気持ちを出してください。辛いのを誤魔化して、勝手に僕から離れようとしないでください。」
「おに、おっ…く…っ」
声が震える。
鬼男くんの言葉は温かくて。氷が溶かされて水になっていくみたいに俺の涙は止まらない。なんで、どうして君は…
「どうかこのまま、大王の隣に居させて下さい。」
俺のほしかった言葉を全部くれるんだろう。
【終】
―――――――――――
あ、あれ…?おかしいな?書き始めたときは、鬼男くんがどんなに思いを伝えても閻魔の心に響かない、閻魔の心は応えない話にするつもりだったんだけどなぁ…?
シリアスとか、悲恋とか、報われない話とか…を、書けるようになりたいです。切実に。私が書く話は本当にいつも同じように甘く終わってしまうので。甘い話だけでは面白み(こう言って良いのか)に欠ける気がする今日この頃です。
では、長々と失礼しました。ここまで読んでいただきありがとうございました。
ちょこれーとまじっく!(鬼男×閻魔)
2010/02/14 00:00:00
タイトルに深い意味はありません。さらに言うなら、本編との関わりも薄いです。
というわけで、浮かんでしまったのでバレンタインデーネタです。
・最初から最後までいちゃついてます
・後半少し閻魔が脱がされます。
・反省はするけど、後悔はしてない。(終わり方について
・転んでもただじゃ起きない鬼男くん(笑)
「鬼男くん、今日はバレンタインデーだよ!」
2月14日。閻魔は開口一番高いテンションでそんなことを言ってきた。鬼男の方はといえば、だからなんだ…と言いたげに閻魔の眩しい笑顔を見返す。
「バレンタインデーだから何だって言うんですか。仕事はいつもどおりですよ。」
「もう、相変わらずだなぁ…。仕事がいつもどおりなのは仕方ないから諦めるけどさ、チョコレートはちょうだいよ。」
そっけなく鬼男が言うと、閻魔は拗ねたように口を尖らせて答え、鬼男の目の前に両手を差し出した。
「そういうものって普通要求しないだろ…。大体、なんで僕が大王にチョコレートをあげないといけないんですか。そもそも、そういうことは製菓会社が勝手に決めたことであって僕らには関係な…」
閻魔の様子にため息をついて、鬼男がまくし立てるようにバレンタインデーというイベントに関しての異論を述べていると、だんだん閻魔の表情が曇って泣きそうになっていることに気づいた。思わず言葉を途中で区切って閻魔の目を見つめてしまう。
じっと、わずかに潤んだ赤い瞳も鬼男を見つめ返してくる。
「鬼男くん…俺のこと、嫌い…なの…?」
「っ…」
止めとばかりに言われたその言葉に、鬼男はぐっと息を詰める。しばし睨み合いならぬ見つめ合いが続いたが、最後には鬼男が肩を落としてため息をついた。
「…今日のおやつを作るのと一緒に作りますから、仕事が終わるまで待ってください。」
「やったぁ!さすが鬼男くん!ありがとうっ!!」
鬼男の返答を聞いて嬉しそうに言いながら飛び上がって、満面の笑顔を見せる閻魔。その笑顔を見ただけで理屈もかかる手間も関係なしに最高のものを仕上げてやろうという気になってしまうのだから、大概自分は甘いなと鬼男は自嘲気味に笑った。
◇◇◇
「ほら、朝言ってたチョコレート。ある材料で作ったので大したものはできませんでしたが…」
「わぁ…!ちょっと、これで大したものじゃないって君の中でチョコレートはどれだけ豪華なお菓子なの…?」
仕事が終わり、掃除も終えた執務室でまた食べ散らかされるのはごめんだとわざわざ閻魔の部屋まで持ってきた鬼男作のバレンタインデーのチョコレートは、丸いチョコレートケーキの上にハートや星型のチョコレートクッキーが飾られ、中央にはホワイトチョコレートのペンで『Happy Valentine』の文字まで書かれていた。
