夢の話(鬼←妹)
2012/04/10 23:12:53
後半は、部屋を出た鬼男が閻魔に何かあってざわつく仲間たちから事情を聞いて
閻魔の下に全力疾走→鬼閻展開、だったのですが、よく覚えてなくて続かなかった^q^
「鬼男は、さ…本当に、閻魔大王の元に戻る気はないの?」
「妹子…またその話か?何度も言ってるだろ。僕の意思の問題じゃないんだ。僕は、もう閻魔大王のそばに居ることを許されていない。」
「ふぅん…?」
鬼男はもともと、真面目すぎるところがある奴だからこうと決めたら意地でも曲げようとしない。閻魔大王も、規則や公平を歪めるわけにはいかないと表面上は鬼男が隣にいないことを気にした風もなく、むしろ当然の報いとしているけれど…実際はどうなんだろう。
「鬼男、鬼男。」
布団に寝転がったまま、ちょいちょいと机に向かう鬼男を手招く。鬼男は面倒くさそうに顔をしかめながらも、「何だよ?」と返事をしてこちらに向かってきてくれる。目の前まで来たところで、にっこり笑って隙だらけの彼の腕を思いっきり引き寄せた。
「っ、ぅわ…!?」
「ねぇ、鬼男…秘書を辞めてからは一度も閻魔大王と会ってないんでしょう?さすがに、たまってるんじゃない?」
バランスを崩して僕の上に倒れこんだ鬼男を逃がさないように、ぎゅっと背中に手を回して抱きしめる。言葉の意味が理解できなかったのか、首を傾げる気配。
「僕が相手…してあげようか?」
抱き寄せたまま、首筋に顔をすり寄せて誘うように耳元で囁く。
「っ、止めろ妹子!!」
部屋着の裾から手を差し入れてめくり上げようとしたところで、鬼男もようやく僕が言わんとしているところを理解したらしく、彼は声を荒げて僕の腕を強く掴んで引き離してきた。
(あ…)
勢い余ってめくれ上がった服の下。見慣れない文字が見えた。見慣れない、というか…本当に存在しているなんて思ってもいなかったというほうが正しい。僕じゃなくても、きっとここで働く者なら誰もが知っているであろう、閻魔大王の…
(結局、離れてしまったって鬼男は閻魔大王のものだって、ことなんだ…)
「妹子…?」
思いっきり僕を拒んだくせに、何も言わない僕を不思議そうに呼ぶその声は心配そうで…どこまでも優しい。
「鬼男…君は、早く閻魔大王の隣に戻るべきだと僕は思うよ。」
「だから、僕は…」
「閻魔大王は!!大王は…鬼男が戻ってくるのをずっと待ってる。」
なおも言い訳しようとする鬼男に、僕は柄にもなく声を荒げる。これ以上、僕をみじめにさせないで欲しい。
「それは…君の胸に印された所有契約の呪が未だに残っていることが、何よりの証拠じゃないか。」
「これは…別に、」
「鬼男…戻って、あげなよ。もう、十分だろう…?」
「妹子…」
ごめん、ありがとう。そう言って鬼男は僕に背を向けた。僕は、俯いて顔を上げない。ドアが開いて、閉まる音。まったく、なんて短く…滑稽な、片思いだったんだろう。
頬を伝うこれは、決して涙なんかじゃない。泣く必要なんて、どこにもないんだ。滲む視界で僕は1人、自分の中で言い訳を重ね続けていた。
学園祭クラス企画(模擬結婚式)
2010/04/11 21:27:13
今更な感じではありますが。
とりあえずリクエストしていただいたCPは書きあがったのでUPします。
長くなったのでまずは曽妹(ブレザー×セーラー)です。
後は個人的に鬼閻と曽芭が書けたらいいなぁと思ってはいるのですが…需要なさそうだ^q^
―――【企画の始まり】―――
学園祭当日、3年飛鳥組の教室にはさまざまな衣装が所狭しと並んでいた。誰がどこから持ってきたのか、ウエディングドレスや白無垢はもちろんカラードレスに民族衣装、メイドや執事にチャイナドレスとナース服。まさに何でもありの状態だ。
「それにしても、よくこれだけ集まったなぁ…」
「みんな、意外とそういう趣味が…」
「男物、少なくない?」
持ってきた生徒たちの反応もそれぞれではあるが、自分たちが一番楽しみにしているということだけは確かなようだ。
「教室の飾りつけ、カメラの準備、照明と音楽は出来てるかー?」
「当然!いつでもオッケーだよ!」
太子が全体を見渡しながら声をかけると、女性とのはっきりとした答えが返ってきた。
「よーし、みんな!今日は思いっきり楽しむでおまっ!」
返答を聞いて満足げに頷いて太子が声高らかに告げれば、教室内は一気に沸き起こった。
【曽妹の場合】
「え?ううん、何も。って、言うか…曽良と一緒に、学園祭回ろうかなって思ってた、んだけど…」
あと5分で交代というとき、不意に曽良が声をかけた。妹子はいったん作業を止めると、恥ずかしそうに頬を赤らめて様子をうかがうように上目遣いで答える。
すると曽良は、傍目には気づかないであろう程わずかに表情を和らげた。それを見た妹子も、安心したようにふわりと微笑みを浮かべる。
「小野、河合!交代の奴来たからちょっと早いけど上がっていいよー。」
「あ、うん。分かったー。」
クラスメイトの声が生徒控え室から聞こえたので、妹子は首だけそちらに向けて返事をすると、曽良のほうに目を向け「行こう?」と手を差し出した。
「どこから見ようか。曽良、何か見たいところとか行きたいところある?」
「僕は特には。とりあえず適当に回ってみましょう。」
「それもそうだね。」
簡易更衣室で着替えながらそんな会話をして、廊下に出る。朝からずっと教室で接客をしていたので、思った以上に人が多くて妹子も曽良も驚いた。
「あ、イケメン2人見ぃーっけ!」
突然後ろからそんな声が聞こえた。
少し大きめのその声に、思わず振り返る妹子と曽良。廊下を歩いていた生徒や客も、何事かと振り返った。
「あ、太子と同じクラスの…」
「河合曽良くん、小野妹子くん!学園祭の記念に、2人で結婚式挙げてみない!?」
「「…は?」」
妹子の声を遮って告げられた言葉に、曽良と妹子は声をそろえて訝しげな表情を見せた。
「まぁまぁ、とりあえず一緒に来てよ。君たちなら絶対絵になるから!」
「あの、何のはな」
「はい、レッツゴー!!」
しっかりと腕を掴まれ、状況を理解する間もなく彼女は歩き出してしまう。周りのことを何も考えない見事なマイペースぶりだ。
先輩で、女子だということもあり、曽良も妹子も腕を力任せに振りほどきにくい。2人は引きずられるようにして3年飛鳥組にたどり着いてしまった。
「とうちゃーっく!みんなー、カップル一組ご案内だよ!」
「おー、よくやった!」
「お客様も一緒とはやるな!」
曽良と妹子を教室内に引き入れながら言うと、待っていましたと言わんばかりに生徒が集まり、口々に彼女を褒め称える。3人の後ろには、顔のいい男子生徒2人の結婚式とはどんなものだろうと興味を持ったらしい一般客と生徒の姿。
