セーラー服と反乱(鬼男×閻魔)
2010/06/30 20:27:28
最近、めっきり小説を書いていないので…場繋ぎ的な。^q^
閉鎖したサイトから持ってきたやつです。
以前陵さんに献上した作品。これは、多分古本屋で二巻だけ買って書いた奴・・・だったと思う。
・妖しい雰囲気(笑)が軽く漂います。
・タイトルに特に意味はない!^q^
・閻魔がちょっと弱気。
・鬼男くんは相変わらずカッコつけ^q^
・きっと私は初めて日和を読んだそのときから、鬼男くんに夢を見すぎているんだろうw
「鬼男くーん!」
仕事が一段落したところで、やたらとテンションの高い声が僕の耳に届いた。
「何ですか?」
僕は書類から目を離し、大王の方に顔を向ける。と…
「ふふっ、ねぇ鬼男くん?」
後ろ手に何か隠して、企んでいるような顔をした大王がすぐ近くにいた。…嫌な予感がする。
「じゃーん!」
目の前に差し出されたものは、セーラー服。
七つ道具に入っていたのとは別の物だ。また買ったのか、コイツ。
「…まさか僕に着ろとか言うんじゃないでしょうね?」
「さっすがオレの秘書!うん、絶対似合うから着てみてよ!」
僕の当たって欲しくなかった問いに、大王は嬉々として答えた。
「刺すぞこの変態セーラー野郎。」
僕は爪を伸ばして大王に突き刺す。
「ちょ、痛い痛い!って言うか、刺すぞって言う前からもう刺してるってどうなの、それ!」
いつものように騒ぐ大王に、いつも通りすぐ爪を抜いてやる。
「まったく…。」
爪を軽く振ってから元に戻す。何回やっても懲りないんだ、コイツは。
「ねー、せっかく買ってきたんだから着てよ~。いいでしょ、鬼男くーん…」
僕の服を握り、甘えるように猫撫で声を出して大王は言う。
うるさいからもう一回やってやろうか。…いや、余計うるさくなるな。
「着ねぇよ!…大体、そんなもの僕に着せて何が楽しいんですか。」
「えー?だってぇ~、似合いそうだなって思ったら着せたくなるものでしょ?」
前で手を組んでわざとらしく上目使いをして聞いてくるのは、ひょっとして作戦なのか?
…少し、揺らぐものがあった。
「思いません。あと、もじもじすんな気持ち悪い。」
書類をまとめながら考えと違うことを口にする。
「鬼男くんってば相変わらず辛辣~。オレだって傷つくのに…。」
セーラー服を持ったまま、机に『の』の字を書き始める大王は、可愛いと思う反面かなりウザい。
「…大王。」
僕の声に反応して顔を上げた大王の唇に、触れるだけの口づけを送る。
大王は一瞬呆気にとられたように僕を見た後、一気に顔を赤くした。
「い、今のは…何の口づけかなぁ…?」
「強いて言うなら、慰めですかね。」
「だったらこれ着てくれたっていいじゃん!」
僕の返答に、大王はセーラー服を再び僕に差し出して叫んだ。
誰が着るか。
「そもそも、自分は着ないのに僕に着せようってのがまず間違ってるでしょう。」
僕がため息混じりに言うと…
「ギクッ!」
あからさまに体を跳ねさせた。
「…ギクッて何だ、ギクッてのは!着てるのか?着てるんだなこの変態セーラー大王イカがっ!!」
今度こそ容赦なくざっくり爪を刺してやった。
「ぎゃああー!!本日2回目っ!てか、ち…血ぃ~!」
あぁ、やっぱうるさくなった。…いっそのこと持ってるセーラー全部切り刻むか。
「ひ、酷い…。しかも、今回は全部くっつけるなんて…」
「自業自得ですよ。」
ぐすぐすと泣きながら文句を言う大王の顔をハンカチで拭いてやる。
これ以上騒がれるとさすがに厄介だ。
「言葉と行動、合ってないよ…」
大王がボソッと呟く。
「蹴られたいのか。」
「け、結構ですっ!」
イラッとして言い返すと、大王は首をブンブン横に振って答えた。
「ったく…」
僕がため息をつくと、大王はふふっと笑って僕の首に手を回し、抱きついてきた。
「何笑ってんですか。」
とりあえず支えるために腰に手を回して問いかける。
すりすりと甘えるように僕の胸に頬を寄せる姿は、さながら猫のようだ。
「ん~?鬼男くんが反応してくれるのが何か嬉しくってさ。」
大王は少し顔を上げて、またもや上目遣いに僕を見ると、ふわりと至極幸せそうに微笑んだ。
…何だコイツ。オッサンの癖にこの可愛さはどこから来てるんだ。
「当然でしょう。何を今更言ってるんだか。」
「そうだけど…時々ふと思う時があってもいいじゃん。」
僕が素っ気なく答えると、ムッとした表情で言い返してきた。
何を不安がってるんだ。らしくもない。
「僕が大王の言葉に応えなかったときがありますか?無いでしょう。…下らねぇことうだうだ考えんな。」
ギュッと、折れそうなくらい細い体を抱き締めてやる。
不安にならなくたって、僕はいつだって大王の傍にいるのに。…なんか、信用されてないみたいで腹が立つ。
「鬼男くん…」
紅玉の瞳が艶めいてきて、僕の名前を呼んだらそれは合図。
死者の裁きはもう終わっているし、書類は切羽詰まるほど溜まっている訳でもない。
例え問題があったとしても、妙に不安定になっている上司をこのまま放っておくなんて、僕は嫌だけど。
「理由は知りませんが…そんな下らないこと、考える余裕すら無くしてやりますよ。」
言って、大王に噛みつくように唇を重ねてやった。
壁に押し付けて、服の袷から手を滑り込ませる。
「っ…!」
ビクッ、と大王の体が跳ねた。
僕の腕を握りしめて、ねだるような目を向けてくる。珍しく積極的だ。
「ふっ…ぁ…」
薄い胸に手を這わしながら口づけは顎のラインを通って首筋に移動させた。
僕の制服と違って、大王の服は腰のところを帯で締めているだけだから、軽く引っ張れば簡単にはだける。
肩口に唇を寄せて、強く吸い上げた。
「ぁっ!」
もう足が震えてる。壁に背を預け、僕が片手で支えているとはいえ、立っているのはかなり辛いはず。
僕は、大王の耳元に唇を寄せて甘噛みしてから問いかける。
「大王。寝室に行きませんか…?」
大王は熱に浮かされたように潤んだ瞳で僕を見、震える手を僕の首に回す。
そのまま横抱き(俗に言うお姫さま抱っこ)にして、寝室のドアを開けた。
◇◇◇
「もう…少しは手加減してよ…」
情事の後、大王は布団に寝転がったまま少し掠れ気味の声で呟いた。
「求めてきたのは大王ですけどね。」
寝台の端に腰かけて、くしゃりと大王の頭を撫でてやると、気持ち良さそうに細められる目。…マジで猫だな、コイツ。