閻魔はそのレベルの高さに驚き、少し困ったような表情で呟いた。
「チョコレートひとつで僕の気持ちは疑われてしまうみたいなんで、渡す以上は出来る範囲で僕の出せるもの全てを出したつもりです。」
「あはは…今朝の、気にしてたんだ…」
とげを含んだ鬼男の物言いに苦笑して、ごめんね…?と小さく謝ると、貰ったケーキを持ったままそっと鬼男との距離を縮めて軽くもたれかかる。反射的に鬼男が肩を抱いて支えてしまうと、閻魔は嬉しそうに鬼男の上目遣いに見上げた。
「食べてもいーい?」
「お前以外に食べる奴はいませんよ。」
様子をうかがうように閻魔が問いかけると、わざわざ聞かれたのが気恥ずかしかったのかぺちっと軽く頭を叩く音ともに返ってくる言葉。閻魔はそれすら嬉しいのかにっこり笑って早速ケーキと一緒に渡されたフォークを手に食べ始めた。
「んん~、やっぱりおいしい!えへへ、ほんとにありがとうね鬼男くん!」
口の端に子どものようにチョコレートを付けて、それでも本当に美味しそうにケーキをほお張り閻魔は言った。その姿が可愛いと思ってしまった鬼男は、口の端のチョコレートを親指で拭ってやりながら「そういえば…」と口を開いた。
「僕には要求しておいて、大王からはないんですか?」
「ぅえ!?…あ、の…えーっと…」
鬼男の問いにどこか焦ったように声を上げて、言いづらそうに視線を巡らせる閻魔に、鬼男はにやりと楽しげに口角を上げる。最近は出かける暇などなかったし、めったにお菓子作りをしない閻魔がチョコレートを作っていることはまず有り得ないだろう。
「じゃあ、勝手に貰いますね。」
「へ…っ、ん…ぅ…!?」
口の端を拭った手をそのまま閻魔の後頭部に回し、鬼男は閻魔に口付けた。先程まで食べていたチョコレートケーキのせいで唇は甘く、口内もチョコレートの香りに包まれていたので、鬼男はそれを残らず食べつくすように荒々しく舌を絡めては動き回る。閻魔がケーキを落す前にさり気なく手からケーキの皿を奪ってサイドボードに置くことも忘れずに。
閻魔とチョコレートを十分に味わったところで鬼男がようやく唇を離すと、閻魔はそのまま鬼男の胸にくったりともたれかかった。
「ごちそうさまでした。」
もたれかかった閻魔を優しく受け入れて抱きとめると、くしゃりと髪を撫でながら言う鬼男。閻魔は腕の中で身じろぎすると鬼男を見上げて悪戯っぽく笑った。
「ん…ね、おいしかった…?」
「何言ってるんですか。僕が作ったんだから当然だろ。あんたにまずいものは食わせません。」
閻魔の問いに鬼男は不敵な笑みを浮かべてそんなことを言ってのける。
「もうっ、鬼男くんはもっとこう…ムードとかそういうのはないのっ?」
閻魔はムッと眉根を寄せて拗ねたように文句を言いながら、鬼男の腕から離れて体を起こした。と、同時にコロンと転がり落ちる四角い箱。
「あっ…!」
それに気づいて声を上げた閻魔は、慌てて拾い上げ自分の背中に隠してしまう。鬼男もその存在をしっかりと認識してしまったし、その上でそこまで慌てた態度を取られれば誰でも気がつくというものだ。
「大王、その箱…もしかして…」
「ち、違うよ!いや、違わないんだけどっ!でも…っ、その…鬼男くんのみたいに、おいしくない…から…。」
鬼男が期待するように問いかけると、それを遮るように閻魔は声を張り上げ、それから恥ずかしそうにうつむいて小さな声でぼそぼそと呟く。その表情と言葉から、慣れないくせに手作りに挑戦して、失敗したのであろうことに鬼男は気がついた。
「大王…それ、僕にください。」
悲しそうに、悔しそうにうつむいたまま顔を上げようとしない閻魔の頭を撫でて、優しく声をかける鬼男。
「だからっ、」
「それでも、大王が僕のために作ってくれたのなら僕は食べたいです。」