「ちょっと!勝手に話を進めないでくださいよ!僕らはやるなんて一言もっ…!」
「河合のブレザー姿、見てみたくないか?」
ようやく腕を解放されたと思ったら話をどんどん進めていこうとしていて、妹子が怒りをあらわに反論しようとすると、耳元でそんな言葉を囁かれた。
「…え?」
言われた言葉に驚いて、思わず動きを止めて聞き返してしまう。妹子の反応を見て、耳元で囁いた男の先輩は満足そうに笑って、ぽんぽんと妹子の肩を叩いた。
「小野は常々、河合は学ランよりブレザーの方が似合うと思ってたはずだよな?うちの結婚式はさまざまな種類の衣装を着て挙げるのが売りなんだ。…今日くらいだぞー?河合のブレザー姿が見られるのなんて。」
どこか楽しげに説明しながら、先輩は妹子の視線を曽良と教室の奥にある数種類のブレザーに向けさせる。中には曽良に似合いそうなブレザーが何着かあって、妹子の目はすでに釘付けた。
「…少し、見せてくれますか?」
「もちろんさ。」
妹子がポツリと期待のこもった声で尋ねると、説明をした先輩は頷きながら教室内に待機していたクラスメイトたちに親指を立てて見せる。それを見て同じように頷いた生徒たちは、いそいそと教室内のセッティングを始めた。
「くだらない。なんで僕が妹子とこんなところで太子さんのクラスに貢献しないといけないのですか。」
「そう言うなって曽良ー。…実はな、閻魔からセーラー服を何着か借りてきてるんだ。ここで妹子とセーラー服とブレザーで結婚式挙げてくれたら、好きなやつ無料でお前にやるから。…妹子に着せたら、夜が楽しくないか?」
あからさまに嫌そうな態度を見せる曽良をなだめながら、太子はこっそりと耳打ちした。
曽良は大きく表情に変化は見せなかったが、ブレザーをわくわくした様子で見ている妹子に視線を向けて、少し考える素振りを見せた。
「…センスのないものだったら許しませんよ。」
「閻魔から借りたセーラーだぞ?私が保証するって!まぁ、こういうのは見たほうが早いよな。こっちでおまっ!」
曽良の言葉に太子は嬉しそうに笑って返し、セーラー服の置いてある区画へと曽良を案内した。
◇◇◇
「結構似合っていますよ。」
「っ…う、嬉しくない…んだけど…」
着替えを終えて出てきた妹子を見て開口一番、ブレザーを身にまとった曽良が言う。妹子は自分だけに見せる穏やかな微笑みと、思ったとおり似合っている曽良のブレザー姿に胸を高鳴らせながらも、自分の姿に不満と羞恥を感じてうつむき加減に返した。
「でも、本当にとても可愛いですよ。…このまま連れ去ってしまいたいくらいには。」
言いながら妹子の髪を撫でてから、耳元に唇を寄せて最後だけは小声で伝える曽良。
妹子は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐさま恥ずかしそうに頬を染めてはにかんだ。自分の容姿と身長を何度も恨むことはあったが、曽良にそう言われてしまうと何故かそれでも良いと思えてしまうから不思議である。
「さぁ、着替え終わったなら式を挙げるよ2人とも!お客様もクラスの奴らも歓迎する気満々なんだから!」
2人の世界に入ろうとしたところで、容赦なくそんな声がかかる。
ブレザーとセーラー服でも結婚式ということで、教室は授業で使うものをそのまま使って客席も壇上も作っていた。
「妹子のこの姿を不特定多数の人間に見せるのは不本意ではありますが…約束なので仕方ありませんね。」
曽良はため息混じりにそう言って妹子に手を差し出した。
妹子には約束が何のことか分からなかったが、それでも曽良のその言葉と動作が嬉しくて、黙って頷きその手を取る。
「新郎新婦のご登場です!」
司会の者が声高らかに言って、曽良と妹子のほうに手を広げた。
「この場合、新郎新郎じゃないか?」
「細かいところは気にしちゃいけないんだよ、こういうときは。」
客席でそんなやり取りがあったが、大勢の拍手に包まれて紛れてしまい、誰の耳にも届かなかった。拍手の中、二人は壇上に上がる。
曽良と妹子が立ち止まったところで、神父のつもりなのか黒い衣装を身にまとった一人の男子生徒がわざとらしく咳払いをした。
「さて…二年飛鳥組、河合曽良。あなたは今このときだけでも、皆に二年飛鳥組、小野妹子との愛を誓いますか?」
「僕の妹子への愛は、今このときだけに限らず…一生ですよ。」
「なっ…!」
男子生徒のそれらしい誓いの問いかけに、曽良は間を置くことなくはっきりと答えた。
妹子を含め、聞いている全員がその言葉に思わずざわめく。驚きや呆然とした空気の中に、わずかに混じる黄色い声。
「…で、では二年飛鳥組、小野妹子。あなたは皆に今このときだけでも二年飛鳥組、河合曽良との愛を誓いますか?」
騒ぐ教室内の雰囲気を変えようと、男子生徒は仕切りなおしとでも言うように今度は妹子に同じ問いかけをした。
妹子はその問いに様子をうかがうように曽良に視線を向けてすぐ戻すと、にっこり笑った。
「僕の心も、一生曽良のものです。」
「おぉー!?」
「妹子も曽良も良くやるなぁ…!」
再び騒ぎ出した教室をよそに、曽良の口角がほんのわずかに上がる。騒ぐ教室の状況を見て、言ってから恥ずかしくなったのか朱に染まった妹子の頬にそっと手を添えた。
「そ、ら…?」
「あなたからそんな言葉が聞けるとは思っていませんでした。…愛しています、妹子。」
不思議そうに名前を呼んで見上げてくる妹子に嬉しさを滲ませた声で言うと、曽良はそのまま唇を重ねてしまった。
驚愕と、喜びの声が交じり合ってさらに騒がしくなる教室。こんなところで、こんなに多くの人の前で口付けられるとは微塵にも思っていなかった妹子は、驚きのあまり硬直してしまっていて。
曽良は内心してやったりと思いながら、名残惜しむようにゆっくりと妹子から離れた。
「なっ、そ…っ、わっ!?」
「ブレザーは後でお返しします。まだ何着かあるので良いですよね?」
未だに信じられない、といった表情で口をパクパクとさせていた妹子をひょいと抱き上げて、唖然としている目の前の男子生徒にそれだけ言うと、曽良は何事もなかったかのようにスタスタと教室を出て行ってしまった。
「おーい曽良ー!せっかくだからしっかりうちの企画を宣伝してこいよー!」
状況を把握できていないのか呆気にとられている客たちをよそに、太子一人だけは回りを気にせず堂々と廊下を歩いていく曽良の背中に、満足そうな笑顔でそんな言葉を投げかけていた。
うっかりしていた…
2010/01/07 23:58:59
26日から実家(山の中)に帰っていて、好きなようにネットが出来る状況でなかったので、大変ご挨拶が遅れてしまいました。
山から出たらとりあえず『ずっとあなたに逢いたくて』を上げる!