「んー…だって鬼男くんが離れるとすぐ冷たくなるんだもん、オレ。」
体温を分けても、すぐに元通り冷たくなる体。
跡をつけても、驚異的な再生能力ですぐに消えてしまう。
「全部、幻のような気がしてくるんだ。」
自嘲的な笑みを浮かべる大王。
やっぱり僕は、信用されてないんだろうか。
どれだけ抱いても、愛を囁いても、結局この人には響かない。
「僕は、そんなに信じられませんか?」
「え…ちがっ、違うよっ?そういう訳じゃなくて…!」
慌てて否定しようとする大王を再び組み敷く。
「お、にお…く…」
「僕は傍にいるって、何度言えば分かるんだよ。」
肩を掴む手に力がこもる。…なんで、伝わらないんだ。
「だって、さ…鬼男くんは、オレと違っていつか終わりが…転生の日が、来るじゃない…」
大王の顔が、泣くのを必死に我慢するように歪んだ。
「っ…」
言葉に詰まる。
そんなことを考えてるとは思わなかった。
「…ごめん。」
言ってから、しまったと思ったのか大王は目を逸らして謝ってきた。
僕は、大きく深呼吸をひとつ。
「そんなの、関係ない。」
「え…?」
きょとん…と、今にも溢れそうに涙を溜めた紅玉を僕に向ける。
「そんなこと今は関係ない。アンタは、僕が今にも消えそうに見えるんですか?僕が、アンタから離れようとしてるように見えるんですか?」
「そんなっ…!」
「僕は今ここに、アンタの傍にいます。手を伸ばせばすぐに触れられるくらい近くで、アンタと会話してる。」
大王の手を取り、僕に触らせる。冷たい分、僕の存在がよりはっきり分かるはずだ。
「転生の日は確かにいつかは来る。でもそれは、もっと先の話だ。今恐れることじゃない。
僕は、いつでもアンタの傍にいます。それこそホントに、手を伸ばせばすぐ届く範囲に。」
「おにお、くん…」
「アンタがそれでも恐れると言うのなら、僕はその流れにだって抗います。この世界を壊したっていい。」
唖然としたようにポカンと僕の顔を見つめた後、大王は至極おかしそうに笑いだした。
「それじゃあ、オレの存在自体が揺らいじゃうよ。」
くすくすと笑いながら、大王は僕に抱きつく。…ようやく笑ったか。
「そうですね…。そのときは、一緒に転生しましょう。例えどこでどんな姿になってても、僕はアンタを見つけ出しますよ。」
「あははっ、男前だねぇ~。」
他の者は夢物語だと嘲笑うかもしれない。けれど僕は、アンタのためならそれすら容易くやって見せる。
アンタを苦しめるだけ世界なんて、絶対に認めない。
「ところで大王?」
僕の腕の中、楽しそうに笑う大王の服に手をかけながら名前を呼ぶ。
「な…何、かなっ…?」
僕の手の動きに不穏な空気を感じ取ったのか、笑いを引っ込めて逃げ腰に聞き返してくる。
当然逃げられないように体を押さえているけど。
「セーラー服、トランクの中ですか?」
「うん…そ、そうだけど…鬼男くん、まさか…」
僕の問いに、大王も察しがついたのか顔がひきつった。
「普段着てるなら良いじゃないですか。」
大王を押さえながらトランクから7つ道具の…これはその2か。その2のセーラー服を取り出した。
やっぱ少しベタベタしてたけど、まぁ下らないことを考えた罰ってことにしておこう。
「お、鬼男くんの変態!」
「アンタの影響じゃないですか?」
涙目で訴える大王に向けた笑顔は、きっと今までで一番楽しそうだったに違いない。
【終】
作る幸せ、食べる幸せ(鬼男×閻魔)
2010/06/14 21:28:26
ほんと、天国組ばっかやなぁ…とか思いつつ。^q^
半年くらい前に
「付き合いたてのカップルみたいな、結婚したての新婚夫婦みたいな初々しい2人」が
見たいなぁと思ってぼんやりと考えて、数行書いて止まっていたものです。
とりあえず最初から最後までの流れが浮かんだのが数ヶ月前。
書き出して、止まって、他の話書いて、今日何となく書き終えてみました。
読み返すと、なんか最初と大分変わってしまった…orz
・もう、お前ら勝手にやってろ!恥ずかしいんじゃボケ!(…というのを目指していたのになぁ)
・鬼男の料理はどんだけレベルが高いんだよ!(…って言えるくらいの料理表現がしたかったなぁ)
・なんというキャラ崩壊^q^
そんな感じのお話。
…おや?
閻魔と鬼男くんが仕事を終えて夕飯を食べるようですよ。ちょっと覗いてみましょう。
―――――――――――――
「……」
夕飯の支度をしている鬼男の背中をじっと、穴が開いてしまうのではないかと心配になるくらい真剣に見つめるふたつの赤いビー玉。何が楽しいのか、閻魔は鬼男が食事の支度を始めるといつの間にか一緒に居る。
「見ているだけなら、手伝ってくれませんか。」
視線がなんだか居た堪れなくなって、鬼男はため息混じりに呟いた。閻魔は突然かけられた声に少しびっくりしたように目を見開いてから、困ったように首をかしげる。
「出来ることなら手伝いたいんだけど…オレにできること、何かある?」
「あ…えー、っと…」
座ったまま問いかけられて、今度は鬼男の方が困ってしまった。
夕飯はもうすぐに出来る状態。いつもの癖で食器類もテーブルのセッティングもすでに終えている。手伝いを求めるならもっと序盤に言うべきだったのだが、料理に慣れていない閻魔にもしものことがあっても困るからと、つい言えずにいたのだった。
「とりあえず…」
「とりあえず?」
言いながら鬼男が閻魔を手招くと、閻魔は呼ばれるまま鬼男に近づいて聞き返す。鬼男はかき混ぜていたスープを少し小皿にとると、閻魔の前に差し出した。
「味を見るくらいですかね。」
「へ…?」
思わずぽかん…として鬼男の顔を見つめてしまう閻魔。しかし、誤魔化すように視線を逸らしている鬼男の表情を見て嬉しそうに笑みを深めた。
「えへへ…りょーかい!」
小皿を受け取りながらそう言うと、閻魔は少し冷めたそれに唇を寄せる。本当は、味見をしなくたって分かる。いつだって鬼男は、閻魔の好みに合った味付けをしてくれるのだから。
「どうですか?」
「ん、大丈夫!いつもどおり、すごく美味しい!」
お玉でかき混ぜながら問いかけてくる鬼男に、閻魔が満面の笑みで答えれば鬼男は満足そうに笑みを深めた。
後はもう食べるだけだと、閻魔はいそいそと食器を鬼男のもとへと持ってくる。鬼男がそれを受け取って盛り付ければ、閻魔は再びそれを受け取ってテーブルに並べる。ちょっとしたバケツリレーみたいで、なんだか面白かった。
「いただきます!」
「どうぞ、召し上がれ。」