顔を上げてなおも言葉を続けようとした閻魔を遮り、鬼男は真剣な表情で閻魔の目を見て包み込むような柔らかい語調で答えた。
閻魔はそれでもしばらくは悩むように視線をさ迷わせたが、最終的に恐る恐るといった具合で後ろ手に隠していた箱を鬼男に差し出してきた。
「ありがとうございます。」
鬼男はそれを受け取ると、優しい笑顔で礼の言葉を述べる。鬼男の髪と瞳の色に合わせた包装紙とリボンに不器用に包まれた四角いその箱をじっと眺めて、鬼男は少し照れくさそうに頬を掻いた。
「開けていいですか?」
「う、ん…。でも、ホントに…おいしくないからね…?」
不安げな表情を前面に出した閻魔に伺いを立てると、閻魔は頷きつつもさらに念を押してくる。相当酷い出来なのか、それとも毎日鬼男のお菓子を食べているから卑屈になっているだけなのか。
鬼男はそんな閻魔に苦笑して箱のリボンを解き、包装紙から箱を取り出す。ふたを開けて中を見ると、確かにあまり形がいいとは言えないチョコレートが控えめに収められていた。
「いただきます。」
一粒手にとって、鬼男が口に含むその瞬間まで閻魔が不安そうな表情は晴れることはなく。
「っ、う…!」
「や、やっぱまずかったよね!?ごめんごめん、鬼男くん!今すぐ出していいからっ、ほらティッシュここにあるし!」
口元を押さえてうずくまった鬼男に、閻魔は慌てて背中をさすりながら枕元においてあったティッシュを手に取り差し出した。声も表情も悲しみと焦りに満ちていて、今にも泣き出してしまいそうだ。
「言うほど、悪くないじゃないですか。」
「へ…?」
差し出した腕を掴まれたかと思ったら、そんな言葉とともに鬼男が顔を上げた。その表情はいつもどおりで、気分が優れないとか気持ち悪そうな雰囲気はまったくと言っていいほど無く、閻魔はひとり不思議そうにぱちくりと目を丸くする。
「形はそんなに綺麗じゃないかもしれませんが、味は悪く無かったですよ。」
「っ…俺、さっきの鬼男くんの様子見てすごく焦ったのに!あぁーもう!渡したこと後悔して損したぁー!」
鬼男の言葉から先程うずくまったのは演技だと理解した閻魔は、途端に肩の力が抜けて、それと同時に怒りがこみ上げてきた。
「そう言わないで下さいよ。ちょっとした冗談だろ。」
「でもさぁ…って、何さり気なく脱がそうとしてるのさちょっと!」
鬼男が弁解するように閻魔を引き寄せて言った言葉に、閻魔が納得がいかないといった様子でさらに文句を言おうとしたところで、鬼男の手が腰紐を解いていることに気づいて慌てて声を上げる。
「大王があんまり可愛いんで、ちょっとこのまま部屋に戻るのはもったいないなと。」
「何わけわかんないことっ…!もう、ちょっと!鬼男くんっ!!」
言いながらも鬼男の手は止まることを知らず。閻魔の抵抗空しく、二人の体はベッドに沈んだ。
【終】
――――――
毎回こんな終わり方で申し訳ありません。全てはこらえ性の無い鬼男くんが悪いのです。
バレンタインデーだし甘く!と思って書いていたのですが、よく考えれば自分の文章は大抵甘いものでした^q^
シリアスや甘くない文章も書けるようになりたいものです。では、ここまで読んでいただきありがとうございました!
隠す必要もないかな、と改めて思った。^q^
この話の続きが読みたいという方がいればコメントかスカイプで言って下さい。お渡しします。流れで分かるようにエロに突入しますがw
ID:wasurenagusa-45
記憶の色(鬼男×閻魔)
2010/01/11 23:58:06
REN(漣)さんの動画を見て、勝手に書いて叩きつけた小説です。^q^
掲載許可をいただいたので、上げさせていただきます。
これは、私が動画とブログから勝手に想像、解釈したものです。
読んでくださるという方は追記からどうぞ。
漣さん、掲載許可ありがとうございました!