と、それだけ考えていたので上げたら満足してしまっていました。
遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます!
好き勝手に書いている小説ブログですが、訪問してくださる方々には本当に感謝しています。相変わらずのマイペースで好きなように書いていますが、今年もお付き合いいただけると幸いです。
今年もよろしくお願いいたします!
いつものメンバーであみだくじをして、年明けイチャイチャをさせよう!
ということでやったのです、が…
結果↓
①閻鬼
②太曽
③芭妹
なんだこれ^q^
ちょっと、天国組!お前らだけ『ずっとあなたに逢いたくて』で離れるという選択をさせてしまったのがそんなに嫌だったのか!?自分たちだけくっついて他別れさせるとか…しかも図ったように3組とも受け攻め逆転って言うね。
はい、じゃあ…行きまーっす
【閻鬼】
「あけましておめでとう、鬼男くん!今年もよろしくね。」
「…個人的には、今すぐにでもお前から離れたいんですけど。」
年明け早々、うっとうしいくらいの満面の笑みで挨拶をする閻魔に鬼男はわずかに頬を赤らめて、視線を逸らしたまま不機嫌そうに答えた。
「あ、冷たい。せっかく鬼男くんに似合う服持ってきたんだから笑ってよぉ~」
鬼男のつれない態度に落ち込んだ様子を見せて、言いながらツンツンとそっぽを向く鬼男の頬をつつく閻魔。
鬼男の中で、何かが切れた。
「っ…こんなもん着せられて、笑えって方が無理だろうがこの変態大王イカ!!」
「ぎゃあっ!痛い、痛いって鬼男くん!」
勢いよく立ち上がり、怒鳴りながら伸ばした爪を思いっきり閻魔の顔に突き刺す。閻魔は血を流しはするものの相変わらず死ぬことはなくて、それが今は余計に腹立たしかった。
「お前本気でいっぺんこのまま死ね!僕が八つ裂きにしてやるから!」
「ちょ、ちょっ…鬼男くん落ち着いて!せっかくの綺麗な振袖が汚れちゃうっ!借り物なんだから、それ!!」
今にも飛び掛りそうな勢いで腕を振り上げる鬼男の肩を掴み、自分の血で汚さないように気をつけながら閻魔も必死で叫んだ。借り物、という言葉を聞いて鬼男の動きがぴたりと止まる。
なんだかんだ言って真面目な性格である鬼男。借り物を勝手な都合で汚してしまったり使えなくしてしまったりするのをよしとするわけにはいかない。
「それ見たとき俺、真っ先に鬼男くんのこと思い浮かべたんだ。だってほら、鬼男くんの髪と目の色じゃない?すごく綺麗だなあって思って、鬼男くんに無性に会いたくなって…そしたら、着たところも見たくなった。」
鬼男の動きが止まったので閻魔も少しずつ力を抜きながら、一応の弁解をする。
鬼男から手を離し、自分の血を拭ってから閻魔は改めて鬼男の髪を梳くように撫でて、そのまま頬に触れる。
「実際に着てみた鬼男くんは、やっぱりすごく…綺麗だよ。本当によく似合ってる。」
「っ…」
真面目な顔ではっきりと告げる閻魔を見て、素直にカッコいいと思ってしまった鬼男は、熱くなった顔を誤魔化すように視線を斜め下に落とした。
「どうしたの?…あ、もしかして照れてる?隠さないで見せてよ鬼男くん!」
「っ、止め…!見んなっ、アホ大王!!」
問いかけてから鬼男の状態を理解した閻魔が、嬉々として鬼男の顔を見ようとするので、鬼男はますます恥ずかしくなってしまって必死に抵抗する。
閻魔の体を押して遠ざけようとしたり、腕を顔の前まで持っていき、袖を利用して隠そうとしたり。その姿がまた可愛らしくて閻魔を喜ばせるのだが。
「…大好きだよ、鬼男くん。今年もずっと、俺の傍にいてくれるよね?」
攻防戦の末、壁に追い詰められて身動きが出来なくなってしまった鬼男の腕を逃げられないようにしっかり掴み、わざわざ耳元で問いかける閻魔。
ピクッと身を震わせた鬼男を満足げに眺めてから、問いの答えを求めるように鬼男をじっと見つめた。鬼男が一番好きな、自信に満ち溢れた不敵な笑みを乗せて。
「っ…大王の、隣はっ…僕以外を認めた覚え、ありません…から。」
誰が見ても分かるくらいに顔を赤くして、鬼男は小さな声でそう答えた。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。
【太曽】
「あけましておめでとーう!」
「おめでとうございます。」
カツン、と挨拶の言葉とともに音を立てる猪口。太子と曽良の前には多種多様なおせち料理と、沢山の酒。正月ということで思いっきり食べて飲みたいという太子が、曽良の家を訪ねてきたのだ。
初めは追い払おうとした曽良だが、結局惚れた弱みとでも言うべきか付き合わされる羽目になってしまった。もちろん、そんなことしっかり口にするつもりなんてないのだが。
「正月に曽良と2人きりなんて、今年一年は絶対いい年になるでおまっ!」
「年明け早々カレー臭いオッサンと一緒だなんて、早くも悪い予感しかしませんね。」
来たときからすでに少し酔っていることは気づいていたので、飲んでは食べてやたらと話すを繰り返す太子に、曽良は軽い相槌を打ちながらいつものように自分のペースで酒を飲み進める。
太子が飲みすぎるということは今までなかったので、いつもよりハイペースで飲んでいるようではあるが、大丈夫だろうと安心していたのが間違いだった。
「曽良って…肌、キレーだよなぁ…」
「そんなことを言われて喜ぶのは女性くらいです。それにしても、よくもまあこれだけの量を空けましたね。」
すっかり酔った様子の太子の言葉を切り返して、曽良は大方からになった徳利とおせちの重箱を見ながら呟いた。太子に付き合って曽良もいつもより大目に飲んでいたとは言え、大半は太子一人で飲んでいたはずだ。
本当に大丈夫なのだろうかとここに来てようやく曽良は心配になってきた。
「太子さん、大丈夫ですか?一人で帰れないようなら、妹子さんでも呼びますが。」