料理を並べ終えて席に着くや否や、早々にスプーンを手にしてお決まりの言葉を口にする閻魔に、向かいに座った鬼男はくすっと笑って返し、料理を食べ始めた閻魔を料理そっちのけで眺めている。
「えーっと…何?」
最初は料理に夢中で気にならなかったが、向かいに座っている相手が料理に手もつけずに自分を見ているのはあまり居心地が良いとは言えない。閻魔は食べる手を止めて恐る恐るといった具合で問いかけた。
「…いつも思いますけど、大王ってホントにうまそうに食事しますよね。」
「ん?うん!だって鬼男くんの料理だもん!鬼男くんの作るものって、本当に美味しいんだよ?オレじゃなくたって絶対おいしそうに食べるって!」
鬼男がどこか不思議そうに言えば、閻魔はきょとんと鬼男の顔を見つめ返してから大きく頷いて満面の笑みで答える。作り手からすれば自分の料理を褒められて悪い気はしないので、鬼男はなんだか照れくさくなってしまって誤魔化すように視線を逸らし「そりゃどーも。」とそっけなく返した。
「もう、素直じゃないなぁ…」
呟きながらも閻魔はくすくすと楽しそうに笑って、食事を再開する。料理を口に運ぶたびそれは美味しそうに顔を綻ばせるので、鬼男の方も結局視線を閻魔に戻してまたじっと眺めてしまう。これだけ美味しそうに食べられれば、作り手冥利に尽きるというものだろう。
「あのさぁ…鬼男くん?そんなに見られてると、さすがに食べにくいよ。」
「…あんたが普段やってるのと同じことやってるだけなんですけどね。」
再び手を止めて、閻魔が気まずそうに言うと、鬼男から返ってきたのはそんな言葉。何のことか閻魔にはさっぱり分からなくて、反射的に「え?」と聞き返した。
「僕も…毎日作ってるときにじっと見られてると、少し作りづらいです。」
口の端に付いたソースを指で拭ってやりながら、鬼男は苦笑して閻魔の問いに答える。その答えで思い至ったらしい閻魔は、あっと口を開きかけて急に恥ずかしそうに頬を染めて俯いてしまった。
「大王?」
今度は鬼男の方が閻魔の反応の意味が分からず、声をかけて首をかしげてしまう。閻魔は俯いたまま「それは謝る、けど…でも…」と歯切れ悪く呟いては言葉を濁した。
「何か理由があるなら言っていただけると、嬉しいんですが。」
「あ、あの…ね?オレ…すごく、好きなんだ。」
責めるわけでも、急かすわけでもなく、ただ単純に気になるのだということを示すように、鬼男は少し語調を弱めて閻魔に声をかける。閻魔は俯いたまま、鬼男の様子をうかがうように上目遣いにちらちらと鬼男の顔に視線を送りながら、ポツリと答えた。
「…何がですか?」
「うっ…あー、えーっと…」
話の流れがよく読めなくて、鬼男は考えるように眉根を寄せてさらに情報を得ようと問いかける。しかし閻魔はその好きな何かを言うことが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして意味を持たない音を漏らした。
もちろん鬼男にはさっぱり理解できなくて、ただ首をかしげることしか出来ない。
「えっと、その…りょ、料理をしてる…鬼男、くん…」
「…は?」
理解できなかったわけではないのだが、あまりにも予想外な返答だったから聞き返す言葉を返してしまった。閻魔はそれを理解できなかったととったらしく、やけになったのか「だからー!」と声を張り上げる。
「オレ、料理をしてる鬼男くんの姿がカッコよくてすごく好きなの!調理台に向かってる鬼男くんの背中とか、味見してちょうどいいときに笑う顔とか…っ、目が…離せなくなるん、だよ…!」
言っていくうちにどんどん恥ずかしさが増していったのか、首まで真っ赤にして視線を外すように俯き始め、言葉尻も小さくなった。
「っ!」
一拍間を置いてから、閻魔が様子をうかがうようにそっと上目遣いで鬼男に視線を向けると、鬼男の方も思い出したようにかぁっと顔を赤く染めた。お互いに真っ赤な顔で動きを止めること数秒。
「あっ、あーもう、せっかくの料理が冷めちゃうじゃん!」
沈黙がいたたまれなくなったのか、閻魔は赤い顔のまま誤魔化すようにそんなことを口にして、まだ一度も手を付けられていない鬼男の前にある料理にフォークを伸ばすと、ぱくりと自らの口に放り込んだ。当然といえば当然なのだが、やはりそれはすごく美味しくて。思わず閻魔は顔を綻ばせて満足そうに笑みを浮かべる。
「自分のがまだ残ってるくせに人のモンまで取るな、アホ大王。」
閻魔の行動と表情で調子を取り戻した鬼男は、肘をついてため息混じりに言いながらピンッと閻魔の額を指で軽くはじいた。
「ぃった!なんだよー、食べないで見てる鬼男くんが悪いんだろ!それに、俺が食べてる姿見るの、鬼男くんは好きなんでしょう?」
大して痛みはないが、条件反射で額を押さえながら声を上げてから、閻魔もいつものような態度で鬼男に笑いかける。すると鬼男は肘をついたまま空いている手でフォークを持ち、料理を一口大にしながら「ええ、好きですよ。」と頷いた。
「だから…はい、どうぞ?大王。」
「え…」
一口大にした料理を閻魔の口元に持ってきて笑顔でそんなことを言うものだから、閻魔は思わず硬直してしまう。これはつまり…そういうことなのだろうか。
「要らないんですか?」
「え、いや…くれるんなら欲しい、けど…」
差し出したままで問う鬼男に、閻魔は口ごもる。大好きな料理を大好きな人の手で食べさせてもらえるのは嬉しいしありがたいが、やはり羞恥が邪魔をする。
「ほら、あーん。」
「あー…ん、っ~!」
鬼男の言葉に誘われるまま口を開ければ、こぼさないように放り込まれる料理。途端に口内に広がる美味しさに、自然と頬に手を当てて嬉しそうな笑みが溢れた。何度食べたって飽きない、何度だって食べたいと思える、そんな鬼男の料理の美味しさ。
「よくもまぁ、食べるたびにそんな表情が出来るもんですね…」
呟く鬼男の声には喜びだけでなく若干の呆れも含まれていて。閻魔は口の中の料理をかみ締めるようにしっかりと咀嚼して飲み込んでから「でもさ、」と口を開く。
「鬼男くんは、オレのこういう表情が好きなんだよね?」
うふふ~と得意げに笑う閻魔。鬼男は「はい、まぁ…」なんて曖昧に相槌を打ちながら再び閻魔に料理を差し出す。一度食べてしまえばもう抵抗も大分薄れて、閻魔は素直にひな鳥のように身を乗り出すと、料理にぱくりと食いついた。
「でも…そうですね、僕は…」