鬼男が転生する日。閻魔は鬼男を呼び出した。何があるわけでもない…けれど、今日のように雲ひとつなく晴れ渡った日は、空が綺麗に見える場所だ。以前、鬼男と歩いたこともある思い出深い道。
「愛してる、ずっと…大好きだよ鬼男くん。」
青い空を見上げて呟けば、瞳から雫が頬を伝った。言葉は残ることなく青空に溶け、思いは涙となって流れていくようで。閻魔は涙を拭うこともせずに瞳を閉じる。
頭の中を、鬼男と出会ったその日から今日までの日常や嬉しいこと、悲しいこと…時には傷つけあってしまった思い出が駆け巡った。確かに自分たちは出会って、お互いまるで惹かれあうように恋をした。
「…ありがとう、鬼男くんと出会わせてくれて。素敵な恋を、させてくれて。」
閉じていた目を開けて、柔らかく微笑む。閻魔大王が赤い糸を信じるなんておかしいかもしれないけれど、強く繋がっていたんだと…出会うべくして出会ったのだと、今は信じたかった。
「♪~…」
自然と口から出てきた旋律。大好きと、ありがとうの気持ちを歌った…閻魔も鬼男も好きな曲。閻魔の通る声によく合っていると、鬼男が笑っていたのを思い出した。
「あ…」
呼び出された場所に近づくにつれて大きくなる歌声に、鬼男はふと顔を上げる。目を閉じてのびのびと歌う閻魔の姿に、無意識に顔が綻んで優しい微笑みを浮かべた。少し離れたところで立ち止まり、閻魔の歌が終わるのを待つ。
「お待たせしました、大王。」
「あ、鬼男…く、ん…」
歌が終わり、一息ついたところで閻魔に近づき鬼男は声をかけた。閻魔が振り返ると、そこには大好きな優しい笑顔で、わずかにだが光を放つ鬼男の姿。
出会えてよかったと、ありがとうの気持ちとともに笑って言えると思っていたのに、その姿を目の当たりにして閻魔の心が揺らいだ。
「ねえ、キミから、」
――どうかきえないで…ここに、いてよ…!
鬼男の体から溢れては消えていく薄い色を含んだ光の中には、鬼男の過ごした時間も…2人きりの大切な時間もたくさん詰まっていて。
お願い、誰か止めてよ。連れていかないで…オレたちの大切な…
「大王…?」
不自然に止まった閻魔の言葉を不思議に思い鬼男が声をかけると、閻魔はハッとしたように肩を震わせた。結局…黙っていてももう時間は戻らないし、これは決まっていることだ。
「今日で…君とはお別れだよ。おめでとう、鬼男くん。今まで…本当に、ありがとう。」
「え…?」
泣きそうに震えた声で、閻魔は無理矢理笑って言おうと思っていた言葉を口にする。言葉にすると、それははっきりとした形となって鬼男に表れた。先程まではわずかに、ゆっくりと放たれていた光が、薄い色から濃い色へと変わり速度も速まる。
鬼男も脳内に蘇り廻っては消えていく記憶に、別離が近いことに気がついた。初めは自分でも覚えていないような些細なこと。続いて印象に残っている出来事。小さくて大したことのない記憶から、だんだんと大きくて大切な記憶が消えていく。
「っ…!」
離れたくない…消えて欲しくないのに、それは留まることも掴むこともできなかった。
「…あなたのことを、心から…強く愛しています。隣に立って、誰よりもずっとそばにいられたことを…幸せに思っています。」
最後に残った記憶は、何にも変えられない…何があっても変わらない強い閻魔への思いだった。優しくて…とても、愛しい記憶。大切で、最後まで無くしたくなかった人。
「 」
閻魔はいっぱいに涙を溜めて、それでも何とかして最後の言葉を口にしたけれど、音にはならなかった。たった5文字の、けれど大切な言葉。
しかし鬼男は何も言わずどこか嬉しそうに笑って、閻魔の白い頬に触れるだけの軽い口付けを送る。触れたその瞬間にはもうその感触は無くて、彼の瞳によく似た色を纏って光の中に消えてしまった。
「っ…」
堪えきれず溢れた涙が、頬に透明な筋を作る。彼の光の名残をきゅっと抱きしめて、閻魔はその場に膝をついた。
色を持っている人はさいわいだ、他の色とまじわることができる
いまだもっていない人もさいわいだ、これからどんな色にも染まることができる
なら、脱ぎ捨てられた色はどこに行く?
脱ぎ捨てられた色は…
「オレが拾って…大切にするよ。」
濡れた頬を拭って、閻魔は変わらず広い青空を見上げた。
【終】
うっかりしていた…
2010/01/07 23:58:59
26日から実家(山の中)に帰っていて、好きなようにネットが出来る状況でなかったので、大変ご挨拶が遅れてしまいました。
山から出たらとりあえず『ずっとあなたに逢いたくて』を上げる!