飲むものも食べるものもなくなった今、この後は帰るだけだろうと思って曽良が気遣うように問いかけると、太子はどこかムッとしたように不機嫌になった。
「曽良は…妹子のほうが、私より頼りになるって、そう言うんだ…なぁ!」
「…はぁ?いきなり何を言っているのか、意味が分からないのですが。」
どこからその発想が出てきたのかさっぱり理解できず、眉根を寄せて言い返す曽良。太子は身を乗り出して曽良の着物のあわせを掴むと、自分の方に引き寄せた。
「ちょっと、太子さん。何するんですか。」
「曽良ぁ…愛してる…」
努めて冷静に曽良が言うと、太子はあわせを引っ張ったことにより晒された曽良の白く綺麗な肌に唇を寄せ、吐息混じりに告白してくる。駆け抜けた痺れるような甘い感覚に、曽良の体は素直に震える。
太子はそのまま唇を曽良の鎖骨まで這わせると、少し強めに歯を立てた。
「ぁ、ッ…!」
大きく肩を震わせ、体の力が抜けたことにより机に手をつく曽良。ふふんと楽しげに笑う太子の声が聞こえた。
「私知ってるぞぉー、曽良はぁ…鎖骨、が…弱いんだって、ことぉ…」
「…っ、」
へらっと笑って言う太子に無性に腹が立って、曽良は片手で思いっきり太子の頭を引っぱたいた。
「いたぁーっ!」
「さて…今思っていることを洗いざらい吐くのと、今飲んで食べたものを吐くまで叩かれるのと、どちらが良いですか?」
太子が声を上げて離れたところで一息ついて乱れた着物を正してから、曽良は無表情に問いかける。構えられた手のひらが、言っていることは本気であることを物語っていた。
「…だって、さ…だって、せっかく…私が、会いに来て、話してやってるのに…曽良は、聞いてるんだか聞いてないんだか、分からないような、返答…して。かと思ったら、妹子呼ぶとか…早く帰れみたいなこと、言いやがって…」
「言いたいことがよく分からないんですが?」
的を射ない太子の物言いに、曽良は苛立ち混じりに分かりやすくまとめて話すことを要求すると、太子は酔った頭で言いたいことを視線をさ迷わせてまとめる。
「年末は忙しくて、会えなかったから、年明けて真っ先に、会いに来てやったんだぞ…もっと、喜んで欲しかった、し…今夜は…その、お前のとこに泊まって…ひめ、は…と、かしたかった、のに…曽良は、何だよ…なんでもないような顔してさぁ…」
「はぁ…まぁ、言いたいことは非常に沢山あるのですが、要するに何なんですか。」
苛立ちを通り越して呆れるほどのまとまりのなさに、曽良はため息混じりに再び問いかけた。
すると太子はじっと曽良を見つめて口を開いた。
「要するに、だな!私は、曽良に会えなくて寂しかったんだ!だから、もっと曽良を感じたいんでおまっ!だから酔った勢いでちょっとこのまま布団に」
「お断りします。さっさと帰りなさいこの酔っ払いが。」
太子の言葉を遮り冷たく一蹴して、曽良は太子に背を向けた。
あなたにとって今年一年が楽しく幸せなものでありますように。
【芭妹】
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします、芭蕉さん。」
「うん、明けましておめでとう妹子くん。こちらこそ、よろしくね。」
芭蕉庵にて、新年の挨拶を交わす妹子と芭蕉。1月1日…新しい1年の始まりだ。
「妹子くん、初夢はどんなの見た?縁起が良いものは見れた?」
芭蕉がわくわくした様子で問いかけてきた。わざわざ話題を振ってくるのだから、恐らく芭蕉はよい夢が見れたのだろう。
「えっ…!?あ、えっと…その…」
しかし、妹子は初夢と聞いて途端に顔を真っ赤にした。言いづらそうにしどろもどろになりながら忙しなく視線をさ迷わせる。
「あー…えっと、じゃあ松尾から先に言うね。」
いったいどんな夢を見たんだろう…とかなり気になったが、ここはひとまず自分の夢を語って、それから聞き出すことにしようと芭蕉は口を開いた。
「えへへ、実はね…妹子くんが夢に出てきたんだよ。」
「え…僕、ですか?」
嬉しそうに笑って言う芭蕉の言葉に、妹子は少し驚いたように聞き返した。芭蕉は「うん。」と大きく頷いて柔らかく笑う。
「妹子くんが私の隣に居て、いつもみたいに笑って…色んな話をしてくれるの。それもすごく楽しそうに。なんか私、すごく幸せな気持ちになれて…朝起きたときまでその幸せは続いてたよ。」
幸せそうに話しながら、優しく髪を撫でてくれる芭蕉の手は妹子にとってとても心地よいものだった。
「あの…実は僕も、芭蕉さんのことを…夢に見たんです。」
「え、そうなの?」
恥ずかしそうにうつむいて妹子が言うと、芭蕉は手を止めて驚いたように問いかける。妹子は顔は上げずに、こくんと頷いてとつとつと話し出した。
「初めは、今みたいに芭蕉さんが僕の髪を撫でてくれて…それから、いつもみたいに好きって、言ってくれて。キ、キスとか…その、色々…っ!だから、えっと…僕のほうもっ、すごく幸せな夢だった、ん…ですけど…やっぱり、ほらっ…は、恥ずかしいじゃな」
「…好きだよ、妹子くん。」
「っ!!」
妹子の言葉を遮って囁かれた告白。再び撫でられる感覚とその言葉に、妹子はぴきっと身を固まらせてしまった。
「私は今年もずっと…妹子くんを好きでいるよ。」
愛しそうに目を細めて、芭蕉は愛の言葉を繰り返す。次の瞬間には額に柔らかい感触が降ってきて。それはそのまままぶたから目尻へ、目尻から頬へとゆっくり移動してきた。
「ばしょ、う…さ…」
「ねえ…君の夢に出てきた私に嫉妬した、って言ったら…妹子くんは呆れる?」
恥ずかしそうに震えて名前を呼ぶ妹子をきゅっと抱き寄せて、芭蕉は苦笑混じりに問いかけてきた。え…?と、芭蕉の腕の中でびっくりしたように瞬きを数回してすぐ傍の顔を見やる妹子。
「いい年してみっともないよね…でも、夢より現実で…私を感じて欲しいの。」
「そんなこと、言ったら…僕だって。…夢の僕より現実の僕で、幸せを感じて欲しい、です…。」
芭蕉の言葉に妹子は小さな声で答えて、自らも芭蕉の背中に手を回した。
A Happy New Year!