「っ!?」
やはり幸せそうに笑いながら、体を椅子に戻そうとした閻魔の腕を引いて不自然に言葉を切った鬼男は、今度は自分も少し乗り出して閉じられた赤に自分のそれを重ね合わせる。驚き動きを止めたのをいいことに割り入って口内に侵入すると、わずかに残っていたものを舌で絡め取ってからゆっくりと離れた。
「アンタを食べるほうがもっと好きです。」
「なっ…!?」
舌なめずりをしながら心底楽しそうに笑う鬼男に、閻魔は再び頬を染めることになった。
【終】
――――――――――――
こんな風にして毎日ご飯食べていたら面白そうですけど、相当時間かけて食べていることになるよなぁーとか、冷静に考えてみたりもして。
どうにも調子が戻りませんねぇ…。まだ無理矢理書いているとこがあるのかなぁ?自分の文章に前以上の不満と不安がある今日この頃です。
模擬結婚式(鬼男×閻魔)②
2010/05/30 18:52:59
続きです。
やりたいことを全部詰め込むって大変ですよね^q^
「これは褒めてくれるのに、なんでセーラー服はダメなのかなぁ…?」
更衣室の中で自分の姿を改めて見て確認してから、閻魔は首をかしげて呟いた。
いや、別にセーラー服を堂々と着たいとか、着た姿を褒めてほしいとかじゃないよ?うん。買ってみただけなんだって。誰に言うでもなく心の中で言い訳をしながら、閻魔は着ていたチャイナドレスを脱ぐ。
「にしても…鬼男くんってばいつの間につけてたんだろう?全然気づかなかったって言うか、どこにつけたんだよまったく。」
言いながら軽く自分の体を見回してみるけれど、閻魔の目につくところにそれらしい跡はなく。どういう風に動いたら見えるのか、どうしたら見えないのかさっぱり分からなかった。
「もう…鬼男くんのばか。」
仕方ないので小さく悪態をついておくに留め、閻魔は鬼男が選んだチャイナドレスに着替え始める。先ほどまで着ていたチャイナドレスは胸と首のところがボタンになっているだけだったのでかぶらないと着られなかったが、これはスリットまでボタンを外せば羽織るように着られるので着替える分には楽だった。
「よし、っと。後はこれを付けて…付け…んん?」
鬼男の選んだチャイナドレスに着替えてから、女子生徒に渡された髪飾りを付けようとした閻魔だが、傾いてしまったり位置がおかしかったりとどうにも上手く付けられない。しばらく格闘してみたもののやはり上手くいかないので、諦めて付けずに手に持って更衣室を出ることにした。
「着替え終わりましたか?」
「あ、鬼男くん。うん、着替えたんだけど…髪飾りがどうにも上手くつけられなくて。」
更衣室を出ると、着替え終わるのを待っていたのかドアのすぐ横で声をかけられた。声のした方に体を向けた閻魔は、問いに答えてから目下の悩みを打ち明ける。鬼男はそれを聞いた途端「はぁ…?」と理解できないと言いたげに首をかしげた。
「耳飾りが付けられて、なんで髪飾りは出来ないんだよ。髪飾りの方が付けるの楽じゃないですか?」
「う、うるさいなぁっ!鬼男くんはそうでも、オレはこっちの方が苦手なんだよ!」
鬼男の呆れたようなバカにしたような言い方に怒りと羞恥が顔を出してきて、思わず噛み付くように言い返す。しかし鬼男はそんな閻魔の態度を気にした様子もなく、「そうですかそうですか、それは失礼しました。」と、さらにバカにしたような棒読みで返してきた。
「何だよ、もう!鬼男くんのバ」
「ほら、貸してみろ。」
言い方に腹が立った閻魔が怒りを爆発させようとしたところで、言葉とともに差し出される右手。
「え?」
「その髪飾り。つけてやるって言ってんですよ。」
怒りの言葉を遮られた上、そっけなくも優しい気遣いを見せられた閻魔は完全に怒るタイミングを逃してしまって、思わず「あ、うん…」と頷き素直に髪飾りを手渡す。
それを受け取って、試行錯誤の末に乱れてしまった閻魔の髪を手櫛で整えた鬼男は、閻魔の瞳と同じ深い紅色の大きな花の髪飾りを丁寧に付けてやった。葉をイメージしているのか、添えるように一緒に付けられた翡翠色のプレートが小さく揺れる。
「出来ましたよ。」
「ん…ありがと。どう?似合う?」
言って鬼男が手を離すと、付けやすいようにと少し俯いていた閻魔が礼を言いながら顔を上げ、感想が聞きたくてうずうずした様子で笑顔とともに小首を傾げて問いかけてきた。
「っ…!!」
問いかけられて初めて、髪飾りも含めきちんと全体を見た鬼男は、そのあまりの艶やかさに息を飲んだ。首をかしげるというオプションがあったせいもあるのかもしれない。
「似合わない、かな…?やっぱ。」
「あっ、いや…そうじゃなくて!」
鬼男が何も言わないことに不安を覚えたのか、閻魔が落ち込んだ様子で呟くので鬼男は慌てて首を横に振った。
「…?」
「そうじゃなくて、ですね…」
じゃあ、何?と言いたげな目を向けて首をかしげる閻魔に否定を繰り返してから、鬼男はそっと髪飾りに触れて、そのまま髪を梳くように閻魔の頬に手を添えた。
「あまりにも大王が綺麗だったから…少し、見惚れてました。僕にはもったいないくらいですよ。」
「そんなことっ…!」
苦笑して言った鬼男の言葉に驚き、悲しそうな表情で口を開いたところで、リップ音とともに優しく額に触れた柔らかくて温かい感触。
「…愛しています、大王。今みたいに着飾っている大王も、普段の元気で明るく笑っている大王も全て。大王だから…僕はずっと傍にいたいと思うし、いて欲しいと思う。これから先、何があっても…何年経っても、僕はアンタの隣を誰かに渡すつもりはありません。まだまだ未熟な僕ですが…これからの人生、出来るのならば終わりまで。僕が、大王の隣に立ち続けることを許してもらえますか?」
突然過ぎてどう反応したら良いか分からなかったのか、きょとんと鬼男を見上げてくる閻魔にますます愛しさが募って。鬼男は少し照れくさそうに、それでも真剣な眼差しを真っ直ぐに閻魔に向けて、愛しさを…誓いとも言える思いを言葉に乗せた。
「っ、許すも…許さないも、ないよ。オレだって、負けないくらい鬼男くんを思ってるんだよ…?」
嬉しくて、愛しくて。閻魔は胸の奥からこみ上げてくる苦しさを感じながら、今にも瞳から零れ落ちてしまいそうな熱い雫をぐっと堪えて震える声で言葉を紡ぐ。
「…はい。」
「オレが終わる、そのときまで…隣に鬼男くんがいない状況になることは、絶対許さない。ずっと…ずっと、傍にいて。オレも、鬼男くん以外の人の傍にはいたくない、から。大好き…ホントのホントに、好きなんだから!」