と、それだけ考えていたので上げたら満足してしまっていました。
遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます!
好き勝手に書いている小説ブログですが、訪問してくださる方々には本当に感謝しています。相変わらずのマイペースで好きなように書いていますが、今年もお付き合いいただけると幸いです。
今年もよろしくお願いいたします!
いつものメンバーであみだくじをして、年明けイチャイチャをさせよう!
ということでやったのです、が…
結果↓
①閻鬼
②太曽
③芭妹
なんだこれ^q^
ちょっと、天国組!お前らだけ『ずっとあなたに逢いたくて』で離れるという選択をさせてしまったのがそんなに嫌だったのか!?自分たちだけくっついて他別れさせるとか…しかも図ったように3組とも受け攻め逆転って言うね。
はい、じゃあ…行きまーっす
【閻鬼】
「あけましておめでとう、鬼男くん!今年もよろしくね。」
「…個人的には、今すぐにでもお前から離れたいんですけど。」
年明け早々、うっとうしいくらいの満面の笑みで挨拶をする閻魔に鬼男はわずかに頬を赤らめて、視線を逸らしたまま不機嫌そうに答えた。
「あ、冷たい。せっかく鬼男くんに似合う服持ってきたんだから笑ってよぉ~」
鬼男のつれない態度に落ち込んだ様子を見せて、言いながらツンツンとそっぽを向く鬼男の頬をつつく閻魔。
鬼男の中で、何かが切れた。
「っ…こんなもん着せられて、笑えって方が無理だろうがこの変態大王イカ!!」
「ぎゃあっ!痛い、痛いって鬼男くん!」
勢いよく立ち上がり、怒鳴りながら伸ばした爪を思いっきり閻魔の顔に突き刺す。閻魔は血を流しはするものの相変わらず死ぬことはなくて、それが今は余計に腹立たしかった。
「お前本気でいっぺんこのまま死ね!僕が八つ裂きにしてやるから!」
「ちょ、ちょっ…鬼男くん落ち着いて!せっかくの綺麗な振袖が汚れちゃうっ!借り物なんだから、それ!!」
今にも飛び掛りそうな勢いで腕を振り上げる鬼男の肩を掴み、自分の血で汚さないように気をつけながら閻魔も必死で叫んだ。借り物、という言葉を聞いて鬼男の動きがぴたりと止まる。
なんだかんだ言って真面目な性格である鬼男。借り物を勝手な都合で汚してしまったり使えなくしてしまったりするのをよしとするわけにはいかない。
「それ見たとき俺、真っ先に鬼男くんのこと思い浮かべたんだ。だってほら、鬼男くんの髪と目の色じゃない?すごく綺麗だなあって思って、鬼男くんに無性に会いたくなって…そしたら、着たところも見たくなった。」
鬼男の動きが止まったので閻魔も少しずつ力を抜きながら、一応の弁解をする。
鬼男から手を離し、自分の血を拭ってから閻魔は改めて鬼男の髪を梳くように撫でて、そのまま頬に触れる。
「実際に着てみた鬼男くんは、やっぱりすごく…綺麗だよ。本当によく似合ってる。」
「っ…」
真面目な顔ではっきりと告げる閻魔を見て、素直にカッコいいと思ってしまった鬼男は、熱くなった顔を誤魔化すように視線を斜め下に落とした。
「どうしたの?…あ、もしかして照れてる?隠さないで見せてよ鬼男くん!」
「っ、止め…!見んなっ、アホ大王!!」
問いかけてから鬼男の状態を理解した閻魔が、嬉々として鬼男の顔を見ようとするので、鬼男はますます恥ずかしくなってしまって必死に抵抗する。
閻魔の体を押して遠ざけようとしたり、腕を顔の前まで持っていき、袖を利用して隠そうとしたり。その姿がまた可愛らしくて閻魔を喜ばせるのだが。
「…大好きだよ、鬼男くん。今年もずっと、俺の傍にいてくれるよね?」
攻防戦の末、壁に追い詰められて身動きが出来なくなってしまった鬼男の腕を逃げられないようにしっかり掴み、わざわざ耳元で問いかける閻魔。
ピクッと身を震わせた鬼男を満足げに眺めてから、問いの答えを求めるように鬼男をじっと見つめた。鬼男が一番好きな、自信に満ち溢れた不敵な笑みを乗せて。