聖なる夜をあなたと
2009/12/24 13:42:04
いつかの時代のどっかの島国では、何でもかんでも恋人同士のイベントになるらしい。
いつもなら、恋人同士のイベントだなんて馬鹿げてると笑い飛ばすところだけど…
恋人同士のイベント、なんて気恥ずかしくてたまらない。
いつかの時代のどっかの島国で勝手に決めたただの売り上げ底上げに付き合うなんてバカらしい。
そう口にしていつだって誤魔化してたけど…
たまには、そんなイベントにのってみるのも悪くないかもしれない。
・宗教、信仰的な要素が少し含まれます。
・時代や現実的問題はやっぱり無視してます(←お前
鬼閻
「さぁ鬼男くん!今日は何の日だ!?」
「お前は何のために死者の振り分けをしないで降りてきてると思ってんだ。」
何の前触れもなく唐突に嬉々として問いかけてきた閻魔に、鬼男は呆れ顔で鋭いツッコミを入れた。今、閻魔と鬼男がいるのは人間たちのいる世界。
雪でも降りそうなくらい空には灰色の重い雲がかかり、道行く人間の吐く息は白く姿を現しては消えていく。
「もうっ!鬼男くんてば真面目すぎ!!あるでしょ、これ以外にさ!」
鬼男の間髪入れないツッコミに拗ねたように声を荒げた。
「…納めの地蔵以外に何があるって言うんですか。第一、他の事をやってる暇なんて」
「クリスマス・イヴだよ!恋人たちの行事として有名なのは今日なんだってば!」
怪訝な表情を見せて答える鬼男の言葉を遮って、閻魔はビシッと鬼男の目の前に指を突き出す。祭祀が終わったらすぐ帰るなんて物足りない。
しかし鬼男はそれを聞いてあからさまに大きなため息をついた。
「お前な…自分に関わる祭祀と供養してるところに来てるのに、他宗教の行事に乗ろうってんですか。」
「良いんだよ。ここではそんなに宗教としての意味合いは強くないんだから。」
鬼男が言うと、どこか楽しそうに笑って答える閻魔。
甘えるように鬼男の腕に懐いてから、上目遣いに鬼男を見上げた。
「たまには鬼男くんと普通に恋人してみたいなぁ…ダメ?」
「っ…」
言葉に詰まった時点で鬼男の負けは確定。
甘える声と透き通る紅玉の上目遣いに勝つ術を、鬼男は未だに持っていなかった。
「あー…ったく、仕方ねぇなーもう!分かりました、残りの祭祀終わったらな!」
「さすが鬼男くん!大好き!ほんと愛してるっ!」
鬼男が半ば自棄になりながら叫ぶと、閻魔は心底嬉しそうな笑顔を見せて告白の嵐。
「はいはい。そんなこと言わなくたって十分わかってます。」
「えー、それでも言いたい~」
鬼男のそっけない返答も何のその。閻魔の喜びは留まるところを知らないようだ。
納めの地蔵が終わったら街に繰り出そう。何をするわけでもないが、明るく綺麗に彩られた街並みをのんびり歩いて、目に付いた店に入るのも悪くない。
寒いといってくっついてきたときにさり気なく手を握ってやったら、こいつは恥ずかしそうに頬を染めながらもすり寄ってくるだろうか。
聖なる夜はあなたとともに。
―――――――――
妹太
「くっそ、アホの太子はどこ行ったんだ!」
12月24日。人々が忙しなく動き回るこの時期ですら、太子は相変わらずのマイペースで今日もふらっと仕事放棄をしてくれた。
自分の仕事だって年内に終わるか終わらないかという状況なのに、太子が居なくなったときに探しに行く役目はいつの間にか妹子に確定していて。結局現在やっている仕事は一時中断で寒空の下妹子は駆け回っていた。
「じゃが芋里芋いもの子妹子~」
晴れた日に2人で見つけたクローバーが沢山ある丘で、調子の外れた歌といっていいのか分からない声が聞こえていた。
この寒い時期にやっぱり青いジャージだけを着て楽しそうにクローバーを愛でるカレー臭いオッサン。
「誰が芋の子だ、このアホ摂政。」
「わっ、妹子!?お前…いつ来たんだ…」
すぐ後ろに立って妹子が声をかけてやると、太子はまったく気づいていなかったのか肩を跳ね上がらせて驚き振り返ってきた。
「たった今ですよ。まったく…忙しいときくらいちゃんと仕事できないんですか?僕だってやること山積みなんだから、余計な時間取らせないでくださいよ。」
終わりそうになると追加される尽きることのない仕事の山に苛立ちが募っていたせいもあり、八つ当たり気味に文句をぶつけてしまった妹子。すると太子は一瞬表情を暗くして、すぐにふっと視線を背けてしまった。
「…太子?」
いつもなら噛み付くように反論をしてきて、お互いすっきりするまで言い争う流れになるはずなのに。いつもと違う反応を示した太子を不思議に思い、妹子が顔を覗き込むようにして名前を呼べば、再びそっぽを向く太子の体。
「だったら…私のことは他のやつに任せて、仕事してれば良かったのに。」
小さな声が寂しそうに呟く。それを聞いて一瞬目を丸くする妹子。しかし、次の瞬間には呆れたようにため息をついて太子に手を差し伸べた。
「誰よりも早く、確実に太子を見つけるのは僕です。他の誰かに譲るつもりはありません。」
今度は太子が目を丸くする番だった。身動きひとつとれずただ妹子の顔を見上げる。太子の視線に恥ずかしくなったのか、妹子がふいと視線を逸らす。