相槌を打った鬼男に促されるまま、閻魔も自分の気持ちを我慢できなかった涙と一緒に溢れさせた。口にしてしまったらもう勢いは止まらなくて。閻魔は自分の心も体も全て、何もかもをぶつけるみたいに鬼男の胸に飛び込んだ。
「…知ってます。だから…これから先もずっと、僕たちは一緒ですよ。」
閻魔の体を受け止めてしっかりと自分の腕の中に閉じ込めると、鬼男もあふれ出る愛しさを隠そうともせずに答えを返した。
「おーい、2人とも。着替え終わったんなら結婚式やるから早くこっちに来んしゃい。って、鬼男はまだ着替えてないのか?」
「あ…えーっと…」
会場の準備をしていた太子が閻魔と鬼男の姿を捉えて、声をかけながら近寄ってくる。しかしまだ着替えが終わっていない鬼男を見て、太子は呆れたように問いかけた。
結婚式を挙げることなんてすっかり頭から抜けていた鬼男は、太子の声に困り顔で言いよどむ。たった今、愛の誓いともいえる言葉を口にしたばかりなのに、また大人数の前で同じようなことを言うのは気持ちが安っぽくなる気がして。
「太子…せっかく準備してもらったのに悪いんだけど、オレ今はもう…他の言葉もらいたくないかも。」
その気持ちは閻魔も同じだったようで、気まずそうに鬼男から離れて太子に向き直り、俯き加減に言った。
「ん?」
「オレ…たった今鬼男くんから、すごく嬉しい言葉もらっちゃってさ。」
「鬼男、お前…」
意味が理解できなかった太子が聞き返すと、閻魔は申し訳なさそうに…けれど抑えきれないはにかみ笑顔で言葉を続ける。それを聞いて納得した太子は、不自然に視線を逸らしている鬼男の方を見ながら名前を呼んだ。
「えーっと…」
「何フライングしてんだこらぁーー!!」
「しょうがないじゃないですか!大王の姿を見たらなんか自然と出てきちゃったんですから!」
何か良い言い訳はないかと視線をめぐらせた鬼男を待たず、太子が拳を振り上げて声を張り上げたので、鬼男は言いつくろう余裕もなくただ負けじと声を張り上げて、素直な言葉を口にしてしまうことになった。
「このタラシ男め…!まぁいいか。そういうことなら…閻魔、鬼男。これからもずーっと、幸せにな?」
太子の振り上げた拳は形だけだったのか、鬼男の言葉を受けてすぐに下ろされることになり、どこか悔しそうな呟きの後すぐに嬉しそうな笑顔とともに祝いの言葉をかけられる。
鬼男も閻魔も一瞬理解できなくて言葉に詰まったが、次の瞬間には同じように嬉しそうな笑顔を見せた。
「ありがと、太子。」「ありがとうございます。」
同時に、素直に口をついて出てくる礼の言葉。そんな2人を見て、太子は満足そうに微笑んだ。
――目的とは違っちゃったけど…最高の言葉をもらうことが出来て俺は今、最高に幸せです。
【終】
――――――――――
式(というか愛の誓い?)に行くまでの長いこと長いこと…^q^
書いている途中、うっかり閻魔が女の子になりかけてて、気づいたときにかなり焦りました。読んでいる途中で若干女の子っぽくなっていたり、女の子に見えたりしたらそれは軌道修正し切れてないんだなと笑ってやってください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
模擬結婚式(鬼男×閻魔)①
2010/05/30 18:49:33
ようやく完成しました。模擬結婚式企画、鬼閻編!
ずいぶんと悩み苦しんでしまったような、実はそうでもないような。
とりあえず、話を聞いてくれて参考イラストも描いてくれた某方には大感謝です。
ありがとうございました。
結局どちらも捨てられなくて、両方使うことにしましたよっと^q^
あの案もこっそり(?)取り入れてしまいました。すみません。
そんなわけで、最初とは少し違ったものになりましたが、一応(?)納得いくものになったと思っています。かなり長めですが、お付き合いいただけると幸いです。
・閻魔が乙女だ。
・これ、女体化でもよかったんじゃね?ってくらい乙女イカだ。
・鬼男くんがカッコつけだ。
・これ、もう通常仕様なんじゃね?ってくらいタラシっぽくてカッコつけオニオンだ。
・ぶっちゃけ、チャイナドレスの閻魔(生足)の色気を感じたかっただけだ。
・というか、太子のクラス(3年飛鳥組)の教室はどれだけ広いんだと問いかけたい。
・長すぎて二つに分けることになるってどういうことだ^q^
「ねぇ鬼男くん。太子のクラスが何やってるか、知ってる?」
互いの空き時間に待ち合わせて学園祭を回っていた閻魔と鬼男。興味のあるものはあらかた回ったという頃、閻魔が配られたパンフレットを手に鬼男の顔を見上げて不意に問いかけてきた。
「えーっと…模擬結婚式、でしたっけ。ブライダルコースに進みたい生徒でもいたんですかね。」
閻魔の突然の問いかけに驚きながらも、記憶を手繰って覚えていることを答える鬼男。学園祭で結婚式だなんて、しゃれたことを考え付くものだと思った記憶がある。
「うん。でもね、ただの模擬結婚式じゃないんだー。異性同性はもちろん、血縁だって関係なしのコスプレ結婚式なんだよ。太子のクラスでなら、誰がどんな結婚をしたって祝ってもらえるの。」
素敵でしょう?と楽しげに笑って鬼男の答えに付け足す閻魔に、鬼男は首をかしげた。
「それ、需要あるんですか?やりたがる人、そういない気がするんですけど…」
「分かってないなー、鬼男くん。これはすごいことなんだよ?だってさ、」
訝しげな表情で疑問を投げかける鬼男に、閻魔は中途半端に言葉を切って彼の耳に唇を寄せると
「そこでなら、オレと鬼男くんは堂々と結婚できるんだから。」
小さな声で掠めるように囁いた。
「え…」
「鬼男くんさえ良かったら、だけど…オレ、君と一生を誓いたいなって、思ってるんだよね。」
鬼男の目が驚愕に見開かれるのを見て、閻魔ははにかみ笑顔で付け足した。
◇◇◇
「太子ぃー、今空いてるー?」
「おぉ、閻魔!タイミングいいなー、今終わったところだぞ!」
「空いてるのか…。」
可愛らしい笑顔と一緒にねだられて鬼男が断れるはずもなく、2人は3年飛鳥組の教室までやってきていた。閻魔はご機嫌な様子だが、コスプレということと多くの人の前で閻魔に愛を誓うということに若干の抵抗を感じている鬼男は、あまり乗り気ではないようだ。