「っ…大王の、隣はっ…僕以外を認めた覚え、ありません…から。」
誰が見ても分かるくらいに顔を赤くして、鬼男は小さな声でそう答えた。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。
【太曽】
「あけましておめでとーう!」
「おめでとうございます。」
カツン、と挨拶の言葉とともに音を立てる猪口。太子と曽良の前には多種多様なおせち料理と、沢山の酒。正月ということで思いっきり食べて飲みたいという太子が、曽良の家を訪ねてきたのだ。
初めは追い払おうとした曽良だが、結局惚れた弱みとでも言うべきか付き合わされる羽目になってしまった。もちろん、そんなことしっかり口にするつもりなんてないのだが。
「正月に曽良と2人きりなんて、今年一年は絶対いい年になるでおまっ!」
「年明け早々カレー臭いオッサンと一緒だなんて、早くも悪い予感しかしませんね。」
来たときからすでに少し酔っていることは気づいていたので、飲んでは食べてやたらと話すを繰り返す太子に、曽良は軽い相槌を打ちながらいつものように自分のペースで酒を飲み進める。
太子が飲みすぎるということは今までなかったので、いつもよりハイペースで飲んでいるようではあるが、大丈夫だろうと安心していたのが間違いだった。
「曽良って…肌、キレーだよなぁ…」
「そんなことを言われて喜ぶのは女性くらいです。それにしても、よくもまあこれだけの量を空けましたね。」
すっかり酔った様子の太子の言葉を切り返して、曽良は大方からになった徳利とおせちの重箱を見ながら呟いた。太子に付き合って曽良もいつもより大目に飲んでいたとは言え、大半は太子一人で飲んでいたはずだ。
本当に大丈夫なのだろうかとここに来てようやく曽良は心配になってきた。
「太子さん、大丈夫ですか?一人で帰れないようなら、妹子さんでも呼びますが。」
飲むものも食べるものもなくなった今、この後は帰るだけだろうと思って曽良が気遣うように問いかけると、太子はどこかムッとしたように不機嫌になった。
「曽良は…妹子のほうが、私より頼りになるって、そう言うんだ…なぁ!」
「…はぁ?いきなり何を言っているのか、意味が分からないのですが。」
どこからその発想が出てきたのかさっぱり理解できず、眉根を寄せて言い返す曽良。太子は身を乗り出して曽良の着物のあわせを掴むと、自分の方に引き寄せた。
「ちょっと、太子さん。何するんですか。」
「曽良ぁ…愛してる…」
努めて冷静に曽良が言うと、太子はあわせを引っ張ったことにより晒された曽良の白く綺麗な肌に唇を寄せ、吐息混じりに告白してくる。駆け抜けた痺れるような甘い感覚に、曽良の体は素直に震える。
太子はそのまま唇を曽良の鎖骨まで這わせると、少し強めに歯を立てた。
「ぁ、ッ…!」
大きく肩を震わせ、体の力が抜けたことにより机に手をつく曽良。ふふんと楽しげに笑う太子の声が聞こえた。
「私知ってるぞぉー、曽良はぁ…鎖骨、が…弱いんだって、ことぉ…」
「…っ、」
へらっと笑って言う太子に無性に腹が立って、曽良は片手で思いっきり太子の頭を引っぱたいた。
「いたぁーっ!」
「さて…今思っていることを洗いざらい吐くのと、今飲んで食べたものを吐くまで叩かれるのと、どちらが良いですか?」
太子が声を上げて離れたところで一息ついて乱れた着物を正してから、曽良は無表情に問いかける。構えられた手のひらが、言っていることは本気であることを物語っていた。
「…だって、さ…だって、せっかく…私が、会いに来て、話してやってるのに…曽良は、聞いてるんだか聞いてないんだか、分からないような、返答…して。かと思ったら、妹子呼ぶとか…早く帰れみたいなこと、言いやがって…」
「言いたいことがよく分からないんですが?」
的を射ない太子の物言いに、曽良は苛立ち混じりに分かりやすくまとめて話すことを要求すると、太子は酔った頭で言いたいことを視線をさ迷わせてまとめる。