「どうせアンタのことだからまた、すぐに嫌になって逃げ出しますよね。溜まってる仕事、僕の部屋で一緒に片付けさせてあげますよ。どうせ一晩中かかるでしょうし。」
それはつまり、今夜はずっと一緒にいられるということで。太子は嬉しそうに笑みをこぼした。
「実はな…ずっと用意してた、お前に渡したいものがあるんだ。」
「奇遇ですね。僕も太子に渡したいものがあるんです。」
太子が妹子の手を掴んで言うと、妹子もその手を引いて立ち上がらせながら笑って答えた。
聖なる夜はあなたのために。
―――――――――
曽芭
旅の途中、師走ももう終わりに近づいた頃。寒い寒いと思っていたら、空からふわふわと舞い降りてきた雪が、あっという間に世界を白く染め変えてしまった。
「わぁ、積もってる!曽良くん、雪だよ雪!」
「見れば分かります。いちいちうるさいですよ、芭蕉さん。」
昨晩降っていた雪が積もったことに気づくと、芭蕉は子どものように窓に張り付いてはしゃぎだした。曽良はそんな芭蕉を見ていつものようにそっけない返答。
「君ね、仮にも師匠に向かってうるさいはないでしょ!もう…最近ほんと私のこと見下してるところあるよねぇ…」
松尾芭しょんぼり。と呟いて再び未だ雪を降らせ続ける灰色の空を見上げた。同じ部屋にいるのに窓の外にばかり向かう視線がやけに腹立たしくて、曽良は湯飲みに入っていた茶を飲み干すと、机に置いて立ち上がる。
「スランプ続きのジジイを見下さずして、ほかにどなたを見下すというんでしょうね。」
苛立ちも相まっていつも以上に冷たい語調で吐き捨てるように言うと、曽良は芭蕉に背を向け部屋を出て行ってしまった。
「あっ、曽良く…!」
慌てて振り返って呼び止めようとしたときにはすでに部屋のふすまがしまっていて。芭蕉は落ち込んだようにうつむいてため息をついた。
「せっかくの、ホワイトクリスマスなんだけど…な。」
特別な何かがしたいわけでも、欲しいわけでもない。ただ一緒に自然の変化を眺めながら一緒に過ごせたら…そう思っていただけに、曽良のいなくなった部屋はとても寒く、寂しく思えた。
「曽良くん、どこ行っちゃったんだろうね…」
ずっと持っていたマーフィーをぎゅっと握り締めて、芭蕉は寂しそうに呟く。先程までは綺麗だと思った降りしきる雪も、今では芭蕉の落ち込みを増長させるだけだった。
「ん…あれ?」
ふと視界の隅に映った白の中でゆれる黒。芭蕉が視線を空から地面の方へ移すと、しゃがみこんで何かしている曽良の姿が見えた。
「曽良くん、だよね?何やって…あっ!」
確認するように独り言を言いながら曽良の手元を見て理解した芭蕉は、嬉しそうに笑って自分も部屋を飛び出した。
急いで部屋から見える庭まで駆けて行く。
「曽良くんっ!」
外は思った以上に寒く、吐く息は雪と同じように白く変わったが芭蕉はそんなことお構い無しに大きな声で曽良を呼んだ。
曽良はその声を聞いて一瞬嫌そうな顔を見せたが、すぐに無表情に戻して振り返る。
「何ですか、この寒い中ウザイくらいテンションが高いですね。」
「それ!その雪だるまさ、前に私が作って見せた奴だよね!?ここにも同じものあったんだ?」
曽良がいつものように声をかけても、芭蕉は喜びの方が勝っているのか曽良の足元にある小さな雪だるまを指差して問いかけてきた。
旅に出る前、雪の積もった芭蕉庵でそこにある植物を使って作った雪だるま。曽良の足元にはそれとまったく同じように目や口がついた雪だるまがいた。
「ちゃんと見ててくれたんだね!ありがと、曽良くん!」
「何の話ですか。これは庭を見ていたときにたまたま見つけただけですよ。」
「『君火を焚け よきもの見せん 雪まるげ』」
言ってもシラを切ろうとする曽良に、芭蕉はあの時と同じ句を口にする。曽良が動きを止めた。
「私、今度は曽良くんから見せて欲しいな。」
「…とりあえず、こんな寒いところにいつまでも居たくないので部屋に戻りますよ芭蕉さん。」
にっこり笑って芭蕉が言うと、曽良はため息混じりに答えてさっさと部屋に向かって歩き出してしまった。
けれど今度は芭蕉に合わせたゆっくりとした速度。それがますます嬉しくて、芭蕉は終始笑顔で曽良の後を追う。
一日中そばにいてくれるなら…他に目移りしないというのなら…
聖なる夜はあなたに捧ぐ。
―――――-―――――-―――――
思いつきでやってはいけないと激しく後悔しております。
メリークリスマス!
ボーっとしていたら浮かんできた小話を文章にしてみたら止まるわ止まるわ…。しかもあんまりクリスマス関係なかったって言うね。
とにかく、特別な日はお互い一緒に居たいんだよ!ということでひとつ…
ありがとうございました。
「告白」で曽良受け
2009/11/22 00:05:01
どこまでやるつもりなんだ、と自分に問いかけたくなりました。
しかし、何となくボーっとしていたらシチュエーション(?)が浮かんできてしまったんです。
結論→曽良総受けは難しい。
今回、順番が前回と違うので注意です!