「まずは着る服を選ぶでおまっ!それに合わせて会場をセットするからな。」
教室に入った閻魔と鬼男の視界に飛び込むたくさんの衣装を指し示して、太子は言った。ぐるりと教室を見渡した閻魔の目が嬉しそうに輝く。
「え、ここにある服なんでも選んでいいの!?じゃあオレ、セー…」
「セーラー服選んだらぶん殴るから覚悟しろよ変態大王イカ。」
迷わずセーラー服に飛びつこうとした閻魔にすかさず鬼男は釘を刺す。その低い声と鋭い目つきを見て本気だと悟った閻魔は「うぅー、ひどい…」と涙声で肩を落とした。
「まぁまぁ閻魔。色んな服を用意してあるから、なっ!とりあえず一通り見てみんしゃーい。」
「ちぇー、分かったようっ…!」
ぽんぽんとなだめるように肩を叩かれて、しぶしぶといった様子で閻魔は衣装の置いてある区画へ足を進めていった。
「まったく、あいつの頭の中でコスプレはセーラー服しかないのか。」
「どうせみんなに見せるんなら、普段じゃ見られないような衣装がいいよなー?」
「っ…!」
どこか不機嫌そうに呟いた鬼男に、太子はにやにやと楽しげに笑いながら茶々を入れる。その言葉に気まずそうに視線を逸らした鬼男は、何も言わずに自分も衣装の置いてある方へ向かった。
「ねえねえ!鬼男くんってこういうの好きー?」
一足先に衣装を見ていた閻魔は、鬼男が近づいてきたのを確認すると楽しそうに見ていた衣装を手にして声を掛けてくる。いきなり何だと思いながら動きを止めた鬼男の目の前に広げられたのは、ピンク色のナース服とミニスカートの警官服。
「お前マジでいっぺん死んで来いっ!」
「いたたた!痛い、痛い!鬼男くん、それ地味に痛いから!いや、マジで!」
なんでよりによってそんな危うい衣装を選んでくるんだお前は…!と内心焦りながらも、閻魔の小さな頭を片手で思い切り強く掴んでやれば、閻魔は涙目になりながらぺしぺしと鬼男の腕を叩いて離すことを要求する。
「ったく、この変態大王イカが。」
要求どおりすぐに手を離してやって、吐き捨てるように呟く。閻魔は「ちぇっ、好きだと思ったのになぁー」などと不満そうな声を漏らしながら、しぶしぶ持ってきた衣装を元の場所に戻す。
それを横目で見送る鬼男の視界の端に、ふと引っかかるものがあった。よく見なくても分かるそれは、コスプレの王道とも言えるチャイナドレス。色、形もさまざまだが、その中のある一着から鬼男はどうしても目が離せなかった。
「…大王、アンタ…これ着てみませんか?」
気づいたらその一着を手にとって閻魔に声をかけていて。視界に入ったその瞬間から、鬼男は無性にこのチャイナドレスを着た閻魔の姿が見たくて仕方なくなっていたのだ。
「お?意外と乗り気ですか鬼男くん…って、チャイナドレス?またありがちなものを選んだねぇ…」
鬼男の突然の申し出に、別の衣装を見ていた閻魔は振り返りながら答えて、鬼男の手にあるのがチャイナドレスであることに気づくと苦笑混じりに返した。
「ありがちはありがちですけど…僕は大王のチャイナ姿、見たことないんで。この色、大王に似合うと思いません?」
紫色の半袖ロングチャイナドレス。スリットが高めで、胸元から脇、スリットまで開きが続く昔の上海チャイナドレスと同じスタイルだ。脇の部分が斜めになっている以外は等間隔に一字留めのボタンが並ぶ。
普段とは一味違う、艶やかな雰囲気をまとう閻魔の姿が鬼男の中で容易に想像できた。
「似合うと思いません?って聞かれて頷いたら、オレすっごい自信過剰な奴になると思うんだけど。それに…どうせ着るならオレはこっちの方が良いなぁ。」
鬼男の問いに苦笑して答えて、閻魔は並べられたチャイナドレスの中から赤地に金の刺繍が施されたロングチャイナドレスを手に取って見せた。普段の閻魔の様子を見れば確かに無難な選択とも言えるだろう。実際、この色のチャイナドレスを着ても恐らく閻魔には似合う。
「せっかくだからふたつとも着てみたらどうだ?」
鬼男と閻魔が考え込もうとしたところで、タイミング良く太子が声をかけてきた。確かに、想像だけで決めるよりは着てみたほうがよっぽど分かりやすいと思うのだが…
「試着できるならそりゃ嬉しいけどさ…そういうのって、良いの?」
閻魔が声を落として心配そうに尋ねると、鬼男も同じ意見なのか考えあぐねているような視線を太子に向ける。太子はそんな2人を安心させるようににっこり笑って
「大丈夫、大丈夫!どうせ今は空いてるし、閻魔が着てる間に鬼男の衣装を決めれば時間も有効に使えるでおまっ!」
私、あったま良いー!と、自ら褒め称えてくれと言わんばかりに胸を張って答えを返してくれた。
「じゃあ…お言葉に甘えちゃおうかな。オレ、ちょっと着替えてくる。」
太子の言葉と態度を見て安心したのか、閻魔は安堵の笑みをこぼして自分と鬼男が選んだチャイナドレス2着を手に、更衣室に向けて歩き出す。途中、せっかくだからと女生徒から何かを手渡されていた。
「にしても、チャイナドレスかぁ…鬼男もなかなか良い趣味してるよなぁ?」
「良い趣味って…たまたま目に付いただけですよ。」
更衣室に向かう閻魔の背中を見送りながら、茶化すように肘で鬼男を突いて太子が口を開く。鬼男は今更ながら羞恥がこみ上げてきたのか、わずかに頬を染めて目を逸らした。
「ふふーん?まぁ、そういうことにしといてやろう。んで、閻魔はチャイナドレスで決定だろうから今のうちに鬼男の衣装決めないとなぁ…鬼男は何が良い?」
鬼男の反応にやはりニヤニヤと楽しげに笑みを浮かべて答えてから、並べられた衣装に視線を戻した太子は腕組みをしながら本題に入る。
「何が良い?って聞かれても…分かりませんよ、そんなもん。」
見るならまだしも、自分が着るとなれば話は別だ。鬼男は難しい表情で太子の問いにそっけなく答えた。太子も鬼男の返答に期待していたわけではなかったのか、「まぁそうだろうなー」とすぐに独り言のように呟いて、並べられた衣装を眺めるように歩き出す。鬼男も、一応自分のものを選んでいるのだからと後をついて歩き始めた。
「あ、そうだ!閻魔がチャイナドレスなら、中国マフィアっぽく鬼男はスーツとかどうだ?ボスと愛人みたいな感じでさ。」
「先輩、あんた…漫画やドラマの見すぎじゃないですか?ってか、どんな結婚式になるんだよそれ。」
スーツが並べられた区画についた途端、太子がさも名案が浮かんだと言いたげに口を開いたので、鬼男はすかさずツッコミを入れて切り捨てる。