「年末は忙しくて、会えなかったから、年明けて真っ先に、会いに来てやったんだぞ…もっと、喜んで欲しかった、し…今夜は…その、お前のとこに泊まって…ひめ、は…と、かしたかった、のに…曽良は、何だよ…なんでもないような顔してさぁ…」
「はぁ…まぁ、言いたいことは非常に沢山あるのですが、要するに何なんですか。」
苛立ちを通り越して呆れるほどのまとまりのなさに、曽良はため息混じりに再び問いかけた。
すると太子はじっと曽良を見つめて口を開いた。
「要するに、だな!私は、曽良に会えなくて寂しかったんだ!だから、もっと曽良を感じたいんでおまっ!だから酔った勢いでちょっとこのまま布団に」
「お断りします。さっさと帰りなさいこの酔っ払いが。」
太子の言葉を遮り冷たく一蹴して、曽良は太子に背を向けた。
あなたにとって今年一年が楽しく幸せなものでありますように。
【芭妹】
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします、芭蕉さん。」
「うん、明けましておめでとう妹子くん。こちらこそ、よろしくね。」
芭蕉庵にて、新年の挨拶を交わす妹子と芭蕉。1月1日…新しい1年の始まりだ。
「妹子くん、初夢はどんなの見た?縁起が良いものは見れた?」
芭蕉がわくわくした様子で問いかけてきた。わざわざ話題を振ってくるのだから、恐らく芭蕉はよい夢が見れたのだろう。
「えっ…!?あ、えっと…その…」
しかし、妹子は初夢と聞いて途端に顔を真っ赤にした。言いづらそうにしどろもどろになりながら忙しなく視線をさ迷わせる。
「あー…えっと、じゃあ松尾から先に言うね。」
いったいどんな夢を見たんだろう…とかなり気になったが、ここはひとまず自分の夢を語って、それから聞き出すことにしようと芭蕉は口を開いた。
「えへへ、実はね…妹子くんが夢に出てきたんだよ。」
「え…僕、ですか?」
嬉しそうに笑って言う芭蕉の言葉に、妹子は少し驚いたように聞き返した。芭蕉は「うん。」と大きく頷いて柔らかく笑う。
「妹子くんが私の隣に居て、いつもみたいに笑って…色んな話をしてくれるの。それもすごく楽しそうに。なんか私、すごく幸せな気持ちになれて…朝起きたときまでその幸せは続いてたよ。」
幸せそうに話しながら、優しく髪を撫でてくれる芭蕉の手は妹子にとってとても心地よいものだった。
「あの…実は僕も、芭蕉さんのことを…夢に見たんです。」
「え、そうなの?」
恥ずかしそうにうつむいて妹子が言うと、芭蕉は手を止めて驚いたように問いかける。妹子は顔は上げずに、こくんと頷いてとつとつと話し出した。
「初めは、今みたいに芭蕉さんが僕の髪を撫でてくれて…それから、いつもみたいに好きって、言ってくれて。キ、キスとか…その、色々…っ!だから、えっと…僕のほうもっ、すごく幸せな夢だった、ん…ですけど…やっぱり、ほらっ…は、恥ずかしいじゃな」
「…好きだよ、妹子くん。」
「っ!!」
妹子の言葉を遮って囁かれた告白。再び撫でられる感覚とその言葉に、妹子はぴきっと身を固まらせてしまった。
「私は今年もずっと…妹子くんを好きでいるよ。」
愛しそうに目を細めて、芭蕉は愛の言葉を繰り返す。次の瞬間には額に柔らかい感触が降ってきて。それはそのまままぶたから目尻へ、目尻から頬へとゆっくり移動してきた。
「ばしょ、う…さ…」
「ねえ…君の夢に出てきた私に嫉妬した、って言ったら…妹子くんは呆れる?」
恥ずかしそうに震えて名前を呼ぶ妹子をきゅっと抱き寄せて、芭蕉は苦笑混じりに問いかけてきた。え…?と、芭蕉の腕の中でびっくりしたように瞬きを数回してすぐ傍の顔を見やる妹子。
「いい年してみっともないよね…でも、夢より現実で…私を感じて欲しいの。」
「そんなこと、言ったら…僕だって。…夢の僕より現実の僕で、幸せを感じて欲しい、です…。」
芭蕉の言葉に妹子は小さな声で答えて、自らも芭蕉の背中に手を回した。
A Happy New Year!