妹曽
鬼曽
太曽
閻曽
芭曽
妹曽
「曽良。」
「何ですか、妹子さ…っん…」
不意に名前を呼ばれて返事をしながら顔を上げた曽良の唇と重なり合う妹子のそれ。しかし、いつものように軽く触れてすぐに離れた。
「…大好きです。」
いまだ息がかかるくらいの距離で目を合わせて、妹子は告白する。
曽良は表情を変えることなく、妹子を見つめ返して
「貴方はいちいち口づけてからでないと言えないのですか。」
ため息混じりに問いかけとも呟きとも取れるような口ぶりで言った。
妹子が何が楽しいのかくすくすと笑って、頬に添えた手をそのままに親指でそっと曽良の唇の形をなぞる。
「だって、曽良の唇…触れると気持ちが良いんだもの。つい口付けたくなるんですよ。」
「物好きな人ですね。僕よりいい人は大勢いると思いますよ。」
妹子の手を軽く払いのけて、ため息混じりに言い返す曽良。
「ダメですよ。例えそうだったとしても、僕はもう曽良しか見えないし曽良以外の人を愛することは出来ない。」
「っ…」
妹子の言葉に息を詰める。表情はさほど変わっていないが、曽良がわずかに視線を逸らしたのが妹子には分かった。
「責任…取ってくださいね?曽良。」
「なっ…!…ん、ぅ…」
曽良の反論は、再び重なり合った唇に遮られてしまった。
―――――――――
鬼曽
「曽良ー…」
読書をしている曽良に声をかける。
「チッ…何ですか、うっとうしい。」
曽良は読書が中断されたのが腹立たしかったのか、顔を上げながら舌打ち混じりに返答した。
「おまっ、舌打ちするか?普通!」
そんな曽良の反応に鬼男もカチンときて、身を乗り出して言い返す。それに対し心底嫌そうに眉根を寄せたと思うと、読書続行の意を示すように視線を鬼男から本に戻した曽良。
「お前なぁ…!」
「うるさいですよ。僕は暇じゃないんです、早く用件を言ってください。」
文句を言おうと口を開いた鬼男を遮り、読書は続けたままだが話を聞くつもりはあるらしく曽良は先を促した。
すると鬼男は待ってましたといわんばかりにニヤリと口元を上げる。
「ん?ただ呼んでみただけ。意味はない。」
鬼男の答えに、ピクリと曽良の眉が動いた。
読んでいた本を閉じ、鬼男の方を苛立ちを隠しもせずに睨む。
「…不愉快です。僕は、あなたのそういうところが大嫌いなんですよ。」
鬼男は変わらず口元に笑みを貼り付けたまま「奇遇だな。」と答えて続ける。
「僕も、お前のそのいちいち攻撃的になるところが大嫌いだよ。」
「僕を攻撃的にしているのはあなたのその態度でしょう。」
「僕を批判する前に自分の性格を振り返ってみたらどうだ?僕でなくたって同じようにするさ。」
ムッとした様子で曽良が言い返しても、鬼男の態度は変わらず。
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。…僕の性格のことをあなたにとやかく言われる筋合いはありません。」
「だったら僕の性格についてもお前が言うことじゃないよな。大きなお世話だ。」
「だからあなたは嫌いなんですよ。…時間を無駄にしました。」
お互いがお互いをにらみつけて、どちらともなく視線を逸らす。
曽良はそのまま本の続きを読み始め、鬼男は何をするでもなく外を眺めた。
「……」
「……」
しばらく黙っていた2人だが、曽良の読書がキリのいいところまでいったのとほぼ同時に、鬼男が曽良の後頭部に手を回して引き寄せた。
「っ…ん…」
自然な流れで重なり合うお互いの唇。口付けたまま鬼男が空いていた手も曽良の背中に回して抱きしめれば、曽良は読んでいた本にしおりを挟んで閉じる。
触れ合う唇から…体から、熱が伝わる。うるさいくらいに早鐘を打つ互いの心臓。長く長く、酸素が入り込む隙間さえ許さないくらいに深い口づけ。
「っ、は…っぁ…」
「お前なんか、嫌いだよ。」
「えぇ…僕も、あなたが嫌いですよ。」
言葉ではうまく伝えられない彼らの、不器用な愛情表現。
―――――――
太曽
「曽良、好きだー!!」
「出会いがしらに気持ちの悪いことを言わないでください。」
曽良の姿を見かけた太子は叫びながら曽良に飛びつこうとするも、あと一歩というところで軽くいなされた。
「気持ち悪…って、私が好きだって言ってんだから受け取れよ!」
曽良の態度に一瞬落ち込みかけた太子だが、勢いよく顔を上げて持ち直し、子どものように両手をばたつかせて声を張り上げる。
曽良はうるさそうに顔をしかめて
「誰も頼んでいません。寄らないでください。臭いんですよ、あなた。」
そう冷たく太子を突き放す。
「おまっ…私は臭くないぞ、断じて!!…なぁ曽良、さすがに私でもへこむぞ…?」
全力で否定したものの、後から落ち込んできたのか太子はがっくりと肩を落として弱々しく呟いた。曽良は面倒くさそうに軽く息を吐く。
「知りませんよそんなこと。僕には関係ありません。」
「っ、関係ないってどういう意味だコラァー!!」
さすがに曽良のその言葉には怒りが沸き起こったのか、太子は言いながら曽良の腕を強く引いて抱き寄せた。
「ちょっ…!」
予測不可能の太子の動きに反応が遅れた曽良はあっという間に太子の腕の中。
「曽良…私たち、一応恋人同士だろう?」
抱き寄せたことで近づいた耳元で、不安げに問いかける太子の言葉に、今度は曽良が怒ったように、けれどどこか悲しみを含んだ様子で眉根を寄せた。
「…一応って何ですか。」
「え?」
うつむいて小さく呟いた曽良の声が聞き取れず、思わず顔を覗き込みながら聞き返す太子。曽良が顔を上げて太子をキッと睨んだ。
「一応って、何ですか?僕は、あの時ちゃんと答えましたよね?」
あの時…大好きだ、付き合って欲しいと告げた太子に、曽良は珍しくわずかに頬を赤らめて自らの思いも言葉に乗せて応えてくれた。
素直に気持ちを言葉にするのが苦手な曽良が、僕もあなたが好きです。と精一杯の勇気と素直さでもって太子に答えたのだ。
「曽良…」
「何度も言わなくたって、ちゃんと理解しています。あなただって、そうであると信じていたのですが…僕の、勘違いでしたか。」
曽良の反論に太子が驚き目を見開いていると、曽良はぷいっとそっぽを向いてそんなことを言う。
きっと気のせいだとは思うが、うつむく曽良の背中が…太子にはなんだか泣いているように見えて。
「ごめん、曽良…。私たち、ちゃんと恋人同士だよな。」
殴られるかな…?なんて思いながらも、そっと後ろから抱きしめてみる。曽良はわずかに身じろぎはしたものの、何も言わず抵抗もしなかった。
「曽良が大好きだから、つい欲張りすぎた。今の言葉で十分だよ…愛してる、曽良…」
「っ、だから耳元で気持ちの悪いことを言わないでくださいと言っているんです!」
「ポピーーーーーー!!!」
耳元での告白に曽良は珍しく声を張り上げて容赦なく攻撃を食らわせると、太子は勢いつきすぎて地面に90%以上刺さった。
はぁ、はぁ…と自らを落ち着かせるように呼吸を繰り返して、最後に大きく深呼吸をした曽良は、熱い頬を誤魔化すように少しうつむき太子に背を向けて立ち去ってしまった。