マフィアのボスと愛人でどんな愛の誓いをするって言うんだ。第一そんな重々しい結婚式、祝いにくいったらありゃしねぇ。
「ダメかなぁ…結構面白いと思うぞ?」
「いや、丁重にお断りします。」
なおもその案を勧めようとするので、鬼男ははっきりと意思表示をする。断ったところでふと鬼男の頭の中に、コスプレには抵抗があるしこのまま断り続けていたら着ないですむかもしれないという考えが過ぎった。
「そうかー。じゃあ…んーっと、普通に閻魔がチャイナドレスだから鬼男も中国系の衣装にするか?民族衣装もなんだかんだ言ってたくさんあるからなぁ…」
しかし太子の方はそれを気にした様子もなく、すぐに別の案を口にして今度は中国服や民族衣装のある区画へと歩を進めていく。
「おぉー、すごい!思ったよりも動きやすいこれ!」
鬼男が、やはり避けられないかな…とこっそりため息をついて太子を追いかけようとしたとき、シャラシャラと耳心地の良い綺麗な音と一緒に耳慣れた嬉しそうな声が聞こえた。視線をそちらに向けると、素足に黒のカンフー靴を履いて真っ赤なチャイナドレスを着た閻魔が、金色の細い棒がリングに通された耳飾りを揺らしながら教室の開けたところで楽しそうにくるくる回っていた。
動くたびに耳飾りがぶつかり合って音を立てているのか、似合っていると褒めてはカメラや携帯を片手に騒ぐ生徒たちの要望に応え、写真を撮らせるため移動する閻魔をやけに優美に見せている。
「うはぁ…これは、想像以上だなおに…お?」
太子が閻魔に群がる生徒たちを見ながら鬼男に声をかけて視線を送ったそのときには、すでに鬼男は閻魔のほうに向かって歩き出していた。
「…大王。」
「わっ…!って、鬼男くん?もう…急に引っ張らないでよ、びっくりしただろ。」
後ろから近づき、カメラを構える生徒たちに笑顔を振りまいている閻魔の腕を掴んで引き寄せる鬼男。
「アンタ、今自分がどんな格好してるかよく考えて動いた方がいいですよ。」
「うん?自分で着たんだから分かってるよ?チャイナドレスって、思ったより動きやすいんだね。」
鬼男がたしなめるように言っても、閻魔は意味をよく理解していないらしく腕を引かれたままの体勢で鬼男の胸にもたれかかり、へらっと無邪気に笑って見せた。
「…なんで動きやすいか分かりますか?」
鬼男はため息をつきたくなりながらも、確認をするように問いかけた。なおも写真に収めようと群がる生徒たちへの牽制目的で、閻魔の体はあえて抱き寄せたままにしておく。
「この…スリット?ってやつが、結構深いからだよね。足の動きが制限されないし。」
なんでそんなことを聞くんだろうと首をかしげながらも、閻魔は動き回って気づいたことを素直に口にした。
まったく…この無自覚天然な大王イカをどうしてやろうか。今度こそ、鬼男は盛大にため息をついた。
「鬼男くん…?」
ため息の理由がさっぱり分からず、閻魔は訝しげな表情で名前を呼ぶ。この様子では、鬼男が正直にその深いスリットの持つ魅力と危険性を伝えても首を傾げられてしまうだろう。
「…そうですね。僕が選んだのもそうですが、大王が選んだそれも腿あたりまで深く入っていますから。じゃあ、大王?僕たちが昨日の夜、何をしていたか…覚えていますか?」
どうしたら閻魔が動き回ったりはしゃいだりするのを制限できるか。鬼男は少し考えてから子どもに話しかけるように優しく問いかけた。
「昨日の夜…?」
鬼男の問いかけを復唱して、閻魔は昨夜のことを思い出す。
昨日は学園祭の前日で遅くまで準備をしていた。時間も遅いし、家まで帰るのが面倒だからと自分より学校に近い鬼男の家に泊まって…。
「っ…!」
「目立つところに付けるなっていつも大王が言うんでその通りにしたんですけど、その格好であんまり動き回ると多分…」
「バカ!そういうことはもっと早く言っといてよ!」
思い出したらしく顔を赤くした閻魔に、鬼男はよりはっきりと自覚させるためわざと秘め事のように耳元で小さく言葉にすると、閻魔は慌てて鬼男から離れてスリットの部分を手で押さえながら叫ぶように声を張り上げた。
「僕は見られても構わないというか、むしろ大歓迎なんで。」
所有印なんだから。と心の中で付け足しておく。
「冗談じゃない!たとえ鬼男くんが良くても、こっちが構いまくるって!」
鬼男の追い討ちに、閻魔は恥ずかしさからかつい声を荒げて言い返してしまう。
実際につけてあるのは動き回っても見えない位置なのだが、先ほどのように動き回ったら見えてしまうかもしれない可能性を突きつけられた閻魔は、もうはしゃぎまわることも写真に積極的に写ろうという気持ちにもならなかった。
「ところで…これ、どうしたんです?」
鬼男の牽制と、閻魔自身の拒否によって群がる生徒たちが減ってきたのを確認して、鬼男はずっと気になっていた閻魔の耳元で揺れる耳飾りに手を伸ばしながら声をかける。触れてみれば、閻魔が動いていたときと同じように綺麗な音を奏でた。
「あぁ、これ?さっき着替えようとしたら、絶対似合うからつけてみて欲しいって女の子に言われてさ。…やっぱ変かな?」
鬼男と同じように自分の耳に手を伸ばしてついているのを確認してから質問に答えた閻魔は、様子をうかがうように上目遣いに鬼男を見て聞き返す。周りがどれだけ似合うと褒めてくれても、やはりどうしても気になってしまうのは鬼男の反応。セーラー服は別として、女物の服とアクセサリーを身につけている自分をどう思ったのだろうと、閻魔は少し不安になっていたのだ。
「そんなことないですよ。チャイナドレスも、これも。大王にすごく似合ってます。…もともとアンタは細身なんで、やっぱりラインが綺麗に出るんですね。」
「っ…」
鬼男の口から出たその言葉が、思った以上に優しく愛情に溢れていたことに驚き、目を瞬かせてしまった閻魔。しかし少し間を置いてからすぐ、どこか照れくさそうな笑顔を見せた。
「えへへ…ありがと。でも、あれだよね。こういう服が似合うって言ってもらえるならさ、オレってセーラー服着ても似合うってことになると思わない?」
「…大王?」
照れ隠し半分、本気半分くらいの割合で閻魔が言ってみると、触れたままの耳飾りを指先で弄んでいた鬼男の手がピタリと止まり、わざとらしくにっこりと満面の笑みを見せられる。
「あ…あぁーっと、そうだ!そうそう!この耳飾りを貸してくれた子が、鬼男くんが選んだ方のチャイナドレスも着るなら…って、髪飾りも貸してくれたんだよ!どっちにするか決めないといけないし、鬼男くんが選んでくれたほうも着てみるね!」