―――――――
閻曽
「あ、曽良見ぃーつけた!」
きょろきょろと辺りを見回し、見慣れた着物姿を発見した閻魔はがばっと曽良に抱きついた。
「っ…!」
「げふぉっ!?」
一瞬動きを止めたものの、次の瞬間には容赦なく閻魔のわき腹に肘鉄がやってきた。予想以上の痛みに、閻魔は思わず手を離してしゃがみこむ。
「え、ちょっ…い、いきなり何、するの…曽良…」
肘鉄を食らったわき腹を押さえながら涙目で訴える閻魔を、曽良は冷ややかな眼差しで見下ろした。
「それはこちらのセリフです。いきなり何するんですか、閻魔さん。」
「えぇー…だって、曽良の姿見たら抱きつくしかないでしょ。」
よいしょ、とまるで痛みがなくなったかのようにごく普通に立ち上がり、曽良の冷たい問いに楽しげに笑って答える閻魔。
曽良は閻魔の返答を聞いて考えるように眉根を寄せるも、すぐに考えることを放棄したのかため息を吐いていつもの無表情に戻す。
「まったく理解できませんね、その理屈。」
「あーあ、ほーんとつれないなぁ曽良は。もうちょっと何かないのー?」
相変わらず取り付く島もない言葉に、閻魔は落ち込んだような素振りを見せて曽良の頬にそっと触れた。
「触らないでください、うっとうしい。」
「あーらら。」
触れられた手すら煩わしいと言いたげに簡単に叩き落とされる。
大して痛みはないがぷらぷらと叩き落とされてしまった片手を振りながら、閻魔もふぅ…と大きく息を吐き出した。
「曽良さぁ…もう少し素直になったら?」
「なっ…ん…っ!」
言うが早いか、あっという間に距離を縮めて曽良の後頭部に手を回し、唇を重ね合わせる閻魔。逃げようと腕を突っ張る曽良を逃がさないようにしっかりと腰に手を回して、長く深く口づけを続けた。
「っ、は…ぁ…」
突っ張っていた曽良の腕が震え、体から力が抜けてきたところで閻魔がようやく離れれば、銀が細く伸びて二人を繋ぐ。
「曽良…愛してるよ。」
「…っ」
パンッ!と小気味のいい音を立てて曽良が思いっきり閻魔の頬を叩いた。
酸素不足のせいか瞳は潤み、荒い呼吸をしてはいるものの、曽良は明らかに怒りを宿していて。
「いったぁ…ホント素直さも可愛げもない奴だね、曽良は…」
「そん、なもの…僕は必要としてません、から。」
叩かれた頬に軽く触れながら閻魔が呟けば、返ってくるのは敵意剥き出しの濡れた黒曜石の瞳とそんな言葉。
けれど閻魔はその濡れて光っているように見える黒曜石をついつい綺麗だと思ってしまう。いつか自分だけを見つめ映してくれる日を思い描いた。
「まぁ、すぐに落ちられてもつまらないか。いつか君に絶対、俺が好きで仕方ないって思わせてみせるよ。」
「…好きになさい。そんなことは決して有り得ませんから。」
ふふっと楽しげに笑った閻魔を、曽良は対照的に表情を変えず睨みつけた。
―――――――――
芭曽
「あ、曽良くん。ちょっと待って。」
落ち葉舞う山道、一人さっさと先を歩く曽良に不意に芭蕉が声をかけた。曽良はチッと舌打ちしつつも立ち止まり、後ろを振り返る。
「何ですか、芭蕉さん。疲れたから休みたいなんていったら断罪しますよ。日暮れ前にはふもとの村に着かなくてはいけないんですから。」
「それは分かってるって。そんなんじゃなくて…」
鋭く目を光らせて言う曽良に芭蕉は苦笑いで返し不自然なところで言葉を区切ると、軽く背伸びをして曽良の髪に手を伸ばす。が、そのまま動きを止めてしまった。
「…?何ですか。」
「うん。曽良くんの髪にね、紅葉が一枚付いてて。取ってあげようかなって思ったんだけど…」
芭蕉の理解できない行動に眉根を寄せて曽良が問いかけると、芭蕉は答えながらふわりと微笑んだ。
「曽良くんの黒髪とその紅く染まった紅葉があんまりにも似合ってて綺麗だから…取っちゃうのが惜しくてね。」
「っ…馬鹿ですかあなたは。付き合ってられません、先を急ぎますよ。」
芭蕉のその表情と微笑みに照れたのか一瞬動きを止めた曽良だが、すぐさまフイと芭蕉に背を向けて憎まれ口を叩く。
「あっ、ちょっと曽良くん!松尾今結構良いこと言ったと思ったのに!あーあ、紅葉も落ちちゃったじゃない…まったくもー」
言葉の通り歩き出す曽良の背中にそんなことを言い返しながら、背を向けたときに落ちてしまった紅葉を拾い上げた。
「ジジイのくだらない戯言に付き合うほど僕は暇じゃないんです。」
「くだらないことかなぁ、これ…。本当に綺麗だったんだよ?君の姿。」
立ち止まって振り返った曽良のつれない一言に、芭蕉は拾い上げた落ち葉をもてあそびながら視線だけで曽良を見つめる。
舞い落ちる紅葉たちを背景にして、真っ赤な落ち葉越しに絡み合ってしまった視線。茶色の瞳はどこまでも優しい色をしていた。
「っ…」
切り取られたようなその空間に飲み込まれたようにしばし何も考えられなくなっていた曽良は、はっと我に返って芭蕉から視線を外す。すると、ふふっと笑う気配がして先ほどまでの空気があっという間に壊れた。
「曽良くん、曽良くん。今、私に見とれてたでしょ?目をそらしたのは照れを隠すため?いや~、松尾カッコいいもんねぇ…うん、仕方ない仕方ない。」
良い俳句が出来たときと同じようなテンションで持って曽良との距離を縮めてくる芭蕉。事実ではあるが、認めるつもりはないし何より相変わらずのよく分からない自意識過剰なその態度に、腹が立った。
「だまらっしゃい!!」
「もみじっ!!」
容赦なく、思いっきり芭蕉の腹部に攻撃を食らわせる。芭蕉はいつものようによく分からない声を上げて崩れ落ちた。
「曽良くん…あんまりドゥ…」
しくしくと涙を流しながら呟く芭蕉の姿に、曽良はどこか安心していた。あぁ、これでまたいつも通りだ…と。
先ほどまでの雰囲気はもう完全に消え去った。
「…まぁ、旅が終わるまでまだまだ時間もあるし…ね。」
急いては事を仕損じる。
心の中でそんなことを呟きながら、芭蕉は安心して先を足早に歩く曽良の背中を追いかけた。
――君がまだこのままでいたいって思ってるなら。
「とりあえず、このままでいようか。」
まだまだ長い間、2人で旅を続けるんだから。
「芭蕉さん、早くしてください。日が暮れますよ。」
「分かってるってば!もうせっかちだなぁ曽良くんは。」
告白は、またいつかの機会にでも。
――――――――――――
なんだかキス率が急上昇中の「告白」シリーズ(勝手に)です。
曽良くん受けは難しいことが判明。読んだり見たりする分には好きなんですけどねぇ…。
今回一番厄介だったのは芭曽でした。どういう方向でいくかがなかなか決まらず…orz 結局「告白」なのに、告白しないで終わってしまったっていうね。最初はちゃんと告白させるつもりだったんですけど…どうにも、以前読んだものや書いたものと同じような感じになって納得いかず、やめました。
これも、なんか中途半端ですけどww
とりあえず…うちの曽良受けは曽良くんにSっ気がなくなり、攻めの方々がちょっと強気になるようです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。