まだ諦めてなかったのか?という無言の圧力を感じて…というより、言葉そのものを拳とともに言われるであろうことを感じて、閻魔はそれより先に慌てて話題をすり替えた。攻撃をされる前にと着替える目的でもって鬼男から距離も置く。
「…さっさと行って来い。」
さすがの鬼男もそこまでされてさらに追いかけようとは思わないので、何も言わずに握り締めていた拳の力を抜いて送り出してやることにする。三度目はないからな、と心の中で呟いて。
→②へ
あなたのために出来ること(閻魔×鬼男)
2010/05/28 00:00:00
見ているのかも分からないし、好きかどうかもわからないのですが。さらに言えば、今日で合っているのかも不安(←だから失礼すぎる)なのですが、某やみんさんへの誕生日小説をこっそり。
本当は直接渡して、直接言いたいけど…手段がないし、そもそも恥ずかしすぎるんだぜ!そりゃあもう、いろんな意味で(笑)
誕生日おめでとうございます!生まれてきてくださったこと、出会い関わってくれたことに心からのありがとうを。あなたのことが私は大好きです。無理をしすぎる必要はない、自分のペースで自分らしくやっていけることを願っています。
新たな一年が、素敵なものになりますように…
裁きが終わり、静かになった部屋で筆を走らせる音と印を押す音だけが不規則に聞こえる。形式だけの、しかし手を抜くことは許されない書類処理だ。閻魔大王が目を通し、確認してまとめなければ今日の仕事は終わらない。
「……」
鬼男は邪魔にならないように後片付けと出来上がった書類の確認、整理をしながらこっそりため息をついた。振り分けのときは死者の誘導や問題のある死者への牽制、対応などやることがそこそこあるのだが、それが終わってしまえば後は閻魔大王しか出来ないことばかりで、秘書と言っても出来ることなんてそうあるわけではないことを嫌でも思い知らされる。
「ふぅ…」
疲れをまとった重苦しいため息が閻魔の口からこぼれた。
書類はまだ半分以上残っている。それもそうだろう、数えようという気すら起きないくらいの数の死者を裁いた後で、それと同じか時にはそれ以上の数の書類を一人で確認しているのだから。
「……」
何も言わずに用意しておいた紅茶とケーキをそっと机の端に置く鬼男。手伝うことは出来ないけれど、せめて息抜きくらいになればと思い作っておいたものだ。それを見た閻魔は驚いたように目を瞬かせてから、ふふっと嬉しそうに笑って紅茶を手に取った。
「いつもありがと。君は毎回俺が欲しいなって思ったときに来るからびっくりしちゃうよ。」
閻魔は顔を綻ばせて言うと、一口飲んでから「うん、美味しい」とまた笑う。そんな言葉が返ってくるとは思っても見なくて、今度は鬼男の方が驚き目を見開いてしまった。
「俺さぁ…裁きの後のこの作業ってあんまり好きじゃないんだけどさ。」
鬼男の様子をどこか楽しげに眺めて紅茶を一度ソーサーに戻し、閻魔はぐっと体の凝りを解すように伸びをしながら口を開いた。見ているだけの鬼男にもそれは良く分かったので、「まぁ、そうでしょうね。」と相槌だけ打つ。
「うん。ホントは書類なんてぶちまけて投げ出したいくらいなんだけど」
「それやったらどうなるか分かってんだろうな大王イカ。」
続いて聞こえた不穏な言葉に、鬼男が条件反射とでも言うべきか思わず話を遮って爪を伸ばしてしまうと、閻魔は苦笑して「分かってるよ。」と鬼男をなだめるようにひらひらと手のひらを振って見せた。
「人の話は最後まで聞くものだよ、鬼男くん。投げ出したいくらい好きじゃないんだけど、さ。大切なのはここから。」
「…?」
「今みたいな鬼男くんのちょっとした気配りはもちろん、俺のことを考えて、心配して傍にいてくれる。それだけで、俺はなんだかすごく安心して作業が出来るんだよ。すごく、助かってる。いつも遅くまで付き合ってくれて、気を遣ってくれてありがとね。」
秘め事を話すように悪戯っぽい笑みを浮かべた閻魔に鬼男が首をかしげて続きを促すと、閻魔は鬼男の不安を見透かした様子で言葉を続けた。
「っ…!」
まさかそんな言葉をかけられるとは思っていなくて、鬼男は頬を熱くする。しかしすぐさまハッとしたように俯いて、くるりと閻魔に背を向けた。
「な、何言ってるんですか。僕は、ただっ…疲れてるんでさっさと帰りたいんですよ!だからっ…そ、それ食ったら残りをさっさと終わらせろよ、アホ大王イカ!!」
顔も見ないでそんなことを吐き捨てるように口にして、鬼男は持っていたお盆を片付けるため、という理由を頭の中でつけて執務室から早足で出て行く。
閻魔は黙ってそれを見送ってドアが閉まったことを確認してからくすっと楽しそうに笑みを深める。
「照れちゃってまぁ…可愛いなぁ、鬼男くんてば。」
くすくすと嬉しくて、楽しくて仕方ないと言いたげに笑いながら呟いた閻魔は、鬼男の気遣いと優しさがたっぷり込められたケーキに手を伸ばした。
「ったく…大王イカの、くせに…」
ドアを挟んだ廊下側。閉めてすぐそのドアにもたれかかっていた鬼男は、持っていたお盆を真っ赤な顔で胸に抱きしめて舌打ち混じりにひとりごと。
――今みたいな鬼男くんのちょっとした気配りはもちろん、俺のことを考えて、心配して傍にいてくれる。それだけで、俺はなんだかすごく安心して作業が出来るんだよ。
何も出来ないと、どうしたらもっと役に立てるのだろうと悩んでいたのを見透かしたように言われた言葉が鬼男の頭の中で繰り返された。自分らしくあればいいのだと、それだけで助けになっているんだと、そう言われた気がして。
「嬉しい、なんて…ぜってー言ってやらないんだからな。」
嬉しそうに綻んだ顔でそれだけ呟いて、鬼男は今度こそお盆を片付けるためにドアを離れた。
【終】
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短い上になんだかよく分からないお話ですみません。
改めまして、誕生日おめでとうございます!時期的に大分慣れてきて、ちょっと余裕が出てきたくらいでしょうか?
頑張り屋さんで向上心のあるやみんさん。たまには休んで、自分を褒めてあげながら、これから先も楽しみながらやっていってくださいね。やみんさんの新たな一年が幸せと笑顔の溢れるものでありますように!おめでとう、ずっとずっと大好きです!